カルムside
翌日、俺たちは、キリトの剣を受け取る為に、サードレ金細工店にやってきたのだが。
サードレ「見ろい!この有様を!!」
店主であるサードレの怒声と共に、サードレの机の前に、何かの残骸が叩きつけられる。
砥石の様だが、全て厚さ2センチ以下にまで擦り減ってしまい、使えそうになかった。
サードレ「この黒煉岩の砥石は3年使えるはずが、たった1年で6つも全損してしまったわい!」
キリト「は、はあ………。本当、すんません………。」
カルム「うわぁ…………。」
大分ご立腹のご様子だった。
彼は、サードレ師。
この店を営んでいる細工師だ。
サードレ「あの枝ときたら………!どんなに力を込めようと僅かしか削れん。儂がこの一振りにどれだけの時間を費やしたと思っとるんじゃ!」
カルム(うわぁ、ご立腹だ………。それに、あの悪魔の木だからなぁ………。)
その声に、俺たちは背筋を伸ばす。
実は、ルーリッドから旅立つ直前に、ガリッタ老人と会っていたのだ。
ユージオ「ガリッタ爺、呼んできたよ。」
ガリッタ「おお、すまんなユージオ、ケント。出立の直前だと言うのに。」
カルム「ケント、この人は?」
ケント「紹介するよ。彼はガリッタさん。俺たちの前の刻み手だ。」
なるほどな。
すると、キリトが驚いた声を出す。
キリト「それじゃあ、ユージオとケントの前にギガスシダーに切れ込みを入れてたのか?あんな苦行を良くやれましたね。」
カルム「おい!………俺の連れが失礼な発言をして、すいません。」
ガリッタ「ホッホッホッ。よいよい、気にしておらんわ。」
良かった…………。
キリトの失礼な発言に怒ってなくて。
ガリッタさんは怒るどころか、笑ってすませてくれた。
ホッとしたところで、ユージオとケントが本題をガリッタさんに尋ねた。
ユージオ「それで、2人に用事って何なの?」
ガリッタ「うむ。特に、その黒髪の少年に用があってな。」
ケント「キリトに?」
ガリッタ「うむ。」
キリト「え?」
俺とキリト、ユージオ、ケントは顔を見合わせる。
すると、ガリッタさんが話し出す。
ガリッタ「そうじゃ。お主だけ、剣を持っていないとユージオとケントから聞いてな。ユージオ、ケント、青薔薇の剣か雷鳴剣黄雷を持ってきてくれたか?」
ユージオ「えっ、うん。」
ケント「持ってきていますが………。」
ガリッタ「着いてきなさい。」
ガリッタさんについていくと、ギガスシダーのてっぺん…………樹頭と呼ばれる部分の近くに来ていた。
ガリッタ「この枝を切りなさい。」
キリト「ギガスシダーのこの枝をですか……。分かりました。ユージオ、青薔薇の剣を借りるぞ。」
頷くガリッタさんの指示に従い、青薔薇の剣を受け取ったキリトは振りかぶり、かなりの厚みがある枝を切り落とした。
鈍く重みを感じさせる落下音が響き、ギガスシダーの枝が落ちた。それをキリトが拾おうとする。
しかし。
キリト「お、重ッ!?」
カルム「大丈夫か?………重ッ!?」
宙に浮かすのがやっとの状態にキリトを手伝おうと切り枝の片端を持ったのだが、予想以上の重さに俺も思わず叫んだ。
ガリッタ「その枝は、ギガスシダーで最もソルスの恵みを吸い込んだ部分じゃ。」
キリト「それって、ギガスシダーの中で最もレア…………ゴホン、優先度が高いものってことですか?」
カルム「確かに、天辺だしな。」
ガリッタ「そうじゃ。それを央都へと持って行くがよい。央都に到着したら、サードレという細工師が営んでいる店へと預けるがよい。素晴らしい剣に仕立ててくれるはずだ。」
その言葉通り、王都に着いてすぐに、サードレ金細工店に向かった。
どうやら、ガリッタさんとサードレ師は、昔知り合ったらしく、枝を一本持って帰ろうとしたが断念したらしく、ガリッタさんに、ギガスシダーが倒れた際に、連絡を入れて欲しいと頼んだのだ。
ガリッタさんは、それを違う形で果たした。
キリトが差し出した、ギガスシダー最上部の枝を見たサードレ師は、たっぷり3分間絶句して、5分間検分して、語ったのだ。
サードレ「1年くれ。1年をかければ、この枝はとんでもない剣になる。整合騎士の帯びる神器すら超えるほどの、な。」
そうして、現在に至る。
今も尚、サードレ師は、文句を言い続けていた。
サードレ「そもそも、儂の天職は金細工師であってだな………!」
キリト「そ、それで!剣は出来たんですか?」
