無職転生 ー妄想してみたー   作:ぺこぽん

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回想 冒険者時代 氷結迷宮編6

 ロキシーの心地良い詠唱を聞きながら、俺は剣をテッドだったものに向けた。

 テッドは凄い速さで突っ込んでくる。

 うわ、走れるゾンビの方か。

 

「泥沼」

 

 格好つけて剣を持ったが、真正直に斬り合うつもりは最初からない。

 泥沼と岩砲弾のコンボ攻撃だ。

 足を止めたテッドに発射された岩砲弾が突き刺さる。

 いくらかは剣で弾かれた。

 だが、それだけでほとんどは体を削り取る。

 よしっ、生前のキレはない。

 

「大火球!」

 

 トドメとばかりの火弾を発射した。

 死んでいてくれていてよかった。

 生きてる人間ではここまで出来なかっただろう。

 

 しかし、再び泥沼が凍る音がした。

 氷の足場を得たテッドは、上ジャンプで逃れる。

 慌てて避けた場所にテッドが突っ込み、剣で地面が抉れた。

 

「う、ああ……」

 

 さらに横殴りの剣をテッドは振るってくる。

 それを俺はなんとか受け止めた。

 予見眼、そしてエリスやギレーヌとの鍛錬が生きた。

 何よりデステッドの攻撃は精細を欠いている。

 

「うお!!」

 

 だがその腕力は別だ。

 闘気、そしてリミッターが外れたテッドの剣圧は徐々に俺を押していく。

 しっかりするんだ、ハルク、ヘラクレス!

 今こそお前達が、ただの見せ筋でないと証明してみせろ!

 

「おおお!」

 

 チャンスは今しかない!

 直接テッドの腹に岩砲弾を至近距離でぶちかました。

 避けられるはずはなく、テッドの腹に大穴が開く。

 

「お、ろ……」

「ふっ!」

 

 背骨を失くした生物が自立できるはずはない。

 その隙に俺は、剣神流「腕落とし」を放った。

 テッドの腕が斬り落とされ、剣が落ちる。

 

 俺は落ちた剣を足で遠くに蹴飛ばした。

 これで一応の危機は去ったはず。

 しかし、すぐにテッドの失った背骨を氷が補おうとする。

 

「なら、これでどうだ!」

 

 俺は土魔術「土砦」でテッド、それについでにリアードも棺桶に閉じ込めた。

 こっちはいっちょ上がりだ。

 

「光り輝く力を以って、帝の威を知らしめん!」

 

 ちょうどロキシーが詠唱の節目に差し掛かる。

 これは……水王級魔術「ライトニング」か。

 以前、見せてもらった事がある。

 

 遺跡の王宮に巨大な積乱雲が発生し、頭上を黒く染め上げる。

 そして雷鳴と共に辺りを雷光が照らした。 

 

「ルディは攻撃の準備をお願いします!」

 

 魔力制御に集中するロキシーが必死に声を上げた。

 そうだ、のんびり見ている場合ではない。

 

 俺が迷宮の核を破壊する担当なのだ。

 その為には、あの氷の結界を撃ち抜けるだけの威力がいる。 

 

 俺はありったけの魔力を込め始めた。

 作り出すのは岩砲弾。

 まずは固く、とにかく硬くだ。

 それから形成。

 鋭く形を尖らせ、貫通力を上げる。

 

 その時、一際大きな雷鳴が響き渡った。

 ロキシーの制御を外れた雷が地上に降り注ぐ。

 あちこちに。そして赤竜にも、迷宮の核にもだ。

 だが、両者とも生物ではないため効果は余りない。

 氷の表面をいくらか削り取っただけだ。

 

「まだです!」

 

 自身の直ぐ側に落雷しながらも、ロキシーは声を張り上げる。

 ライトニングにはない、さらなる詠唱の続きだ。

 

「天より舞い降りし勇猛なる氷帝よ!その氷冠を戴きて彼の者に鉄槌を!」

 

 ロキシーは雷雲を圧縮させる事なく、更には大きく拡大させた。

 なんだ……とてつもなく寒い。

 さっきから俺の吐く息が白く凍り付いていく。

 周囲の気温がどんどんと下がっていくのだ。

 

