ソードアート・オンライン 紫紺の剣士   作:仮面大佐

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今回は、エルドリエと戦う直前までです。


第25話 決意の脱獄

カルムside

 

 アリスとイーディスによって、セントラル・カセドラルに連れてこられた俺たち。

 すぐに審問されて、処刑されるのかと思っていたが、1日半が経過した。

 その間、見回りの衛士が食事を届けてくる事以外、何もなかった。

 無論、部屋に繋がれた鎖を手に嵌められているので、決して自由ではないが。

 

カルム「この牢屋にぶち込まれて、1日半が経過するなぁ。ケント、少しは落ち着いたか?」

ケント「………なんだか………まだ夢を見ているような感覚だ。俺がナツジの左腕を切ったことも、それにベルがあんな風になったことも……。」

カルム「あんまり思い詰めるな。今は、これからの事を考えよう。」

ケント「そうだな。」

 

 ちなみに、キリトとユージオ、俺とケントの2組に別れており、少し離された所にぶち込まれている。

 どうしたもんか………。

 

ケント「これからの事か………。カルムの言う通りだ。何とかこの牢屋から脱獄して、イーディスに何が起きたのかを確かめないとな……!」

カルム「その意気だ!」

 

 だが、ケントの発言には、俺は驚く。

 ケントが何の躊躇いもなく、『牢屋から脱獄して』と言った。

 つまり、ケントにとって、優先順位は、公理教会よりもイーディスの方が高いのだろう。

 ケント、変わったな。

 相棒の成長に、俺は嬉しかった。

 後は、どう脱出するかだよな。

 この鎖を切らないといけないが、雷鳴剣黄雷と刃王剣十聖刃は、イーディスに持っていかれてしまった。

 一応、ケントに聞いてみる。

 

カルム「ケント。あれは本当に、お前が探してたイーディスなのか?」

ケント「間違いない。あの声、あの髪色に赤い目。………忘れる筈がない。彼女は間違いなくイーディスだ。………雰囲気はかなり違うけどな。」

カルム「幼馴染のお前を覚えていない上に、容赦なく叩いたしな。つまり、何らかの手段で、記憶とか思考を制御されている、って事になるのかな?」

ケント「だが、そんな神聖術、教本には載っていなかったぞ?」

カルム「教会の偉い司祭ってのは、天命さえも操れるんだろ?記憶をどうこうするのは簡単だと思うけど。」

 

 STLは、記憶をどうこうする事が出来るマシンだからな。

 それが出来るなら、人工フラクトライトに対しては、簡単に出来る筈。

 だが、菊岡が、人工フラクトライトにそんな権利を持たせるとは到底思えない。

 何を企んでるんだ?

 

カルム「だけど、気になるな。あの声は一体なんだ?」

ケント「ああ。お前とキリトが聞いたって言ってた声か?」

 

 詳細は、ケントとユージオには話していないが、ゴブリンとの戦いで重傷を負ったケントとユージオを助けるべく、メアリとセルカの力を借りて、自分の天命をケントに分け与えた。

 だが、俺も死にそうになった時。

 

イーディス『私とアリスは、いつまでも待っているわ。………セントラル・カセドラルの最上階で、………皆を待ってる………。』

 

 そう聞こえたのだ。

 だが、俺たちの目の前に現れたイーディスは、村長の補佐の娘のイーディス・リデルではなく、イーディス・シンセシス・テンと名乗った。

 どうなったのかは、全ては最上階に行けば分かる筈だ。

 

カルム「さて、どうにかして、この鎖を切らないとな。」

ケント「それはそうだが、何度も試しただろう?同クラスの武器とかがないと、この鎖は切れないぞ。」

カルム「それなんだけど、あるだろ。この鎖と同クラスの物が。」

ケント「え?」

 

 俺はそう言って、鎖を持ち上げる。

 ここでもステイシアの窓を開ける事が分かり、鎖の優先度を見てみると、38だった。

 確かに、この鎖以外には何もないが、逆に、この鎖が2本あるのだ。

 

