ソードアート・オンライン 紫紺の剣士   作:仮面大佐

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今回は、ゼフィリアの花の前で話す所までです。


第15話 最後の指導と嫌味貴族

カルムside

 

 前日の安息日の6日後、俺とタカトラ先輩は、お互いに剣を持って向き合っていた。

 

タカトラ「今日は最後の試合形式の練習だ。思いっきり来い。」

カルム「はい!」

 

 そう、これが最後の試合だ。

 タカトラ先輩は、安息日のラフな格好ではなく、白をベースに、一部が緑で、黒のラインが入った制服姿だ。

 

カルム「タカトラ先輩、最後なんですし、盾を使って良いですよ。」

タカトラ「そうか。」

 

 タカトラ先輩はそう言って、そそくさと盾を装備する。

 タカトラ先輩は、攻防主体の戦法を取る。

 そのスタイルは、奇しくも、あのヒースクリフ………茅場晶彦と同じなのだ。

 俺に合わせて、盾を使わない事が多かったのだが、俺も、盾の対処方法を学ぶ為に、盾持ちのタカトラ先輩に挑んだ事もある。

 お互いに修練用の木剣を構え、ソードスキルを放ちながら駆け出していく。

 

カルム「ハァァァァ!!」

タカトラ「ハアッ!」

 

 俺はバーチカルを、タカトラ先輩は、オリジナルの流派、ウェインライト流秘奥義、垂水………実際には、両手剣のソードスキル、カスケードを放つ。

 お互いの秘奥義………ソードスキルがぶつかって、消える。

 そのまま鍔迫り合いをしていると、先輩は両足に力を入れて、俺を跳ね飛ばす。

 俺は体勢を整えて、すぐさま先輩に向かって駆け出していく。

 すると、先輩は盾を持って、そのまま俺に向かって投げてきた。

 

カルム「あぶね!」

 

 そう、この先輩は、盾を防具としてだけでなく、投擲武器としても使ってくるのだ。

 そして、その投げた盾が、こちらに向かって戻って来る。

 その手には引っかからない為にも、その盾を躱す。

 俺は剣を大きく振るうが、先輩はすぐさま両手持ちに移行して、剣を大きくぶつけてくる。

 

タカトラ「ハアッ!」

カルム「ウワッ!」

 

 俺は吹っ飛ばされつつも、体勢を整えるが、剣は吹っ飛ばされていた。

 これは、俺の負けだな。

 

カルム「流石です。タカトラ先輩。」

タカトラ「お前も腕を上げたな。あの盾の投擲を上手く躱すとは。」

カルム「いえ、まだまだですよ。」

タカトラ「謙遜するな。それに、お前は、まだ何か隠しているだろう?」

カルム「え!?」

 

 まさか、感づかれていたのか!?

 俺が驚愕の表情を浮かべる中、タカトラ先輩は、俺の木剣を回収する。

 

タカトラ「お前には話しておこう。お前を傍付きに指名したのは、ノルキア流や、ハイ・ノルキア流とは異なる、見せる為の剣ではなく、勝つ為の剣に興味を持ったからだ。」

カルム「そうなんですか………。」

タカトラ「私も、ウェインライト流とついでにノルキア流を使っているが、ウェインライト流は、お前達のアインクラッド流には及ばないな。」

カルム「先輩…………。」

 

 それはそうだ。

 アインクラッド流とは、あのSAOで身につけたスキルだ。

 戦闘が命がけの世界では、どうしても実戦に偏る。

 アンダーワールドは、実戦という概念が存在せず、技の見栄えが重視される。

 そんな風に考えている中、先輩の話は続く。

 

タカトラ「俺は、貴族としての矜持を貫く。力無き民を守る。それが、俺の使命だ。」

カルム「……………。」

タカトラ「それに、いずれ来るであろう闇の軍勢の侵攻にも、備えないといけない。」

カルム「………それは、整合騎士で大丈夫なんじゃないですか?」

タカトラ「確かに、整合騎士も強い。だが、整合騎士に任せっきりにするのではなく、己の腕で守る。そうしなければいけないと思う。」

 

