投擲手と鎌使い   作:自称暇人

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生存報告も兼ねて久しぶりに更新。
あっという間に花粉症がつらい季節になりました。


宿屋談義

「で、このあとはどうするよ」

 

攻略会議が終わり、会議の参加者が動き始めたのを確認してキリトが問いかける。メニュー画面を開いて時計を確認すると時刻は3時前。行こうと思えば近場なら狩りに行けなくもない時間ではあるが。

 

「ひとまずは、どこかでパーティー内での打ち合わせか?」

 

「私はそれに賛成。コンビでの戦いは経験済みだけど、アスナはパーティー単位での攻略は未経験だからそのあたりの話もしておきたいし」

 

俺の打ち合わせという意見にミトが同意する。確かにスイッチやPOTローテなど、いくつか教えておいた方がいいこともあったのだった。そのあたりの説明も兼ねて、どこかで落ち着いて話をした方がいいだろう。

 

「……わたしとしてはありがたいけど、場所はどうするの?」

 

と、それまで会話の流れを窺っていたらしいアスナが口を挟む。

 

「俺は正直どこでもいい」

 

「同じく。だから特に希望がなければそのへんの酒場にでもしようかと思ったけど」

 

正直なところこのままこの広場で話してもいいのではと思っているが、ひとまずそれは言わないでおく。

 

「うーん……。できれば、他の人にはあんまり見られたくないかな。個室のレストランとかは……」

 

「もっと上の層じゃないとないわね」

 

アスナの質問にミトが答えるが、俺はその回答で1層に個室のレストランがないことを知って驚いた。はじまりの街にもなかったのか……。俺はベータテスト時代にレストラン巡りなどを一切していなかったため、実はこれまでその手の情報はほとんどキリト頼りだったのだ。

 

「ちなみに私もどちらかというと他の人に見られない方がありがたいかな」

 

「ミトもか。やっぱり女性プレイヤーだとそういうトラブルもあったりするのか?」

 

「今のところ私たちが直接トラブルに巻き込まれたことはないんだけどね。ストーカーされた、っていう話もあるみたいよ」

 

この世界では、現実世界と異なり男女比が大きく偏っている。そのためもあってか一部の異性との出会いを求めるプレイヤーによるトラブル案件がすでにあるらしい。

 

「んー、となると店は使えないか。どっかのNPCハウスは……ダメか。他プレイヤーが普通に入って来れるな」

 

「やっぱどっちかの宿しかないか?」

 

宿屋であれば鍵をかけることができるので、誰かが入ってくること自体は防げる。そもそも宿で他人の部屋に入ってくるのは知り合いか部屋を間違えた人だけだろうという話はあるが。

 

「……現実的な案はそれくらいしかないか。アスナはそれでいい?」

 

「……まあ、仕方ないわね。いいわ、それで」

 

一応女性陣2人の同意も取れたようだ。

 

「とは言っても、わたしたちの宿だと4人にはちょっと狭くない?」

 

「確かにそうかもね。というかこの世界の宿屋、クオリティの割に高いのよね……。キリトたちの方もそんな感じじゃない?」

 

「こっちは4人くらいなら普通に入れる、と思うぞ」

 

キリトのあっさりとした返答にミトが驚いた様子を見せる。

 

「うそ、この村にそんな広い宿屋あったっけ。3軒全部行ったけどどこもそんなに変わらなかったと思うけど」

 

その発言で得心した。ミトも俺と同じで()()()()()()人か。

 

「俺らが泊まってるの、宿じゃなくて民家の2階なんだわ」

 

俺がキリトの代わりに答えると、やはりミトは宿()()()()()()()()()()ことを知らなかったようでぽかんとしている。

 

「ひょっとして、これまでの村にもそういうところってあったの?」

 

「ああ。多分【INN】の看板が出てるところだけ探してたんだろうけど、この世界の低層フロアだととりあえず最安値で泊まれる部屋って意味なんだよな。コルを払って泊まれる部屋は宿屋以外にも結構あるよ」

 

「ふーん。どうせなら前に会ったときに教えてもらえばよかったわ」

 

