無職転生 ー妄想してみたー   作:ぺこぽん

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魔法大学編 女子寮窃盗事件4

「だから、まさかこんな目に会うとは思っても見なかったんです」

「……」

「いえ、アリエルを王座につけるためには、生徒会選挙で勝たなければならないってのはわかりますよ。犯人逮捕に協力するのにはいいんです。シルフィの為でもありますからね。

 でも、百歩譲って女装するのはまだいいですよ。いや、全然良くないですけど。

 それよりも、身だしなみやら、香水はどうだかとか、流行りの服はお嫌いですかとか。

 最近は俺をおもちゃにしてる気がしてしょうがなくてですね!」

「……」

「聞いてますかオルステッド様!?」

「……ああ」

 

 俺は今、女子寮の自室でオルステッドと会話をしている。

 といっても対面ではなく、最近作った通信のスクロールを使ってだ。

 社長を交えて、いつもの夜の定例報告会だ。

 

 デッドエンドの頃から、ホウレンソウは大事って身に染みてるからね。

 でも、オルステッドの声は、余り気乗りしないご様子だ。

 もしかして、俺が愚痴ばかり話しているせいだろうか。

 

「それで、お前は何が言いたいのだ」

 

 そこで、オルステッドの底冷えする声が返ってきた。

 思わず俺はスクロールの端を、くるくるして遊んでいた指を止める。

 え、もしかして怒ってらっしゃる?

 

 相手の顔が見えない通信魔術では、社長の顔色を伺う事は出来ない。

 いや、見えてもいつも睨んでるような怖い顔だけどね。

 最近は少しは、表情が読めるようになってきたけど。

 

「あ、いえ。そのですね。オルステッド様のお力でで、ぱぱっと下着泥棒がわかっちゃったりしませんかなー、と」

 

 以前、オルステッドは未来視の能力を持っていると言っていたはずだ。

 その力で、下着泥棒の正体を言い当ててもらうのだ。 

 そうすれば、さっさとこの生活ともおさらばえ。

 

「俺がそんな些事を覚え……いや、お前はそんな事に俺の力を使えというつもりか」

「申し訳ありませんでした!ナマ言いました!」

 

 俺は慌ててスクロールに向かって、へこへこと頭を下げた。

 実に、日本人らしい動きだ。

 そうだよな。こんな事で社長を頼ってどうするというのか。

 これは、ぺーぺーである俺が足を使って解決するべきヤマだ。

 

「ふー、……お前の話はわかった。アリエルの生徒会選挙への妨害工作をしている者がいるという事なのだな」

「はい。もしかしてヒトガミが関与しているのでしょうか」

「……いや、ないな。恐らくアリエルに手を出すならば、今の段階ではないだろう」

 

 確かにね。

 ヒトガミの使徒の仕業にしては、せせこましすぎるよな。

 オルステッド様は、さすがの慧眼であらせられる。

 

「それでもなお気になるようであれば、排除すればいい。それだけだ」  

「排除……ですか」

 

 俺はごくりとつばを飲み込んだ。

 親分の言葉の裏を読むならば、色々と準備しなければならないものが、幾つかある。

 出来ればというか、絶対そんな事はしたくはないが。

 

「まあいい。解決出来るのならば、アリエルに貸しを作るのは悪くはない」

「そ、そうですね、平和的に解決を目指します」

 

 俺はほっと、胸を撫で下ろした。

 

「そうか。お前に頼みたい用事があったが、そういう事情ならば仕方がない。俺が出向く事にしよう」

「仕事ですか? それなら、父さんに言ってもられば」

 

 一応、父さんもオルステッドコーポレーションの社員だ。

 以前から色々と、オルステッドの仕事を片付けてきた実績がある。

 ちなみに、次期幹部の座を譲るつもりはない。

 

「パウロ・グレイラットでは、今回は力不足だ。お前も父親の訃報を聞きたくはないだろう」

「それは……勿論です。子供も生まれてきますからね」

 

 ゼニスとリーリャ、ノルンにアイシャ。

 そして生まれてくる二人の子供に、パウロの訃報を伝える役目など俺はごめんだ。

 それに、社葬でオルステッドが喪服を着ている姿など考えられない。

 

