カルムside
俺は、カーディナルから、アドミニストレータの誕生経緯を聞いて驚いた。
まさか、そんな事が…………。
というより、アンダーワールド人が、よくあの悪魔のリストを見つけられたな。
まさか、ラースの内部に、アドミニストレータに魂を売った奴が居るのか?
俺がそんな風に絶句している中、カーディナルの話は続く。
カーディナル「この世界は絶対者アドミニストレータの統治下で平和かつ無為な時代が長く続くことになったが………。クイネラがアドミニストレータとなって70年後のことじゃった。アドミニストレータにある異変が起きたのじゃ。」
カルム「異変?」
何の事かと首を傾げていると、カーディナルの口から放たれたのは、意外な事だった。
カーディナル「記憶を保持するための魂の容量………フラクトライトがいつの間にか限界に達していたのじゃ。」
カルム「フラクトライトの限界………?」
キリト「なるほどな…………。」
カーディナル「しかし、あやつはまたしても悪魔的な解決法を考え出した………。他人のフラクトライトを強奪するために、魂と記憶の統合を意味するシンセサイズの秘儀………悪魔の儀式をな。」
カルム「シンセサイズの秘儀………?」
そういえば、エルドリエも、シンセシスという名前がついているが、それと関係があるのか?
そんな風に考える中、カーディナルは語り続ける。
カーディナル「じゃが、そこでアドミニストレータ………クイネラは失敗を犯した。」
「「失敗………?」」
カーディナル「そう………。何故なら、女子に乗り移りそれまでの自分を処分する一瞬だけ、同等の力を持つ神が二人存在してしまうことになるからじゃ。ところで、お主たちのどちらか。わしのオリジナルバージョンを知っておるのなら、カーディナルシステムの特徴を言ってみよ。」
その言葉に、俺とキリトは顔を見合わせ、答える。
キリト「確か………人間によるメンテナンスや修正を必要とせずに長期間稼働できる、だったか?」
カーディナル「そうじゃ。そのためにカーディナルシステムはメインとサブの二つのコアプログラムを持っておる。メインプロセスがバランス制御を行っている間は………。」
カルム「サブがメインのエラーチェック、サポートを行うってことになる。」
カーディナル「その通りじゃ。」
俺とキリトの言葉にカーディナルは頷き、その先へと話を進める。
まあ、神代博士から聞いたんだけど。
カーディナル「クイネラが己のフラクトライトに刻み込んでしまったのは、秩序の維持だけでなかった。サブプロセスであるわしは奴の心の奥底でこう考えていた。こんな女の過ちを正さねば…………とな。」
カルム「過ちね…………。」
カーディナル「わしは待った………待ったのじゃ。その時が訪れるのをひたすら待っておったのじゃ………70年の長きに渡ってな。」
そこから、カーディナルは、アドミニストレータの失敗を語った。
一人の修道女……その子は常人よりもシステムアクセス権限が高かったらしい……その人格を『悪魔の儀式』で乗っ取ろうとした瞬間のことだった。
選んだ少女のフラクトライトが崩壊したことで、サブプロセス……カーディナルがその肉体を持つことが可能になり、神聖術による奇襲でアドミニストレータの抹殺を図ったらしい。
だが、アドミニストレータは空間支配による神聖術使用不可の領域を展開し、不利を悟ったカーディナルはこの大図書室へと逃げ込んだのだという。
カーディナル「………それ以来200年………。外と完全に隔離されたこの場所で、ひたすらに観察と思索のみを積み重ね、逆襲の一撃を見舞うべく方策を練った。」
「「……………。」」
200年も、この大図書室に篭って、アドミニストレータを倒そうと考えていたのか……。
途方もない年月だろうに………。
カーディナル「しかし、あやつはわしの奇襲に備え、忠実にして強力な手駒と武器を揃えようと考えたのじゃ。」
キリト「………まさか。それが整合騎士なのか?」
カーディナル「そうじゃ。最初の整合騎士となったのは、不誠実の剣士と呼ばれながらも教会の支配を嫌って仲間たちと共に辺境に流れ、自ら村を開拓した豪傑じゃった………。ベルクーリ・シンセシス・ワン………。それがその騎士の名じゃ。」
カルム「ベルクーリ………。」
その人物の名前は、ユージオとケントからよく聞いていた。
まさか、ルーリッドの村を拓いた豪傑が、最初の整合騎士にされるとはな。
だが、一つ気になることがある。
カルム「なぁ、手駒は分かったけど、武器って一体なんだ?」
カーディナル「そうじゃったな。特にカルム。お主に関係する。」
カルム「俺に?」
カーディナル「うむ。刃王剣十聖刃の担い手たるお主にはな。」
カルム「………ッ!?」
どういう事だ?
