俺とキリトの二人で勢いよく駆け出したはいいものの……
「あ、投げナイフ買い忘れるところだった、ちょっと店寄っていいか?」
完全に街から出る流れだったのをぶった切る発言である。時と場合によってはブチギレされても文句は言えない。自分で言っといてあれだがマジでひどいな、と少し反省した。
「いいけど……ウェル、お前結構抜けてるところあるのな」
幸いと言っていいのか、キリトには呆れられるだけで済んだ。すまんすまん、と謝って、俺たちは近くの武器屋に入る。
手早く投げナイフを20本ほど購入し、飾られている武器を眺めていたところでふと思う。
「そういや、情報収集なら俺は武器種を変えた方がいいかもな」
実際、ベータ時代には特定武器種限定のクエストもあったりしたのだ。そういったクエストの情報も集めるなら、俺達の武器種は揃えない方がいいだろう。
「確かにそれはそうだが、それで勝手がわからずに死ぬなんてことはやめてくれよ?」
キリトに言われて、確かにと苦笑する。そんな理由で死んでしまったら元も子もない。
「じゃあ比較的リーチと扱い方が近いやつがいいな。となると……曲刀か」
曲刀はクラインも使っていたが、彼はビギナーだ。情報収集という点で任せるわけにはいかないだろう。
俺は店売りの《アイアンシミター》を購入して装備した。忘れないうちにスキルも《曲刀》に変更しておく。……結構武器の見た目カッコイイな。
「……とりあえず、無理はするなよ」
「わかってるって。ヤバそうだったらすぐ片手剣に戻す」
武器屋での用事を済ませ、俺達はようやく次の街に向けて出発したのだった。
――――《第1層 ホルンカの村》――――
はじまりの街を出発してから1時間半、俺たちは無事次の村に到着した。辺りはもうすっかり暗くなっていた。幸い道中は危なげなく進むことができたため、今のところは極めて順調と言っていいだろう。
なお、俺もキリトもレベルは3に上がっている。不安要素の一つは俺の武器種変更だが、そちらも幸い数体のボアと戦っているうちに感覚はつかめた。
早速村にある宿に行って部屋をとる。今のところこの村に到着しているのは俺たちだけのようで、部屋はすんなり確保することができた。ひとまずベッドに座って安堵のため息をつく。
「で、この後はどうする?普通に休むか?」
「いや……その前に《アニールブレード》のクエストを済ませておきたい」
「ああ、あれか。確か《森の秘薬》だったか?」
「そうだ。ほかのベータテスターたちが来る前に終わらせておきたい」
「確かにクエストの順番待ちは面倒だな……。了解、じゃあ行くか」
俺たちはクエストNPCを訪ねて《森の秘薬》クエストを受ける。このクエストで手に入る武器《アニールブレード》はベータテストにおいて強化していけば4~5層まで使える高性能な武器であり、最速で攻略を目指す片手剣使いにとっては必須と言っても過言ではないだろう。
かく言う俺もベータテスト時代に序盤でかなり愛用していた。あれホント強かったんだよな……。
このクエストで必要になるのは、近くの森に出現する肉食植物のモンスター、《リトルネペント》の花付きがドロップする《リトルネペントの胚珠》というアイテムだ。ベータテストでは肝心の花付きの出現率がかなり低く、ネペントを100体近く狩ってようやく1体というほどだった。
「さて、じゃあやりますか。目標は?」
森に到着して、キリトに尋ねる。現在の時刻は夜の8時前といったところだが、どれくらいで終わるだろうか。
「できれば1時間で済んでほしいが……最悪2時間弱はかかるつもりでいた方がいいな」
「まあ、そうだな。気をつけるべきことは…実付きくらいか」
「ああ。絶対に攻撃するなよ」
「わかってる」
そう、ネペント狩りでは絶対にやってはいけないことがある。それが実付きを攻撃してその実を割ることだ。実を割ってしまうと周囲にいる仲間を引き寄せる粉がばら撒かれ、大量のネペントを同時に相手しなければならなくなる。死んでもよかったベータ時代ならともかく、デスゲームと化した今、現在の俺達のレベルではリスクがあまりに高い。
最低限の注意事項を確認して、俺達はネペント狩りを開始した。
「わかってはいたが全っ然出てこねぇ……」
狩りを始めてから40分が経過した。おそらく二人で6~70体は倒しているはずだが、花付きはいまだに出てきていない。
その時、暗闇から何かが近づいてくるのが見えた。剣をそちらに向けると、
「ちょっと待った、攻撃しないで!モンスターじゃなくてプレイヤーだよ、プレイヤー」
と声がした。月明かりの陰から出てきたその姿は、確かに人だった。手にはキリトと同じく片手剣を装備している。
「へぇ、もう次のプレイヤーが来たのか」
「僕としては一番乗りのつもりだったから、もっと早く来ていた君たちの方に驚いたけどね」
キリトの言葉に、そのプレイヤーは苦笑いしながら言う。
「ここにいるってことは、君たちも《アニールブレード》狙いだよね。僕も一緒にいいかな?パーティーに入れてくれってわけじゃないけど、それでも3人でやった方が効率はいいと思うんだ」
この発言からして、彼もベータテスターで間違いないだろう。
「ああ、構わないさ」
キリトが了承する。俺はそもそもキリトの手伝いみたいなものなので、断る理由はない。
「僕はコペル、よろしくね」
「俺はキリトだ、よろしく」
「ウェルだ、よろしく頼む」
コペルを合わせ、俺達は3人で狩りを再開した。
「お、ついに出たか」
それから約20分後、ついに花付きのリトルネペントが姿を現した。しかも2体いる。だが、その後ろに実付きの姿も見えた。
(花付きと実付きが同時に出ることなんてあったか……?)
