私はどうして、いつも失敗だらけなのだろう。
故郷でも、学校でも、冒険者としても。
大事な時に間に合わない。
大事な事が分からない。
だから失ってしまう。
何でもっと早く言わなかったのだろう。
あんな事になるのなら……。
もっと早く気付けばよかった。
もっと素直になればよかった。
でも、もう遅い。
ーーーーー
俺達は順調に迷宮を進んでいた。
道順をマッピングをしながら、現れる敵を撃破する。
誰にでも出来る簡単なお仕事です。
迷宮の氷の魔物には、最初は驚かされた。
だが、種がわかればどうという事はない。
復活する前に、完膚なきまでに叩きのめすだけだ。
「大火球!」
今も現れたゾンビトゥレントを燃やし尽くした。
ほんと、どこにでもいるね君は。
どうやら大概の敵は、氷のゾンビ化してもレベル的には大した変化はないらしい。
「私もやってみたいわ!」
エリスが詠唱を始めようとする。
「いや、エリスは剣でおねしゃす」
「えー」
不満を言わないの。
ちなみにエリスは頑張って、火魔術なら中級まで取得したのだ。
でも魔力切れで倒れられても困るしな。
手は十分に足りている。
順調すぎる位、順調だった。
リアーナさんの手掛かりもまた発見したし、うまくいくはずだと考えていた。
なにせ、転移の迷宮だって攻略したのだ。
誰一人として欠ける事なく。
きっと、その思い上がりが油断に繋がったに違いない。
遺跡の道は、まだまだ続いている。
時間の感覚が分からなくなるほどだ。
進むと道の下はスノウドレイクの群れがいた。
いつもならヒャッハーなのだが今は黙ってやり過す。
そして深いクレバスに遺跡の道が跨がっている場所に行き着いた。
見るからに不安定な氷で覆われた橋だ。
「気を付けて渡りましょう」
落ちたら助かりそうにない。
まず、エリスとギレーヌが軽い足取りで進んだ。
問題なしと見て、先に行って偵察をしてくれている。
そして俺達も渡る事にした。
「きゃっ!」
だが、テレサが急に橋の真ん中で後ろに転ぶ。
氷で滑りやすいとはいえ、何も無い所だ。
どこかの艦長さんかな。
「大丈夫ですか?」
「……すみません」
俺が手を貸して、テレサを起こそうとした時だった。
またあの音だ。
パキパキと氷の音が響き渡る。
「くそっ!」
橋の両側の遺跡の壁から、氷が吹き出した。
入口と同じ罠か!
このままじゃ、ここに閉じ込められてしまう。
急いでエリスとギレーヌが戻ってきた。
無理だ、間に合わない。
「テレサさんをお願いします!」
「うわっ」
俺は衝撃波で、テレサを向こうに吹き飛ばした。
多少手荒だがこれしか手はない。
そして思惑通り、氷の壁が閉じる前に間に合った。
「先生もこっちに!」
俺はロキシーにも手を伸ばす。
「……っ!」
だが急に、ロキシーの表情が恐怖に歪むのが見えた。
なんだ?
俺も妙な浮遊感に襲われる。
突然、床が消え去った。
そう。床の氷も迷宮の一部だったのだ。
氷の下には何も無い。
土の地面はなく、ただ真っ暗な闇が広がっている。
「ロキシー先生っ!!」
「ルディっ!」
なんとか辛うじて、一歩だけは踏み切れた。
だけど、それだけだ。
伸ばした手はロキシーの手をほんの僅かに掠め、そのままロキシーは落ちていった。
深いクレバスの中に。
「ぐっ!!」
俺もすぐにロキシーの後を追うことになる。
本能から必死に、壁に手を伸ばした。
氷で爪が抉れるが、それどころではない。
慌てて片手に土魔術で杭を作り、壁に打ち込んだ。
「嘘だ……」
落下は辛うじて止まった。
だけど、ロキシーは……見えない。
「ロキシーッ!!」
叫んだが、反響が返ってくるだけだった。
「ルーデウス!無事なの!?」
頭上でくぐもったエリスの声が聞こえてくる。
氷の壁の向こう側だ。
なんとか氷を破壊しようとしている。
だが無理だ。
入り口と同じなのだ。
いくら壊しても再生してしまう。
「ロキシーが落ちた!!」
「え、嘘でしょ!?」
嘘なんかじゃない。
「俺はロキシーを探しに行く!!」
きっと生きているはずだ。
ロキシーが死ぬなどありえない。
あってたまるか。
「待ってよルーデウス!私も!!」
「駄目だ。エリスは先に脱出するんだ!」
どうか脱出し、助けを呼んで欲しい。
もうリアーナさん捜索どころではなくなった。
「ギレーヌ! エリスとテレサさんの事、よろしくお願いしますね!」
俺は返事を待たず、降り始めた。
土魔術で杭を作り、打ち込み、補強し、確実にそして出来るだけ早く。
ロキシー。頼むから、お願いだから。
無事でいてくれ!
