無職転生 ー妄想してみたー   作:ぺこぽん

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魔法大学編 女子寮窃盗事件5

 かくして女子寮の監督室に、容疑者七名が集められた。

 騒然と話し声が上がる中、一際大きな声を放つ者がいる。

 

「どうして、わたくしが疑われないといけないの!?」

 

 エイダ・ケルストアがぷりぷりと、髪を振り乱している。

 他の六名の反応も、それぞれだ。

 困惑する者、憤慨する者、不安気な者。

 しかし、どの人物も心当たりなどないという表情だ。 

 

「どういう事か説明して下さらないかしら!」 

 

 そして、全員の視線は、この場を仕切るアリエルに向けられた。 

 俺はというと添え物だ。

 すでに、取調室の壁の飾りと化している。

 何人かラフな格好の女性が居る為、目に毒いや、保養だ。

 

「ルディエッタさんは、ちょっとあっち向いていて下さい!」

「あ、はい」

 

 シルフィの代わりに俺を監視するノルンから、厳しい声が上がった。

 男のフィッツとしては、シルフィはこの場にはいられないからだ。

 ノルンがあっという間に、全員部の羽織るものを用意してしまった。

 別に惜しくなんかないさ。

 さて、そんな事より、取り調べの時間だ。

 

「ですから、事情は先ほど説明いたしました通りです。

 こちらのルディエッタさんの下着が盗まれた時間帯、女子寮にいたのはあなた方だけ……。

 という事はこの七名の中に、犯人がいる事は自明です」

 

 アリエルの凛とした声が、部屋に響く。

 おお、なんかかっこいいな。

 だが、全員が心外だとばかり、否定し始める。

 全く、犯人は皆そう言うんだよなぁ。

 ……いや、犯人じゃない奴もそうか。

 

「まずは、一人一人のアリバイを確認していきます。勿論何故女子寮にいたかの理由もです」

「なんで、そんなしなきゃいけないのかしら! あなた、いくらアスラ王国の王女とはいえ、勝手が過ぎるのでは!」

 

 犯人否定派筆頭のエイダが、アリエルに嚙みついてくる。

 おお、こわ。

 真正面から女子に睨まれると、オルステッドとは違う凄みがある。

 てか、男子がいない時の女子ってこんなのなのか。

 

「では、協力しないというのならば、ケルストア先輩。あなた自身が犯人だと認めますか?」

「そんなわけないでしょう!」

「では、自分の身の潔白の為にも、協力して頂きます」

 

 アリエルはさらりと躱し、一人目の確認に取り掛かった。

 俺も被害者の身分を利用して、顔を伏せながら全員分のアリバイを聞いていく。

 しかし、七名が語った女子寮にいた理由は、たいしたものではなかった。

 忘れ物があったり、上着を取りに帰ったりなど。 

 あとは、女性特有のもので、一日中寝込んでいたりだ。

 

「ありがとうございました」

 

 そして、アリエルの感謝の言葉の締めくくりで、全員分の取り調べが終わった。

 ……困ったな。

 こいつが犯人だという決め手は、何もなかったのだ。

 なにせ全員、アリバイを証明してくれる人もいなければ、各自俺の部屋に近づく機会などいくらでもあったのだ。

 つまり、捜査は行き詰まりとなった。

 

「で、まだ解放して下さらないの?……第一、本当に盗まれたのかしら」

「どういう事でしょうか?」

 

 エイダの指摘に、アリエルは首を傾げる。

 

「そもそも、下着など盗まれていなくて、アリエル。貴方が仕組んだ事ではなくて?

 例えば……生徒会選挙の敵対候補であるわたくしに、罪を被せるとかかしら」

「そんな事は、ありえません」

 

 当然ありえないだろう。

 別に、アリエルは裏工作などしなくても、エイダに選挙で負けるはずがない。

 それくらいの人気の差があるのだ。

 

「いえ、ありえるのよ。それで、どうするのかしら。

 これから犯人候補全員の自室を盗まれた下着がないか、調査しますの?

 そうしたら、きっと都合よく出てくるのでしょうね、わたくしの部屋からとか」

 

 エイダは、挑発するように腕を組んだ。

 しかし、ありえないだの、アリエルだの、ややこしいな。

 それにアリエルは首を振り、別の提案をする。

 

「では、私達とは無関係な方に調べて頂きます」

「無関係だと証明できる方が、この場にいらっしゃるのかしらね」

 

 うーむ、犯人候補筆頭エイダは、なかなかしたたかだ。

 こんな言い方をすれば、もし盗んだ下着が自室で見つかっても、アリエルが仕組んだものだと、いくらでも弁明出来るじゃないか。

 アリエルも形勢が不利になったのを感じている様だ。

 このままじゃ、決め手がない。

 

「別に調べればいいですわ!そうしたらはっきりしまものね! 

