学園都市。
それは、正しく科学の王国。
世界最大の学術機関にして科学の総本山。数多くの学術研究機関や先端技術企業が存在しており、その科学力は、'外'の世界の数十年は先を行くと言われる程。東京都西部を中心に位置しており、総人口は約230万人。また総人口の内の8割は学生であり、残りの2割は科学開発に携わる大人である。
もっとも、これらは全て前置きにすぎない。学園都市の真に特異な点とは、そこに住む学生たちに施される教育内容にある。教育、それも'能力開発'。世界最高とまで歌われる科学力を持ってして成された異形の産物。たくさんの子供たちが夢見た異能と呼ばれる存在。瞬間移動、千里眼、念動力、etc……。そんな夢にまで見た異能を求め、集う。そうして学園都市は形成されたとも言える。
だが、現実とは常に願望の下を行くものである。多くの学生が暮らしている学園都市であるが、その内の6割は'無能力者'、つまるところlevel0なのだ。さらに、残りの4割の殆どは、実用はできるが全くといっていいほど応用の効かない'落ちこぼれ'能力であるlevel1〜2。level3以降は、その貴重さ故にエリートとまで呼ばれる。正確には、level3は日常に応用でき、ある程度便利な強能力者。level4は軍隊においてその人一人のみで一つの戦術と見なされるほどの大能力者。level5に至っては、一人いるだけで軍隊丸ごと潰すことも可能なほどの超能力者。超能力者は学園都市の中でも特殊で特別な存在であり、名乗るのを許されているのはたったの7人のみ。さらに言えばその中にも序列というものが存在しており、'学園都市の研究によって生まれる利益の高さ'が高い順にランク付けされている。
一見摩訶不思議な能力のように思えるが、学園都市における能力とは、しっかりと科学に則ったものである。「ミクロな宇宙での観測で生じた歪みが、マクロな宇宙に超自然現象を引き起こす」という量子論を基に発展させた方式。それが能力の本質であり、演算能力や
一方で何事にも例外というものは存在しており、ここでの能力における例外として「原石」と呼ばれる者がいる。世界に約50名程が確認されており、学園都市には一桁ほどしか存在していない。開発された能力との差異は、その人本人が持つ能力が'生まれつき'のものであるという点だ。能力の詳細も科学では証明できないような複雑かつ繊細なものが多く、研究者からすれば、'はっきりいってよくわからない謎能力'なのだ。
そんな「原石」の一人の、とある少女。
彼女の生き様が描かれた物語が、今ここに開幕。
学園都市のとある建物の内のとある一室。そこに住むとある少女が、今にも12の文字を指そうとする針を見て、慌てて起き上がる。なぜそんなに慌てるのか、それは12を指しそうな針というのが短針のことであり、今から30分後には幼馴染と共に昼ご飯を食べに行く予定があったからである。問題なのはその幼馴染。自分が時間に間に合わなければ、心配してこの部屋を訪ねてくるだろう。そこまではいいのだが、そこからが問題だ。幼馴染ということもあり、相手も自分が寝坊をしていることは確実に予想している。玄関のチャイムを2、3回鳴らして反応がなければ、その馬鹿力を持ってして鍵の存在など忘れ去られたようにドアを開け、布団に包まる自分を見た暁には、大声で叩き起こすだろう。現にそれを何回か体験しているのだ。
幼馴染のことを尊敬してはいるが、こういう時の口うるささは少々いただけない。まあ、その点こそが自分が幼馴染を尊敬する要因の一つでもあるのだが。
そんなことをあれやこれやと考えつつも、テキパキと用意を勧めていく。といっても、やることといえば顔を洗い歯を磨き寝間着を着替えるだけだ。この調子であれば約束の時間には余裕で間に合いそうだと、テレビのチャンネルを変えつつホッと一息つく。と、そこであることを思い出した。
幼馴染の性格的に、時間に遅れる可能性というのは一つの理由以外はありえない。その理由とはすなわち人助け。すれ違うのも面倒だし、ここは早めに待ち合わせ場所に行ったほうがいいかもと考え直し、テレビを消した。
「いってきます」
これは別段言う相手もいないのだが、なんとなく毎回言っている。いや、言わないときもあるな。
まあとにかく、さっさと待ち合わせ場所にいこう。心做しか空いてきたお腹を見てそう思い、その足を踏み出した。
結論から言って、すれ違うこともなく無事出会えた。無事、といっても待ち合わせ場所とはずれたところで合流したのだが。
やはり盛大に人助けをしていたようで、これもいつものことなのかもしれないと思いながら地響きのする方に足を持っていけば、案の定彼はいた。
「根性!根性が足りねえぞ!」
そう言っていじめっ子を吹っ飛ばした彼こそが私の幼馴染、削板軍覇である。
「お前もちっとばかし根性が足りねえ気もするが、一人でよく頑張ったな」