ケント「つまり、この鎖を引っ張って、切ろうという事か?」

カルム「ああ。原理上、鎖の優先度はまったく同じだから、これで互いの天命を削り合うと思う。」

 

 俺はそう言って、鎖を交差させる。

 念のため、ステイシアの窓は開きっぱなしにしておいて、どこまで削れたのかを確認する。

 

カルム「行くぞ………!」

ケント「ああ…………!」

「「せぇの!!」」

 

 掛け声と共に、鎖を引っ張り合う。

 天命を確認すると、たった一回で半分は削れていた。

 

カルム「流石だな…………。たった一撃で、半分は削れたぜ。」

ケント「あと一回だな。」

カルム「ああ。行くぞ!」

「「せぇの!!」

 

 その掛け声と共に引っ張ると、鎖が切れて、俺たちは壁に頭をぶつける。

 ケントが呻き声を上げる。

 

ケント「いててて………。今ので天命が100ぐらい減った気がするな………。」

カルム「それぐらいなら、まだマシだろ?」

 

 鎖は、長さ1メートル20センチほどを残して切断されていた。

 もう一度ステイシアの窓を見てみると、鎖の天命は、18000にまで回復していた。

 どうやら、新しい鎖型オブジェクトとして再設定されたみたいだな。

 

カルム「さて、と。」

 

 俺は周囲を見渡してみると、テーブルが一つだけあった。

 これを使えば、脱出出来るな。

 だが、一つケントに聞いておこう。

 俺は真剣な眼差しで、ケントを見つめる。

 

カルム「一応聞いておくけど………良いんだよな、ケント。ここから脱出して、イーディスに関する真実を探る事………。すなわち、公理教会に真っ向から反逆する事になる。何か行動を起こすたびに、一々葛藤している余裕はない。覚悟が決まらないなら、ここで待っててくれ。」

 

 俺としても、こんな厳しい事をケントには言いたくないが、避けては通れない。

 ケントのフラクトライトは、激しい構造変化を経験した直後だ。

 あまりケントの思考回路に負荷は与えたくない。

 しかし、この牢屋から脱出して、カセドラルへと侵入するという行動をするなら、一々葛藤されては困る。

 そして、最上階にあるであろうシステム・コンソールに無事に辿り着いてもらい、菊岡と話をさせる。

 そうすれば、流石の菊岡も、とんでもない物を創ったと認識するだろう。

 俺の言葉にケントは、一瞬大きく目を見開いて、ゆっくりと俯く。

 

ケント「………ああ………。分かってる。」

 

 ケントの発せられた声は、静かな囁きではあるが、揺らぎはない。

 

ケント「俺はもう迷わない。イーディスと一緒にルーリッドの村に帰る為なら、公理教会に背いて、何度でも戦う。………あの整合騎士が本物のイーディスなら、記憶を失っている理由を突き止めて、元に戻す。」

 

 ケントのその言葉に、迷いはなかった。

 ケントの信念が伝わる。

 

ケント「以前、森遊びの時に、お前とキリトが言ってた、『法で禁じられていたとしても、しなきゃいけない事だってある。』って言葉。漸く意味が分かったよ。」

カルム「そっか…………。ケントの覚悟、伝わったよ。」

ケント「ああ。」

カルム「さて、ここから出て、キリト達と合流しよう!」

ケント「そうだな!」

 

 俺は、部屋に置いてあったテーブルを持って、タカトラ先輩から教わった投擲術を使う。

 すると、鉄格子は上下の枠から外れて吹き飛んで、床に倒れる。

 あまりにも大きい音がなったので、獄吏が来る事を警戒したが、何にも来ない。

 

カルム「待ち伏せしている可能性がある。注意して、キリト達と合流しよう。」

ケント「了解。」

 

 俺たちは足音を殺しつつ、駆け出す。

 しばらく走っていると、キリトとユージオと合流する。

 

カルム「キリト、ユージオ!」

キリト「カルム、ケント!無事に出れたんだな!」

ケント「ああ。」

ユージオ「これで4人が揃ったね。」

 

