ソードアート・オンライン 紫紺の剣士   作:仮面大佐

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今回は、カルムなりの想いが明らかになります。


第20話 貴族の責務

ケントside

 

 高い鉄柵に囲まれた修剣学院の敷地は、その3割近くが、うっそうとした森で占めている。

 金色がかった苔を宿した古木が連なり、緑の下生えに木漏れ日が揺れる様は、ルーリッドの森を思い起こさせる。

 ただ、見た事のない動物がたくさんいて、中々に飽きないのだ。

 俺とユージオが、森を見ていると。

 

ルナ「ケント先輩、聞いてるんですか?」

ティーゼ「ユージオ先輩、聞いてるんですか?」

 

 すると、隣から声がして、慌てて視線をルナに戻す。

 

ユージオ「ごめんごめん、聞いてるよ。」

ケント「ええと、何だっけな?」

ルナ「聞いてなかったんですね……。」

ティーゼ「聞いてないじゃないですか!」

ケント「悪い。森があまりにも綺麗でな。」

ユージオ「それに、珍しい動物もいるから………。」

ルナ「珍しい?」

ティーゼ「何がですか?」

 

 ルナとティーゼは、俺達の視線を追ってから、肩を竦める。

 

ルナ「アレはただのキントビギツネですよ。」

ティーゼ「あんなの、街区に生えてる樹にだって一杯棲んでますよ。」

ケント「そうなのか………。」

ユージオ「そういえば、ティーゼとルナは央都出身だったな。家は近いのか?」

ルナ「実家は八区だから、学院がある五区からはちょっと遠いわね。」

ティーゼ「そうです。」

ケント「そうなのか……。」

ユージオ「あれ?」

 

 俺とユージオは、一つ気になった事があるので、ルナに聞いてみる事に。

 

ケント「ルナとティーゼは、貴族出身だろう?」

ユージオ「貴族の屋敷は、三区と四区に集まってるって聞いたんだけど………。」

 

 そう尋ねると、ルナとティーゼは照れたように首を縮めて、小さく頷く。

 

ルナ「お屋敷街に住めるのは、四等爵士までで、私たちの父は六等爵士で、裁決権を持ってなくて………。」

ケント「裁決権って、貴族なら誰もが持ってそうだが………。」

ティーゼ「とんでもないです!裁決権を持っているのは、それこそ四等爵士までで、五等以下の爵士は逆に、上級貴族の裁決の対象になっているんですよ。」

ユージオ「そ、そうなんだ…………。」

ティーゼ「で、ですから………私たちみたいな六等爵士の跡取り娘なんです。」

ルナ「だから、貴族なんて名ばかりで、暮らしは平民となんら変わらないの。」

ユージオ「ふ、ふぅん………。」

ケント「そうなんだな…………。」

 

 俺たちは曖昧な声を出して、国の仕組みについて考える。

 帝国基本法は、ノーランガルス北帝国の社会制度を定めているが、実際には、あらゆる罪とそれに対する罰は、禁忌目録に網羅されているため、帝国基本法は、貴族の権利と平民の権利についての規則が大部分だ。

 初等錬士時代に、いずれ来る闇の軍勢が攻めてきた際に、貴族は指揮官として、剣技を磨き、術式を学び、心身を鍛えていると説明があった。

 これは、某黒髪の生徒が質問したからだ。

 だが、俺たちは、それを聞いて、感心しつつも、割り切れなかった。

 以前、俺たちは、闇の軍勢であろうゴブリンと戦った。

 しかし、当の貴族達は、いざやってくる闇の軍勢に備える為に日々の労働を免除され、広大な屋敷に住み、下級貴族に裁決権を行使している。

 そんな風に思うと、相棒とユージオの相棒の声が聞こえてくる。

 

キリト「………だから、ハイ・ノルキア流の上段の構えから放たれる斬撃で、事前に備えるべきは2つしかないと考えて良いんだ。」

カルム「真上からか、斜め右上から………その他の軌道は、必ず足を踏み替えるから、それを見てからでも受けは間に合う。………。」

 

 どんな会話をしているんだ、カルムとキリトの2人は。

 まあ、シオリもロニエも熱心に聞いてるしな。

 ただ、一つだけ、気になる事がある。

 それは、カルムとキリトが、何の目的で剣を学ぶのかだ。

 2人が剣を学んでいるのは、それによって何かを得るのではなく、剣の道を極めるのが目的なのではないかと思う。

 そんな風に思いながら、食事をする。

 食事は、ロニエとティーゼ、シオリ、ルナが作ってくれた。

 