ーーーーー
あたしは、ルーデウスに返事をする。
「ああ、まかせろ!」
それから、エリスお嬢様の肩にそっと触れた。
「嫌よ、ルーデウス……絶対に、助けに行くわ」
氷の壁を叩いていたエリスお嬢様は、動きを止める。
ぱっと上げたその顔は、悲痛に歪んでいた。
「ギレーヌ。ルーデウスが……」
あたしは驚いていた。
こんな顔をエリスお嬢様はする様になったのだな。
させる様な相手が出来たのだな、と。
相手はあのルーデウスだ。
きっとあいつが色々と変えていったのだ。
エリスお嬢様を良い方向に成長させたのだろう。
全く、こんな時だというのに妙に感心してしまう。
「二人なら大丈夫だ。奴らは魔術師だからな」
戦闘より生存にかけては魔術師の方が分がある。
きっとルーデウスもロキシーも生きているだろう。
とはいえ、あたしも焦っていたのだろうな。
だから気が付かなかった。
「あいつはどこに行った?」
「えっ?」
ーーーーー
「っ……」
わたしは痛みに呻いた。
「なんとか生きていますかね……」
呟き、暗闇の中で怪我の具合を探る。
全身余す所なく打撲を負っていた。
特にズキズキと片足が痛い。
恐らく折れている。
でも、それだけで済んだのなら僥倖だ。
「神なる力は芳醇なる糧……」
足に治癒魔術を掛けながら辺りを見渡す。
どうやら、かなり下まで落ちたらしい。
上を見上げても、何一つとして見えない。
不意に怖くなる。
今は一人だけなのだ。
それも迷宮の奥底に。
暗闇に向けて、試しに火を放ってみた。
「ひっ!」
思わず悲鳴がこぼれた。
辺り一面に魔物がいたのだ。
それも迷宮の氷の魔物だ。
簡単には殺せない不死の魔物が数十匹。
更には多数の魔物が合体し、吐き気を催す醜悪な形となって迫ってきている。
あれは……きっとわたし達が下に放り捨てた魔物の死体が寄り集まったものだ。
一体、誰だったか。
私にいい考えがある、などとほざいた人は。
「荘厳なる大地の鎧を纏わん。土砦!」
慌てて土の防壁を築き、身を守った。
駄目だ。あの巨体はすぐにこんな壁、壊すだろう。
更に魔術を詠唱しようとして、急に体がふらついた。
「焦げたる……っ」
頭にズキンと痛みが走る。
落ちる際に頭をぶつけたのか、呂律が回らない。
まずい。
治癒を、いやその前に防壁を強化しないと。
でも間に合わないと悟った。
回復する前に、魔物の腕が眼前に迫る。
あとほんの僅かでわたしは殺される。
「いや……」
死にたくない。
それもこんな所で。
まだまだやりたい事があるのだ。
エリスの様に、互いを大事に出来る相手を見つけたい。
その相手がルーデウスみたいな人だったらなおいい。
もう一人で虚しい夜は過すのは嫌だ。
それに、もし出来るのなら教師にもなってみたい。
そんなささやかな夢を抱いていたのだ。
まるで向いていないのかもしれないけど。
「っ、助けて……」
わたしは意識が朦朧として、倒れ込んだ。
何故か脳裏に浮んだのは、一人の少年の姿だ。
いつの間にか背丈を抜かされていた相手。
「ロキシーッ!!」
あれ、その当の本人のルーデウスの声がする。
……何をやってるんですか、ルディ。
あなたは、エリスを守ってあげなくちゃ駄目じゃないですか……なにをそんなに必死になって……。
ーーーーー
わたしはゆっくりと目を開けた。
どうして自分はまだ生きているのだろう。
知らない天井を見上げる。
「これは……」
氷がない。
迷宮の氷が溶け、土の壁が全て露出している。
確か、誰かがやってきてわたしを助けてくれたはずだ。
「ルディ?」
体を起こすと、背中を向けたルーデウスがいた。
焚き火の側で、じっと身動き一つしていない。
「っ!」
声を掛けようとする。
だが、思わず悲鳴を上げそうになった。
わたしは何故か下着姿になっているのだ。
上にルーデウスのいつものローブが掛けられている。
それだけだ。
見れば焚き火のそばに私の衣服は干されている。
「申し訳ありません!いかなる罰もお受け致します!」
ルーデウスが急に動いた。
逆向き土下座である。