そんな風に首を傾げていると、カーディナルは話し始める。
カーディナル「ベルクーリが最初の整合騎士になる前の話じゃ。アドミニストレータは、各地に散らばっている聖剣を、貴族などを介して集めておった。」
カルム「カーディナルに対抗するため?」
カーディナル「うむ。あやつは、システム・コマンドリストの中に、とある物を見つけた。」
カルム「それは?」
カーディナル「それこそが、刃王剣十聖刃が精製されるものじゃ。」
本当にどういう事?
その疑問は、カーディナルが教えてくれた。
曰く、11本の聖剣を集めて、その神聖術を発動すると、刃王剣十聖刃が誕生するらしい。
アドミニストレータは、早速聖剣を集め、その神聖術を発動した。
刃王剣十聖刃が誕生したと同時に、カーディナルが大図書室から現れ、刃王剣十聖刃、火炎剣烈火、水勢剣流水、雷鳴剣黄雷、土豪剣激土、風双剣翠風、音銃剣錫音、闇黒剣月闇、光剛剣最光、無銘剣虚無を回収して、大図書室に撤退したらしい。
カーディナル「わしとしては、かなりの大博打であったがな。」
カルム「そうだったのか………。じゃあ、ユーリが持っているのは?」
ユーリ「それは、光剛剣最光だ。」
その声がして、背後を振り返ると、ユーリが居た。
ケントとユージオを案内し終えたのか?
カルム「あの………。ユーリは一体どういう存在なんですか?」
ユーリ「俺は、元々は、光剛剣最光を守る一族の出身だった。だが、アドミニストレータが光剛剣最光を差し出せと命令してきてな。俺は、他の聖剣も奪われている事を察知して、とある術を使ったのだ。」
カルム「術?」
ユーリ「うむ。それは、俺が光剛剣最光と一体化する事だ。」
カルム「出来るんですか?」
ユーリ「なんとか出来た。そして、アドミニストレータが刃王剣を精製したと同時に、奴から煙叡剣狼煙と時国剣界時以外の聖剣をカーディナルと共に奪還したのだ。」
人と剣が融合するなんて…………。
そんな事をするとは………。
カルム「ユーリは、聖剣と一体化して、300年は過ごしたんですか?」
ユーリ「そうだな。」
カルム「…………後悔してないんですか?」
ユーリ「後悔はしていない。これも聖剣を守る為だ。」
カルム「そうなんですか………。」
キリト「それはそうと、ユーリはなんでカルムに刃王剣十聖刃を、ケントに雷鳴剣黄雷を託したんだ?」
キリトの疑問に、ユーリは答えた。
ユーリ「それは、お前たちに、アドミニストレータを倒し、公理教会をあるべき姿に戻せる可能性を見出した。」
カルム「俺たちが?」
ユーリ「雷鳴剣黄雷に関しては、元の場所に戻しただけだったが、ケントが持っていった時から、見守っていた。そこにカルムが現れ、闇の軍勢にも怯まずに立ち向かった。だからこそ、刃王剣十聖刃をカルムに託したのだ。」
カルム「そうだったんだ………。」
ユーリ「コイツなら、この狂ってしまった世界を正しい方向へと導いてくれる。そして、この人界の民を守る事が出来るような気がしたんだ。」
ユーリ…………。
ユーリに託された刃王剣十聖刃を、奪還しないとな。
ユーリは言いたい事は全部言ったのか、去っていった。
一方、カーディナルは、キリトにシャーロットという蜘蛛が張り付いていた事を話していて、話し終えたようだ。
キリト「200年………。そんなに長い間あんたは協力者を探していたんだな。」
カーディナル「うむ………。しかし、そうして長い間、世界を眺めている間に流石のわしも思ったよ………。何故、この世界を作った外界の神たちは偽りの神アドミニストレータの専横を放置しているのかとな。」
カルム「………ぐうの音も出ないな。」
カーディナルは、外界の神………ラースのスタッフに関しては、失望しているようだな。
菊岡は、何をやってるんだ?
カーディナル「そのことを考えながら、カーディナルシステムに内蔵されたデータベースを参照していく中で一つの答えに思い至った……。真の神たるラースはこの世界の人間たちの幸せの営みなど望んでなどおらぬのだと。」
カルム「…………どういう事だ?」
カーディナル「ラースはこの世界に住む民たちをゆっくりと万力で締め上げ、その負荷にどのように贖うのかを観察しているのだと。現在にも負荷は日に日に増し、そして、最大の試練として負荷実験の最終フェーズが訪れる。」
「「………最終フェーズ?」」
何のフェーズだ?