 再会を喜びつつ、俺たちは外へと向かっていく。

 途中、看守室を通り過ぎようとして、中を覗いてみたが、看守は寝ていた。

 

ユージオ「…………ねぇ、キリト、ケント、カルム…………。」

ケント「アレは………寝ているな。」

キリト「随分とぐっすりだな。」

カルム「………お勤めご苦労様です。」

 

 ユージオとケントの言葉に苦笑しながら答える俺たち。

 その視線の先には、看守室のベットでぐっすりお休み中の看守その人の姿があったからだ。

 とりあえずラッキー半分同情半分の感想を抱きながら、俺たちは牢獄を脱出して地上へ、セントラル・カテドラルの庭園へと出た。

 牢獄から距離を取ったところで追手がきていないことを確認して、ようやく一息を吐くことができた。

 

カルム「追手は…………来てないな。」

キリト「そうだな。脱獄が気づかれてなくて良かったぜ。」

カルム「問題は、どうやってセントラル・カセドラルの中に入るかだけど………。」

ユージオ「………うん?ねぇ、ケント。」

ケント「どうした?………アレは………。」

 

 脱獄が成功した事にホッとしつつ、これからの事をキリトと話し合っていると、ユージオとケントが何かを見つけたようだ。

 

ユージオ「………間違いない………!」

ケント「咲いているのは初めて見たが、これは薔薇だ!」

キリト「へぇ~、薔薇か……って、薔薇!?本当か!?」

カルム「もしかして…………この馬鹿広い庭園に咲いてる花が全部薔薇!?」

 

 驚くユージオとケントの言葉に、キリトと俺もびっくしりして慌てて周りの花を見渡していた。

 そもそも薔薇の花というアンダーワールドではかなり貴重な花なのである。

 央都や学院でさえ見ることはなかったのだから驚くのは無理ない話だった。

 それに、飛竜で連行されてきた際に空から庭園の光景は目にしていたが、只でさえ迷路のように広がる庭園に薔薇が咲き誇っているのだとすれば、ここが以下に外部と比べて違う場所なのだということを認識させられたような気がした。

 どうやら、ユージオとケントも同じような気持ちらしい。

 

ユージオ「信じられないよ………。」

ケント「ああ。俺たち、セントラル・カセドラルに来たんだな。」

カルム「予定よりも早く………しかも、罪人としてだけどね。」

キリト「だけど逆に助かったのかもしれないな………。もし整合騎士になってからここに来たら、俺たちも記憶を制御されていたかもしれない。」

 

 確かに、そうだな。

 すると、俺の心に、とある疑問が浮かぶ。

 

カルム「でもさ………。もし記憶を操られているとすれば、整合騎士たちは自分を何だと思っているんだ?全ての記憶が封じられているわけじゃないだろう?」

キリト「自分がどう生まれてとか、家族や故郷のことに関する知識は残っていないと変だよな。だって、それが自分の根っこの部分………本来の起源に当たるわけだからさ。」

ユージオ「そんな大本の記憶まで操作するなんていくら何でも難しそうだよね………。整合騎士は飛竜でどの地域にもすぐに向かうことができるわけだし………。」

ケント「本物の記憶を封じてから偽物の記憶を植え付けたとしても、自分の生まれ故郷を訪れでもすれば嘘だって気づくわけ………あっ。」

 

 途中まで言いかけたケントの言葉が止まる。

 ユージオとケントの反応が同じ事から、同じ事を考えているのだろう。

 

キリト「ユージオ……ケント……2人とも、このカセドラルで、もしかしたら俺たちの記憶を取り戻す手段が見つかるかもしれないって思ったんだろう?」

カルム「…………そういうことね。」

「「……………。」」

 

 キリトの指摘に黙るケントとユージオ。

 そんな2人に、俺とキリトは近寄る。

 

キリト「コイツらめ!この、この……!」

カルム「心配しすぎだろ。」

ユージオ「や、やめてよ2人とも!」

ケント「頬を引っ張るな!」

 

 キリトがユージオとケントの髪をくしゃくしゃする横で、2人の頬をつねる。

 2人は照れていた。

 