それを聞いたサードレ師は、身を屈めて、細長い包みを取り出す。
カウンターに重い音を立てて置かれた。
キリトが触ろうとすると、サードレ師が声をかける。
サードレ「若いの。まだ、砥ぎ代の話をしとらんかったな。」
キリト「うっ………!」
ユージオ「大丈夫だよ、キリト。」
ケント「念の為に俺たちもお金を持ってきたからさ。」
カルム「4人分合わせれば、何とかなるかもしれないからな。」
キリト「悪い………。」
サードレ「タダにしてやらんでもない。」
「「「「えええっ!?」」」」
サードレさんのまさかの提案に財布を取り出そうとしていた俺たちは絶叫した。
だが、そんなうまい話が簡単にあるわけがないのに………!
日本でも、美味い話には大抵裏があるって言われてるからな。
サードレ「ただし、お前さんがこの化け物を振れるのならな。」
カルム「化け物?」
サードレ「此奴、剣として完成したら、一際重くなったのじゃ。」
カルム「マジでか………!」
サードレさんが化け物という剣とは、どんなのだろうな。
キリトが包みを開けると、現れたのは、黒をベースにした片手剣だった。
キリト「…………!」
カルム「すげぇ………!」
黒をベースにしているが、キリトがSAOで使っていたエリュシデータとは違い、全てを包んで吸い込みそうな漆黒だった。
ユージオ「キリト、どうしたんだい?」
ケント「カルムもボーっとして、どうしたんだ?」
キリト「いや…………。」
カルム「悪い、少し見惚れてた。」
ユージオとケントの声に我に返った俺。
どうやら、キリトも剣を見て何か感じたことがあったらしい。
気を取り直したキリトは剣を抜いた。
カルム(両刃の片手剣か…………。)
俺は、これまで使ってきた武器である、ブレイラウザー、メダジャリバー、ガシャコンブレイカー、ゼットソードは、全て片刃の剣で、両刃なのは、キングラウザーのみだ。
だが、この剣は、下手したら、あの刃王剣十聖刃に勝るとも劣るとも言えない圧を放っていた。
キリト「………ふん!」
キリトは剣を気合いと共に振り下ろし、その剣圧に、窓が揺れた。
凄まじいな。
サードレ師が化け物と言うのも納得がいく。
ユージオとケントが拍手をする。
ユージオ「凄いよ、キリト。」
ケント「まさか、それを振れるなんて。」
カルム「剣も凄いが、キリトも凄いな。」
サードレ「フン。学院のひよっこ錬士が、そいつを振りおったか。」
キリト「これ………良い剣です!」
サードレ「当たり前じゃい!………まあ、約束は約束じゃ。そいつはお前さんのもんじゃ。」
キリト「ありがとうございました!」
そうして、俺たちはサードレ金細工店を後にした。
俺は、素振りをすると言うキリトと別れ、刃王剣十聖刃を手に、タカトラ先輩を呼び出した。
タカトラ「どうしたんだ?カルム。」
カルム「いえ、実は、俺の全力を、タカトラ先輩に見せたくて。」
タカトラ「ほう。その隠している事か。」
カルム「だから、見て下さい。」
俺は刃王剣十聖刃を抜刀して、ソードスキルを放っていく。
まずは、俺が良く使用していた、ホリゾンタル系列からだ。
まずは、ホリゾンタル、ホリゾンタル・アーク、ホリゾンタル・スクエアの順番に放つ。
タカトラ「今のは………?」
カルム「まずは、ホリゾンタル、二連撃技のホリゾンタル・アーク、四連撃技のホリゾンタル・スクエアです。」
タカトラ「なるほどな。」
次に、バーチカル系列のソードスキルだ。
バーチカル、バーチカル・アーク、バーチカル・スクエアの順番に放つ。
そこから、シャープネイル、サベージ・フルクラムを発動する。
タカトラ「なるほどな。連撃技が多いのか、アインクラッド流は?」
カルム「そうですね。」
タカトラ「だが、見た所、魔物討伐に向いてそうな剣技だな。」
カルム「アハハハハ…………。」
そりゃ、SAOで対人戦も、あのラフコフ討伐戦位しか思いつかない。
基本的にはモンスターが相手なので、そう見えてもおかしくはない。
カルム「でも、この技は、すぐには使えませんよ。ケントやユージオも、バーチカル・アークを習得するのに1ヶ月半も掛かったんですから。」
タカトラ「そうか。いや、習得する訳ではないさ。」
カルム「そうですか………。」
タカトラ「それに、まだ使っていない技があるんだろう?」
カルム「え………?」
まさか、ここまで見通していたのか!?