 この人は、俺がこれまで見てきたアンダーワールド人とは随分と異なる。

 本気で人界を守ろうとしている。

 まさに、本来あるべき貴族の鑑だ。

 俺たちに嫌味を言ってくる何処かの4人組とは随分と違う。

 

タカトラ「まあ、明日は安息日だ。見てみたいとは思うが、無理は言わせない。」

カルム「…………。」

 

 確かに、この先輩に見せたいとは思う。

 けど、この木剣では、全ては見せられないだろう。

 どうしたら良いのかと思っていると。

 

カルム「…………!?」

タカトラ「どうした?」

カルム「いや…………え…………!?」

 

 何と、タカトラ先輩の後ろに、剣が浮いているのだ。

 そして、その剣は、どこかへと去っていく。

 

カルム「えぇぇ…………!?」

タカトラ「何かいたのか?」

カルム「いや、何でもないです…………。」

タカトラ「そうか…………。そういえば、もう時間が迫っているな。アズリカ先生は怖いから、今日はここまでにしよう。」

カルム「あ、分かりました。ありがとうございました!」

タカトラ「お疲れ様。」

 

 俺は首を傾げながら、修練場から退出する。

 すると、先輩の声が聞こえてくる。

 

タカトラ「………カルム………、疲れているようだな…………。」

 

 なんか、気を遣わせてしまった!

 ていうか、アレ何!?

 俺、マジで疲れてんのかな………?

 そんな事を思いつつ、俺は初等錬士寮へと向かっていく。

 どうやら、ギリギリ間に合ったみたいで、部屋に入ると、ユージオとケントと合流する。

 

ケント「間に合ったみたいだな。」

カルム「悪い、遅れた。」

ユージオ「大丈夫だよ。僕とケントも、ついさっき着いたばっかりだし。」

カルム「そっか………。」

 

 俺たちは、一足先に食堂へと向かう。

 しばらくすると、キリトもやってくる。

 

カルム「遅いぞ、キリト」

キリト「おっ、3人とももう来てたのか。悪い、悪い。リーナ先輩の今日の指導が特別版だったからさ。」

 

 俺の言葉に笑いながら答えるキリト。

 ようやく全員揃ったことで夕食をもらいに配膳口へと向かった。

 今日のメニューはパン二つ(ルーリッド村で食べたあの黒パンもどきではなく、焼き立ての黄金色のパンだ)、芋のフライソテー、帆立(っぽい貝)入りのビシソワーズにサラダの献立だ。

 

キリト「旨そう~!」

カルム「確かにな!」

 

 キリトの感想に同意しながら、俺はスープをスプーンで掬って飲んだ。

 優しい味付けだが、メインのパンと一緒に食べることでその旨さが更に引き立てられる。

 STLだからこそ再現できる美味しさにそんなことを考えていると、それを邪魔する声が聞こえてきた。

 

???「聞きましたか、今の?羨ましい話ですな、ライオス殿。」

カルム(またか…………。懲りない奴らだな……。)

 

 内心で呆れつつ、食事を進めていくが、後ろの喧しい声は続く。

 

???「我らが汗水垂らして掃除した食堂に後から悠々とやってきて、ただ食べるだけとは………。」

???「いやはや本当に羨ましい話ですな。」

???「まぁ、そう言うな、ウンベール、ナツジ。」

???「傍付き錬士の方々にも、きっと我らにも伺い知れない苦労があるのさ。」

ウンベール「フフフッ!それもそうですな。」

ナツジ「傍付きは指導生に言われるがままになんでもしないといけないそうですからな?」

???「わざわざ貴族出身者以外から傍付きを指名するくらいですからな。」

???「さぞ珍妙な指示が出るのだろう?」

キリト「……………!」

ユージオ「相手にする事ないよ、キリト。」

ケント「放っておけ。」

 

 連中は、ライオス・アンティノス、ウンベール・ジーゼック、ナツジ・キャンサー、ベル・アバドン。

 貴族出身で、俺たちと同じ初等修剣士だ。

 だが、性格は至って最悪だ。

 あのように、俺たちにしつこく嫌味を言ってくるのだ。

 それも、嫌味の皆勤賞を狙えるのではと思うくらいには。

 タカトラ先輩やリーナ先輩、ウォロ先輩が、良い貴族だとしたら、連中は、悪い貴族だと言えるだろう。

 どうやら、連中は、平民である俺たちがここにいるのが気に食わないらしい。

 

