カルムside
あの2つの武装完全支配術が暴走して、カセドラルに穴が開いてしまった。
その穴に、俺とイーディスは吸い込まれる。
その際に、イーディスの片手を掴み、刃王剣十聖刃を、外壁に突き刺す。
なんとか助かった…………。
すると、下の整合騎士が暴れ出す。
イーディス「ちょっと!離しなさいよ!アリスがいないんなら、私も死ぬ!」
カルム「ちょっ…………!?」
そう言って暴れ出すものだから、イーディスが落ちかける。
自暴自棄になってるな。
すると、俺の口から、大声で罵倒する声が出る。
カルム「動くなバカ!アンタ、整合騎士なんだろう!ここで自暴自棄になっても何も解決しないぞ、バカ!!」
イーディス「アンタ………!何よ、その言い方!撤回しなさい!」
カルム「うるさい!バカにバカって言って何が悪いんだ、バカ!バーカ!」
すると、みるみる内に、イーディスの顔が赤く染まっていく。
俺は、イーディスを説得する。
カルム「良いか!俺と一緒にここで死んだら、カセドラルに残ったユージオとケントは、すぐに最高司祭の下に行く!アンタは、それを防ぐのが仕事だろ!?なら、ここで自暴自棄になるな!その程度の理屈も飲み込めないなんて、バカだな、バカ!」
イーディス「それは、宣戦布告と見做して良いのかしら?」
そう言って、闇斬剣を振ろうとするが、理性が勝って、やめる。
イーディス「まあ、アンタの言う事にも一理はあるよ。でも、アリスが………!」
カルム「アリスなら、きっと無事だ!」
イーディス「何で、そう言い切れるのよ。」
カルム「アリスが落ちた時に、キリトも一緒に落ちてた!アイツがアリスを見捨てないって、分かるんだよ!!」
俺の絶叫に、イーディスは目を閉じる。
すると、冷静になったみたいだ。
イーディス「…………分かった。今は、アンタを信じる。」
カルム「そう言って貰えると助かる!それはそうと、そろそろ腕がキツいんで、壁に剣を突き立ててくれないか………!?」
イーディス「わ、分かったわ…………!」
俺はなんとかイーディスを持ち上げて、イーディスの闇斬剣を突き刺してもらう。
まだ、刃王剣十聖刃は、抜け落ちる気配が見られない。
すると、イーディスが尋ねてくる。
イーディス「アンタは………。」
カルム「ん?」
イーディス「随分と、そのキリトって奴を信じてるんだね。」
カルム「まあ、長い付き合いだしな。アイツが見捨てる可能性は、ゼロだ。」
イーディス「言い切るわね…………。まあ、アンタとは、剣の決着がついてないしね。」
カルム「さいですか…………。それはそうと、俺たちは、どうにかして、カセドラルの内部に戻らないといけない。」
イーディス「そうね…………。」
カルム「だから、ここは、一時休戦という事にしないか?」
俺の提案に、イーディスは少し葛藤をする様な反応をするが、すぐに頷く。
イーディス「まあ、良いわ。ただし、アリスが生きてないのなら、アンタを容赦なく斬るわ。それは覚えなさい。」
カルム「分かった。」
キリト、アリスを殺すなよ。
俺は心の中でそう呟き、イーディスと向き合う。
カルム「それはそうとさ、どうやって戻るんだ?」
イーディス「そうね…………。雲上庭園に開いた穴は、外壁にかけられてる自己修復性によって、もう塞がれてるわね。」
カルム「でも、もう一度、さっきのアレをやれば、出来なくはないだろう?」
イーディス「うう〜ん。可能性はゼロとは言わないけど、武器の天命が持つかしら。」
カルム「そうだな…………。」
こっちも、武装完全支配術を二度も使ったのだ。
天命が持つかどうか怪しいな。
すると、イーディスが思い出したかの様に喋り出す。
イーディス「そういえば、この先の95階には、暁星の望楼っていう所があるんだけど、そこに行けば、カセドラルに戻れるわよ。」
カルム「なら、そこまで登るか………。そういえばさ。」
イーディス「ん?」
カルム「縄を持ってないか?」
イーディス「縄?なんでよ?」
カルム「縄が有れば、万が一片方が落ちた際に、もう片方が助ける事が出来るしな。」
