転移迷宮は確かに厄介だった。
だがSランクパーティーは伊達じゃない。
あ、ここ迷宮探索の本でやった所だ。
それにオルステッド様の準備のお陰で俺達は次々と階層をクリアしていった。
エリスの未熟さはギレーヌとパウロが補ってくれ、俺はロキシーがサポートしてくれた。
オルステッド印のスクロールもあるしね。
あっという間にラスボスの部屋だ。
マナタイトヒュドラ。
なかなかの強敵だった。
だがいつもの冴えわたるルーデウスレーダーにより突破口を見つけた。
ギレーヌの本場光の太刀もあるしね。
それでも俺は片腕を、パウロは片脚を失った。
でも王級回復魔術スクロールですぐに元通りさ。
「ゼニス!」
母様をパウロ抱きかかえて、呼び掛ける。
するとうっすらとゼニスは目を開けた。
「ここは……どこ?」
何だかひどく怯えている。
「あなたは……誰、ですか?」
「何言ってるんだよゼニス、俺だ。パウロだ!」
パウロが抱き締めようとすると、ゼニスは後ずさった。
まるで赤の他人を見る目だった。
「父様、母様は混乱してるんですよ。まずは帰りましょう」
「あ、ああ」
そして俺達は無事にゼニスを救い出し帰路についた。
宿に帰り、俺達は倒れ込む様にベットに飛び込む。
起こさないでくれ、死ぬほど疲れてる。
迷宮のお宝の処理はギースに任せ、俺達はゼニスの回復を待つことにした。
「お母様、お父様はどこですか? 私はラトレイアの家の者ですよ!」
爪で引っ掻かれたパウロの頬が痛そうだ。
「父様、まずは髭を剃ってきて下さい」
見苦しい無精髭を片付けてこい。
それなら思い出すかも。
結論から言うとゼニスは誰の事も覚えていなかった。
黒狼の牙のメンバー全員だ。
まるでここ数年の記憶を全て失ってしまったかの様だ。
「母様、ルーデウスです。俺の事も覚えてませんか?」
「ルー、デウス?」
ゼニスは困惑した様子だが、俺をそっと遠慮がちに抱きしめてきた。
この愛くるしい息子を忘れるわけないよね。
「どうしてかしら、誰か腕に抱いていたような……」
涙が出てきた。
もしかしたら断片的に覚えてる事もあるのかもしれない。
「すぐに助け出せて良かったですわ。もう少し遅かったら……」
何やらエリナリーゼさんが訳知り顔で呟いている。
だが2年もの間ゼニスは結晶の中に閉じ込められていた事になる。
何か他にも悪影響がありそうだ。
「ルーデウスの妻のエリスですわ。お母様」
エリスが緊張しながら挨拶をしている。
自分に息子がいて、すでに結婚している事にゼニスはショックを受けている様だ。
取り敢えずゼニスはミリシオンに連れて行く事にした。
どうやらゼニスの記憶ではまだミリシオン出奔する前らしいしな。
回復魔術でも治らないし、呪いとはそういうものなのかもしれない。
でもノルンに会えば思い出す事もあるかもしれない。
「え、私娘もいるんですか!?」
奥さん、実は異母娘もいるんですよ。
今は秘密にしておこう。
パウロは、初めてあった頃のゼニスだなどと不埒、いや感慨深い事を言っている。
何にせよこれで家族全員は無事に見つかった。
俺達の転移事件は終わったのだ。
なんともここ2年は、数年間を圧縮した様な濃密な毎日だった。
これからはスローライフを送りたい。
「ルディ、お前には感謝してもしきれない」
「そんな大した事ないですよ。父様こそ、これから母様の事をよろしくお願いしますね」
俺もゼニスの記憶の事について調べて見ようと思う。
でも全てを失っているわけではないのだ。
急ぐ事はないと思う。
俺はパウロと別れ、ラノア王国に行こうと決めた。
確かナナホシもオルステッドと諸国を巡った後、行くとか言っていたはずだ。
ああ、オルステッド様にも感謝しないとな。
