馬前世持ちTS転生ウマ娘と男前新米女トレーナーの話。 作:馬生編スキップしたオリ馬ウマ娘物作者の屑
PS 感想返しは数話に一回、まとめて行いたいと思います!
トレーナー達は、あの日以来サーフォーミダブルをスカウトしようと躍起になっていた。
一人でコースを走っていれば我先にと詰め掛け、食堂で本を読んでいるところを見掛ければ偶然を装って隣に座る。寮に帰ろうとしていたところを待ち伏せするトレーナーも居たらしい。そのトレーナーはたづなさんから厳重注意を受けたとかで、サーフォーミダブルと距離を置かされているとか。まあ、その熱意自体は分からなくもない。流石にやり過ぎだとは思うが。
何はともあれ。
未だに誰にも靡かない彼女に、トレーナー達は全員掛かり気味だったのは確かだ。
『一着は────!』
そんな中、私はと言えば誰もスカウトすることなく、声すら掛けず。連日行われる選抜レースに足を運んではあの日の彼女の走りを思い出すばかり。
「……あー、私もスカウトしとけば良かったなぁ」
たとえダメ元だったとしても、ワンチャン賭けて彼女にアタックしておけば良かったとこの期に及んで後悔している。
そうすれば、このように未練タラタラで悩み耽ることもなかったのに。
「こんにちは。柴田トレーナーは今日もスカウトですか?」
「まあ、そんなところかな。そう言う桐生院トレーナーは?」
同期の桐生院トレーナーが声を掛けてくる。
柴田、というのは私の名前だ。何の変哲もない何処にでもいる二十代前半の女トレーナー。新米の、という称号付き。しかも新米二年目。一年ほどサブトレーナーとして先輩トレーナーの下で研修を積ませてもらっていた。
同じ時期にトレーナーになった目の前の女性はと言えば、去年からハッピーミークというとても良い子を担当している。今年からジュニアクラスを走る予定だ。
この時期は大切なはずだが、どうして他の子のレースを見に来ているのだろうか?
「今日はミークにお休みをあげたので、私もやることが無くて。柴田トレーナーと同じです」
「そうなの。誰かめぼしい子は居た?」
同じなものか、というツッコミは卑屈に過ぎるのでしない。別に彼女に負い目を感じているわけではないからだ。
無論、同期ということもあって少しだけ関心を寄せる相手ではあるが、幸いなことに一年目でスカウトを成功させた彼女とは担当の活躍時期も一年ズレる。シニアクラスになったらまた違うだろうけど、間違いなく一挙手一投足に目くじらを立てるような相手ではない。
まあ、私が今年中に担当ウマ娘をスカウトできたらの話ではあるけども。
「ううん、そうですね。見た感じ、あの子とかはかなり強そうだと思います」
「えっと……ダンスインザダスクか。確かに、大物感があるね」
桐生院トレーナーが指した方向にいたのは、先程のレースで一着を取ったダンスインザダスクというウマ娘だ。
確かにその走りは凄かった。昨日、あの走りを見てさえいなければ私もスカウトしたいと駆け出していたところだろう。
彼女の時ほどではないが、それでも結構な数のトレーナー達がその周りに集っていた。というか、今日訪れていたほとんどのトレーナーは声を掛けに行っている。
「あ、そう言えば。柴田トレーナーは見ましたか?」
「見たって?」
唐突な切り出し。
疑問符を浮かべはしたが、彼女が何を問いたいのかは薄々感づいていた。
「私、今日初めて今回の選抜レースを見に来たんですけど、初日に凄い子が走ってたってトレーナー室で噂になっていたんですよ」
「ああ。サーフォーミダブルの話ね」
私がその名を挙げると、彼女はパッと明るい顔を見せて「そう、その子です」と声をあげた。
実際、この一週間は彼女の話題で持ち切りだった。誰が彼女を取るか、水面下どころか表立ってバチバチしていたくらいだ。
まあ、今のところはあのチームリギルを率いる東条ハナが取るだろうと言われているが。
「柴田トレーナーはスカウトしたんですか?」
「んー、いや、私はしてないや」
「そうなんですか。でも、一回くらい声を掛けてみる気はあるんですよね?」
そう聞かれて、私はううんと唸らざるを得なかった。
彼女にとって一番良い選択は、東条トレーナーのような歴戦の指導者の下で教えを乞うことだ。それは間違いないし、そのことをサーフォーミダブルもまた理解しているはずだ。
けれどそれと同時に、私は東条トレーナーにすら彼女は靡かないのではないかとも思うのだ。
そこに根拠は無い。強いて言えば、時折見掛ける彼女が纏う雰囲気がゆえか。
そして、そんな彼女が私のような無い無い尽くしの新米に靡くとは思えない。
……というのは、これまたやはり言い訳になるだろうか。
それでもウマ娘には一番良い場所で、伸び伸びと己の力を引き出して欲しいのだ。たった一度が多い彼女達だからこそ。
こればかりは、誰が何と言っても変わることはない私の考えで。
「あ! 柴田トレーナー、もしかしてあの子ですか?」
「? え、ええ。彼女がサーフォーミダブルよ」
明るめの鹿毛が揺れる。
その毛色のウマ娘は最も多いが、『百年に一人の美少女』と言われたあのゴールドシチーのようにその容貌は整っていて、コースに集まるウマ娘達の中で一際目を引いた。
彼女は走る。一目でそう思わせる佇まい。
だからこそ、初見の桐生院トレーナーも彼女がそうだと気が付いたのだろう。
「柴田トレーナー、他のトレーナーが気が付く前に声を掛けてきたらどうですか?」