何故か板についている。
ルーデウスはそんなに土下座を披露する機会があるのだろうか。
「え、えと。必要だったのだとわかりますから」
見れば辺り一面水浸しだ。
ルーデウスが魔術で溶かしたのだろう。
ずぶ濡れのままでは風邪を引く。
当然の処置だ。
「こちらこそ、お見苦しい物をお見せしました……」
でも理性と感情は別物だ。
わたしは急に恥ずかしくなり、身を縮めた。
「そ、そんなことはっ!!」
何故かルーデウスは土下座体勢のまま身悶えする。
それから長い息を吐いた。
「……いえ、私は一切見ておりませんので」
と真剣な声で言われてしまった。
それはそれで、なんだか残念な気持ちだ。
「とにかく助けて下さってありがとうございます。ルディ」
こうして私は助けられたのだ。
ーーーーー
俺は、ロキシーを助けれた喜びを噛み締めていた。
ちょっと全力でやりすぎた余波でハプニングはあったが、概ね問題はない。
いや、ほんと。
ロキシーの服を脱がす時は、ちゃんと目を閉じてたよ。
ちらっとだけ、目に入っちゃたかもしれないが。
でも、耐えきったのだ。不埒な考えなど一切ないよ。
御神体に毎日礼拝してなきゃやばかったけどな。
ロキシーはようやく乾いた服を着た。
それから俺達は焚き火の側で背中合せに座る。
背中に感じるロキシーは、随分と小さくなったな。
いや、俺が成長したのか。
「私、ほんとはこのパーティーを抜けるつもりだったんです」
ロキシーがぽつりと話し始めた。
「ど、どうしてですか」
「最初は、お世話になったルディの家族を見つける事が目的でしたから」
そうだ。その為にロキシーは動いてくれていた。
でも、ゼニスを救出して目的は果たしたのだ。
「だから、いつまでもずるずるとパーティーにいさせてもらう訳にはいかないな、と」
「ロキシー先生は、これからも皆に必要ですよ」
新生黒狼の牙は、慢性脳みそ不足なのだ。
何せ脳筋や下半身で動く奴が占めているからな。
「そうでしょうか。なら嬉しいです」
「はい。だからその……一緒にラノア魔法大学にも行きませんか?」
つい聞いてしまった。
こんなフラグが立ちそうな場所で聞くべきではないのだろうけど。
「それは……でも」
ロキシーは口ごもった。
「……わたし、教師になるのは夢だったんです」
「ロキシー先生なら、きっといい教師になれますよ!」
何せ、引きこもりから脱出させてくれたロキシーだ。
「だったですよ。……向いてないって嫌というほど思い知りましたから」
「そんな事は……」
「だってルディは、わたしが教えなくても一人でどんどんと先に行ってしまいますし、もう一人の教え子は逆に何一つ上手に教える事が出来ませんでした」
ロキシーの声は暗い。
「今も弟子に命の危機を救って貰う始末ですからね。きっとわたしは教師になるべきじゃないんです」
そうじゃないと、俺は思う。
別に教師とは生徒より上手に出来るとかそういう事だけではないはずだ。
俺がロキシーの生き方を尊敬している様に。
ロキシーはただ自信を失ってるだけなのだろう
「絶対にそうじゃないです」
俺はゴホンと咳払いをした。
「いいですかロキシー。ロキシーは教師になるべきです。そしてその暁には多くの生徒に慕われる良き教師となるでしょう」
くそっ。思わずアイツみたいな言い方しちゃった。
でもそれだけ、そうなるだろうという予感があったのだ。
「それは、ルディのいつもの勘ですか」
「そうです。魔大陸踏破者の勘です」
ロキシーは少し笑顔を浮かべた。
「それに勘違いしてます。俺は自分で言うのがなんですが天才です。でも一人の力でそうなった訳ではないですよ。誰かに助けられてです。ロキシー先生はその中で多くを占めています」
「でも、わたしは別の生徒を上手く導けませんでした」
「それは俺が冒険者としては未熟な様に、ロキシー先生も先生としては、まだ未熟だからですよ」
そうだな。
確かいつかロキシーにこんな言葉を言ったはずだ。
「先生は失敗したんじゃなくて、経験を積んだんです」
俺はロキシーを見つめた。