「前々から伝えようと思ったが、お前の父親はこれからの戦いでは足手まといになるだろう。

 特に今後、アリエルを王座につけようとした場合、命を落とす可能性が高い」

「そんな……それはオルステッド様の知る歴史での話ですか」

「ああ。ルーク・ノトス・グレイラットが使徒になっていないというのなら、その父親、ピレモン・ノトス。グレイラットの可能性もある。その場合、ヒトガミは奴の保身を利用しアリエル、そしてパウロ・グレイラットの血筋もろとも消そうとするだろう」

 

 ピレモンはアリエル陣営の中心のはずだ。

 だが、もし父さんがアリエルに引っ付いて、凱旋なんて果たした日には自分の立ち位置が危うくなると考えるかもしれない。

 父さんにその気がないという事を、向こうは知らないしな。

 

 それに平行世界の未来の俺の話では、父さんは転移の迷宮で命を落としたとの事だ。

 まあ、色々と奇跡が重なって、この世界では生きているが。

 だが、その運命とやらがいつ、牙を剥くかはわからない。

 

「では父さんは、クビという事でよろしいでしょうか」

 

 よし。まだかなり早い気はするが、隠居してもらう事にしよう。

 依願退職という形で、ささやかだが退職金も出そう。

 だが、社長の意向は違ったようだ。

 

「いや、こちらの手駒も多い方がいい。パウロには別の事をやらせるとしよう」

「何をでしょうか?」

「ある人物を探し出してもらう」

 

 そして、オルステッドは一人の人物の名前を口にした。

 

「シャンドル・フォン・グランドールという男だ」

 

 聞き覚えはない。

 誰だろう。

 

「恐らくこの時期はベガリット大陸、もしくは中央大陸の紛争地帯かと思われるが……定かではない」

「えっと、その人物は何者なんです?」

「本名はアレックス・C・ライバック。北神二世だ」

 

 それって、七代列強序列七位だったか。

 いや、あっちは三世の方なのか。

 よくわからん。

 とにかく、出合い頭にいきなり殺そうとしてくる様な人じゃなきゃいいが。

 

「奴とは知己だ。使徒となる可能性は低いが、早めに陣営に取り込んでおいた方がいいだろう」 

「わかりました」

 

 うん。ヒトガミに、効いたよね、早めの勧誘だ。

 これから父さんには、転移門を使って世界各国を巡る旅に出てもらおう。

 この世界でたった一人の人物を探し出すのは、なかなか骨が折れそうだが。

 

「奴には俺からの手紙を用意しておこう。もし発見出来たのなら、ついでに奴に修行でもつけてもらうといい」

「それはいい考えですね」

 

 父さんは何故か、北神流を嫌っている節がある。

 だが、なんだかんだ一番性に合っているのではないだろうか。

 それに父さんの肉体は、今が最盛期の筈だ。

 そろそろ、武人として一花咲かせてもらいたい気持ちもある。

 

「だが、奴にも子供が生まれるのだろう。捜索はその後で構わん。人手が足りないというのなら誰かを付けてもいいだろう」

「わかりました。ギレーヌにでも頼みましょう」

 

 ちょうどギレーヌも、エリスの妊娠という事で暇してるしな。

 今はサウロス爺様の所だが、戻ってきた折にでも話を付けよう。

 それにしてもお優しい社長だ。

 どうやら、父さんは、単身赴任前に生まれてくる子供の顔を見れそうだ。

 

 あ、でも待てよ。

 その後、父さんはオルステッドの命令を、素直に聞いてくれるだろうか。

 可愛いわが子の傍にいられないのならと、俺に相談なしに退職届を出すかもしれない。

 

 そうだ! いい事を思いついた。

 ふははは。いつぞやの意趣返しといこうじゃないか。

 俺はあの時の事を忘れてないぞ。

 

 ある日突然、修行中に父さんに語り掛けるのだ。

 

「父さん。二人の妻と、生まれたばかりの子供と別れろって言われたら、どう思う?」と。

 

 それから、こてんぱんに叩きのめすのだ。

 泥沼、電撃、岩砲弾のコンボなら、さすがの父さんも膝をつくだろう。

 

 そして、父さんが目覚めるのは馬車の中。

 簀巻きにされ、眼前に待ち受けるは筋肉だるまのギレーヌ。

 ついでに手紙もつけるのだ。

 