と少し疑問に思いながらも、俺は二人に伝える。
「花付き2体出現、けど実付きもいる!」
「了解、2体のタゲを分散させて離れさせてから花付きを倒すぞ!」
「じゃあ、実付きは僕が引き付けるよ」
「わかった、頼む!」
その場で役割分担する。コペルが実付きを担当してくれるようなので、俺とキリトは2体の花付きの相手に向かう。
「……シッッ!」
花付きのツルによる攻撃を避け、胴体を斬る。その一撃で、ネペントが一瞬怯んで動きを止める。
「ハァッ!!」
その隙を逃さず《リーバー》を打ち込む。花付きのHPはゼロになり、その実を爆散させた。ほぼ同じタイミングで、どうやらキリトも花付きを倒したようだった。
その直後、
パァァン!
という破裂音がした。
音がした方向を見ると、コペルの周囲に赤い粉が舞っているのが目に飛び込んできた。
「……ごめん」
その一言を残して、コペルの姿が見えなくなる。おそらく《隠密》スキルを使ったのだろう。その瞬間、俺は嵌められたのだと瞬時に理解した。
「まずいキリト、実付きが割られた!来るぞ!」
「クソッ、MPKを仕掛ける気だったのか……!」
周囲に大量のアイコンが浮かぶ。このままでは俺もキリトもやられてしまうかもしれない。
「……一点突破で逃げ道をつくる!」
「了っ…解!」
ネペント全員を倒そうとしていては埒が明かない。ひとまず囲まれるのを防ぐため、二人で逃走経路の確保に専念する。
「あとコペル!ネペントには《隠密》が効かないの知らねぇのか!?お前も死にたくなければさっさと戦え!」
それから、コペルにも戦闘に参加するよう促す。この状況を作り出した本人なのだから多少は貢献してもらわないと困る。そう思った直後、
「え!?う、うわぁぁぁぁ!」
という叫び声とポリゴンの爆散する音が聞こえた。振り返ると、消えていくポリゴンの残骸と地面に遺された剣だけが目に入った。その瞬間は見えてはいないが……おそらくコペルは死んだのだろうと、予測がついた。クソッ、注意が遅かった……!
「………!」
かといってそちらにばかり気を取られているわけにはいかない。少しでも気を抜いたら俺達も同じ運命をたどってしまうだろう。それだけは避けるべく、必死でネペントを倒し続けた。
――――10分後、なんとか窮地を脱した俺とキリトは近くの木に寄りかかって腰を下ろす。目の前のリザルト画面は、俺のレベルが4まで上がったことを示していた。
「コペルは……」
「……ダメだった。《隠密》スキルがあいつらには効かないってのを知らなかったんだろう」
「…………」
一瞬、俺が実付きを担当していればという"もしも"が頭をよぎるが、過ぎてしまった話だ。茅場の言葉を信じるならば、彼が戻ってくることはもうない。
「……とりあえず、戻ってクエストを済ませたらアルゴに報告するぞ。花付きと実付きの同時出現はベータではなかったはずだ」
「そうだな。……もうネペントはいなそうだな。胚珠、1個はコペルに供えてくる。いいか?」
「ああ」
手に入れた胚珠の1つをコペルの分として剣のそばに残し、俺たちは村に戻って《森の秘薬》を完了した。どうやら報酬はアップグレードされていたようで、キリトは《アニールブレード》を、俺はその曲刀バージョンである《アニールシミター》を手に入れた。多分だが、もっと上の層ならともかく1層で片手剣だけ強い武器がクエストでゲット出来るのは不公平だとして修正されたのだろう。
《アニールシミター》は予想外の収穫だったが、あまり喜ぶ気分には慣れなかった。ひとまずクエスト報酬の件も含め、ベータとの変更点をアルゴに送信したあと、宿に戻って眠りについた。
(アルゴの予想通り、確かにベータからの変更点はあった。そもそも、俺がベータテストの仕様を全て把握しているのかが怪しいが……。とりあえず、ベータの記憶に頼りすぎるのは良くない、気をつけないと)
少しの油断や記憶違いが命取りになる。それを実感し、俺は改めて気を引き締めた。
なんとなく察している方もいるかもしれませんが、戦闘描写が苦手でほとんど戦闘の様子を書いていません。上手く書ける方々本当にスゴい……。