 でも、もし見つからなかった場合、わたくし達の名誉を汚した行いを、どう責任をとられるつもりなのかしら!」

「それは……」

 

 アリエルは口ごもった。

 確かにこれで犯人がわからなかったら、アリエルの信用が地に落ちる。

 この騒動の噂は、明日には学内に広まるだろう。

 まずいな。

 

「兄さん……」

 

 ノルンが小声で、不安そうに呟き、袖を握ってきた。

 なに、大丈夫さ。

 アリエルだって、これから起死回生の一手を持ってるに決まってるよ。

 

 しかし、アリエルはちらっと俺に視線をやるのみだった。

 あれ、持ってない……?

 

 あ、そうか。

 起死回生の手って、俺じゃん。

 じゃなきゃ女装なんて茶番をしなくても、犯人をすでに捕まえてるはずだ。

 俺はノルンを安心させる様に、そっと手を握り一歩前に出た。

 

「皆さん、私の為に争わないで下さい。うぅ、盗まれた私が悪いのです」

 

 よよよ、と袖を噛み、泣き崩れる演技をする。

 全員が少し気が逸れたのか、哀れな大女に少しは同情する空気が生まれた。

 なに、必要なのは少しの時間稼ぎだ。

 

「気分を変える為に、お茶にしましょう!」

 

 俺は、パンと手を鳴らした。

 ナナホシ用に取ってあったソーカス茶を振る舞う事にする。

 全員が味に微妙な顔を浮かべた所で、俺は自室へと戻った。

 最強の助っ人を呼ぶためだ。

 

 

 日が沈んでいく中、校門の前で俺は待っていた。

 待ち時間は三十分ほどのはずだ。

 その間、ノルンにあの場の事はまかせておいた。

 俺の冒険者時代の、すべらない話を披露してくれているだろう。

 

「失礼、お嬢さん」 

 

 気もそぞろな待ち時間の後、俺に誰かが声を掛けてきた。

 気障な感じで、話しかけてきたのは俺のマイダディ。

 パウロだった。

 

「ルーデウス・グレイラットという人物と待ち合わせをしているのだが、ご存じないだろうか?」

 

 全く、俺だと気づいていないらしい。

 この世界のイケメン基準である顔の、斜め四十五度傾きが腹立たしい。

 このまま、騙したままいける所まで、いってやろうかしら。

 

「あらあら、いつから私の息子は娘になったのかしら」

 

 そこに登場したのは、マイマザーだ。

 ジローに乗って、頬に手を当て俺達を面白そうに見ている。

 さすが、グレイラット家の女性陣は、ぽんこつ男性陣とはものが違う。

 

「あ、息子?……っておま、ルディなのか!?」

 

 父さんは、慌てて跳び退った。

 顔が青ざめている。

 

「ええ、そうですわよ。お父様」

「お前、何やってんだ!気持ちわりぃ!」

「失礼なっ!」

 

 これでもお肌の手入れは、毎日1時間!

 女性の所作、裏声、その他もろもろは及第点だ!

 

「ルディ。別にそっちの道に進むのは止めないが、父さん心の準備がだな……」

「はあ、違うよ、父さん。これはアリエル様の計略だって」

 

 とまあ、冗談はここまでだ。

 俺は大分、お腹が大きくなった母さんに向きなおる。

 

「母さん、無理言ってすみません。体調は問題ない?」

「大丈夫。まだ、出産まで時間はあるわ。それに大事な息子と娘の頼みだもの。

 私の、この呪われた力が少しでも役に立つのなら、いつでも呼んで頂戴ね」

「ありがとう、母さん」

 

 頭を下げ、女子寮に案内する事にした。

 ほんとに頼りになる両親だ。

 俺も、こんな風に子供の危機に颯爽と、駆け付けられるようになるだろうか。

 

 ちなみに、父さん母さん呼びも敬語を使うのもやめたのも、立派な父親になる為だ。

 いつまでも子供扱いじゃ、一人前になれないしな。

 ああ、でも……、今から俺がマタニティブルーになりそうだ。

 

 女子寮の前には、アリエルとシルフィ、それにルークが待っていた。

 騒ぎを聞きつけて、ルークも来たのだろう。

 パウロの姿を見て、少し驚いている様だ。

 

「アリエル・アネモイ・アスラ様。ご無沙汰しております。パウロ・グレイラットと妻のゼニスです」

 