小学生くらいの少年の頭を軽く叩き、お礼を言って走っていく姿を見送る。これが彼のいつもの人助けというやつだ。彼いわく'根性無し'だとか'性根の腐った奴'だとかを見つけて根性を叩き直しているらしい。ちなみにその御蔭で彼にはいろんな人との腐れ縁が出来ている。楽しそうで何よりだ。
「さてと、待たせちまって悪いな」
そんなことを考えていたら、少年を見送った彼が振り返って声をかけてきた。
「いや、あんまし待ってないから大丈夫」
一応だがそう答えておく。彼のことだし私が来たその瞬間から私のことに気づいていたのだろう。彼は根性が口癖の熱血漢ではあるが、とても優しい奴でもあるのだ。こういうところで律儀に謝ってくるあたり、やっぱ尊敬できる人物である。
「そうか。じゃあ予定通り昼飯行くか、天離!」
「うん」
確かにお腹が空いていると思って軽く返事をした。もともと店の行き先は決めてあったので、二人で並んで歩いて店を目指す。といってもただのファミレスだしものすごく近い場所にあるのだが。普通のファミレスということもありメニューはだいたいわかっているので、何を食べようかなどと話していればすぐについた。
「さっき言ってた奴でいいか?」
「うん」
道中のことを思い出して返事をし、彼に注文を任せる。ちなみに、私はトマトスパゲッティ、彼はマルゲリータピザとハンバーグを頼んだ。能力の影響なのか、もしくは男子の平均的な食事量なのかもしれないが、彼は私からすればよく食べる人だと思う。まあ雰囲気からしてそんな感じだとは誰もが思うだろうけど。
特に何も話さずにのんびりと待っていると、意外とすぐに注文したものが来た。
トマトスパゲッティを口にしてこれもだいぶ飽きたな、なんて思いながらフォークにパスタを絡める。スプーンの上で頑張って巻いて食べていると、彼がふと思い出したようにピザを片手に話し始めた。
「そーいや天離、お前オレ以外に仲良いやつ出来たか?」
「いや、ぜんぜん」
この会話だけ聞くと、私がコミュ障だから友達いないみたいに聞こえるかもしれない。実際にそういう訳ではないのだが、彼がこのような質問をするのもまた仕方のないことなのだ。
これについてまず第一に、私は超が付くほど物凄く影が薄い人間なのだ。普通に過ごしていれば全くといっていいほど認知されない。それはもう驚くほどに。だから誰か特定の人と接点を多く持つということもないので特別仲の良い友達というのも出来ない。
ちなみに彼は例外で、普通に私のことを認知できるのだが、その理由は彼自身にもわからないらしい。まあ幼馴染というのもあるし、彼のトンデモ能力も関係しているのかもしれない。
第二に、ここまで他人に認識されないのは私の能力の影響でもある。もともとの影の薄さにプラスして、
私が原石ということもあり、学園都市に来る前から、つまりは生まれてから今日までこの能力は常に一緒だ。ので、彼以外の親しい友達が出来たことがない。ちなみに私が能力を使うと、彼でも中々私に気付けないらしい。
彼と私は学園都市に来る前からの知り合いなので相当付き合いも長く、なので必然的に彼は私に友達が出来ないことを心配しているのだ。だから時々友達が出来たかどうか聞いてくるって訳。ついでに言えば、彼に注文を任せたのも、私が注文すると時々忘れられることがあるからだ。悲しきかな。
「そうか。こればっかりは根性ではどうにか出来ないしな…」
「そういえば都市伝説に'異能を打ち消す異能を持つ者がいる'ってのがあった気がする。その人だったらこっちから話しかけなくても私に気づくかもね」
「へえ。異能を打ち消すのかー。そりゃきっとすげえ根性がある奴なんだろうな」
「確かに、今回ばかりは一理あるかも。なんか凄そうって意味で」
「そいつも学園都市にいるってことはいつか会えるかもな」
「うん。少しだけ会ってみたいかも」
結局食べてる間はそいつがどんな根性持ちなのかとか、どこにいるだろうかとかを話して、気づけば食べ終わっていた。
会計をし、店員の'ありがとうございました〜'なんて声を耳に入れながら店を出る。
ちなみに全部彼のおごりだ。彼いわくlevel5の奨学金は多くて使い道がないのだという。別段お金に困っているわけでもないが、そう言う時はありがたく奢ってもらうようにしているのだ。
「この後は何するの?」
「筋トレだな」
「じゃあ私は帰ろうかな」
「そうか。人にぶつからないように気をつけて帰れよ」
「うん、じゃあまた明日」
今日は休日で明日は平日。彼と私は同じ学校なので明日は必然的に会うことになる。
彼と別れた後も言われたとおりに気をつけて、といっても人を避けるのにもだいぶなれたけど、家に帰った。
level5の削板軍覇とlevel3の御景天離。
これは、原石である二人を中心にして起こる、科学的ですこーし魔術的な物語である。