『五年間、探し人を見つけるまで帰る事を許さない。社長命令だ。その間、お前の可愛い子供、もとい俺の弟か妹は預かっておく。偉大なる息子より。byルーデウス』

 

 うわ、今からわくわくしてきたぞ。

 ついに、おやじを超える時がきたのだ。

 ま、もっと父さんにも強くなってもらわねば困るからね。

 

 でも母さんやノルンが本気で嫌がるのなら、やめよう。

 オルステッド様に家族総出で、ストライキだ。

 まあ、最近の母さんの様子だと、大丈夫そうだけどね。

 父さん、今はごくつぶしだし。

 

 あれ、でもギレーヌと一緒って、色んな意味で大丈夫かな。

 もう一人妻が増えて、三人目の妻が出来たりしないよね。 

 ……ああ、全く。俺が言えたセリフではないな。

 

 

「ルディ。今大丈夫?」

 

 そこでシルフィが部屋の扉をノックしてきた。

 ちょうどオルステッド様との会議も終わった所だ。

 俺は扉を開け、部屋にシルフィを招き入れる。

 

「もしかして誰かと話してた?」

「ちょっとオルステッド様と」

 

 まるで夫に不倫しているか疑われている奥さんの様だ。

 いや、別にシルフィはそんな感じで話しているわけではないが。

 今の恰好が紛らわしいだけだ。

 シルフィはすとんと、ベットにいる俺の隣に腰掛けた。

 

「今日でもう一週間以上になるに、全然犯人の音沙汰はないね」

「そうだな。アリエル様の方も?」

「うん。警戒しすぎてるせいで感づかれたのかな」

 

 そうなのだ。

 実は、下着泥棒はあれから現れていないのだ。

 つまり、俺の女装生活も二週間目突入という事なわけで。

 

「シルフィは持ち場を離れていいの? 何か用があった?」

「あ、うん。今は警護を変わってもらってるんだ。それでね、今日は市場で流行りの保湿液を持ってきたんだけど、どれがいい?」

「うーん、前回のはなかなか朝の肌艶が良かったけど」

 

 俺はシルフィが持ってきた小瓶を、ベットに広げて選別に入る。

 ……ちょっと待て。

 何故、俺は犯人逮捕より、女装に磨きをかけているのだか。

 学内でもその効果あってか、幻の美形とまで呼ばれている始末だ。

 

 そうじゃないだろ。

 何が悲しくて、明日の肌艶など男の俺が気にせにゃならんのだ。

 そろそろびしっと言ってやらねば。

 

「ごめんね、こんなに長くなると思ってなかったんだ」

 

 だが、そこでシルフィがしおらしく肩を落とした。

 俺はシルフィのサングラスの奥の瞳を覗き込む。

 すると、ほんとに申し訳なさそうに長い睫毛が伏せられていた。

 

「エリスの出産はもうすぐなのに、ボクがルディを拘束しちゃって……」

「いや、全然大丈夫だよ」

「駄目だよ!生まれてくる時には傍にいてあげなきゃ!」

 

 シルフィは力強く言ってきた。

 確かに、家には周囲を欺いている件もあり、あれから帰れていない。 

 でも、エリスは一人でも大丈夫そうだけど。

 けろっと産んだわ、とか言いそうだ。 

 

「ボクが我儘言ったからだよね。ほんとはボクの失態のせいなのに」

「シルフィは俺の奥さんなんだから、いくら我儘言ってもいいんだぜ」

 

 俺は安心させる様に、シルフィの肩を抱いた。

 もしかしたら何かとシルフィには、苦労をかけているのかもしれないな。

 仕事と家事の両立など、どこの時代でも難しい筈だ。

 

「それにアイシャには通信魔術を教えてるから、エリスが産気づいたらすぐに連絡をくれるよ」

「う、うん」

 

 重力魔術放射線射出装置を使えば問題はない。

 家まで徒歩三十分の道のりも、わずか三十秒だ。

 今の俺でも、格好良く落ちてるだけくらいは出来るだろう。

 ただし、着地は考えないものとする。

 

「一人で抱え込まなくていいんだよ。シルフィが大変だって言うなら家事だって、俺が勿論変わるよ。夫婦なんだし」

「お皿割ったりしない?おこげのごはんとか、赤ちゃんには駄目だよ」

 

