第十三騎士団出動中   作:梨汁

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盲目の白剣士

「ふがっ……んぅ……っ! いっつぅ──!?」

 

 窓から差し込む太陽の光に目が覚まし、響き渡る頭痛に飛び起きる。二日酔いというやつだ。

 まずは周りを見渡して、自分が家に帰ってきたことを確認する。花屋の二階にあるアパート、そこに帰ってきたことに。

 

 そして次に時間を確認する、今日は休日だから出勤のことは気にしなくていいだが、日課みたいなものでどうしても気になってしまうのだ。ちなみに指していた時間は朝の十時、まあまあいい時間帯だった。

 

「昨日何したんだっけ、確か酒場行って酒飲んで……覚えてないな、なんか飲み比べしたような気がするけど……っ、なんか寒いなぁ……」

 

 ブツブツ昨日のことを思い出しながら立ち上がり、部屋の一部に備え付けられたキッチンの隣にある、小さな箱を開けて中から水の入った瓶を取り出す。そして掴んだまま手に軽い力を込めて呟く。

 

「《冷気(コールド)》」

 

 一、二秒もすれば温かった水はキンキンに冷えていた。魔法、この世界ではごく一般的な技術の一つである。基本的には誰に簡単なものであれば誰でも扱える。今の俺のようにただ冷やすだけなら。

 

 俺は冷やした水をコップに移して一気に喉へと流し込む。目覚め一番の水、とても美味しく感じる一杯だ。

 

 そして昨日のことをじっくりと思い出す。酒を飲んだことではない、十三騎士団長へと就任したことだ。俺の目的は普通に生きて、普通に結婚して、普通に死ぬこと。だと言うのに思いっきり原作に絡んでくる騎士団長の一人になってしまった。まぁ、大して関わりのない十三騎士団だったからいいものの、ストーリーが始まるまで後一ヶ月もないのだ。主人公と絡まないようにするための対策、どうにかして立てなければ。

 

 尽きることのない悩みのタネに三度くらいため息をついて背伸びをする。

 朝のやるべきことをやった俺は窓を開けて、外の景色を覗き込んだ。下に見えるのは町に住む人々があっちこっちと行き交う姿と、降り積もる雪で遊ぶ子供達の姿だった。そんな中に一人の少女の姿が目に入る。俺は挨拶をすべく声を上げ、その少女に向けて手を振った。

 

「おーい、ハナちゃーん」

「……あっ、おはようございます! アルベルトさん!」

 

 下にいる少女、ハナちゃんは俺に笑顔で手を振り返す。俺の住んでいるアパートの一階、そこにある花屋の看板娘ハナちゃん。知り合ってもう二、三年経つはず。今日も看板娘の活躍で花の売れ行きは好調そうだ。

 

「調子はどうだい?」

「絶好調です! アルベルトさんはどうですか?」

「いつも通りだよ。いい感じ、ってとこかな」

 

 毎日の、いつも通りの挨拶を交わし終えた俺は顔を引っ込めようとした。だがそこでハナちゃんは、何かを思い出したかのように声を上げつ慌てたように俺を引き止める。

 

「そう言えばついさっきアルベルトさんにお客さんが来ましたよ! 寝ている、と言ったんですがアパートの中に入っていって……多分もうそろそろ部屋に着くはずです!」

「え? マジ? あ、ありがとう!」

 

 俺は急いで俺を言って、自分の部屋を見渡す。あっちには下着、こっちにはゴミ袋、汚い、とにかく汚い。一人暮らしだからと油断のしすぎが目に見える。自分の格好を見て見ればシャツにパンツとパジャマですらない。通りで寒いわけだ。

 

「……酒のせいだな。体が熱くなったから脱いで寝たんだ。ふ、服。兎にも角にもまずは服着ないと……」

 

 今更ながら凍える体を救い出すために、俺は近くのタンスに手を伸ばす。壊れそうな勢いで開けると適当な服を取り出して着た。と、同時にドアをドンドンと叩く音が響く。俺はその音にビビって近く落ちていたゴミを踏んづけてしまい、大きな音を立てて転げる。

 

「何事ですかッ!」

 

 その音に反応するかのように扉が蹴飛ばされ俺の近くに倒れた。かと思いきや、俺の顔スレスレのところを剣が横切った。

 

「ぬわああああッ!!?」

 

 俺が叫び声を上げると二本目の剣が床に刺さる。俺は咄嗟にベッドの下に置いてあった剣に手を伸ばすも、それを食い止めるかのように腕の近くに一本目の剣が刺さった。そしてそのまま俺の腕を踏みつけて身動き取れないようにされる。これがまた結構強くて痛いし離れられない。俺の目が正しければ、踏んでいるのは少女だと言うのに。

 

「あなた、不審者ですね。アルベルトさん、大丈夫ですかっ!」

「あ、アルベルトは俺だよっ! は、離してくれ!!?」

「…………え」

 

 かなり間が空いた後、少女は素っ頓狂な声を上げる。そして二本の剣を抜いて立ち上がると、剣を収めてドアを入口あたりに立てかけて外へと出て行った。

 

