一方その頃のロキシー達。
「なんですのデッドエンドって」
よる街全てで、デッドエンドなる異物を目の当たりにする事となった。
「ロキシーよ、これが魔大陸なのか」
「い、いえまさか」
連れの二人に、嬉々として自分が知る魔大陸の様子を語っていたのが恥ずかしくなる。
あちこちにデッドエンド御殿と呼ばれる建物が立ち並び、店ではデッドエンド商品が売り捌かれている。
買う人、売る人全てが熱狂しているのだ。
「デッドエンドを騙るなんて……」
自分が知る限り恐怖の代名詞だったはずだ。
どうしてこうなった。
「まさかうちの故郷も!?」
うちの故郷に限ってそんな……。
故郷に近づくにつれ冒険者パーティー、フィットアのデッドエンドの正体がわかってきた。 そして、そのリーダーについてもだ。
そして予感は的中した。
「ロキシー、帰ってたのか!おかえり!!」
グラサンを掛け、やたらじゃらじゃらとした装飾品を身に着けた父と対面する事になった。
絶望的に似合っていない。
「お、お父さん?」
様子が変だ。
というか村も全部変だ。
ようこそデッドエンド発祥の地へ、と訳の分からないのぼりが立ち並び、大陸陸亀の甲羅だった家は立派な煉瓦造りへ変貌している。
しかも、寂れた農園は大規模なプランテーションへと様変わりしているのだ。
「お、寄ってらっしゃい。ここはあのデッドエンド発祥の地だよ!」
観光客を威勢の良い声で村に招き入れている。
こんな父を見たくなかった。
そこにお母さんがやってくる。
良かった。母はあまり昔と変わらない。
「な、何があったんですか、お母さん!?」
「それがね、デッドエンド糖を作るにはうちの畑が最適って言うからね」
隣ではデッドエンドの団員の人族の男がもみ手をしていた。
なるほど経緯はわかった。
デッドエンド糖の出現により、魔大陸で成金が急増しているのだと。
だがロキシーは知識として知っている。
どんな盛りも終わりは来る。
泡は最後には弾け飛ぶのだと。
「もっと人手も金も借りて大規模にするぞ。ロキシー、お前が結婚した時のために新しい家も建てよう」
愚者は経験から賢者は過去から学ぶというが。
助言はしない事にした。少しは痛い目にあえばいいのだ。
まさか飛び出た時よりも、疎外感を感じるとは思わなかった。
「ふっ、こんな故郷帰ってこなければ良かったですかね。とんだ無駄足でした」
ロキシーは寂しく笑った。
まさかルディが、もう魔大陸を脱出しているなんて思いもよらないじゃないですか。
しかも大きな爪痕、いえ、奴はとんでもないものを残していきました。
「これからどうするんじゃ、ロキシー」
他の転移者を探そうかと思ったが、もうほとんどがデッドエンドに助けられ魔大陸を脱出しているらしい。
残っているのは故郷に錦を飾るとかほざいている人達だけだ。
「ミリシオンに行きましょう」
確か、ゼニスさんの実家はミリシオンだったはずだ。
ルディも立ち寄っているかもしれないし、伝言を残してるかも。
虚しさを感じながらロキシー達はとんぼ帰りをする事となった。
一方、自分が魔大陸に歪な経済成長をもたらした事など露知らず。
ルーデウスは神を崇めていた。
リーリャさんがロキシーの例のぶつを大事に持っていてくれていたのだ。
改めて見るとびびっと来たね。
ああ、転移災害から今まで俺を何度も助けてくれていた恩恵は、全てあなたからなのだと。
感謝します。ロキシー神よ。
「何持ってるのよルーデウス。出しなさい!」
妻は神というものを分かってくれそうにはない。
ああ、さっそく夫婦間に隠し事が出来ちゃったわ。
アスラ王国のフィットア領についた。
何もない。
さすがにリーリャさんもエリスも言葉を失っていた。
アイシャはあまり覚えていないので無反応だ。
そこでルイジェルドさんがエリスに剣を向けた。
「エリス、剣を持て」
いつもの乱取りが始まり、結局最後までエリスはルイジェルド相手に一本も取れなかった。
だが、ルイジェルドは厳かに告げた。
「お前は今日から戦士だ」
「ほんと!」
エリスは一年以上頑張っていたのだ。
今じゃ予見眼を使っても俺が負ける方が多い。
「俺はここでお別れだ」
もしかしたら餞別の意味もあったのかもしれない。
そんなルイジェルドさん、クールに去らないで下さい。
なんだかここで別れたら二度と会えない予感がする。
いや、やっぱりもう一度くらいは会えそうだ。
でも、本当に彼には世話になった。
経済的な面では俺が柱となったが、ルイジェルドさんがいなければ生き残れなかったであろう。
俺、なんか色々と成長イベントをスキップしちゃった様な気がするし。
全員で頭を下げて、背中で語る男を見送った。
よし、エリスとの子供が出来たら語り継ぐのだ、彼の物語を。
感傷に浸る暇はなかった。
ロアに入ると何もなかったが、執事のアルフォンスさんがいた。