「これは……」

 

 スーパーセルだ。

 見上げると、雷雲は更に拡大を続けていた。

 止まる事がない上昇気流が温度を奪っているのだ。

 

 そして、巨大な雲の中心に小さな氷晶が生まれた。

 それはすぐさま過冷却となり存在していた雲中の水分を寄せ集め、大きくさらに大きく成長していく。 

 見る見る間に巨大な氷柱が完成した。

 

 それを見届けたロキシーは杖を振り下ろし、叫ぶ。

 

「アイシクルフォールン!!」

 

 聞いた事がない魔術だった。

 それからロキシーは最後とばかり、杖を横に振るう。

 魔力制御で巨大な雲を蹴散らしたのだ。

 それにより雲が晴れ、上昇気流で支えられていた巨大氷柱はゆっくりと落下し始める。

 

「グオォオオ!」

 

 ようやく氷泥沼から脱出した赤竜は、頭上を見上げる。

 轟音と共に大質量の物体が落ちてきているのだ。

 逃げる暇などなく氷柱の尖端は、赤竜の背中に突き刺さった。

 そのまま全重量がののしかかり、全身の骨を砕かれながら赤竜は氷柱に押し潰された。

 

「どう、ですか……ルディ……」

 

 ロキシーが膝をつき、杖にもたれながら聞いてきた。

 

「す、凄いです」

 

 ロキシーは新しい水系魔術を生み出したのだろう。

 やはり俺達のロキシー先生は天才か。

 もしかして水帝級くらいの威力はあるのではないか。

 

 それにもっと広い所ならば更に威力が上がるだろう。

 下にいれば、大抵の奴はひとたまりも無いはずだ。

 欲を言えば、更に上に2個目も欲しいが。

 

「ロキシーは休んでて下さい。後で詳しく解説して下さいね」

 

 俺はというと、岩砲弾の回転をさらに速めていく。

 まだだ。何よりも速さが足りない!

 もっと速くだ。

 岩砲弾は轟音を立てて、高速回転をし始めた。

 

 しかし、ここからでは狙えない。

 場所を移動しなければ。

 ロキシーは氷柱を余りにも大きくしすぎたのだ。

 幸いな事に自然現象で発生させた氷だ。

 それ故に消す事は出来ないが、何より相手に吸収される事も無いはずだ。

 

「え?」

 

 だから、地面に刺さっていた氷柱が動いた時、俺は思わず声を上げた。

 ゆっくりと巨大な氷柱がかしいでいく。

 まじか、あれだけやっても倒せないのか。

 

 迷宮の核が今までで、一番赤く光り輝き始めた。

 最上級の警戒の証だ。

 俺の岩砲弾を見て、最後の抵抗を始めたのだ。

 

「ルディ……」

 

 ロキシーが後ろで倒れた音がした。

 いくら傲慢なる水竜王を使ったとはいえ、ロキシーの魔力消費は限界を迎えたのだろう。

 俺は移動を諦め、ロキシーを守る為に前に立つ。

 

 こうなったら限界まで射出速度を上げて、障害物ごと貫いてやる!

 俺は残った魔力を全て込め始めた。

 だが、余り時間はないのかもしれない。

 

「……そりゃないぜ」

 

 俺は目の前で起こった事実に呟いた。

 赤竜、そしてロキシーの氷柱を包む様に、迷宮の氷が全てを覆っていく。

 覆い尽くす氷は膨らんでいき、留まる事がない。

 そして、何かを形作っていく。

 

 赤竜だ。

 自らを守れる存在、そして最も巨大であるが故に選んだ守護者をその対象に決めたのだ。

 迷宮は学習したのだろう。

 赤竜の骨格、体格、体表を氷が寸分違わず造る。

 違うの大きさだけだ。

 

「巨大化かよ」

 

 俺の眼前に元の三倍はありそうな巨大な氷製の赤竜が誕生した。

 余りにも巨大すぎてバランスをとれないのか、体がふらついている。

 赤竜はバランス保つ為、両方の氷の翼を広げた。

 