キリト「はぁ〜。食った、食った。」

カルム「美味しかったな。」

ルナ「あの、すいません、先輩方。」

ティーゼ「実は、お願いがあるんです。」

カルム「お願い?」

 

 ティーゼのアイコンタクトを機に、彼女たちは真面目な雰囲気と共にそう話を切り出して来たのだ。

 その表情にはどこか申し訳なそうな感情も込められており、どうやらかなり深刻の話のようだと察した俺たちは腰を落ち着けてから話を聞く体制に入った。

 

ケント「それで、お願いって?」

ティーゼ「実は、寮で同室のフレニーカとアマネという子何ですが………。」

ロニエ「実は、その2人を傍付きとして指名なさった上級修剣士殿が、かなり厳しい方で………。」

カルム「厳しい?指導がか?」

 

 カルムがそう聞くが、そうではない事が分かる。

 事実、ティーゼとルナは言いにくそうに口を抑えていた。

 そんな2人に代わって、ロニエとシオリが説明してくれた。

 

ロニエ「特にここ数日、少々不適切なことを言いつけになられたようで。」

ユージオ「いくら上級修剣士でも、学院規定外の範囲の仕事は言いつけたりはできないはずだけど………。」

シオリ「ですが、違反にはならずとも、その………女子生徒としては少々………。」

カルム「分かった。もうそれ以上は言わなくていい。」

 

 カルムも、シオリが辛そうな表情をしているのを見て、それ以上は言わせなかった。

 

ユージオ「状況は分かったよ。だけど、フレニーカとアマネの指導生を変更させるには指導生本人の同意も必要なんだ。」

ケント「問題の修剣士は誰なんだ?」

ティーゼ「…………ウンベール・ジーゼック次席上級修剣士殿と、ナツジ・キャンサー上級修剣士殿です。」

「「またあいつらか。」」

 

 ティーゼから告げられた名前に、キリトとカルムが嫌そうな顔をして呟く。

 カルムに至っては、頭を抑えていた。

 その言葉に、ルナ達は驚いていた。

 

ユージオ「実は、何日か前に僕とケントは、ウンベール修剣士とナツジ修剣士と修練場で立ち合ったんだ。」

ケント「結果は引き分けだがな。」

カルム「ライオスとベルの介入がなかったら、確実にユージオとケントが勝ってたほどに優勢だったんだ。もしかしたら、それに納得できずフレニーカとアマネって子に苛立ちをぶつけるためにそうしているのかもしれない。」

ロニエ「それってつまり、腹いせってことですか?」

 

 カルムが憶測して、ロニエがそう答える。

 カルムの手は、きつく握られていた。

 恐らく、かなり怒っている。

 

ティーゼ「私には分かりません」

ユージオ「…………ティーゼ?」

ティーゼ「私とルナのお父様は言ってました。私たちが一般民よりも大きな家に住み、いくつかの特権を与えられているのは当たり前だと思ってはいけない………。貴族は、貴族ではない人たちが楽しく、平和に暮らせるように尽くさなければならない。そして、いつか戦が起きた時は真っ先に剣を取らなければならないと!」

ルナ「なのに、ウンベール上級修剣士殿とナツジ上級修剣士殿のご命令の為にフレニーカとアマネはずっとベットの上で泣いておりました!なんでそんなことが許されるの………?」

 

 悔しさの余り、泣き出すティーゼとルナ。

 ロニエとシオリも、ハンカチを2人に渡し、悔しさを滲ませていた。

 すると。

 

カルム「ノブレス・オブリージュ。」

「「「「「「え?」」」」」」

 

 カルムが発した神聖語に、ルナ達に、俺とユージオが驚く。

 

カルム「ティーゼ、ルナ。君たちのお父さんが教えたのは、ノブレス・オブリージュ。………神聖語で、ノーブル・オブリゲーションだって言えば分かるか。貴族、つまりは力や地位を持つ者はそれを自身ではなく、力のない他者の為に使うべきだという一つの信念みたいなものだ。」

ユージオ「信念………。」

キリト「ああ。誇りやプライド、負うべき責任や義務とも言う意味でもある。」

ケント「負うべき責任や義務…………。」

 