 パウロは、さっと前に出て見事なアスラ王国貴族流の礼をした。 

 長年のブランクがあるとはいえ、見事なものだ。

 ゼニスも頭を下げようとした所、アリエルが慌てて前に出て止めた。

 

「ご自愛下さい。今日は私の為にきて頂き、感謝いたします」

 

 ちなみにアリエルには、母さんの能力の事は秘密にしている。

 表情や、仕草から嘘を見抜ける技術があると嘘をついた。

 何かと神子ってのは、ばれると厄介だからな。

 

 アリエルは母さんを気遣って、さっそく女子寮に入っていく。

 残されたのは男性達だ。

 おっと、シルフィと今の俺は違ったな。

 

「叔父上……」

 

 そこで、ルークがパウロに向けて、呟いた。

 そういえば、俺の結婚式で顔を合わせて以来のはずだ。

 あの時は、ゆっくりと落ち着いて話す機会はなかった。

 

「確か、ルークだったよな。……そうか、あいつの息子か」

 

 パウロは、弟の面影をルークに見たのも知れない。

 表情には少し郷愁が見て取れた。

 

「なんだ、そんな浮かない顔をして……ピレモンの奴から、俺の悪い噂ばかり聞いてるんだろ」

「いえ、……父はあまり叔父上の事を話さなかったもので」

 

 ルークは目を逸らした。

 でも、ピレモンと父さんの仲は悪かった。と前に聞いている。 

 その環境で育ったルークが、父さんに何も思わないはずがないだろう。

 

「まあ、噂は本当だ。俺は長男なのに貴族の責務を投げ出して、逃げたくそったれだ」

 

 父さんは、ルークの肩をぽんっと叩いた。

 

「だからな。今後も俺は、家に戻るつもりはないし、ノトスの名を名乗る事も一切ない。

 それだけは奴に伝えておいてくれ」

「はい……」

  

 ルークは神妙に頷いた。

 心の中のわだかまりは少しは溶けたのだろうか。

 ルークの表情が、少しは明るくなった様だ。

 

「……でも、俺はあなたの事を尊敬しています。転移事件に巻き込まれながら、家族どころか、フィットア領の領民を助けた事を」

「ありゃ、俺の息子がやった事だ。俺は大した事は……」

「ですが、捜索団を結成したのは叔父上だ。俺は、一人の男として尊敬します」

 

 ルークと父さんは、がっしりと手を組み、笑顔を交わした

 うわぁ、イケメンとイケおじの組み合わせだ。

 あれ、黄色い声がどっかから聞こえるな。

 

 見上げると、女子寮の窓が開き、眼下のやり取りを覗かれていた。

 腐ってやがる。見られてたんだ。

 俺の存在は邪魔だとばかり、手で無下に下がれと合図をされる。

 あの、俺もこの二人の一族に連なる者なんですが……。

 

「ルディは、中の事をお願い。この二人にはボクがついておくから」

「わかった。頼んだよ」

 

 シルフィに任せておけば、大丈夫だろう。

 それになんだかんだ、二人は似た者同士だ。

 酒でも酌み交わせば、きっと馬が合うだろう。 

 頭上の白熱するカップリング論争を無視し、俺は女子寮に戻る事とした。

 

 監督室の中に戻れば、女子会の真っ最中となっていた。

 取り囲まれているのは母さんだ。

 妊娠という事について、全員興味津々なのだろう。

 ノルンが、思春期特有の気恥ずかしで身を縮めている。

 

 ありがたい事だ。

 犯人捜しで険悪だったムードは、吹っ飛んでいた。

 それに軽い口調で、下着泥棒の話題も上がっている。

 これなら、母さんも浮かんできた思考を拾う事が出来るだろう。

 

 そして、宴もたけなわ。

 盛り上がりすぎたのか、寮を監督する先生達が現れた。

 蜘蛛の子を散らすように、逃げていく生徒達。

 そして、部外者がいる事をマルグリット先生に問い詰められる。

 

 しかし「性教育です」の一声と、昨今の学内の性教育の薄さ、無計画な避妊率の話など滔々と、やけに詳しく語るアリエルに圧倒され、お咎めなしとなった。

 

 で、父さんが待つ校門に、母さんを送っていく事となった。

 よし、これでようやく犯人について聞ける。

 

「で、誰が犯人でした?」

「えっと、疑われていた七人だけど、誰も心辺りはないみたいよ。

 質問しても帰ってくる思考は知らないって声だけよ。もちろん、他の生徒たちもね」

 

 だが、母さんの言葉は予想を裏切るものだった。

 

「え、いや。ほんとに!?」

「ほんとにほんと。みんな良い子達ばかりだったわよ」

 