「ええ? 私はまだ良いかなぁ、って」
「そんなこと言っていると後悔しますよ、絶対!」
「……うーん。それじゃあ、行ってこようかな」
ここまで言われたら一歩を踏み出すしかあるまい。
元々、彼女をスカウトしたくないわけではないのだから、これはまたとない機会だろう。
「頑張ってください、柴田トレーナー!」
同期の声に覚悟を決めた私は、彼女の元へ向かった。
■
前世の私の父は、アメリカで活躍したイージーゴアという馬だった。
元々私はウマ娘のアニメを観て競馬、延いてはその世界そのものへとのめり込んで行った口だ。
特に、アニメ一期においてはかなり重要な(物語上の重要度ではなく、その元ネタとなった1994産駒、1995産駒の競馬におけるブラッドスポーツたる所以の遺伝的な重要度である)バックボーン的存在の『サンデーサイレンス』と、そのライバルであった我が父『イージーゴア』の話はかなり印象に残っていた。当然、彼らの血統的な話も覚えている。
だからこそ、馬になってから暫くして耳に入ってきたイージーゴアという単語で、私は自分の置かれた立場を何となく察した。
そして自分という存在の期待値の高さも。
そういうこともあって、馬になったのだからやるしかないだろうと一言に言えばとても頑張った。
活躍した名馬として、ウマ娘にもお呼ばれするくらいには頑張れたはずだ。それは誇れることだと自負している。ちなみにあのレジェンドを乗せた経験は密かな自慢だ。
けれど、まさか私がその名を受け継いで生まれるとは欠片も思わなかったのも事実である。
今世の母もちゃんとイージーゴアであった。父ではなく母なのが最高にウマ娘という感じだ。私はウマ娘としては生まれたくなかったよ……。元息子的に。
「サーフォーミダブル、少し時間をもらっても?」
「……? ああ、スカウトか」
走れば何も考えなくて良い。走っている間だけは不本意ながらも馬であった頃を思い出して、今の状態を直視せずに居られる。
TS転生してウマ娘になったという私の全生最大の誤算。こればかりは一生悩み付き合っていくしかない。
だからと言うわけではないが、自分のことをウマ娘として扱われると本当に申し訳なくなって困る。私のような異物、しかも元々男であった存在がウマ娘として生きているなどウマ娘ファンとしては些か許容し難い。
だから、ガッツリ私を有望なウマ娘としてスカウトしてくる彼らトレーナーともなるべく距離を置きたいのだ。課題、問題を先延ばしにするだけだと分かってはいるが、心の準備には時間を掛けたい質なのである。特におハナさんやチームスピカのトレーナーのような原作キャラクター達のスカウトを受けるのはNG。私の存在で原作を壊したくない。
何なら、トレセン学園にすら入学したくなかったくらいなのである。最終的には母親に押し切られての入学となったのだが。
「悪いが、スカウトなら他を当たってくれないか」
「うーん。これは、取り付く島もない感じだなぁ」
そう言うのは、トレーナーバッジを付けたまだ歳若いトレーナー。なんと言うか、言い方は悪いが平凡そうな人である。
まあ、平凡そうだからとかそういう理由で断るわけではない。名も知らぬトレーナーよ、悪いが諦めてくれ。
「実は、今日はスカウトじゃなくて貴女とお話をしに来たんだ」
「……私と話? 何も話せることなんて無いけど」
「そう? じゃあ、好きな食べ物は?」
いや、強引だしテンプレそのものだな。
好きな食べ物。好きな食べ物か。
「……甘い物ならなんでも好きだな。特に母の作るキャロットケーキが好きだ」
前世で食べられなかった反動なのかは分からないが、今世の私の舌はかなりの甘党だ。
特に、生まれて初めてキャロットケーキを食べた時はあまりの衝撃に悶絶したのを覚えている。たかだか人参の蒸しケーキだが、私にとってはそれくらい感動したのだ。
「キャロットケーキかぁ。ウマ娘って皆人参が大好きだし、キャロットケーキも当然好きだよね」
「ああ」
人間だった頃はそこまで人参が好きだったわけではないのだが、馬になってからは人参が好きになった。ウマ娘となってもそれは変わらない。
「じゃあ、憧れのウマ娘は居る?」
「ち……母だ。母には憧れている」
危うく父と言いかけた。危ない危ない。
私が憧れる存在は、前世も今世も変わらず母だ。
「あー、お母さんね。確かに貴女のお母さんは凄いウマ娘だものね」
「知っているんだな」
「勿論。知らないトレーナーは居ないと思うよ」
まあ、それもそうか。
私をスカウトしに来るトレーナーも、その大体が私が母の子だからという理由であろう。私なら三冠が取れるとか、海外でも活躍できるとか。耳障りの良い言葉を並べ立ててくるが、それも全て母の血のお陰だ。それくらい私の母は凄い。
「でも、私は母ほど強くは無いからスカウトするのはやめておいた方が良い」
「んー、別にあのウマ娘の子だからスカウトしたいわけじゃないよ?」
「?」
なら何故だろうか。
単純に私の走りが凄いからとか? それなら他にも凄いウマ娘は沢山いると思うのだが。前世で言う四天王とか、女帝とか。
わざわざ私を選ぶ理由が分からないと彼女に目を遣れば、彼女は真っ直ぐな視線で私を見詰めてきた。
「────私、貴女の走りに目を焼かれちゃったみたい」
「へ?」
私は、どうやらヤバいトレーナーに目を付けられたらしい。
次話の更新日時は未定です。