どうやらギレーヌはまだ紛争地帯を走破出来ていないらしい。
そして領主の館(仮)にはサウロスが待っていた。
「エリィィス!!」
「おじい様!!」
エリス、それは貴族令嬢のハグやない、野郎のそれや。
無事、祖父と孫の感動の再開を果たす事となった。
「ルーデウス、良くやった!褒めて遣わそう!!」
相変わらず声のでかい人だ。
だが、またこの声を聞けて旅してきた甲斐があったというものだ。
「サウロス様」
そして俺は日本人らしく三つ指をついて、地面に額をこすり付ける。
「孫娘さんを私に下さい」
事後報告となった。
なんとぶん殴られるかと覚悟してたのに、快諾と来たもんだ。
だが、お互いに今までの経緯を話すとその事情もわかってきた。
やっぱりサウロスは処刑されるのかもしれない。
今は王宮から沙汰があるまで軟禁状態との事らしい。
「ルーデウス、エリスを連れてどこへなりとでも行くがよい。元々そのつもりじゃった。ピレモンやダリウスにうちのエリスをくれてやるつもりなどないわ」
なるほど、それでか。
でも、サウロスはどうするのだろうか。
「儂は自分の思う通りにやる。民失くして国は立たん。それがわからん奴らばかりだ!」
でもそれでエリスが悲しむんですけど。
決心の変わらないサウロスは置いといて、俺とエリスは一旦外に出た。
どうしよう、さすがのスーパーデウス君も今度ばかりは打つ手がない。
デッドエンドは確かに巨大多国籍企業と化したが、アスラ王国までには影響力はない。
所詮は一冒険者、商工会パーティーだ。フィットア領を全てまるっと復興出来ないだろう。
まあ、ボレアス家の財産を使わなくて済むぐらいには持っていけるかもしれないけど。
だが結局は、それらは単なるお題目なのだろう。
難癖付けて、転移災害の責任を押し付け処刑したいだけ。
「大丈夫よね、ルーデウス」
エリスが不安そうだ。
何やってるんだか、妻を安心させるのが夫の役目だろうに。
「だ、大丈夫です、エリス。僕に任せて下さい」
また嘘つく事となった。
う、罪悪感がひどい。
それからというもの俺はない知恵を絞ったさ。
サウロスを気絶させて逃がそうかと画策したり、怪文書を王宮に送りつけてみた。
俺こそが魔力災害の真の犯人、イエエエエエイ!
来る日も来る日も御神体を空に掲げたが、神の啓示はない。
いつも要らん時に出てくるお助けキャラは出てきやしないし、いつもの頼れる予兆は鳴りを潜めてる。
その気配をエリスは悟っていたのだろう、俺も無力感から少し鬱気味になっていった。
そんな時、冒険者ギルドから依頼が来た。
なんでもデッドエンドのルーデウスをご指名らしい。
気晴らしに指定された酒場に行くと、仮面の女が待ち受けていた。
「貴方がデッドエンドの……ルーデウス?」
まだうら若い黒髪の、美かはともかく少女の声だ。
「もっと肩からトゲとか生やしてたりしてるかと思ったわ」
どこの世紀末ですかそれは。
一度くらいお目に掛かりたいもんだ。
まあ、確かにお上品なアスラ王国じゃ暴走族みたいな名前だ。
「なんというかその、小さいわね」
おお、言霊が帰ってきたよロキシー。
なんでもナナホシと名乗るこの異国情緒な娘はデッドエンドに出資を希望らしい。
ナナホシ焼きや服飾といった技術はあるが、拡販化する資金がないらしい。
あれれーおかしいな。どっかで聞いた事あるような。
でも言葉も拙いのに、よく頑張ったね。
どれ、おじさんが長い足を伸ばそうじゃないか。
よし、俺は今日からエンジェル投資家にもなろう。
それにしてもこの少女が持つ雰囲気何処かで。
「前に会った事がありますか?」
ナンパか。
すると、ナナホシはとんでもない返事を返してきた。
「あなたもしかして日本人なの?」
日本語でだ。
オーナナホシー、君こそが真の主人公だったんだね。
異世界転移者なる真の主人公に比べりゃ、なんちゃってなろう主人公である俺は紛い物だ。
「私、この世界に興味はないわ。元の世界に帰りたいの」
なんだ、悪役令嬢ルートでも目指してるのかと思ったよ。
久しぶりの日本語会話は楽しかった。
ナナホシの正体も分かったし、俺もつい妻であるエリスにも言えない愚癡まで話してしまった。
「あなた、結婚してるのね」
驚くとこはそこかい。
確かに現代日本人の感覚からいくと小学生で結婚してるのはおかしいね。
「私、サウロスさんを救えそうな人を一人知ってるわ」
まじですかナナホシさん。
是非ご紹介を。
「その代わり、出資後の取り分は7対3ね」
あら、商売上手。
そうして思わぬ収穫を手に入れた俺はナナホシとまた会う約束したのだった。
「ちなみにその人の名前は?」
「オルステッドよ」
なんだろう。その名前どっかで聞いた事あるような。
会いたくないような、どうしても会いたいような。
でもエリスの家族をいや、今は俺の家族でもあるサウロス爺さんを救う為だ。
溶鉱炉の中にでも飛び降りてやるさ。