カルム「ユージオとケントの言う通りだぞ。人を判断するのは、噂じゃなくて、話してみないと分からないからな。それに、あんな事をしているのは、子供だからね。」

「「「「…………チッ!」」」」

 

 4人が舌打ちしながら俺を見てくる。

 俺は、本当の貴族としてのあり方ををこの目で一年見てきたのだ。

 あんな奴らを気にする事はない。

 

ユージオ「ねぇ、キリト。何でカルムってあんなに怖いもの知らずなの?」

ケント「よくあんな嫌味を言えるな。」

キリト「俺も一緒にいてヒヤヒヤするよ。本当に、大物だよな。」

カルム「そこ、コソコソ話さない。」

 

 寧ろ、友人3人のコソコソ話の方が精神的にくるものがあるな。

 すると、ユージオが思い出した事があったのか、キリトに質問をする。

 

ユージオ「そうだ。キリト、畑の調子はどんな感じだい?」

キリト「ああ、かなりいい感じになってきてるぜ?卒業式までにはバッチリ間に合うはずだぜ。」

ユージオ「へぇ~、楽しみだな。」

ケント「カルムも協力してるんだよな?」

カルム「といってもちょっとだけだぞ。ほとんどはキリトが世話してるようなもんだ。」

キリト「………丁度いいや。もし良かったら、夕飯の後でも様子を見に行ってみるか?」

カルム「そうだな。」

ユージオ「うん!」

ケント「ああ。」

 

 キリトの提案に俺たちは了承の意を示し、夕飯を片付けてしまうことにした。

 

ライオス「……………ちぃ。」

ベル「…………。」

 

 ライオスとベルの表情が歪み、キリトを睨んでいたのを俺は見逃してはいなかった。

 俺たちは、学園の裏側にある庭園に来て、その花の様子を見に行く。

 そこには、もう間もなく咲くであろう蕾の状態の花があった。

 

ユージオ「この花、随分育ったね?もう蕾が膨らんできてるじゃないか。」

キリト「ここまでに3回も失敗してるからな。今度こそ咲いてくれるといいけど………。」

ケント「リーナ先輩の卒業祝いに、自分で育てた花を贈ろうなんて………意外だな。」

カルム「まあ、良いんじゃないのか?………というか、これが最後の種だろう?」

キリト「ああ。これが最後の機会さ。香辛料商人のおっちゃんも、次の入荷はまた今年の秋になるって言ってたからなぁ。」

 

 そう、キリトが育てているゼフィリアの花の種は、香辛料として売られていたのだ。

 それをキリトが買って、こうして育てているのだ。

 すると、ユージオとケントが話し出す。

 

ユージオ「でも、2年も一緒にいるのに、キリトにこういう趣味があったとはね。」

ケント「カルムは知ってたのか?」

カルム「いや、俺も全然。」

キリト「そうだよな…………。俺も自分がここまでハマるとは思ってもみなかったよ。」

 

 キリトも、新たな一面を見つけられて良かったよ。

 ゲームしかやっていなかったあのキリトが、こんな風に新たな趣味を見つけられるとはな。

 お兄さん、感動して泣いちゃうよ。

 

キリト「…………おい、今、俺に対して物凄く失礼な事を考えなかったか?」

カルム「何の事だ?」

キリト「惚けやがった………!」

ユージオ「もしかしたら、記憶が戻る前兆かもしれないね。」

ケント「ああ。ルーリッドに来る前に、花を育てていたのか、そういう天職に就いていたのか?」

キリト「…………あ、あ〜………。そう、かもしれないな。いや、違うかな、アハハ……。」

カルム「アハハ………。それよりも、さっさと水をやろうぜ。」

キリト「そうだな!」

 

 そういえば、そんな設定だったな。

 何せ、ルーリッド出身という感じに登録されているので、それを知っているのは、ユージオとケントの2人だけだ。

 慌てて思い出した俺たちは話を逸らすために話題を切り替えたのだが、ユージオとケントは真剣な表情で俺たちを呼び止めた。

 