ロキシーは驚いた表情を浮かべている。
「人はそれぞれ成長スピードが違います。きっとその生徒もロキシーのお陰で成長出来た部分があるはずですよ」
「そう、ですね。きちんと向き合わなく見てこないものですよね」
ロキシーは思い当たる事があったのか頷いた。
「私、謝らなくちゃいけないですね」
「誰にですか?」
「家庭教師をしていたシーローン王国のパックス王子にです」
ああ、あのなめろう。
そういや、教え子とはあいつのことになるのか。
うん。あいつは俺みたいに、一回死ななきゃ成長出来そうにないかな。
「勝手に期待して勝手に失望して……全然向き合えていませんでした」
ロキシー俯いていた顔を上げた。
もうその表情はいつものロキシーに戻っていた。
「そうですね。後で彼に手紙を送ることにします」
「ではその為に、ここをまずは脱出しましょう」
「はい!」
俺はロキシーの手を取って立ち上がった。
歩き出そうとすると、後ろからロキシーが抱きついてきた。
「ちょっとだけこうさせて下さい」
俺はロキシーに身を委ねてそのままにした。
多分、浮気ではないはずだ。
冒険者同士の命を恩人に対するハグの様なものだ。
「ルディ。わたしは……」
続きの言葉は背中に埋もれ、小声で聞こえなかった。
そしてロキシーは、すっと体を離してしまった。
「えっと、ロキシー先生。もういいんですか?」
「はい。もう一区切りつけましたから」
そう言うロキシーはいつもの表情だ。
ちょっとだけ頬が赤い様な気がするが。
なんの一区切りなのだろう。
というか、何をロキシーは言ったのだろうか。
俺、気になります!
ともあれ、俺とロキシーは再び迷宮脱出に挑む。
さあて、奈落の底から脱出しなくちゃな。
流石に氷の壁を登攀する案は却下だ。
地道にまた道を登るしかない。
あと、一つだけわかった事がある。
遺跡の罠が発動する条件だ。
俺は試しに遠くの遺跡の壁に岩砲弾を撃ち込む。
すると氷が出現した。
どうやら遺跡を傷つけると発動するらしい。
きっと入口もこれが原因で閉じたのだ。
あれ、でもおかしいな
あの時は、誰も遺跡の壁を傷つけてはいないはずなのだが。
そして厄介なのは戦闘やら徘徊する魔物で壁に傷つくと、マップが変化してしまう点だ。
どうにかして正解の道を見つけないと。
「ルディのいつものいい案はありませんか?」
「それがさっぱりです」
いつも助けてくれる予兆は感じられない。
俺だって、無敵の「ルーデウスレーダー」でなんとかしてくださいよォーッ!!って叫びたい気分だ。
もしかして地下深くのせいで、アンテナ3本立ってないのかしら。
「ルーデウスさん!ロキシーさん!」
そこで俺の思考は、呼びかける声に中断された。
曲がり角から松明を持ったテレサが現れたのだ。
「どうしてここに!?エリスとギレーヌは?」
「魔物に襲われて、お二人とははぐれてしまいました」
それは災難でしたね。
ても、よくテレサさんは今まで無事だったものだ。
てかここまでどうやって降りてきたのだろうか。
「ルーデウスさん。さっきあっちの道で姉の手掛かりを見つけたんです。きっとあの奥にいます!」
テレサはそう言うと、いきなり駆け出した。
慌てて俺とロキシーは追いかける。
「テレサさん!待って下さい!!」
何だ、随分とテレサさんは走るのが速いな。
結構鍛えてるはずの俺が引き離されていく。
魔物や罠など危険なのだが、止まってくれない。
ロキシーが遅れてきたので、俺は足を合わせた。
既にテレサの姿は見えないがもう一本道だ。
この先で待っていてくれているだろう。
迷宮を照らす何らかの光源が進む道を照らしてくれている。
そしてことさら明るい場所に突き当たった。
入り口は荘厳な門が待ち構えている。
俺とロキシーはその門を潜り抜けた。
すると終点は玉座の間だった。
上出来じゃないか。
地上まで届きそうな吹き抜けの構造だ。
白く輝く巨大な宮殿へと辿り着いたのだ。
「テレサさん?」
呼びかけるも返事はない。
あれ、途中ではぐれてしまったか?