 これでも俺はエリスよりは、料理は出来ると自負しているつもりだ。

 カップラーメンが、この世界にないのは残念だが。

 俺はシルフィの頭を撫でて、安心させる様に言った。

 

「問題ないって、これから覚えていくよ」

「……ボク、遠慮しちゃってたのかな。だってボクが一番ルディと付き合ってる時間が短いから」

 

 そういえばそうだった。

 でも、幼少期を合わせれば、エリスには負けるがロキシーと同じくらいかも。

 何にせよ、一緒にいた時間は関係ないだろう。

 俺が頼りない夫なのが問題なのだ。

 

「そんなの関係ない。シルフィの頼みなんだ。妻のお願いを叶える位の甲斐性は見せたいよ」

「そっか。……じゃあ、安心してまかせようかな」

 

 シルフィはぽすっと俺の身体に、体重を預けてきた。

 俺はなんだか、いい雰囲気だなあと思いながら、シルフィの身体を撫でまわす。 

 でも、途中でやめておいた。

 この服装なままだと、なんだか変な性癖に目覚めそうだしな。

 

「ああ、まかせてくれ。シルフィのパンツは俺が守って見せる!」

 

 そして、俺は力強く宣言したのだった。

 

 

 ……そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。

 

「くそっ、やられたッ!!」

 

 そして今。

 俺は、床に突っ伏して頭を抱えてる事となった。

 

 時刻は夕方。

 格好よくシルフィに宣言した翌日。

 学校を終わり、女子寮に帰ってきた後、俺はすぐに気が付いたのだ。

 いつも土魔術で、固く施錠している部屋の扉が開けられている事に。

 

 まるでナイフで抉ったかのように、封印が破られロックが解除されている。

 そして、朝確かに下着をしまった筈のタンスにブツはない。

 そう。見事に盗まれたのだ。

 

「昼間……だと」

 

 犯人はいつも夜に犯行を行っていた。

 だから、まさか白昼堂々盗みに入るとは予想だにしていなかったのだ。

 卑怯者めぇ。

 正々堂々と盗みに来いよ!

 

「ごめん、約束したのに。シルフィのパンツ、マモレナカッタ……」

 

 あまりの情けなさに、俺は泣きわめく事となった。

 

「ルディ……」

 

 シルフィが肩にそっと手を置いてくれる。

 でも、俺はその手を取らずにさらに体を丸めた。

 放っておいて下さい。そこに私はいません。

 俺は、妻の下着すら守れない様なクソ虫野郎です。

 

「取り乱すのはまだですよ、ルーデウス様」

 

 そこに、アリエルが凛とした声を響かせた。

 俺は顔を上げると、後光さす未来の女王の姿があった。

 今の俺には眩しすぎて、溶けてしまいそうだ。

 

「こんな事もあろうかと、あらかじめ別の手を打ってあります」

 

 アリエルはそう告げると、取り巻きの女生徒達を呼んだ。

 彼女達はてきぱきと、犯行現場の調査を終える。

 そして、アリエルは颯爽と言い放った。

 

「窓に侵入の形跡はない事から、これは外部の犯行ではなく、内部の犯行です」

 

 アリエルは狭い室内で左右に、動きながら顎に手を当てる。

 よっぽど俺より、探偵に向いているよ。

 いきってたあの頃の俺が、恥ずかしい。

 

「実は、以前から内部の犯行の可能性も疑い、女子寮に常に一人監視をつけていたのです。そして、今日も女子寮に残っていた生徒。また、出入りした生徒を全て記録しています」

 

 そうか!

 今日の朝まで盗まれていなかったのだ。

 ならば犯人はその中にいるという事か。

 

「そして、今日記録されているのは七名です。つまりは……」

「犯人はこの中にいる!」

 

 俺はがばっと起き上がり、アリエルのセリフを奪った。

 じゃあ、シルフィのパンツを取り返せるじゃないか。

 俺の満身創痍の名誉を挽回できるのだ。 

 

 さすがアリエル様だ。

 恐れ入ったぜ。

 一生ついていこう。 

 

 こうして刑事アリエル一行と七人の容疑者は出揃ったのだった。




ネクストコ〇ンズヒント!

 "思考"
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