無職転生 ー妄想してみたー   作:ぺこぽん

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魔法大学編 女子寮窃盗事件6

 俺は、人差し指をつきつけた相手を見た。

 

「マルグリット先生……」

 

 そして、隣に来たシルフィが、ゆっくりとその人物の名を告げる。

 そう。目の前にいる下着泥棒の犯人は、教師だったのだ。

 

 アリエルを筆頭に、俺達は生徒の誰かの仕業だと思い込んでいた。

 だから、見事に見落としていたのだ。

 そこでまずは 女子寮の監視役を務めていたアリエルの従者に確認してみた。

 生徒以外で女子寮に入った人物はいなかったか、と。

 

 そして、マルグリット先生の名前が初めて上がったのだ。

 始めは信じられなかった。

 なにせ淑女の規範たる品行方正を体現した様な女性だ。

 

 そんな悪事に手を染めるはずがないと、誰もが思ったのだ。

 で、一計を打つことにしたのだ。

 実は今朝から、疑いが晴れた女子寮の生徒達に協力してもらっていた。

 

 そして、わざと先生の前で、嘘の噂を流したのだ。

 マルグリット先生が、皆が知る通りの人物なら黙って見過ごすはずがないとの考えでだ。

 捕まった無実の人を助けようとするはずだと。

 そう、証拠たりえる盗んだ下着を、どこか別の場所で発見したとでもするはずだと。

 

「こ、これは違います!偶然、先ほど発見したのです!」

 

 マルグリット先生は、慌てて取り繕った。

 残念だが、今更誤魔化す事は出来ない。

 

「先生……それは間違いなく私の下着です。それに先生は、先ほど一直線にこの場に来ておられました。もう言い逃れは出来ませんよ」

 

 俺は首を振って、マルグリット先生を諫めた。

 俺が妻であるシルフィの下着を、見間違える訳なかろう。

 ふっ、先生も詰めが甘かったな。

 周囲を警戒していた様だが、リニアとプルセナにかかれば匂いの追跡はわけない。

 

「マルグリット先生、何故この様な事を……」

 

 そこでアリエルとその取り巻きがやってきた。

 それに、協力してもらっていた女生徒達もだ。

 取り囲まれた先生は観念した様に項垂れ、膝をつく。

 チャーラ、チャッ、チャッ、チャー↑♪、チャーラ、チャッ、チャ、チャーチャ↓♪

 お、ついに犯人の自白の場面か。

 

「っ……、全てはロキシー・グレイラット先生が悪いのです……」

 

 え、ロキシー?

 思わぬ人物の名前が出て、俺は後ろを振り返った。

 きょとんとした表情を浮かべている。

 

「最近は、……短縮詠唱だの、無詠唱だのとばかりがもてはやさせれ、

 魔術史学なんてものは、カビが生えた役に立たないものと揶揄されるばかり……」

 

 いきなり先生は、自分の受け持つ授業の話を始めた。

 いや、確かに指摘通りだけど、それと何の関係があるというのだろうか。

 先生はぽろぽろと涙を流して、悲痛な声を上げている。

 

「私は、今季の授業割り当てを減らされたばかりか、来年の契約の更新の話が来ないのです……っ!そして、その授業を盗ったのは貴方です、グレイラット先生!」 

「それは……そうですが」

 

 ロキシーがすまなそうな声を上げた。

 でも、仕方がないだろう。

 学内の予算と教室とて、限られている。

 人気講師を優遇するのは、当然の事だ。

 

「あまつさえ、貴方はその年で結婚しているというのに……私は未だ独身……」

 

 いや、それは何と言葉を掛けたらいいのやら。 

 でも、見た目はともかく、ロキシーの実年齢は先生と同じくらいですよ。

 

「……えっと、それは今回の下着を盗んだ事とは無関係では?」

「おおありです!」

 

 さすがに見かねて俺は、それ以上惨めな姿を暴露しない様に止めた。

 マルグリット先生はきっ、と俺達を睨んでくる。

 だが、すぐに申し訳なさそうに視線を下に落とした。

 

「ルディエッタさん、貴方には、入学早々申し訳ない事をしました。

 ですが、貴方も悪いのですよ。ルーデウス・グレイラットの様な人物と関わりがあるからです……」

 

 ん、俺?