そう考えていたが、カーディナルの放った一言に、全てに察しがついた。
カーディナル「人界の外には何が広がっているのかはお主たちも把握しておるな?」
キリト「………ダークテリトリーだよな?」
カーディナル「そのダークテリトリー………闇の世界に住む住人こそが民たちに究極の苦痛を与えるべく造られた装置………。人間と同じフラクトライトに殺戮と強奪の行動原理を付与された怪物たちが人界陣への領土へと攻め入り、暴虐の限りを尽くす日を今か今かと待っておる………。それは、遠い未来の話ではない。」
カルム「なんだって………。」
それじゃあ、菊岡の狙いは、戦争を起こさせる事………!?
アイツ………!
人工フラクトライトの命を軽く見てやがる。
菊岡『僕からすれば、10万の人工知能の命は、1人の人間の命よりも軽い。』
クソッ、アイツならそう言うのが妙に予想がつくな!
アンダーワールドから無事ログアウトしたら、1発ぶん殴ってやる………!
今はいないクソメガネの事を考えながら、カーディナルに聞く。
キリト「………それって、アドミニストレータは知ってるんですか?」
カーディナル「もちろん知っておるわ。じゃが、あやつは己と整合騎士のみで闇の軍勢を問題なく撃退できると高を括っておる。貴重な戦力となってくれるはずじゃった東西南北の守護竜すらも、己の操作が効かぬというだけの理由で屠ってしまったほどじゃ。」
カルム「………己が支配する人界を変化もなしに保つか。これからの事を考えないで楽観的に過ごすなんて、クソ女だな。」
カーディナル「………おい。カルム、お主、意外と辛辣な事も言えるのじゃな………。まあ、合ってはおるが………。」
キリト「あぁ………。多分、ラースの人物に怒ってるんだろうな。アイツ、怒るとかなり怖いからな。」
合ってるよ。
本当に、ラースの人は、比嘉さんや安田博士ぐらいしかまともな人が居ないな!
まあ、それぐらいしか接触してないけど。
カーディナル「話を戻すぞ。もちろんアドミニストレータと整合騎士だけで闇の軍勢に勝つというのは無理な話じゃ。質がどんなにあっても、絶対数が違いすぎる。」
キリト「それに、闇の軍勢にも強い奴はいるんだろう?もし質さえも同等………いや、整合騎士以上だったりしたら…………。」
カルム「それじゃあ、例えアドミニストレータを倒そうと倒さまいと、結局この世界が辿る運命は変らないってことなのか?」
カーディナル「その通りじゃ。ここに至ってはわしにすら、もう既にダークテリトリーからの侵略を防ぐ術はない。」
「「……………。」」
つまり、アドミニストレータを倒しても、人界が闇の軍勢に蹂躙され、倒せなくても、結局は蹂躙される。
詰みじゃないか。
キリトが、カーディナルに質問する。
キリト「つまり、貴女はこの世界をどうするつもりなんだ?そんな終わり方しか待っていないこの世界はもうどうなってしまってもいいと考えているのか?」
カーディナル「………そうかもしれない。」
カーディナルは、そう答えた。
だが、更に言葉が紡がれる。
カーディナルなりの、ラースへの怒りを込めた言葉が。
カーディナル「しかし、わしは世界の終末を仕組んだラースを………世界の神を断じて認めん。故に、わしは唯一の結論に至ったのじゃ…
……。アンダーワールドを………人界もダークテリトリーも全て纏めて無に帰す。」
カルム「無に………帰す?」
カーディナル「言葉通りじゃよ。ライトキューブクラスターに保存されている全てのフラクトライトを削除するのじゃ………。人界の民の物も闇の民の物も一つ残らずな。」
「「っ!?」」
それが、カーディナルの、ラースに対する復讐か。
まあ、気持ちは分からなくはないが………。
カーディナル「キリト、カルム。お主たちの助勢によりアドミニストレータを排除し、わしが全権限を取り戻せたら、この世界を消滅させる前に、限定的ではあるがお主たちの望みを叶えよう。助けたいと思う者を指定すれば、その者たちのフラクトライトは消去せず、凍結させたまま残す。」
「「……!?」」
カーディナル「10個程度であれば、外部世界に脱出した後、彼らのライトキューブを確保することもできよう。」
それは、助けたい人を選べという意味になる。
この世界で会った人たちが脳裏をよぎる。
ルーリッド村でお世話になった、セルカとメアリ。
ザッカリアでお世話になったウォルデ一家の人たち。
修剣学院で、俺に持つべき信念を教えてくれたタカトラ先輩。
同じく修剣学院で、傍付きとして俺を慕ってくれたシオリ。
そして、ここまで一緒に来てくれたケントとユージオ。
だが、その人達だけを救うというのは、それこそ、ラースと何にも変わらないのでは?
家庭用ゲーム機のセーブデータを整理するのとは訳が違う。
俺に、そんな事が出来るのか………?