キリト「言っただろう?記憶が戻ろうと戻らまいと、俺もカルムもお前らに最後まで付き合うって。」

カルム「そこまで心配されると、逆にこっちが不安になるぞ?」

ユージオ「……もちろん二人の言っていることを疑ってるわけじゃないんだ………。何度も二人はそう言ってくれたわけだし。」

ケント「だが………俺たちの旅そのものが終わりに近づいているだと思ったら、なんだか…………。」

 

 なるほどな。

 つまり、旅の終着点に着いたら、俺たちが居なくなってしまうと考えたんだな。

 だから、俺たちは答える。

 

キリト「だったら、旅の終わりは幸せな結果にしようぜ。」

カルム「そうだな………。悲しい結末よりも、いつでも笑って思い出せる記憶にさ。アリスとイーディスの記憶を戻して、ルーリッドの村に戻るっていうお前らの夢を叶えてさ。」

キリト「あっ、そうなると、ユージオとケントはまた転職を選び直さないといけないな。今からよく考えておいた方がいいぞ?きっと次のは一生ものになるだろうからな。」

「「…………………。」」

 

 俺とキリトの言葉に呆気に取られるケントとユージオだったが、いつもの調子に戻って、苦笑しながら答える。

 

ユージオ「それは気が早すぎないかい?」

ケント「まあ、何がどうあれ、木樵だけはごめんだがな。」

キリト「そりゃそうだ。」

カルム「あんな途方もない事を経験すればな。じゃあ、行こうか。」

 

 俺たちは、カセドラルに向けて歩き出す。

 しばらくして、噴水がある少し開けた場所に出る。

 すると。

 

???「流石は我が師アリス様………。その慧眼はやはり素晴らしい。」

「「「「っ!?」」」」

 

 突然、男性の声がして、視線を向けると、アリスやイーディスの物とは違うデザインの鎧を着ている男性がいた。

 十中八九、整合騎士だろうな。

 

???「まさか、囚人の脱走という万が一の脱走を予期されていたのだからな。君たちの脱走に備えてここで一晩過ごせと命じられていたが、アリス様の予想に間違いはなかったな。」

キリト「アリスが………?」

カルム「我が師………?」

???「正直私は半信半疑だったが、まさか本当に現れるとはな。」

カルム「……整合騎士か。脱走が予想されていたのは予想外だったな。」

 

 まさか、脱走が予期されていたのか!?

 これに関しては想定外だ。

 くそ、刃王剣十聖刃が欲しい………!

 戦力に関しては、こちらが不利だ。

 

???「もちろん、すぐに地下牢に戻ってもらうが………その前に少々厳しい仕置きが必要なようだ。君たちも覚悟の上だろうがね。」

 

 くそ、相手の余裕さがムカつく!

 キザな台詞を吐きやがって………!

 

キリト「なら、アンタも分かっているだろうな?」

カルム「罪人である俺たちが無抵抗で罰を受け入れるとでも思ってたら、逆に痛い目を見ることになるぞ?」

エルドリエ「………アハハハハ!威勢がいいね!その空元気に敬意を表して名乗っておこう…………。私は整合騎士、エルドリエ・シンセシス・サーティワン。」

ユージオ「……えっ!?」

ケント「エルドリエ………!?」

 

 なんか、ユージオとケントが酷く驚いているな。

 まあ、あまり気にしてはいられないが。

 

エルドリエ「ほんの一月前に召喚されたばかりで、未だ統括地も持たない若輩者だが……そこはお許し願おうかな?」

カルム「良いですよ。その余裕の笑みと態度を出せなくしてやりますよ………!」

 

 コイツ、絶対に態度を崩させてやる!

 どうやら、俺はキザな奴が嫌いのようだ。

 こうして、整合騎士との戦いが幕を開ける。

 




今回はここまでです。
次回、エルドリエとの戦闘です。
アリシゼーションのアドミニストレータと戦闘後の話はどうするかは、現在考え中です。
一応、ユージオ、ケント、カーディナルは生存させるつもりです。
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