 そういや、リニアとプルセナがそんな噂を流してたっけ。

 ルディエッタはルーデウスと、いけない間柄だと。

 いや、今考えてみると、とんでもない噂を流しやがったな。

 

「ルディエッタさんが困れば、きっと彼を頼ったはずです。

 そして、もし事件が解決出来なければ、彼の悪評はさらに広まると考えたのです。

 そうなれば、彼の妻であるグレイラット先生も学内での立場が悪くなるかと……」

 

 なるほど。

 そういう事か……。

 いやはや、なんとも遠回しな嫌がらせを……。

 それに、俺の悪評って一体、すでにどんなものが広まっているのやら。

 

「今考えれば……浅はかな行いでした……。

 ルディエッタさん、皆様方もご迷惑を掛け、申し訳ありませんでした」

 

 先生は腰を屈めて、俺達に頭を下げてきた。

 すすり泣く声が聞こてくる。

 あまり同情は出来ないが、よほど追いつめられていたらしい。

 まあ、何はともあれこれにて一件落着か。

 

「マルグリット先生……私は魔術史学は何時の時代も必要だと思っています」

 

 そこにロキシーが近寄り膝をついた。

 マルグリット先生の肩に手を触れる。

 

「今、私が教えている短縮詠唱も、いずれは歴史となります。

 その時、先生の様に歴史の繋がりを、技術の伝承を途切れさせない学問は大事です。

 賢者は歴史から学ぶと言いますから、決して不必要なものではありません」

「グレイラット先生……」

 

 マルグリット先生は潤んだ瞳で、ロキシーを見上げる。

 

「罪を償ったら、一緒に共同研究をしませんか? きっと歴史に埋もれた魔術の奥義も数知れずあるはずです」

「……こんな私に……っありがとうございます」

 

 さすがロキシーだ。

 あっという間を犯人を更生させてしまった。

 

「マルグリット先生。確かに貴方は罪を犯しました」

 

 そこにアリエルが、前に出た。

 

「ですが、被害は女子寮の中だけですし、盗んだものを返して頂けるのなら私も大事にはいたしません」

「アリエルさん……」

 

 アリエルは尊敬を受ける眼差しで、ここぞとばかりカリスマを発揮する。

 そして、女生徒達がマルグリット先生の前に続々と集まった。

 中には、あのエイダもいたほどだ。

 

「先生は……この学内で、わたくしを叱ってくれた唯一の人ですわ!」

「エイダさん……」

「家族に見放され、自暴自棄になっていたわたくしを戒めてくださるのは先生だけですわ」

 

 何やらツンデレを発揮しているエイダである。

 

「先生!私もいつも感謝してます」

「先生がこんな事をする人じゃないってわかってます!」

「貴方達……」

 

 授業はともかく、先生自体は好かれているのだ。

 あっと言う間に、情状酌量の余地ありとなった。 

 だが、そこにシルフィは怪訝な声を上げる。

 

「ねえ、ルディ。何かおかしくないかな?」

「え、なにが?」

 

 俺はシルフィの突っ込みに、涙を拭いて答えた。

 決して、目の前の青春ドラマに心打たれたとかではない。

 そう、埃が目に入っただけだ。

 

「だって、先生が返してくれたのはボクの下着だけだよ」

「あ……」

 

 そう、アリエルが受け取った箱にはシルフィの下着だけ。

 当然、今まで盗まれた一財産築けそうな下着の山はない。

 

「あの、先生、他に盗んだ下着は……」

「え? 私が盗んだのはルディエッタさんの下着だけですわ」

 

 マルグリット先生は余罪を否定した。

 ああ、シルフィの違和感はそういう事か。

 そもそも、ロキシーに遠回しの嫌がらせが動機ならば、他の人の下着を盗む理由にはならない。

 