 そして真っ直ぐ俺とロキシーを見下ろしてくる。

 あのメカ赤竜からしたら俺達なんて蟻みたいなものだろう。

 踏み潰して終わりのはずだ。

 

 だが、俺は絶望するつもりは最毛ない。

 それに俺の元いた世界では相場が決まっているのだ。

 

「巨大化は負けフラグだってなあ!」

 

 俺は岩砲弾を完成させた。

 まず間違いなく今までの人生で最高の出来だ。

 不安はない。

 でも、欲を言えばもう少しだけ時間が欲しい。

 

 その時だった。

 

「ルーデウス!」

 

 天からの、いや我が妻エリスの声だった。

 いつでもその呼び声を聞けば、安心させられたものだ。

 そして不安にもだが。

 

「大きな音がすると思ったらやっぱりルーデウスだったのね!」

 

 ラスボスの遥か頭上。

 抜け穴があったのか、エリスの姿が見えた。

 それにギレーヌもだ。

 

 二人も迷宮を踏破して来たのだろう。

 そして、すぐにこちらの事情を察してくれた。

 ギレーヌは剣に手を置くと、エリスに合図する。

 

「あたしは右、エリスは左だ!」

「わかったわ!」

 

 その言葉だけで両者は空に躍り出た。

 頭上から落ちてくる異物を迷宮は認識したのだろう。

 氷の赤竜が翼の鉤爪を伸ばし、攻撃してくる。

 それを二人は難なく避けた。

 

 すげえ、落ちながら戦ってる。

 そのまま二人は目に停まらぬ速さで、氷の翼の上を走り抜けた。

 狙いは翼の根本だ。

 

「「があぁぁあッ!」」

 

 二人は吠えた。

 両手で剣を構え、神速の勢いで振り下ろす。

 パキンッと氷が砕ける音がした。

 見れば赤竜の氷の翼が根本から断たれ、落下してくる。

 いや、エリスの方は剣速が甘かったのか、まだ辛うじて繋がっている。

 でもそれで十分だった。

 

 バランスを取れなくなった巨体は、壁で自らの氷体を削りながら崩れ落ちていく。

 そしてエリスとギレーヌは、猫の様に地面を転がりながら受け身を取り着地した。

 ブラヴォーだ。賛辞と感謝を送りたい。

 

 何よりエリスとギレーヌのおかげで、最後のひと手間が完成した。

 火系統魔術マグマガッシュ。

 岩砲弾に混合魔術で組み込んだのだ。

 名付けて溶岩砲弾。

 

「ッ!避けて下さい!!」

 

 だが、射線を確認する前に気付いた。

 最後の足掻きとばかりに、赤竜が倒れ込みながらのけ反っている。

 またアイスブレスだ。

 

 エリスとギレーヌはすぐに察して、壁際に逃げ始める。

 そして戦士の様な身体能力がない俺は、ロキシーを担いで逃げるなど出来るはずもない。

 なんとか俺は溶岩砲弾を維持しながら、火の壁を作り出した。

 

「だめです!」

 

 そこでロキシーが手を伸ばし、俺の手を掴んできた。

 何がだめだと言うのだろうか。

 

「来たれ冬の精霊 水を重ね悪しき者を押し止めよ!」

 

 かすれた声でロキシーが絞り出したのはアイスウォールの詠唱だ。

 そしてその意味はすぐにわかった。

 

 赤竜が放ってきたのは、アイスブレスではなかったのだ。

 同じくのけ反らした残った片方の氷の翼が本命。

 衝撃波を伴い、翼から氷柱の雨を降らしたのだ。

 

「つ、っあああ!……アイスウォールっ!!」

 

 ロキシーの悲痛な叫び声が上がる。

 絶対に守って見せるという想いが込められていた。

 

 俺の火の壁を溶けながら難なく突き進んできた氷柱は、ロキシーの氷の壁で防がれる。

 そして氷柱は俺の額に突き刺さる寸前に止まった。

 避ける暇も、吸魔石を使う時間すらなかった。

 ロキシーに命を救われたのだ。

 

 くそっ、守護者は倒れる前は、最後の足掻きでいつもと違う行動をすると学んでいたはずなのに。

 また、ロキシーに無理をさせてしまった。

 

「いくぞ!!」

 

 俺は自分の不甲斐なさを叱責するつもりで叫んだ。

 すでに赤竜は倒れ伏している。

 せめてもと攻撃してきた翼を守るように振り上げているが、あんなものは薄い壁だ。

 全部ぶち抜いてやる!