イーディス「それはそうだけど、アンタ、縄を持ってるの?」
カルム「ええと…………。」
そういえば、縄を持ってきてないな。
ここがALOなら、縄を大量に出せるのだが、ここはアンダーワールド。
そんな便利機能はない。
カルム「悪い。縄、ないわ。」
イーディス「はぁ!?…………アンタ達、武具保管庫に寄ったんでしょ?縄を持って来なかったの!?」
カルム「武器を取り戻す事しか考えてなかった上に、こうなるとは思わなかった。」
イーディス「ハァ……。じゃあ、私が用意するから、待ってなさい。」
そう言って、イーディスは、右側の籠手を外す。
神聖術を発動すると、籠手が鎖へと変化する。
イーディス「ほら、これで良い?」
カルム「ああ。助かる。」
俺は、物質変換術かと思ったが、形状が変わっただけだと思い、イーディスから鎖の片方を受け取って、剣帯の片方につける。
足元を見ると、庭園が小さく見える。
これは、落ちたらただでは済まなそうだな。
そう思っていると、イーディスが話しかけてくる。
イーディス「ねぇ。」
カルム「何だ?」
イーディス「上に登るのは良いんだけどさ、どうやって上に行くの?」
カルム「それは、こうする。」
剣を左手に持ち替えて、術式を唱える。
カルム「システム・コール!ジェネレート・メタリック・エレメント・ウェッジシェイプ!」
俺は、ハーケンをイメージして、楔を生成する。
それを、刃王剣十聖刃が突き刺さっている継ぎ目に差し込み、刃王剣を納刀する。
体を揺らして、反動をつけて、鉄串の上に立つ。
すると、イーディスが不安げな声を出す。
イーディス「それ………大丈夫?」
カルム「大丈夫だ………多分。よし。システム・コール!ジェネレート・メタリック・エレメント・ウェッジシェイプ!」
鉄串をもう一本生成して、もう一つ上の継ぎ目に突き刺して、その上に乗る。
カルム「………大丈夫だな。よし!今やった要領で、1本目の鉄串に登ってくれ!」
イーディス「えぇぇ…………。」
カルム「どうした?」
イーディス「いや、こういうのは初めてで、ぶら下がるだけでも限界なのよ…………。」
そういえば、アンダーワールドの人は、想定外の出来事に弱い傾向があるな。
だから、ベル・アバドンとライオス・アンティノスのフラクトライトが崩壊したのだ。
まあ、こんな事を想定は出来ないよな。
カルム「分かった!なら、俺が鎖を引っ張って、アンタを足場まで持ち上げるから!」
イーディス「お願いね…………。」
カルム「じゃあ、ゆっくり持ち上げるから。」
一声かけて、鎖を慎重に引っ張る。
神聖術で作られた物は、普通の物と比べて、天命が全損するのが早いが、なんとか耐えている。
揺らさない様に気をつけながら、イーディスを1メートルほど持ち上げる。
カルム「よし、剣を抜いても大丈夫だ。」
イーディスが闇斬剣を抜くと、重くなる。
まあ、神器と鎧が付いてるんだ。
仕方ない。
闇斬剣を納刀するのを見て、引き上げを再開する。
イーディスのブーツが1本目の鉄串に乗ったのを見て、即座に声をかける。
カルム「両手で壁に掴まって…………よし、鎖を離すぞ。」
イーディスは、なんとか鉄串に乗る事が出来たみたいだな。
さて、問題は、これを何回繰り返せばいいんだろうな。
カルム「じゃ、俺はもう一度上に登るから。」
イーディス「気をつけなさいよ。」
カルム「分かった。」
俺は、もう一本の鉄串を生成すべく、システムコマンドを詠唱した。
それを繰り返して、しばらくが経った。
太陽が沈み始めたのだ。
壁登りの状況は、あまりよろしくない。
イーディスも、慣れてきたのか、上の鉄串に移動させるのは大分早くなった。
だが、神聖力が足りない。
太陽が沈んでいる事から、空間神聖力が不足し始めているのだ。
カルム「システム・コール!ジェネレート・メタリック・エレメント・ウェッジシェイプ!」
俺がそう唱えるも、銀色の光は、頼りなく漂った末に、消えてしまった。
ダメか……………。
すると、下のイーディスも声を出す。