 それに先生の能力じゃ、以前の犯行は不可能だ。

 魔術も得意ではないのだろう。

 盗んだ下着を掘り返す際、土魔術を使用していなかったし。

 第一、あの身体能力じゃ、シルフィの追跡から逃れる事など出来ないだろう。

 

 つまりは初犯。

 執行猶予三年ってとこだ。

 事件はふりだしへと戻ったのだった。

 

 

 とりあえず俺達は学校に戻る事にした。

 マルグリット先生の事はロキシーに任せておいた。

 ジーナス教頭に事のあらましを説明しておくそうだ。

 まあ、アリエルの口添えもあるし、そんなに大事にはならないだろう。

 

「……ナナホシさん?」

 

 それより大事なのは、俺の目の前に立つナナホシの方だった。

 仮面をつけて表情はわからないが、不機嫌そうだ。

 全身に纏わりつく、シュンシュンと黄色い怒りのオーラが見えそうだ。

 

「やられたわ……」

「な、何がです……?」

「そんなの、聞かなくてもわかるでしょう……」

 

 俺はごくりと唾を飲んだ。

 まさか、ナナホシも下着泥棒の被害にあったというのか

 でも、ナナホシはほとんど研究室から出てこないし、それなりの対策をしてると思っていたのだが。

 

「私の研究室には高価な魔力結晶もたくさんあるし、当然防犯対策もしてたわ。でも、魔術ギルドに顔を出しにいった隙を狙われたみたい」

「えっと、他に取られたものは?」

「下着だけよ」

 

 どうやら犯人は筋金入りの変態らしい。

 特別生のサイレントに喧嘩を売っても、余程捕まる自信はなかったのだろう。

 

「私の部屋には、普段誰も入れないから、怪しいのは最近来たのは貴方くらいよ」

 

 俺は首がもげる勢いで首を振る。

 

「ルディの仕業じゃないよ」

 

 シルフィも庇ってくれた。

 

「……そんなのわかってるわよ。ただ、あなたが動いてくれたのだから当然、犯人をすぐに捕まえてくれるだろうと思ってて、落胆しただけよ」

「それは悪かったよ」

 

 振り返れば、俺は特に何の役にも立ってないな。

 女子寮の生徒が無実だと証明したのは母さんだし、俺が捕まえたのは小物だったし。

 

「ルーデウス、あなたじゃ無理って言うのなら、私がやるわ。……こうなったら私のコネを総動員してでも犯人を捕まえて、血祭りにしてやるわ」

 

 ナナホシは拳を握り、わなわなと震えている。

 

「お、落ちつけ、ナナホシ!」

 

 思わず脳裏に、崩壊した学園の上空に浮かぶケイオスブレイカーと、尋問と虐殺を繰り返すオルステッドの姿が浮かんだ。

 そんな未来はごめんこうむる。

 

「必ず犯人は俺が死刑台に送るからっ!」

「なによ!まだ手掛かりすらない癖に! 大体、ルーデウス。あなたは手緩いのよ!」

「いや、それはこれからでだな……」

「あなた、二十一世紀の人間でしょ!? 何か犯人の痕跡とかないわけ? 指紋鑑定、DNA鑑定はやったの!?」

 

 いや、俺二十世紀生まれだし。

 でも、ナナホシの指摘は実に目から鱗だった。

 ファンタジー世界にどっぷり浸かっていたせいで、俺は科学捜査という手法を忘れ去っていたのだ。

 

「それだ!」

 

 いきなり大声を上げた俺に、シルフィとナナホシはびくりとする。

 

「ナナホシ、シルフィ。手伝って欲しいことがある」

「いいけど、何をよ」

 

 俺はすぐに踵を返すと、ある場所に向かい始めた。

 

「ルディ、どこに行くの?」

「クリフとザノバの所だ」

 

 ちょっと二人の手を借りる事になりそうだ。

 

 

 

 それから数日後。

 準備を整えた俺達は機会を待った。

 どうやら、犯人はここしばらくはナナホシの下着にご執心だった様で、

 女子寮は狙われなかったのだ。

 