 

「溶岩砲弾!」

 

 全力で発射した。

 そして真っ直ぐ突き進んでいく。

 赤竜の氷の翼を貫き、そのまま迷宮の核の氷の結界に突き刺さった。

 いけるはずだ、止められる訳がない。

 

 俺の予想通り、溶岩砲弾はその熱で氷の結界を溶かしきり、迷宮の核に突き刺さった。

 後は仕上げだ。

 

「砕けろ!」

 

 内部から膨らむ様に溢れた溶岩が砲弾を弾け飛ばす。

 迷宮の核は、そこを起点に砕け散った。

 心地の良い解砕音が王宮に響き渡る。

 

「や、やった……!」

 

 俺はへたり込んだ。

 やったのだ。 

 これで終わりだ。

 

「グオォオオ……アア」

 

 氷の赤竜も最後の咆哮を上げ、溶けていく。

 きっと罠も入り口の氷の壁も溶けたはずだ。

 これで帰れる。

 

 思い掛けない形で始まった迷宮攻略は終わったのだ。

 

「ルディ、わた」

「ルーデウスっ!」

 

 ロキシーが何か言い掛けた時、エリスが胸に飛び込んできた。

 

「やったわ、私達!スノードラゴンをやっつけたんだわ!」

 

 エリスの満面の笑みが眩しい。

 うん、スノードラゴンじゃなくて、そのパチモンだけどね。

 それでもやばいぐらいの強さだったよ。

 

「でも、本当に無事で良かったわ」

 

 それからエリスはしおらしい声を上げて、ぐりぐりと全身を擦り付ける様に抱きついてきた。

 痛い、痛い!

 まだ左肩を負傷したままなんだよ。

 それにこらこら、みんな見てるんだから。

 

「ロキシー、さっき何か言いかけました?」

「あ、いえ。何でもないです……」

 

 ロキシーは顔を反らしていた。

 

「いつからロキシーを呼び捨てで呼ぶ様になったのよ」

「あれ?」

 

 エリスがちょっと唇を尖らせている。

 ほんとだ。そう言えばそうだ。

 何やら緊急事態が続いていたせいで、つい心の中での呼び声が出てしまっていた。

 

「すみません、ロキシー先生。調子に乗った訳ではないのですが」

「構いませんよ。私なんて教師としてまだまだですからね」

 

 ロキシーは許してくれた。

 ならこれからも呼び捨てでいいだろうか。

 

「いえ、まだまだ教わりたい事が色々とあります。これからもロキシー先生と呼ばせて下さい」

「では私も、もっと良き教師となりましょう」

 

 やっぱりこっちの方がしっくりくるな。

 それにロキシーを先生呼び出来ないのは、それはそれでもったいない気がするしな。

 

「あれ、ロキシー。髪が白くなってるわよ」

「え、あ……」

 

 エリスの指摘で見れば、ロキシーの綺麗な青い髪に白い髪が一房混じっていた。

 

「ちょっと魔力を使いすぎましたかね。こんなの初めてです」

「本当にすみません。ロキシー先生」

「いえ。ルディを、弟子を守れて何よりですよ」

 

 そう言ってロキシーは笑った。

 俺はその言葉にますます落ち込む事となった。

 冒険者として強くなったつもりでいたのだが、とんでもない。

 最高の大あまちゃんだった。

 

「もっと強くなります」

 

 これからも、精進していこう。

 俺はそう決心したのだった。

 

 

 その後、俺達は帰る準備をする事となった。

 帰るまでが迷宮探索だ。

 油断せずに行こう。

 

「で、こいつらは一体何者だったんだ?」

 

 ギレーヌが死骸を一瞥しながら聞いてきた。

 ああ、そう言えばまだ説明していなかったな。

 