俺が驚愕していると。
タカトラ「すまない。使えと言う訳ではないんだがな。」
カルム「い、いえ………。」
俺は、先輩に、一応、最大で10連撃の技がある事を説明したが、使えない事を話した。
タカトラ「なるほどな。」
カルム「すいません。」
タカトラ「いや、責めている訳ではない。」
カルム「そうですか………。」
だが、そう言う先輩の顔は、難しい顔をしていたのだ。
何でだろうかと考えていると。
タカトラ「………お前なら、この人界を守れるかもしれないな。」
カルム「先輩?」
タカトラ「お前の剣筋を見て分かった。大切な人が居るのだろう?」
カルム「え!?」
タカトラ「お前の剣筋から、大切な人を守りたいという気持ちが伝わってきた。その為の剣技なんだろう?」
カルム「先輩………。」
タカトラ「なら、それを守る為にも、更に研鑽を積め。」
カルム「はい!」
俺は、先輩から言われた言葉に、大きく頷いた。
この世界に来て、大切な人がたくさん出来た。
それを、守れるようになりたい。
絶対に………!
タカトラ「さて、それでは、戻ろうか。」
カルム「分かりました。」
俺たちは、修剣学院に戻ろうとすると、何やら、騒がしかった。
タカトラ「何やら、騒がしいな。」
カルム「おかしいな、安息日だから、学院に居る人もそこまで多くないはずなのに………。」
俺は、耳を澄ますと。
修剣士「おい、聞いたか!?」
修剣士「ああ。この後、大修錬場でやるだろう?早く行こうぜ!」
修剣士「あのリーバンテイン主席が懲罰試合を行うらしいぞ!」
タカトラ「ウォロが?」
カルム(嫌な予感…………。)
何か、物騒なワードが聞こえてきたな。
すると、俺とタカトラ先輩を見て、4人の人物がやってきた。
そこにいたのは、ユージオ、ケント、リーナ先輩、ユア先輩だ。
リーナ「カルムも、漸く見つけたぞ!」
カルム「リーナ先輩、どうしたんですか?」
ユア「タカトラの事だ、どこかに引っ張り出しているのではと思ってな。」
タカトラ「どうしたんだ?何やら、ウォロが懲罰試合を行うようだが。」
リーナ先輩、ユア先輩の様子から、まさかと思っていると。
リーナ「実は、キリトがウォロに何かをやらかしたみたいでな。」
ユア「これから大修錬場で懲罰試合を行うらしいのだ。」
タカトラ「何?」
カルム「やっぱりか…………。」
俺がそう呟くと、ユージオとケントもため息を吐く。
俺たちは、すぐさま大修練場へと向かう。
大修練場には、噂を聞きつけたのか、かなりの人が居て、その中には、ライオス一派が居たのだ。
恐らく、暇つぶしに来たんだろうな。
「「「キリト!!」」」
キリト「おっ、ユージオにケントにカルム。それに、リーナ先輩にタカトラ先輩に、ユア先輩まで………。」
こっちに気付いた余裕そうなキリトを見て、一先ず安心した俺たちはため息を吐いた。
ユージオ「懲罰試合だなんて、一体何をやらかしたんだよ!?」
キリト「いやぁ………。アハハ………。」
カルム「笑い事じゃないだろ!?」
ケント「はぁ………。キリトがこの1年間で何もやらかさないと思っていたが、詰めが甘かったか………。」
カルム「逆に、これまでやらかさなかったのが奇跡じゃないのか?」
キリト「流石だな、3人とも!」
カルム「誰も褒めてねーよ………!」
余裕をかましているキリトに、イラつきながら答える。
くそ、何をやらかしたんだ!
