第十三騎士団出動中   作:梨汁

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昇進おめでとう

「……へ? お、俺が騎士団長、ですか?」

「そうだ。昇進おめでとう、アルベルトくん」

 

 そうやっと差し出された手を、俺は困惑気味に握る。すると向こうも嬉しそうな笑顔で俺の手を握り返した。

 いやはや、意味不明。意味不明も意味不明である。あまりに突然すぎて何から把握して、どう把握していいかすらわからないレベルである。

 

 俺が突入にした奴隷事件から、一時間もしないうちに伝令が来た。要件は至急騎士総長のとこまで来るように、という簡潔なもので、俺は馬を借り大急ぎで向かった。

 ただ夜のちょうどいい時間だったこともあり、外には人が多く少し時間がかかってしまったのだが。別に怒られたわけではないからいいのだが。

 

「あの、話が理解できないんですが」

「だろうと思ったさ。ま、突然こんな話しされて、理解できるやつなんざ、そうはいねぇ。取り敢えずそこ座りな」

「は、はい。失礼します……」

 

 俺は対面するように置かれている目の前の椅子に座って、提出された書類を手に取る。そこには騎士団長昇進手続きと書かれており、今回の話が冗談でもなんでもないことをしっかりと理解する。

 

(しっかりと『第十三騎士団』就任と……ん? 第十三騎士団?)

 

 第十三騎士団、今さっきなくなったばかりの騎士団である。まぁ俺は消した張本人なのだが。

 これは一体どう言うことなのか、なんの冗談なのか。と顔を上げて騎士総長を見る。少し年老いた彼は笑みを浮かべて、俺のことを見ていた。

 

「言いたいことはわかるぞ。何故、『第十三騎士団』なのか。と」

「え、ええ……そりゃ。第十三騎士団、今なくなったばかりの騎士団ですよね?」

「……まぁ、今回の話は単純だよ、話題の焦点をずらしたくてね。それに穴の空いた席を埋めるにはちょうどいい」

「話の焦点を……って。ま、まさか、いんぺ」

 

 そこまで言って俺は口をつぐむ。まるで蛇に睨まれた蛙のように。いや、実際俺は蛙だった。その殺意には剣を抜こうと頭の中で考えていても、体が動かなかったのだから。

 

 畏怖とはまさに、このようなことを言うのだろうか。この件に関しては俺も別に反対ではないから、素直に頷いておく。

 騎士総長は俺が軽く頷いたのを見ると、いつもの優しい笑みを浮かべたおじさんに戻る。

 

 そこで俺は、一つ気になったことを聞いた。

 

「……前の、元第十三騎士団はどういう扱いになるんですか?」

「南方支部に異動だよ。アルケミア辺境伯が警備の人手が足りない、って言っていただろう? と言っても、この話が外部に漏れることはないだろうけどね」

 

 要は()()()()地方の方に異動、と言うことになっているらしい。それがベストだろう。騎士団が裏切りを犯した、と国民に知れ渡ればどうなるか、なんて予想は容易い。それよりも今のまま、ただ現状維持が一番いい。国民にとっても、俺たち騎士にとっても。

 

 ちなみにアルケミア辺境伯とは原作にも出てくるキャラだ。めちゃくちゃいいおじさんで定期的に資金援助を行ってくれる。最終面では主人公側につき、ルートによっては王国と敵対するのだ。

 

 この世界の、ゲームのタイトルは『フォルテシア』。俺の今いるこの世界の名前だ。マルチエンディングで中盤の選択によって最終的なルートが決まると言った感じのゲーム。やり込んでいないと言ったが、一応その辺りのエンディングは全部見ている。

 

 ルートは主に三つ、『革命軍』ルート、『王道騎士ルート』、『魔王軍ルート』。

 そしてその中で『革命軍』と『王道騎士ルート』にアルケミア辺境伯が出てくるのだ。どちらのルートでも絶対に主人公側につくキャラである。なんせ彼の娘が主人公の仲間にいるのだから。

 

 そして辺境伯自体かなり強い、めちゃくちゃ強い。騎士数人と一人で渡り合えるぐらいには強い。

 彼自身、自分の領地を守るための兵士を大量に抱えている。それこそが警備が足りなくなることがない、ぐらいには。

 

 と言ってもだ、その辺りの情報統制はいくらでもできるはずだ。騎士総長には国を動かせる程度の大体の権限が付与されている。国の安寧を守るためならば、なんだってやれる。やるしかない。

 

 だから実際は騎士団の助けがいらなくても、必要だ、と表向きにはなるんだろう。

 

「で、昇進の話だが。はっきり言ってしまえば、君に断る権利はない。理由はまぁ、わかるね?」

「……」

 

 色々と気になることはあるが心配事としては上手く隠蔽できるのか、上手いこと誤魔化せるのか、と言うところだ。まぁその辺りは騎士総長全権限を持ってどうにかするのだろう。