イーディス「…………器物の生成は、空間神聖力を大きく消費するからね……………。ソルスが沈んだ以上、1時間に一つ作れれば良いほうね。今、どれくらい登ったの?」
カルム「そうだな…………。そろそろ85階は越したと思うんだけど…………。」
イーディス「目的の95階まで、まだまだ先は長いわね。」
カルム「ああ…………。どっちにしろ、完全に暗くなったら、危険すぎる。鉄串は当分作れない上に、この状況じゃ、休むどころじゃない。」
最悪、支点には、お互いに剣を使うしかないのだが、天命も、朝まで持つか怪しい。
休める所は無いかと、周囲を見回す。
すると、僅か8メートルほどの上の壁面から、複雑な形の影が等間隔に配置されている。
カルム「なぁ、あそこ。何か見えない?」
イーディス「ん?…………確かに、石像ね。でも、こんな高い場所になんで…………?誰も見ないのに…………。」
カルム「なんだって良い。座って休めるのならな。あそこまでは、およそ8メルって言ったところかな。鉄串が3本必要だな。」
イーディス「3本…………しょうがないわね。少し待ってなさい。」
そう言って、左側の籠手を外し、再び形状変化を使い、鉄串に変換する。
イーディス「これを使いなさい。」
カルム「助かる。」
イーディスが籠手から変換した鉄串を俺が受け取る。
これで、なんとかなりそうだな。
鉄串3本のうち、2本をベルトに差し込み、残り一本を、隙間に差し込む。
その上に乗り、イーディスを引き上げる。
カルム「よし!あと少しだ!…………ん?」
残り4メートルの所まで来たのだが、石像が良く見える。
カセドラルの外壁を取り囲む様に配置されている。
だが、見た目は、カセドラル内部で見た、女神や天使の神々しい姿ではなく、悪魔といえば納得する様なデザインだった。
カルム「うわぁ…………。気味悪いな。」
イーディス「あ、あれは…………ダークテリトリーの…………!?」
イーディスが驚声を出すと、石像が動き出した。
アレ、動くのかよ!?
まさか、アドミニストレータが配置したガーディアンの類か?
カーディナル曰く、アドミニストレータは、偏執的なまでに用心深い性格だ。
あり得るな。
ガーゴイルに似たガーディアンは、合計3体動き出していた。
鉄串の上に乗って戦うなんて、これまでの仮想世界の戦闘で、一度もない。
だが、やらなければ、その先に待つのは、死だけだ。
カルム「イーディス!そっちに行ったぞ!」
俺は、刃王剣十聖刃を抜刀しながらイーディスに叫ぶが、イーディスは呆然としていた。
下から、あり得ないと呟く声も聞こえる。
さっき、ダークテリトリーが何だとか言ってたが、それに関係するのか?
一体が迫ってきて攻撃してくるので、刃王剣十聖刃で迎撃しつつ、鉄串の一本を、ガーゴイルに向けて投げる。
優先度が高いので、怯ませる事はできたが、撤退には至らない。
しかも、残り2体も合流して、こちらの隙を窺うように、円を描いて飛翔する。
カルム「イーディス!剣を抜け!化け物がそっちにも来るぞ!」
俺は叫びながら真下を見るが、イーディスは未だに動揺している。
ガーゴイルに一本串をぶん投げた影響で、残り一本しかない。
なら、もう手段はこれしかない!
俺は刃王剣十聖刃を納刀しつつ、イーディスに向かって叫ぶ。
カルム「イーディス!鎖にしっかり掴まれ!」
俺の叫び声に、漸く反応したのか、上を向いて、鎖に掴まる。
それを見て、俺は両手で握り締め、少し上に引っ張る。
すると、イーディスは、掠れた声を漏らす。
イーディス「ちょっとアンタ………まさかとは思うけど…………!」
カルム「2人とも揃って生き残れたら、後で幾らでも謝るから!」
俺は大きく息を吸って、全身の力を振り絞って、イーディスを真上へと放り投げる。
イーディス「きゃああああ!!…………むぎゅっ!」
女の子っぽい声を出したと思ったら、最後は高貴な騎士には相応しくない声だった事に関しては、気にしないでおく。
だが、そんな投擲の反動で、俺は足場から落ちる。
イーディスが支えてくれなかったら、2人仲良く落下だろうな。
イーディス「こ…………のおおおおおっ!!」
あれ、もしかして、怒ってる?