ユージオ「ねぇ、キリト、カルム。」

キリト「ん?」

ケント「お前らは、もしも、記憶が戻ったらどうするんだ?」

カルム「どうするって?」

 

 俺は首を傾げつつ、キリトと顔を見合わせ、どういう意味か尋ねる。

 

ユージオ「2人が整合騎士を目指しているのは、僕達の目的に付き合ってくれているからだろう?」

ケント「公理教会に連行されたイーディスとアリスを探す目的の為に。………だが、記憶が戻ったら、故郷に戻りたいよな?」

「「……………!」」

 

 2人の言いたい事が分かった俺たちは、息を呑んだ。

 確かに、帰りたいという気持ちはある。

 だが、帰る為には、システムコンソールの類に触れなければならない。

 ユージオとケントは、日本という存在を知らないのだ。

 すると、キリトがユージオとケントの背中を叩きながら答える。

 

キリト「例え記憶が戻っても、俺たちは帰らないよ。」

ユージオ「…………えっ?」

カルム「俺たちは剣士だった………。その記憶だけは俺もキリトも確かなことだって確信してる。剣士なら整合騎士を目指すのは当たり前のことだろう?」

ケント「………そうだが………。凄いな、二人は。」

 

 2人は俯いてしまった。

 どういう意味か聞くと、答えてくれた。

 

ユージオ「僕は……いや、僕たちは弱い人間なんだ。もし二人に出会わなかったら、未だに毎日毎日2人で斧を振っていたと思う。」

ケント「天職を逃げ道の理由にして、本気で村を出ようともせず………。この学院に入れたのも二人が俺たちを引っ張ってくれたお陰なんだ。それなのに…………。」

カルム「ケント………ユージオ………。」

 

 そう言って、拳を握りしめながら2人は言葉を紡いでいく。

 

ユージオ「僕は今、記憶が戻っても、故郷に帰らないって言ってくれて、凄くホッとしてるんだ。」

ケント「カルムも、同じ目的を目指していると言ってくれて、凄く嬉しい。」

カルム「何言ってんだ。それは、俺たちのセリフだぞ。」

キリト「そうそう。俺たち、記憶も無いし、道も分からない上、銅貨の1枚もなかったんだぜ。2人に会わなかったら、今頃俺たちは路頭に迷ってたしな。」

カルム「俺たちがこうしてこの学院に居るのは、この4人だからな。誰一人として欠けちゃいけないんだ。」

キリト「1人で何でも頑張ろうとするなら、整合騎士になってからでも遅くないだろ?」

 

 俺たちはユージオとケントに手を差し伸べる。

 2人の不安は、少しは晴れたみたいで、笑みを浮かべて、立ち上がる。

 

ユージオ「そうだね。」

ケント「なら、上位12人以内には入るように努力しないとな。」

キリト「俺、神聖術の試験が少し怪しいだよな………。部屋に戻ったらちょっと教えてくれないか?」

ユージオ「良いよ。復習にもなるし。」

ケント「カルムは大丈夫か?」

カルム「俺も少し見てもらえると助かるな。」

 

 その後、翌日に、キリトの剣が出来上がる事を思い出して、楽しみに話しながら、俺たちは寮へと戻る。

 そんな俺たちを、歪んでいる笑みを浮かべているライオス、ウンベール、ナツジ、ベルの4人が見ている事には気づかず。

 

???side

 

 しまったな、つい、熱中して、剣の姿でアイツの前に現れてしまった。

 それにしても、アイツもだんだんと腕を上げているみたいだな。

 すると。

 

ライオス「ん!?何だアレは!?」

ウンベール「剣が、浮いている………!?」

ナツジ「ええ………!?」

ベル「どうなっているんだ!?」

???「しまった!」

 

 俺はすぐさま逃走する。

 後でアイツらの記憶を消しておかないとな。

 まあ、カルムは消さなくても大丈夫か。

 その後、あの四人組の記憶を消して、俺はホッとする。

 そして、あの人にこってりと怒られた。

 




今回はここまでです。
ナツジ・キャンサーは、仮面ライダーフォーゼで登場した鬼島夏児、ベル・アバドンは、劇場版仮面ライダーゼロワン REAL×TIMEに登場したベルをモチーフにしています。
ユーリを叱った人は、あの人です。
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