 カルムが言った言葉に、ユージオが呟き、キリトが捕捉して、俺も呟く。

 カルムの話は続く。

 

カルム「俺が傍付きをしていた先輩が良く言ってたんだよ。『貴族とは、闇の軍勢の侵攻が起こった際に、真っ先に剣を取り、力無き民を守る為にある。』ってな。」

ケント「タカトラ先輩か………。」

カルム「うん。俺が言いたいのは、そういった誇りや信念というのは時には規則よりも大切なものなんだ。」

キリト「例え、法律が禁じていないことであっても、してはいけないことは存在している。もちろん、その逆も然りだ。法律が禁じていたとしても、時にはそれを破ってでもしなきゃいけないことも存在するかもしれない。」

カルム「それが誰かの自由や尊厳を守るためであるのなら、罰されるのを覚悟してでもやり抜くことが大事なんじゃないかと俺は思う。」

 

 カルムは一旦、言葉を切って、俺たちを見てくる。

 その瞳は、力強い信念を携えていた。

 

カルム「ずっと昔、聖アウグスティヌスという偉い人が言った。正しくない法は法ではない、ってな。どんな立派な法や権威でも、盲信してはいけないと思う。何が正しいのか、正しくないのかは、自ら考え、判断して、行動する。それが、貴族のあるべき姿なんじゃないのかと、俺は思うよ。」

ケント「カルム…………。」

 

 カルムは、タカトラ先輩と接してきて、そんな風に学んだのか。

 あの人は、本当に良い先輩だったんだな。

 すると、ロニエとシオリが口を開く。

 

シオリ「何が正しいのか、正しくないのかは、自ら考えて、判断する………。」

ロニエ「私、なんとなくですが、カルム先輩の仰りたいことが分かった気がします。それって、自分の中の正義ってことですよね?法を遵守するのではなく、それが本当に正しいのかを自分の正義と照らし合わせる、そういうことですよね?」

カルム「そういう事だ。自らで考え、判断するのが、最も重要だ。凡ゆる物には、絶対という文字は存在しない。」

キリト「その通りだ。ロニエ、考えることは人間の一番強い力なんだ。どんな名剣、どんな秘奥義よりも強い。禁忌や学則に反していなくともウンベールとナツジの行為は絶対に間違ってる。だから、誰かが止めさせないといけない。その役目は。」

 

 キリトはそう言って、俺たちを見てくる。

 キリトとカルムの、力強い信念の視線に、俺たちは覚悟を決めた。

 

ユージオ「ああ………!」

ケント「俺たちの役目だな。………ところでカルム、さっき言っていた、アウグス………何とかって人は何者なんだ?教会の整合騎士か何かなのか?」

カルム「司祭だよ。もう亡くなっているけどな。」

 

 俺の疑問に、カルムはそう答える。

 タカトラ先輩がそう言っていた事に関して、俺は、ユア先輩の事を思い出す。

 ユア先輩は、ユージオが傍付きを務めたゴルゴロッソ先輩と同じく、平民の衛兵隊上がりだ。

 それが理由で、同じ身の上の俺を指名したのだと語った。

 それから1年間、ユア先輩は、決して理不尽に扱いたりはせず、真摯に向き合ってくれた。

 厳しくはあったが、優しい先輩だった。

 卒業する際に、俺は、先輩に尋ねたのだ。

 

ケント「何で、同じ衛兵隊推薦枠で入学したキリトやカルム、ユージオではなく、俺を指名したんですか?」

 

 その問いに、ユア先輩は、頭を少し掻きながら、答えた。

 

ユア「確かに、ケントよりも、キリトやカルムの方が僅かに剣力は上だと、入学試験の演武を見た時に分かった。だが、だからこそお前を指名したんだ。上を睨んで必死に足掻く奴だと思ったからな、私のように。まあ、リーナにタカトラ、ゴルゴロッソが、私より早くキリトとカルムとユージオを指名したのだがな。」

 

 ユア先輩は、そう答えた。

 そして、自らの傍付き錬士を大切にしろとも語った。

 俺は、ユア先輩の背中を見送った。

 その背中は、力強かった。

 これから言う事は、連中には理解されないのかもしれない。

 でも、それでも俺たちが言うべきだと思ったのだ。




今回はここまでです。
タカトラの想いは、ちゃんとカルムに受け継がれていました。
次回、ライオス達に抗議するところから始まります。

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