 だが、奴はナナホシのブツを盗み切った。

 となるとまた元の狩場に戻るだろうと考えたのだ。

 

 そして女子寮の全員にも協力してもらった。

 すでに彼女らの疑いは晴れている。 

 マルグリット先生の罪も、謹慎という名のしばらくの療養で済んだし、溜まった鬱憤を晴らさんとばかり全員が協力的だ。

 

「よしっ、掛かった!」

 

 そして俺達は喝采を上げた。

 全員で結託して隙を作った所、見事に犯人が俺が用意した下着を盗んだのだ。

 狙い通り。

 

「後は、細工は流々仕上げを御覧じろってな」

 

 俺はクリフが作った懐中電灯の様な機械を取り出した。

 魔力を込めると光が飛び出し、盗まれた下着が干してあった場所を照らす。

 すると、光に反射して、床がきらきらと光り始める。

 

「すごい!」

 

 シルフィが大喜びで、俺に飛びついてきた。

 光る物体の正体は、魔力インクだ。 

 といっても普通のものじゃない。

 

 自然光の下では見えず、魔力を込めた光のみに反応して、光る仕組みだ。

 急ピッチでナナホシとクリフに協力してもらい、開発したのだ。

 ちなみに、ザノバは肉体労働で、俺は魔力を込めただけだけど。

 

 そして今、俺達の目の前には狙い通りの光景が広がっている。

 無警戒にインクに気づかず近寄った犯人は、足にインクを付着させていた。

 その足跡が、見事に痕跡として、犯行現場からずっと続いている。

 

「でも、この足跡って……」

「ああ……とにかく追いかけよう!」

 

 俺達は足跡を辿る事となった。

 

 

 時刻は夜近く。

 すでに授業は終わり、ほとんど生徒は自宅か、寮に戻っている。

 そんな中、学内を教授回診よろしく、俺を先頭に女生徒の集団が練り歩いていく。

 

 痕跡は時には、塀を飛び越え、木を登り、複雑な足取りを繰り広げている。

 だが、なんとなくだが目的地は定まってきた。

 ゆっくりとだが、ある場所に向けて、その痕跡は続いている。

 

「なんですの、この騒ぎは?」

 

 エリナリーザがクリフを連れだってやってきた。

 しばらくクリフを借りていたから、その反動を終えてきたばかりなのだろう。 

 随分とクリフがぐったりとしている。

 

「師匠、余も犯人逮捕に協力しましょうぞ」

 

 ザノバも意気揚々とやってきた。

 うむ、犯人確保の際はその怪力を役立てくれ。

 

 

 そして足跡はある建物にたどり着いた。

 男子寮だ。

 

 角で足跡は途切れている。

 だが、光を上に向けると足跡は男子寮のベランダを伝い、上へと続いていた。

 そして三階の左から五番目の部屋へと消えていった。

 

「見つけた」

 

 俺達は男子寮に乗り込む事とした。

 突然現れた女生徒を見て、男子生徒達は驚愕している。

 

「オラオラ、どくニャ!」

「臭いの。近づかないでなの」

 

 止めようとする者は、リニア達獣族に恫喝されて立ち止まる。

 それにほとんどの者は、慌てて進路から逃げて、視線を外した。

 それだけ雰囲気が殺伐としていたのだろう。

 

 それにしても、あの部屋は誰の部屋だっただろうか。

 俺は記憶を掘り返す前に、あっという間に到着してしまった。

 男子寮の狭い廊下に全員は入りきらず、俺を先頭に部屋の前で立ち止まる。

 

「どうしようか?」

「ここは普通にノックでしょうか?」

「いや、証拠を隠す可能性もあるし」

 

 とりあえず相談した結果、間髪入れず突入という案に落ち着いた。

 コンニチハー!、とでも言いながら飛び込んでやろう。

 

「ふんっ!」

 

 ゴリアーデ先輩がダンベル100kg持てそうな肩で扉をぶち破った。

 その流れで俺達は突入する。

 

 そして犯人と対面する事となった。

 




もう皆さん犯人はわかるでしょう。
だって一人しか残ってないしね。
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