ウォロ主席の制服を見ると、泥が着いていた。
まさか、あの黒い剣の試し振りをしている最中に、泥を跳ねたのか!?
頭が痛い………。
すると、リーナ先輩が、ウォロ主席に迫る。
リーナ「リーバンテイン殿!これはどういうことだ!」
ウォロ「なに。そなたの傍付きにちょっとした逸例行為があってね。大仰な懲罰を科すのもどうかと思ったので、実剣での立ち合い一本で済ませるつもりだ」
タカトラ「なんだと…………?」
ユア「どうしてそうなるんだ?」
どうやらウォロ主席はキリトと実戦形式での試合をお望みらしい。
懲罰という名の試合という事か。
キリト「心配をお掛けしてすみません、リーナ先輩。それにカルムとユージオとケント、タカトラ先輩、ユア先輩。俺なら大丈夫ですから。むしろ、主席殿と手合わせできるのは幸運なことだと思っていますから。」
ユア「キリト初等錬士。立ち合いの決めはどうなっている?」
キリト「えっ、実剣を使用するので寸止めなのではと…………。」
ウォロ「ああ、言い忘れていたな。」
ユア先輩にそう聞かれたキリトは、曖昧に答えるが、ウォロ主席が遮る。
ウォロ主席が語ったのは、とんでもない事だった。
ウォロ「私は寸止めの試合はしないのだよ。個人的な試合は全て一本先取を決めにしている」
ユージオ「それって………!?」
ケント「まさか!?」
カルム「天命を削る…………。本当の実戦形式での試合ってことか。」
ウォロ主席の回答に驚くユージオとケントの横で、俺はウォロ主席が本気であることを悟った。
もちろん、そんなルールにリーナ先輩が黙っている訳がなく。
リーナ「ちょっと待て!キリトは実剣での立ち合いなどしたことがないのだぞ!」
ウォロ「ああ。もっとも、天命を削るような戦いは、禁忌目録により双方の合意がなくては行えない。お前が拒むのであれば寸止めも止む無しだな………。選択は任せよう、キリト錬士。」
リーナ「やめておけ、キリト。ウォロは強い………。危険すぎる………!」
カルム「リーナ先輩。」
リーナ「カルム君?」
カルム「無駄ですよ。アイツ、ああいう事言われると、本気になりますから。」
リーナ先輩には悪いけど、俺は、キリトの顔を見て、全てを悟った。
キリト「流石だな、カルム。方法はお任せします、リーバンテイン殿。俺は懲罰を受ける身ですから。」
カルム「ああなったキリトは、誰も決して止められないんです………。」
俺の言葉に、リーナ先輩は何も言えなくなってしまい、タカトラ先輩とユア先輩は、呆然として、ユージオとケントはため息を吐く。
アイツ、またやらかしやがって………!
心の中でそう毒づいた。
タカトラ「カルム。」
カルム「はい?」
タカトラ「お前の親友は、いつもあんな感じなのか?」
カルム「はい…………。」
ユア「ケント、そうなのか?」
ケント「はい…………。」
タカトラ先輩とユア先輩が俺とケントに質問して、俺とケントはため息を吐きつつ答える。
何でこうなった…………。
今回はここまでです。
カルムが呆れていますね。
タカトラ先輩は、ノヴァ・アセンションの存在に気づいたという。
だからといって、タカトラ先輩は、ノヴァ・アセンションを使えるわけではありませんが。