 うっそーん。

 俺としたらエイダか、それか小柄な小人族の女の子かと疑ってたのに。

 だが、思考の神子たる母さんを誤魔化せたとは考えづらい。

 

「という事は……この事件は、迷宮入りだ!」

 

 確かに、女子寮の内部の犯行のはずなのだ。

 そして、アリエルの腹心の部下が、侵入者を見逃したとも思えない。

 やはり、あのユンゲルの仕業か。

 もしかして、ねんりきの使い手だったり。

 

「ねえ、ルディ」

 

 母さんが、知恵熱を出す俺を気遣う。

 

「ルディは子供の頃から賢くて、大人以上に鋭い所があったのよ」

「そう、だったかな」

「そうよ。でも、それが良くない所でもあったわ。子供らしい柔軟な発想がなくて、

 気難しい学者先生を相手にしてるみたいだったのよね」

 

 母さんは楽しそうに昔の事を話す。

 まあ、おっしゃる通り、中身はおっさんですから。

 さもありなん。 

 

「だから、まずは凝り固まった思考を解して、初心に帰る事をお勧めするわ」

「初心か……」

 

 母さんの言う通りかも。

 確かに、俺の曇りなき眼は曇っていたかもしれない。

 最初にアリエルに、敵対候補の資料を見せられた時からだ。

 はなから、ユンゲルやエイダを犯人だと思い込もうとしてしまっていた。

 

「ルディならきっと大丈夫よ」

 

 母さんは俺の頭を撫でてきた。

 昔してきたみたいにだ。

 俺は甘んじてそれを受け入れた。

 ああ、さすが母さんだ。活力が湧いてくる。

 

「シルフィちゃんも、先生のロキシーちゃんもノルンだっているんだから、

 もっと皆を頼りなさい」

 

 そう言って母さんは父さんと帰っていった。

 俺は、母さんの言葉を反芻しながら、寮にと戻る。

 顎に手を当て、灰色の脳細胞を活性化しようとした。

 

 ピコリン!

 

 その時だった。

 天啓が来た!!

  

 なるほど、……そういう事か……。

 いるじゃないか、怪しまれる事なく、監視の目から逃れられる人が。

 俺の心の中でぎいいい、と軋みを上げながら扉が閉じていった。

 

 

 次の日。

 全身黒タイツの人物が学校内を歩いている。

 もちろん比喩だ。

 

 その人物は廊下を差し掛かろうとして、はっと足を止めた。

 じっと壁際に身を隠し、聞こえてくる会話に耳を澄ます。

 

「聞いた?女子寮の下着泥棒の犯人が捕まったって!」

「ええ~、そうなの!知らなかった~。それで犯人は誰だったの?」

「生徒の誰からしいけど、秘密なんだって」

「え~、つまんないニャ。それより、どうやって犯人がわかったニャ?」

「自白したのよ、ほんとは証拠が見つかってないんだけど、状況証拠で追いつめたんだって。あ~あ、犯人の人、投獄されちゃうらしいよ、もしかしたら死刑になるかも」

「うそなの。だって下着盗んだだけなの」

「うーん、お偉いさんの子のまで手をつけちゃってるからニャ」

「助かる方法ないのかな、だって自白なら違う可能性もあるでしょ」

「そうよね、可哀そうだわ。盗まれた下着がどっか、別の場所で見つかったら捜査が進むかもしれないんだけど……」

 

 そこまで聞き、黒タイツは慌てた様に身を翻した。

 学内を早足で歩いていく。 

 すれ違う生徒たちが挨拶をするも無視され、奇妙な眼差しで見送る。

 

 そして、黒タイツは校外に出て、裏にある森に辿り着いた。

 誰にも見られない様に、左右を警戒して森の中に入っていく。

 そして、ある木の一角で足を止めた。

 

 傍に落ちてある木片を使い、地面を掘る。

 なかなか進まない作業に、苛立ちを感じさせながら掘り進めた。

 そして、埋まっていた小さな箱を取り出す。

  

 それから箱を開けて、にやりと笑みを零した。

 中に入っている物を取り出す。

 手に握られているのは下着だ。

 

「そこまでです!」

 

 そこにかっと明かりが照らされた。

 黒タイツの人物は眩しそうに、顔を手で庇った。

 その際、持っていた下着を掲げてしまう。

 

「まさか、あなたが犯人だったとは……」

 

 茂みをかき分けて現れたのは一人の女生徒だった。

 女性にしては高身長で大柄の部類だ。

 そして、進み出た女性は、びしっと人差し指を突き付ける。

 

「真実はいつも一つ!」

 

 ルディエッタ・ブラックホークだった。




ことよろです。
もうすぐ終わりますけど。
コナン面白いですよね。

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