投擲手と鎌使い   作:自称暇人

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よっぽどのことがない限り2日連続投稿は無理ですね。


チュートリアル

『私の名は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

SAOの開発者――この世界の創造主と言っても過言ではない――本人によるアナウンス自体には別に驚かなかった。これだけの不具合だ、最高責任者が出てきてもなんらおかしくない。そこよりも俺には気になったことがある。

 

今、茅場はアインクラッドをコントロールできる"唯一の"人間だと言った。ほかにも会社の人間はいるだろうが、その人たちはコントロールできないってことか……?いやでもそんな状況は普通ありえないはずだ。

 

嫌な予感が増していく。続く茅場の言葉が決定打になった。

 

『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

 

不具合ではない本来の仕様。その言葉がストンと頭に入ってくる。これまでの運営のおかしな対応――強制ログアウトもさせず、このタイミングまでアナウンスもなかった――の理由を否が応でも理解させられる。

 

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』

 

『また、外部の人間の手によるナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合……ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる。具体的には――――』

 

自発的なログアウトができない時点で可能性は外部からの強制ログアウトだけであるが、茅場はそのわずかな希望の光をも断ち切った。ご丁寧に詳細な条件を話してくれるが、そんなことを教えてもらったところで俺たちプレイヤーにはどうしようもない。荒ぶる心臓をうっとうしく思いながら、脳内で状況整理を試みる。

 

自発的なログアウトは不可。外部の人間の介入も不可。俺たちは茅場の手のひらの上ってわけかよ、クソッ。…………さっきの"唯一の"って発言からすると、おそらく会社の同僚含めほかの誰にも伝えていない独断の犯行なんだろうな。いよいよわけがわからなくなってくる。この世界を操作できるのが茅場だけとなると警察も介入できないだろうし、下手したら完全に詰んでないか?

 

『――――その結果、残念ながらすでに213名のプレイヤーが、アインクラッドおよび現実世界からも永久退場している』

 

その言葉で思考の海から再浮上した。すでに200人以上が死んだ……、か。もう何人か犠牲者は出ているのだろうと思いはしたが、その数の多さは俺の予想をはるかに上回っていた。

 

『諸君らが向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め繰り返し報道している。諸君らのナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後諸君らの現実の体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君らは安心してゲーム攻略に励んでほしい』

 

これは茅場の言う通りだろう。結局のところ、もう俺達にはSAOを攻略する以外の手段は残されていないのだから。

 

『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君らにとって《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に……諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

「…………」

 

再び事態の深刻さを思い知る。確かに脳を焼き切れるのだから、ゲームで死んだらりアルでも死ぬようにする程度のことは造作もない。……なるほど、"ゲームであっても遊びではない"とはこれを言いたかったわけか。

 

『諸君らがこのゲームから解放される条件はたった一つ。先に述べたとおり、アインクラッド最上部、第100層までたどり着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が完全にログアウトされることを保証しよう』

 

唯一の希望――といってもベータテストの状況を考えるとかなり絶望的であるが――が茅場から提示される。逆に言うと100層にたどり着かなければ永遠にここから脱出できないということだ。そして、攻略の途中で死んだらゲームオーバー。必然的にノーデス攻略を強いられることになる。

 

「おい、ウェル。大丈夫か?さっきからずっと黙り込んで」

 

「まあ無理もないだろうよ、こんな状況なら」

 

ここで、心配したのかキリトとクラインが声をかけてくる。そういえばいたんだったな。存在が頭から完全に抜け落ちていた。

 

「ああ、悪いな。ちょっと頭の中で整理しようとしてた、まだ理解が追いついてなくて」

 

そのとき茅場が

 

『それでは最後に。諸君らのアイテムストレージに、私からのささやかなプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』

 

と言うので、俺達は揃ってアイテムを取り出す。出てきた《手鏡》を覗くと自身の体がまばゆい光に包まれ、思わず目をつぶる。

 

再び目を開くとさっきまでキリトとクラインが立っていた場所には見知らぬ男たちがいた。中性的な顔立ちで俺と同い年くらいの男と無精ひげを生やした男だった。

 

「……は?」

 

まさかと思って自分の顔を手鏡で見る。間違いなくリアルの俺だ。ここまでできる茅場の技術力を尊敬すると同時に、その意図を考える。恐らくは、より現実味を感じてもらうためってところだろうか?

 

「つまり、こっちがキリトでそっちがクライン……ってことか」

 

とりあえず目の前の二人に確認する。

 

「そう。お前がウェルで合ってるんだよな?背が10センチくらい縮んでいる気がするが……」

 

「盛ってたんだよ、察せ」

 

そう、今の俺は155センチ程度。アバターの時と比べると十数センチ縮んでいる。別にリアルの身長にコンプレックスがあるわけではないが、ゲームなのだから体型くらいリアルと変えないと面白くないだろうと思って伸ばしたのだ。それと、今のやりとりで同い年くらいの男の方がキリトだと確定した。

 

「しかしまあ、なんで茅場のヤロウはこんなことしやがったんだ?」

 

少し冷静になったクラインがつぶやく。茅場がきっと答えてくれるさ、とキリトが言うと同時、茅場が言う。

 

『諸君は、今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は――SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦は――こんなことをしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と』

 

エスパーを疑うくらいタイミングがいい。俺達は黙って次の言葉を待つ。

 

『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

 

一言でいうと箱庭のようなものを作りたかったということなのだろうか。1万人もの人間を閉じ込めておいて、理由がそれだけだと?

 

「……ふざけてる」

 

率直に思う。どんな理由であれ許されざることに変わりはないのだが、今の発言でコイツの考えに共感できる日が来ることは一生ないだろうと確信した。

 

『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』

 

その言葉を最後にローブ姿の人型は姿を消した。空を埋め尽くしていたシステムメッセージも消え、広場にいる俺達から見えるのは夕焼けに染まる赤い空と立ち尽くす大勢のプレイヤーの姿だけとなった。




勢いで書いていると一人称と三人称がごっちゃになってヤバいです(素人)。
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