今後、何を要求されるのか怖いけど。
パウロとゼニスにはギースとタルハンドが。
俺とエリスにはロキシーとエリナリーゼ、当然ギレーヌもだ。
折角再結成した黒狼の牙だがもうお別れの時間だ。
だが、またラノアで全員集まろうと約束をした。
転移魔法陣を使うし、もう危険はないだろう。
お願いだから皆、秘密にしててね。
この幸せ絶頂期に死ぬのはいやよ。
特に新入り、テメーはダメだ。
俺達はアスラ王国まで帰ってきた。
まだフィットア領はあまり代わり映えしない。
なんだか知らない間に俺は指名手配されていた。
これでめでたく俺も犯罪者の仲間入りか。
罪状はデッドエンドなる組織の国家転覆罪らしい。
ハハッ、全く困っちゃうよね。俺は無関係なのにさ。
捕まるのはごめんなので、アスラ王国を抜け北方大地に向かう事にした。
まだそっちには転移被害者をがいるかもしれないしね。
北方大地では俺達はそれなり有名になったよ。
黒狼の牙に加入した俺とエリス、ロキシーは強くなった。
はぐれ竜を倒し、女だらけの冒険者パーティーを助けたり。
泥沼ばかり使ってたら泥沼のルーデウスと呼ばれるようにもなった。
度々アスラ王国から追手が来たが返り討ちさ。
それにしても今更気づいたがハーレムパーティーだ。
これがもし俺一人で、俺はソロだ。
キリッ、なんてやってたと思うと涙が出る。
「ルーデウス!やるわよ!」
エリスが戦闘で火照った体を持て余している。
やれやれ。
ついに俺はやれやれ系主人公にジョブチェンジを果たしたのだった。
寒い夜、一緒にベッドに潜り込んでくんずほぐれつする妻がいないなど考えれないや。
大分身体も成長してきたはずだが、エリスの体力とあれには叶いそうもない。
エリナリーゼさんに弟子入りしてると聞くし、俺の息子は生まれてくる前に死にそうだよ。
「ルーデウス、エリスお嬢様……」
やり過ぎてギレーヌにまで匂いについて苦言を呈されるほどだった。
まさかエリナリーゼさんと同列に扱われるとは。
ショックだ。
そういえばこの頃、ロキシーと目が合うと逸らされるようになった。
隣の部屋に毎晩騒音を撒き散らしていると思うと興奮……いや申し訳なくなるね。
俺もロキシーと何やら気まずい。
エリナリーゼさんはロキシーに何やら助言をしていたようだが。
本当にここ数年は色々な出来事があった。
何だか転生してから、ようやく真っ当な異世界生活を送れた気分だったよ。
だがアイシャ顧問肝いりのルード傭兵団が北方大地にも乗り込んできたのだ。
そうなると俺達の仕事もなくなってしまった。
ラノア魔法大学からの招待状も来たし、丁度いい機会だ。
俺達はシャリーアに向かう事にしたのである。
偶然にも途中でアリエル王女一行に出くわした。
なんと暗殺者に襲われてるじゃないか。
颯爽登場!
俺は同じ美少年無詠唱魔術師を助け、ほとんど被害が出なかったアリエル王女に礼を言われた。
「お前はあのデッドエンドの首領ルーデウスか!?」
当然だが、従兄弟ルークにめっちゃ敵視された。
いえ、別人ですよ。
俺は泥沼のルード・ロマヌーです。
そんなナイスガイ知りません。
「感謝します。ルード殿」
だがアリエル王女はあくまで笑顔だ。
毒を喰らわば皿までと言うような底なしの笑顔が怖い。
今更名称変更出来ないじゃないか。
あれ、白髪の美少年には顔を背けられた。
そういえばアリエル王女の側にはシルフィがいるはずだけど。
……まさか彼が彼女なのでは。
ロキシーは何やら感づいた様だが秘密と言われてしまった。
まあいい、これからは楽しい学園編の始まりだ。
いくらでも確認する機会あるだろう。
デッドエンドは永久に不滅です。
いいなあ、エリスとの爛れた生活。