 俺とロキシーは経緯を説明しつつ、二人の残した遺品を漁ることにした。

 するとありがたい事に、奴らが調べたこの遺跡の地図が出てきたのだ。

 どうやら奴らは数ヶ月前から俺を殺す準備をしていたらしい。

 

 題してルーデウス暗殺計画。

 計画の肝はこうだ。

 

 とにかく狂犬と剣王をルーデウスから引き離す事。

 前衛と組まれると厄介だが、魔術師相手なら余裕だという判断らしい。

 ふっ、なめられたものだな。

 

 んで数ヶ月もの間、奴らはその機会を伺っていたそうだ。

 でも、俺とエリスは一心同体だからね。

 全く暗殺の機会は訪れなかったのだ。

 

 そこで日銭稼ぎの依頼で、偶然見つけた遺跡を使い、罠に嵌める事を思いついたのだと。

 まずは別人の冒険者カードを使って、オルシア姉妹の下地を作る。

 それから同情を引く噂を流し、哀れみを誘う。

 後は自分で血を流し、捕らえた魔物で攫われた証拠づくりだ。

 それに合わせて、高ランクパーティーがいない頃合いを見計らって俺達をおびき寄せるのだ。

 どこまでも手間のかかる事を……。

 

 ついでに俺の調査書を覗いて見た。

 好色で常に女を侍らしているパンツを被った変態。

 特に胸の大きい女性を目がなく、見境なしにそこらの変態親父を超える表情をするらしい。

 

 いや、確かに一部は合ってるけど。

 とんだ風評被害だ。訴えてやる。

 

 その為に長耳族の血を引き男の割には見栄えがいいテッドが女装して、俺を誘惑する事にしたらしい。

 泣けなしの財産を切り崩して、雰囲気を女性に出来る魔力付与品を買い、女性らしい仕草を身につける。

 それは涙の出る特訓の日々だったらしい。

 

 さすがは北神流だ。恐れ入ったよ。

 敬意を払って、きちんと埋葬してやる事にした。

 

「さあ、帰りましょう」

 

 今までで一番の危機だったがなんにせよ生きている。

 生きているのなら反省し、次に活かせる事だろう。

 

 それに、そのおかげで思わぬお土産も出来た。

 砕け散ったが、なおも高密度の魔力を秘めた迷宮の核の欠片だ。

 高く売れそうだし、杖の魔石としても使えそうだ。

 

 それに女性に変装できる指輪も手に入れた。

 これは俺が厳重に、責任を持って保管しておこう。

 何かに使えるかもしれないしね。 

 

 赤竜は氷の下で回収出来ないが、ほとんど腐ってたしまあいいだろう。

 それより新しいこの遺跡は冒険者の新たな狩り場となる。 

 この場所の提供だけでもかなりの稼ぎにはなりそうだ。

 

 そして俺達は、三日ぶりに冒険者ギルドに戻ってきた。

 

「おかえりなさいな」

 

 エリナリーゼのお出迎えだ。

 予想通り全く心配などしていなかった様子だ。

 

「あら、依頼主はどうなったんですの」

「ええと、それが……」

 

 かくかくしかじかと説明する事となった。

 幸い奴らの暗殺計画書は持ち帰っていたので、俺達がオルシア姉妹を見捨てて帰ったと思われずに済んだ。

 

「え、あいつ男だったのかよ!」

 

 冒険者ギルドにいた男共が悲鳴を上げる。

 俺だって、今だに信じられないよ。

 男として騙されていた事が情けない。

 

「でも泥沼。お前、結構な賞金掛けられてんだな」

 

 おい、お前ら。

 ちょっと目の色が変わってるぞ。

 

「……今日は俺の奢りだ!好きなだけ飲め、騒げだ!」

「さっすが俺らの泥沼だ!グレイラットなんか知らねえぜ!」

 

 現金な奴らだ。

 とりあえず金をばらまいて色々口止めしておくか。

 

「やっぱりそういう事だったんですのね」

「何がです?」

 

 エリナリーゼが納得した顔で頷いている。

 

「初めてあの方を見た時、こう下腹の辺りが疼きましてよ。わたくし、そっちの道に目覚めたかと思いましたのよ」

「調子が悪いってそういう意味だったんですか……」

 