「ルディ、あそこに」
ロキシーが指差す先に誰かがいた。
だが、テレサさんではない。
そもそも性別が違う。
「全くよ、待ちくたびれたぜ」
筋肉モリモリマッチョマンの変態だった。
「え、リアーナさん?」
思わず聞いてしまった。
いや、俺は何を言っているのだろう。
テレサさんの姉があんなゴリラなわけないだろう。
もしそうだと言うならゴリアーデに改名する事をオススメする。
あ、なんか誰かに失礼な事言っちゃった気がする。
男は体型通りの低い声を発した。
「そろそろ来いよ、テッド」
え、テッドって誰だ?
すると常時発動しっぱなしの予見眼が何かを捉えた。
後ろから迫る白刃だ。
「ロキシー!」
俺はロキシーを守ろうと押しのけた。
俺もインド人を右にする勢いで避けようとしたが、無理だった。
左肩に衝撃と鋭い痛みが走る。
「ぐあっ!」
左肩を抑えてみると、ざっくり裂けて血が出ている。
くそっ、お気にのローブだったのに。
ロキシーを素肌で包んでいたというのに!
「ち、避けてんじゃねえよ!」
白刃の正体はテレサさんが握る剣だった。
今まで見た事がない凶悪な表情を浮かべている。
ど、どういう事だ。
「動くな!」
そしてテレサは、ロキシーを羽交い締めにした。
そのままロキシーの首筋にテレサは剣を突き付ける。
「な、何で。テ、テレサさん?」
俺は混乱していた。
何故、彼女がいきなり俺達を殺そうとしてくるのだ。
目的が、意味が分からない。
「ハッ。まだ、わかんねえのかよ」
テレサは防寒着の胸元に手を突っ込んだ。
そして中身を取り出す。
テレサさんのテレサを。
へー、最新式のは取り外し可能なんだ。
って、じゃないッ!
何だあの袋に包まれたスライムは!!
俺が欲情してた正体はあんなのだったのかッ!!!
「俺はテレサじゃねえ、テッドだ!」
ロキシーが驚愕の表情でテッドを見上げた。
次にテッドが取り去った長い髪はカツラだった。
整った顔に短めの短髪が踊っている。
「おっと、そういやこれもだったな」
それから指に嵌めた魔力付与品らしき指輪を抜き取る。
すると俺が彼女、いや彼に感じていた女性らしさは露と消えた。
同時に彼女に感じていた欲情もだ。
あの指輪は女性に変身する機能があったのか!
「って事は男だったのかよ!くそっ、やられた!!」
よくもだましたアアアア!!
だましてくれたなアアアアア!!