 そして昇進、俺が騎士団長になると言う話だ。これもまた色々と不安事が付き纏う。そこで俺は恐る恐る騎士総長に質問をした。

 

「あの……騎士団長になる、これ自体は断るつもりはないですし、断る気もありません。ですが、団員はどうすればいいんですか? 本来ならば騎士団長の入れ替わりに、そのまま団員を引き継ぐはず、なんですけど」

 

 団員は昇進、騎士団長になる時、そのままその人が率いていた騎士団員を継ぐことになる。騎士団長が後任を指名する形で昇進するのから、内部で反発も起こらない。実に平和的。だが今回の、俺の場合は全く違う。そもそも騎士団が違う上に団員が全員監獄行きなのだ。このままでは俺は誰一人としていないまま騎士団を運営していかなくてはならない。一人騎士団なんてあまりにも酷すぎる。

 

 だが騎士総長は安心しろと、言って昇進手続きとは違う紙を数枚だす。差し出された俺はその紙に目を通す。

 そこに書かれていた三人の経歴とプロフィール。しかも騎士団所属ではない。と言うか働いているかどうかすら怪しい状態、って言うかこれ。ゲームで出てきた敵だ。

 

(『盲目の剣士』、『不浄のシスター』、『混沌の魔術師』……あー、ゲームのトラウマが蘇ってきた)

 

 全員美少女で、しかもクソ強い。だが敵であって仲間になるキャラではない。と言うか話し合いすら無理そうな感じであった。

 

「可愛いだろう?」

「……趣味、ですか?」

「おいおい、まさかそんなはずがないだろう! ……彼女たちは行く宛てのない者たちだよ。色々とワケあってね、一応各々が仕事についているが、まぁ、まともにできている状態ではないな」

 

 これ、俺、押し付けられてるんじゃ。などと思ったが、口にしない、できるわけがない。なので一先ず黙って話を聞く。

 

「だが彼女たちはそれ相応の実力はある。それこそ騎士団長クラスの実力がある。が、その、な……」

 

 何か言い淀むが、俺はその理由を知っている。だってゲームで出会っているのだから。出会って、その半端のない実力差にボロ負けし続けたのだから。なんか、実際に会うとなると気分が下がってくる。今日はヤケ酒だろうな。

 

「ともかく、彼女たちは候補、ってだけだ! もし他にツテがあるのならばそちらに頼るといい。一応他の騎士団から引き抜きをしてもいいが……その人が所属している騎士団長とは話をつけることだ……話はこれで終わりだ。最後に手続きとしてサインをしてくれ」

 

 手続き書に俺は手書きで名前を書く。この世界の文字で、この世界の名前で。すると書いた紙が光り出して姿形を変えて行く。三秒ほど経つと机の上には一つのバッヂのようなものがあった。大きく『13』の数字が書かれたバッヂが。騎士団長がつけるバッヂであった。

 

 俺は手にとって胸元につける。これが身分証となるのだから手放すわけにはいかない。再発行には相当お金がかかるらしいし。

 

「それではこれから活躍に期待しているよ。アルベルトくん」

「……はっ!」

 

 俺は席を立ち敬礼をして、少女たちのプロフィールを手にその場を後にした。

 

 外に出て見れば雪が降っていた。魔法でついた街灯の明かりが雪に混じってゆらゆらと揺れている。懐中時計を見て見れば既に時間は夜の十時。結構いい時間だった。かなり疲れているし、このまま帰って眠るべきか、と考えていたところに声をかけられる。

 

「よっ、お疲れさん」

「……おう、エクレスか。今夜は冷えるな」

「いつものことだろ」

 

 騎士団本部の入り口でずっと待っていたのだろう。金髪の男、エクレスはこの世界で数少ない俺の友達の一人だ。

 

 こいつとの出会いは十三歳の時だ。ある時突然、こいつが家の近くに引っ越してきた。そして同じ騎士団という憧れを持っていたことで意気投合、お互い励まし合いながら同じ夢に向かって進み続けてきた。その結果、俺たちは二人で一緒に騎士団に入ることになった。だから前世日本人の俺が騎士団に入れたのは、こいつのおかげみたいなところはある。

 

(そう言えばこいつと飲みに行く約束してたな……色々ありすぎて忘れてた……)

 

 俺は書類を折りたたんで懐にしまうとエクレスに聞いた。

 

「今日はどこ行くんだ?」

「お前、金は?」

「今月は……まぁ、って感じだな」

 

 懐から取り出した革財布を取り出して中身を見る。騎士ってのは案外給料がいいのだが、俺はどうしても毎月ピンチになってしまう。色々と使いすぎなのかもしれない。

 

「じゃあいつもの安酒でいっか。おーし、仕事のことなんて忘れて飲みに行くぞ〜!」

「ははっ。そうだな、仕事のこと、か……ははっ……」

 

 俺はこれからのことに人知れずため息をついて、エクレスとともに行きつけの酒場へと向かった。

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