 凄まじい男を嗅ぎ分ける嗅覚だ。

 俺とロキシーが呆れているとギレーヌがやってきた。

 

「あたしも奴が男だとは気付いていたぞ。匂いを誤魔化していたようだが、あたしもアドルディアほどじゃないが鼻は利く」

「え!じゃあ、なんで教えてくれなかったんですか?」

「言っただろう、一度」

 

 ああ、あの時の。

 俺が盛大に勘違いした奴だ。

 

「ってあんなのじゃ分かるわけないじゃないですか!」

「ま、まあ、本人も指摘されたくないと思ったのでな」

 

 ギレーヌは少し申し訳無さそうに頬を掻いた。

 

「世の中には色々な人がいるだろう。そういうたぐいかと思ったのだ」

 

 変な所で気を回すギレーヌであった。

 俺はがくっと肩を落とした。

 

「エリス、疲れたろう。僕も疲れたんだ……なんだか眠いんだ」

 

 俺はエリスの肩を借りて宿に戻る事にした。

 

「よくわからないのだけど、ルーデウスは大変だったのよね。慰めてあげるわ」

「いつもすまないねえ、エリス」

 

 真っ白に燃え尽きた気分だ。

 もう男として立ち上がれない気がする。

 もしかしたら騙されたショックでEDになってしまったのかもしれない。

 

「今日は寝るだけだからね。え、えっちな事とかはなしよ。だってルーデウスは疲れてるんだから」

 

 それはフリですか。

 しかし、エリスはいい匂いだなあ。

 体も柔らかく、何より奴とは違い本物がついている。

 ……あれ、なんだか元気が出てきたぞ。

 ルディのルディが立った!!

 

「そ、そうだね。ちょっと一緒に寝るだけだよね」

「じゃあ、その手はなんなのよ」

「えーっと、疲れた体にマッサージをば」

 

 あいて!優しく叩かれた。

 と、そんな漫才していたら俺は見逃していたんだ。 

 

 帽子を被った一人の女性が寂しそうな目で見送っていた事を。

 

 

 その日の夜。

 ほとんどの冒険者が飲み倒れた酒場に二人の女性がいる。

 ロキシーとエリナリーゼだ。

 ギレーヌも先程までいたが、軽く数杯だけ飲むと二人の警護に戻ると言って帰っていった。

 

「それでどうだったんですの」

「どうもこうもありませんよ……」

 

 ロキシーの顔は飲みすぎてだいぶ赤い。

 

「初めての想い人がパウロの息子とは驚きですのよ」

「っ……」

 

 ロキシーはエリナリーゼに打ち明けたのだ。

 如何にルーデウスがかっこよかったか。

 自分の理想の相手そのものだったかを。

 

「で、いつその気持ちを打ち明けるんですの」

「そんなのしませんよ。だってルディはエリスと結婚していますから。今だって二人で……」

 

 ロキシーはぐいとお酒をあおった。

 

「いいじゃありませんの、結婚してようと。互いにミリス教じゃありませんのよね」

「言えるわけないじゃないですか!わたしはルディの先生なんですよ」

 

 エリナリーゼは、ため息を吐いた。

 先程からほとんどがこの繰り返しだ。

 あーだ、こーだと言い訳ばかりで前に進もうとしやしない。

 

「いいですの。わたくしから見れば二人の結婚はおままごとの延長ですわよ」

 

 別にエリナリーゼはこの小さな友人も、最近赤い顔をして色々な事を教えて欲しいとねだりにくる弟子のどちらかも贔屓するつもりはない。

 ただ、自分の気持ちに正直になれと思っているのだ。

 

「でも子供が出来てしまったら別ですわ。色々とややこしい話になってくるんですの。だから今しかないのですのよ」

 

 当たって砕ければ別に良いのだ。

 それもいい経験となるはずだ。

 

「出来るわけないじゃないですか……」

 

 ロキシーは相変わらずの答えだ。

 結局、その夜はいつまでもぐだぐだと終わりのない話が続く事となったのであった。

 

ーーーーー

 

「……と言う訳で色々と耐えきれなくなり、勇気を出した結果、今に至るというわけなのです」

 