どうやらアスナも宿には不満があったようで、ちょっと口をへの字に曲げている。

 

「まあ知らないのもしょうがない。ベータテストだと宿屋なんてただのセーブポイントだったからな」

 

「ちなみにウェルも正式サービスが始まるまで知らなかったらしいぞ」

 

「そりゃそうだろ。あの頃はログイン中はほとんどずっとフィールドに出てたし。むしろ知ってたキリトの方がおかしいんだよ」

 

普通に村の探索をしてても気づかないだろう。本当に誰が見つけたんだ、このシステム。

 

「まあいいや。とりあえず俺らが今借りてるところは2部屋あって広さも十分だから、来ても全然大丈夫だぞ」

 

「おまけでミルク飲み放題と風呂まで付いて80コルだか――――」

 

俺に続けてキリトが自慢げに話したその瞬間、ヤツは中断を余儀なくされた。

なぜか?アスナの手が勢いよくキリトの襟に伸びて、その首を絞めかねないほどに強く掴んだからだ。

 

「………………なんですって?」

 

先程までと同一人物とは思えないほどの低い声でアスナが言う。こわっ。え、そんなに食いつく要素あったっけ?

 

「ミ、ミルク飲み放題……?」

 

「その次」

 

「風呂付き……?」

 

「それ」

 

なるほど。確かに第1層の宿屋だと風呂付きのところはほぼないだろう。どうやら2ヶ月近くお預けになっている風呂の誘惑に完全に釣られてしまったらしい。

 

ちなみに俺の隣で「アスナってそんなに風呂好きだったんだ……」とミトが呟いているが、このデスゲームが始まってからずっと封印中ではあのリアクションでも仕方ない。対照的にミトはそこまで風呂に魅力を感じていないように見える。

 

「あなたたちの部屋、1泊80コルって言ったわよね?」

 

「い……言った」

 

「そこ、あと何部屋空いてるの?場所はどこ?案内して」

 

「あー……っと。俺たちのとこは2階まるまる貸し切りって感じだから、空き部屋はないんだ」

 

「なっ…………」

 

見るからに落ち込むアスナ。そのまま膝から崩れ落ちそうな勢いだった。

 

「…………そ、その部屋…………」

 

「ちょ、アスナ、さすがにそれは……」

 

「まあ俺らとしては全然譲ってあげてもいいんだけど……」

 

「「え、ホントに!?」」

 

キリトの代わりに答えた俺の言葉で女性陣2()()の目が一瞬で輝いた。表には出ていなかっただけでミトも風呂自体は気になってはいたらしい。ひょっとしたらミルク飲み放題の方かもしれないが。

 

だが残念なことに――――

 

「借り部屋システムの最大日数の10日分を前払いしててさ、…………あれってキャンセル不可なんだよな」

 

「……そんな…………!」

 

アスナは今度こそ耐えられずに膝から崩れた。申し訳ないけどテンションの乱高下が激しすぎてちょっと面白い。

そして悲しいことに、このトールバーナには迷宮区攻略を目指すプレイヤーが集まっているわけで、今から他の風呂付き物件をここで探すのは絶望的だった。

 

アスナはうつむいたまま唸っている。見かねたミトがフォローを入れようと声をかけて、

 

「まあアスナ、2層にも風呂付きの部屋はあるだろうからそこまで――――」

 

「……………して」

 

アスナのか細い、かすかな声で遮られた。

 

「え……?」

 

「…………あなたのとこで、お風呂、貸して」

 

顔を上げてアスナの眼光は鋭い。その視線をもろに受けたキリトには

 

「……はい」

 

と答えることしかできなかった。

 

 

 

 

 

なお、

 

「ミトはどうする?」

 

「その顔やめて、斬るわよ、ウェル。……まあ、私もいいならお言葉に甘えさせてもらうけど」

 

どうやらミトも興味の対象は風呂だったようだ。




先に予告しておくとキリト君のラッキースケベイベントは今のところキャンセルの予定です、残念ですね。
そもそも次回更新がいつになるかが未定ですが……。
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