俺は血の涙を流す勢いで叫んだ。
「騙される方が悪りいんだよ。なあ、リアード」
テッドは巨体の男に呼び掛ける。
リアードは肩をすくめた。
「次からはお前が誘い出す役割だからな」
「馬鹿をいえ、誰が俺に騙されるっていうんだよ」
ロキシーは刃の冷たさに、命の危機を感じながら声を上げる。
「あなた達は、何者なんですか!?」
するとリアードとテッドはニヤリと笑った。
「よくぞ聞いてくれた!俺達は!!」
「北神三剣士!の一人!北王ウィ・ターが一番弟子!」
「「北聖リアード・テッドとは俺達の事よ!」」
うおっまぶしっ!
一瞬、脳内にきらめきの幻影が走ったがそれだけだ。
決めポーズをしている二人には悪いが、どいつも聞き覚えはない。
「ま、自己紹介はここまでだ。死んでくれ」
テッドはぐいとロキシーの喉元の剣を突き上げた。
「やめろっ!」
俺は叫ぶ。
さっきのテッドの剣は俺を狙ったものだった。
なら狙いは俺のはずだ。
「俺が狙いなんだろ、殺せばいい。でもロキシーは見逃して欲しい」
俺は覚悟を決めてそう言った。
「な、何を言ってるんですかルディ!!」
ロキシーは驚いて、テッドから逃げ出そうとする。
だが魔術師の非力な力では剣士には勝てない。
「いい覚悟だ。だが油断ならねえな。お前は無詠唱使いだ。身動ぎ、瞬き一つするなよ。事が終わったら彼女は解放してやる」
「絶対だな」
俺は逃げも隠れもせず真っ直ぐに仁王立ちをする。
ロキシーの為に死ぬのなら怖くないさ。
「さてその覚悟に免じて、せめてもの手向けだ。お前の得意な魔術で殺してやるよ」
テッドはゆっくりと息を吸う。
それから命のカウントダウンの詠唱が始まった。
「不確かなる神よ」
「や、やめて下さい!」
わたしは必死に拘束を解こうとした。
テッドの腕に爪を立て、噛みつく。
でも全く意に返してなく、何一つ無意味だった。
さらに詠唱は続く。
「我が呼び声に答え……」
「お願いしますっ!何でもしますから!!ルディだけは!」
わたしは目に涙を浮かべて懇願した。
体もそれこそ命だって差し出そう。
ルーデウスを救う為なら何でもしよう。
テッドはうーんと悩む声を上げた。
リアードと視線を合せ、首を振る。
それから、ニイと残酷な笑顔を浮かべた。
「だーめだ」
わたしは歯ぎしりし、ルーデウスに顔を向けた。
「ルディ!わたしはどうなっても構いませんから!反撃して下さい!」
私が死んでもルーデウスが生き残るなら。
それでいいのだ。
でも、ルーデウスはゆっくりと首を振った。
「敵を打ち砕け!」
目の前に人を殺し切るだけの砲弾が形成される。
あとほんの一声で魔術は完成してしまう。
それだというのに、私は何も出来ない。
「大丈夫ですよ、ロキシー」
それどころか、ルーデウスは笑顔を浮かべてきた。
まるで私を安心させようとする様に。
いつもの様に、飄々とした顔で。
「や、やめ」
私は叫び、なんと止めようともがいた
血が出るにも変わらず足掻き、前に出る。
首が落ちてもいい、でもルーデウスだけは!
「岩砲弾」
だが、無慈悲な言葉が発せられた。
発射された岩砲弾は真っ直ぐ飛ぶ。
ルーデウス目掛けて。
そして、そのまま彼の体に吸い込まれた。
ルーデウスは仰け反り、ぐらりと後ろに倒れる。
激しい音と共に、地面に血が飛び散った。
倒れたルーデウスはピクリとも動かない。
「いやっ……」
嘘だ。そんな、あのルーデウスが。
転移災害を、魔大陸を生き抜き、家族全員を見事に見つけ、わたしの命すら救った彼が。
ルーデウスがこんな所で死ぬなんてありえない。
嫌だ。死んで欲しくない。
だって私は彼を……!
「ルディっ……いやああああああッ!!」
ロキシーの絶叫が響き渡った。
お願い、死なないでルーデウス!
あんたが今ここで倒れたら、エリスやロキシーとの約束はどうなっちゃうの?
話数はまだ残ってる。ここを耐えれば、暗殺者に勝てるんだから!
次回「ルーデウス死す」
うん。嘘こいてすんません。