 いや、え。なに? 今のなに? 理解できない……と言いたいところだが、そう言うわけではない。俺は襲われている、と少女の頭の中ではそう理解したのだろう。なんせあの姿、身長は大体150cmくらい、長く白い髪に金色に光る目、右目には十字模様が入っており、ただ一点をじっと見つめている。だって目が見えないのだから、目を動かす必要がないのだ。

 

『盲目の剣士』、革命軍、魔王軍ルートにて敵として出現する少女、ネットではトラウマビッグ3と呼ばれるうちの一人だ。

 

 いやアレはね、トラウマ認定されてもいいと思う。理由は主に三つある、まずは盲目耐性+命中率100%、そして二刀流による攻撃力の高さ、特殊技能の一つのせいで遠距離攻撃がほぼ無効化。俺はまず、こいつと出会った時、負けイベントか何かと勘違いしてしまった。結局素早さ高いやつで攻撃される前にごり押ししたんだけどな。

 

 で、そんな少女が俺の家へに押し入ってきたわけだが、どう言う理由で俺のところに来たのか。なんとなくだが一つだけ思い当たる節はある。

 

 俺は視線を机の上にある少女たちのプロフィールに移す。そこには今押し入ってきた少女、フィーゼ・ベラルトラムの名前と顔写真のようなものが貼られていた。

 

「……まぁ、騎士団の話だろうな。まだ帰ってないといいけど」

 

 小さく呟いて、俺は廊下に顔を出して覗き込む。そこには俺の部屋のすぐ隣で蹲っている少女の姿があった。

 

「うわああああああああ。またやらかしたぁぁぁ……うぅ、なんでいつも早とちりしちゃうんですかぁ、私……いつもいつもいつも早とちりしちゃって、ぼんやりとしか目が見えないから人に迷惑かけて……なんで生きてんだろ、私」

 

 なんか思ってたのと違う。ゲーム内ではすごい強者っぽかった。『貴方を殺します』などと言って襲ってくるし、強いし、だが今ここにいる彼女はどう言うことか、精神的に追い詰められている。普通の……とは言い難いが、ゲームの時に見たバケモノっぷりは何処へやら、少女としてそこに座り込んでいた。

 

 一先ず俺は少女、フィーゼに声をかけてみることにした。

 

「あー、えっと。大丈夫、かな?」

「ひゃいっ!? ……あ、アルベルト、さん……です、よね? ど、どこにいるかわかんないですけど……えっと……」

 

 少し言い澱みつつも立ち上がって、申し訳なさそうにすると深々と頭を下げた。俺のいる方向とは真逆に。

 

「申し訳、ありませんっ!! 私が早とちりしてしまって、攻撃を……!」

「う、うん。それはいいんだけど、俺は後ろにいるよ」

「あ、ああ! すいませんすいません! すいません!!」

 

 すいませんの連呼が続くこと数十分、フィーゼは漸く落ち着いて、取り敢えず適当に片付け、適当に直したドアを開け、俺の部屋へと入る。そしてお互い向かい合うように椅子に座って、俺は話を聞くことにした。

 

「で、えーっと。どうして、俺のとこに来たのかな?」

「……騎士団の、話です。新しくできた第十三騎士団を、騎士総長さんから聞いて、で、その、お話したくて」

「そ、そっか。でも、どうして話なんかを?」

「もう知ってると思うんですけど、私、盲目なんです。剣を扱ってる時は感覚で人のことはわかるんですけど、日常生活だとまともに見分けがつかないんです。そ、それで、だから、仕事ももらえなくて、だから、これが最後のチャンスだったんです」

 

 なるほどね。騎士総長が彼女を推薦したのは剣の技術はかなりのもので、戦ってる間はしっかりとわかるのが、それ以外だと物と人の見分けがつかないくらい見えないと。だから戦い以外で仕事できない彼女のために、仕事をできる場所として、騎士団に。確かに俺は彼女の強さをよく知っている、戦力としても申し分ない。

 

「……でも私 、失敗ばかりで……ダメ、ですよね。帰ります!」

 

 彼女は立ち上がって帰ろうとする、俺は引き止めようとして立ち上がる。そしてフィーゼはドアではなく、タンスを開けてしまった。しかも中は、適当に片付けたゴミの山で埋め尽くされている。そう、無理やりぶち込んで無理やり閉めたタンスである。

 

「危ないっ!」

 

 俺は咄嗟にフィーゼの腕を掴んで抱き寄せる。するとほぼ同時にフィーゼのいたところにゴミ山が流れ込んできて埋もれた。こんな時に言っちゃなんだが、踏まれたときのパワーからは考えられないほど体が柔らかいし、体つきは細い。どんなに強くても女の子なのだと明確にわかってしまう。そして前世ではなかった経験に俺の心拍数は爆上がりである。

 

「あ、ありがとう、ございます。その。か、帰りますっ!」

 

 俺を突き飛ばすとフィーゼは走って帰って行ってしまった。やはり嫌だったのだろうか。

 まぁ誰だって急に抱かれたら嫌になるよな。俺も嫌だし、仕方ない。

 

「……さて、久々の休日だし、片付けでもするかなぁ」

 

 一人になった部屋の中、俺は酷い惨状となった部屋を見渡して、そう呟いたのだった。

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