キリト「俺に………俺には………。」
カルム「カーディナル。貴女は自分の魂はアドミニストレータの魂と同じ………コピーだって言ったよな?なら、どうして支配という欲望や利益を差し置いてまでアドミニストレータの打倒を目論むんだ?そんな状況なら全てを放り出して逃げることだってできた筈だ………。それなのに、200年以上もこんな場所でその機会を待ち続けたんだ?」
カーディナル「簡単な話じゃ………カーディナル・サブプロセスであるわしにとって、あらゆる利益、あらゆる望みはただ一つ…………アドミニストレータの排除と世界の正常化だからじゃ。尤も、わしにとっては世界の正常化を図るには完全なる虚無に帰すことでしか実現できぬのだがな…………。」
「「………………。」」
カーディナルは、そんな風に宣った。
カーディナル・システムとして導いた結論が、世界を虚無に帰す事しかないのか……?
そんな風に思っていると、カーディナルは悲しげな表情を浮かべる。
カーディナル「いや、そうではないか………。わしにも欲望はある。たった一つ、この200年知りたかったことがある。」
なんだ、それ?
俺たちが目を見合わせて、首を傾げていると、カーディナルが立った。
カーディナル「お主らのどちらか、ちょっとこっちに来てくれぬか?」
カルム「………良いけど。」
カーディナルに頼まれ、キリトと相談した結果、俺が行く事に。
カーディナル「ぐぬぬぬ………。よいしょっと。これで良い。」
カルム「……………?」
カーディナルは椅子の上に立っていた。
ますます意味が分からない………。
カーディナル「おい、カルム。もっと近くに寄ってこい。」
カルム「う、うん。」
カーディナル「うむ。では、両手を広げよ。」
カルム「ああ。」
カーディナルの指示通りに目の前に立って、俺は両手を広げた。
次の指示が飛んできた。
カーディナル「前に回し輪っかを作れ。」
カルム「………………。」
俺は、カーディナルの言う通りに、カーディナルの体を迂回させて背中から随分と離れた場所で手を繋ぐ。
しばらくの沈黙。
すると、カーディナルは舌打ちをする。
カーディナル「ええい、遠回りな奴じゃ。」
カルム「ええ………?」
そう言ったカーディナルは、俺の胸に飛び込んでくる。
どういう事かと首を傾げていると。
カーディナル「そうか………これが………これが人間であるという事か。」
その言葉で、全てを悟った。
200年に渡る孤独の中、人との触れ合いを知りたいと思ったんだろうな。
俺は、優しくカーディナルを抱きしめる。
すると、カーディナルから、涙が流れる。
カーディナル「やっと報われた……。私の200年は間違いじゃなかった。この温かさを知っただけで私は満足………報われた…………。」
カルム「カーディナル…………。」
キリト「……………。」
恐らく、これが、サブプロセスとしてでもなく、図書館の司書でもなく、カーディナルという少女の素顔なのだろう。
すると、体にあった重みが消えて、抱き着いた際に落ちた帽子を拾うカーディナルの姿が目に入り、彼女が俺から離れたのだと理解した。
カーディナル「いつまでボーッと突っ立っているのだ?」
カルム「切り替え早いな。」
カーディナル「………それで、結論は出たのか?わしの提案に乗るのか、それとも蹴るのか。」
「「………………。」」
カーディナルの問いに、俺とキリトは顔を見合わせる。
どうやら、答えは同じのようだ。
キリト「分かった。あんたの作戦に乗るよ。」
カルム「でも。」
カーディナル「でも…………?」
カルム「俺たちは模索するよ。何か他に手段があるのかを見つけてみせる。」
キリト「ああ。アドミニストレータを倒して、この世界が平穏に続けられるような方法を………。」
俺とキリトの言葉に、カーディナルは呆れたようなため息を吐く。
カーディナル「やれやれ、お主らはとんでもない楽天家じゃのう。」
カルム「それに、俺たちは、アンタにも消えてほしくないんだ。10人選べと言われたなら、その中にアンタを入れる。」
その言葉に、カーディナルは顔に苦笑の色を浮かべて、かぶりを振る。
カーディナル「………その上、愚かな奴らじゃ。わしが脱出してしまったら、誰がこの世界を消去するというのだ。」
キリト「だから………カルムも俺も、状況は理解したけど、悪足掻きは放棄しない、って言ってるだけだよ。カルムは、諦めが悪いからな。」
さりげなくディスられた気がするが、俺はそれに頷く。
カーディナルは、何を思ったのか、言葉を言う。
カーディナル「お主たちにもいずれ分かる時がくる………。諦めるという苦さを味を知る時がな。力尽くして及ばぬ時ではなく、及ばぬであろうという推測を受け入れなくてはならぬ時がな。」
その言葉は、忠告とも、これからの出来事を予期したかのような感じに聞こえた。
今回はここまでです。
すいません!
武装完全支配術に関しては、次回になります。
異世界かるてっとの映画も詳細が公開され、見たくなりました。