 ロキシーは思い出話をそう締め括った。

 暖炉の薪が割れる音が響いた。

 俺は自然とロキシーの髪をすいていた手を止める。

 

 もう白くなった髪はどこにもない。

 俺はあれから強くなれたのだろうか。

 あの時の情けなさを払拭出来るくらいになれたのだろうか。

 

「あの時は、すみませんでした」

 

 俺は謝った。

 これからロキシーも妊娠して運命力とやらが弱くなる時が来るのだ。

 謝る相手がこの世にいないなんて事だけは絶対にあってはならない。 

 あの老人の様にだけは、俺はなりたくない。

 

「そうです。全部ルディがかっこいいのが悪いんです。あんなことされて好きにならない女の子はいないんです」

 

 ところがロキシーは勘違いしていた。

 恋話をまだ続けていると思っていた様だ。

 

「……かっこよすぎるのも罪ですね」

 

 キザに呟くと、ロキシーはふふっと笑った。

 なんにせよもう全て過去の話。笑い話だ。

 

 玄関から音がした。

 エリス達が帰ってきたのだろう。

 

「お兄ちゃん。ゼニスお母様の話、長かったよー」

「ええー、とっても為になる話だったよ」

 アイシャとシルフィが両手に荷物を抱えて居間に入ってきた。

 通称パウロ邸から毎度の料理のお裾分けだろう。

 

「ただいまルーデウス」

「おかえり。どうだった?」

 

 いつもと違いゆっくりと歩いてきたエリスに声をかける。

 心なしかお腹を気遣っている様に見える。 

 何かしら心境の変化があったのだろうか。

 

「子供の名前を考えて欲しいわ。男の子の名前よ」

「え、えっと。じゃあ、フィリップとか」

 

 急にエリスに聞かれて俺は戸惑った。

 昔、外国では祖父母と同じ名前をつけるとか考古学の映画で見たことがある。

 

「いやよ、そんな弱そう名前」

 

 哀れ、フィリップ様。

 

「勇者と同じアルスとかがいいわ」

「アルス君か。うん、いいと思う」

 

 アイシャはうんうんと頷いている。

 

「でも一応、女の子の名前も考えとかないと」

「じゃあ、テレサとか」

 

 それだけは絶対にだめだ。

 エリスは首を捻っている所を見ると、どっから掘り出し記憶なのかすでに忘れているのだろう。

 

「ボクだったら、ルーシーかなあ」

「シルフィ姉、それは安直すぎるよ」

 

 シルフィがはにかみながら言い、アイシャは突っ込んでいる。

 

「わたしも子供が出来たら、ルディに名前を考えて欲しいです」

 

 ロキシー先生まで。

 

「えっと、善処します」

「いい名前をお願いしますよ」

 

 これは夫として全身全霊で取り組むしかない。

 そう言えば、母様とリーリャさんは子供にはなんて名前をつけるつもりなのだろう。

 

 出来ればまた妹が生まれて欲しい。

 弟だと、前世のことがあり愛せるか不安でならない。

 

 ふと、エリスを見れば、本当に随分と所作が変わった気がする。

 ゼニスとリーリャにしこたま言われたのだろう。

 それか本当に母親としての自覚が生まれたかだ。

 

 それに比べて、俺はどうなんだろうな。

 まだまだ馬鹿をやってる気がする。

 父親としての自覚などまだないのかもしれない。

 

 俺も説教を食らうべきなのかもしれないな。

 ん、待てよ。

 いい手本がいるじゃないか。

 すでに5人も子供がいる男が。

 ちゃんとこの世界に生きている父親が。

 

 今度、酒でも交わしながらゆっくり話してみるのもいいかもしれないな。

 パウロ……いや、父さんとだ。

 

 きっと色々といい話を。

 父親としてどう振る舞えばいいのかを教えてもらえる事だろう。

 




これにて回想完結となります。
突っ込みどころ満載は勘弁してね。
 
それと誤字報告いつもありがとうございます。
ちょくちょくと自分でも直していこうと思います。

ご愛読ありがとうございました!
ぺこぽん先生の次回作にご期待下さい!

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