そんな怒りの籠った声と共に、俺も投擲される。
カルム「うわぁぁぁぁ!!………ひでぶ!!」
大理石の壁に背中から激突した際には、変な声が出てしまったが、何とかテラスに這いつくばれたな。
すると、イーディスの怒りの声がする。
イーディス「アンタ、一体何考えてんのよ!このバカ!」
カルム「悪い………!これしか思いつかなかったもんで………!話は後だ、来るぞ!」
俺はそう言って、再び刃王剣十聖刃を抜刀する。
周囲を見渡すと、まだ石の状態のガーゴイルが、角までずらっと並んでた。
すると、イーディスが呟く。
イーディス「…………間違いないわ………。でも、何で…………!?」
カルム「さっきから何を気にしてるんだ?あの化け物の事、知ってるのか?」
そう聞くと、肯定の声が返ってくる。
イーディス「ええ。アレらは、ダークテリトリーの暗黒術師達が作り出して、使役する魔物よ。彼らに倣って、私たちは《ミニオン》と呼んでるの。」
カルム「ミニオン………。ダークテリトリー産なのは見た目で納得だけど、どうしてそんなもんが、人界で神聖な場所の壁に並んでるんだよ?」
イーディス「それは、私も知りたいわよ!」
俺がそう呟くと、イーディスは絞り出すような声で叫ぶ。
イーディス「アンタに言われるまでもなく、決してあってならないわよ。ミニオンが、整合騎士の監視を掻い潜って果ての山脈を越えて、セントラル・カセドラルのこんな場所にまで侵入してきたなんて、有り得ないわよ。ましてや………!」
カルム「ましてや、教会内部で高い権力を持つ何者かが、意図的に配置したなんて事は、絶対に有り得ない…………?」
俺の無意識の補足に、イーディスは睨むが、否定はしていない。
すると、ガーゴイル………もといミニオンが動き出す。
カルム「来るぞ!2体そっちに行った!」
イーディス「アンタ………整合騎士を舐めないでよね。」
酷い、純粋にイーディスの事を気遣って言ったのに。
鉄串が刺さっている個体が、こちらに来て、残りの2体は、イーディスの方へ。
だが、イーディスは闇斬剣を一閃して、あっという間に倒していた。
未だにミニオンと交戦中の俺を見て、嫌味が籠った声を出す。
イーディス「手伝おうか?苦戦してるみたいだしね。」
カルム「結構!」
俺はミニオンに対して、水平4連撃技の《ホリゾンタル・スクエア》を発動する。
両腕と尻尾を切断して、ついでに鉄串も回収する。
すると、イーディスが呟く。
イーディス「…………へぇ。」
カルム「えっと…………何?」
イーディス「いや、奇妙な技を使うなって思ってさ。夏至祭で芝居小屋でもやれば、客を呼べるんじゃない?」
カルム「そりゃ、どうも。」
皮肉かよ。
気になる事があるので、聞いてみる。
カルム「ていうか、イーディスはセントリアの夏至祭を見たことあるのか?アレはどっちかと言うと、庶民の祭りで、上級貴族は見に行かない奴が多いが。」
無論、例外がある。
俺が傍付きをしていたタカトラ先輩は、毎年楽しみにしているらしい。
すると、イーディスが反論する。
イーディス「あのね、私を気取った上級貴族と一緒にしないでくれる?もちろん見た事がある………。」
カルム「ん?」
イーディス「いや、そういう祭りがあると、ほかの修道士から聞いたのよ。」
カルム「……………。」
それはそうだ。
アドミニストレータによって、天界から召喚されたと思い込まされてるのだ。
だが、アリスが30番なのに対して、イーディスは10番だ。
何でだろうか?
聞いてみるとするか。
カルム「なあ。」
イーディス「何よ?」
カルム「何でイーディスは10番目なんだ?アリスは30番なのに。」
イーディス「ああ。それは、先代の10番目の騎士から、受け継いだのよ。」
カルム「なるほど。」
イーディス「………アンタ、ミニオンの血が付いてるわよ。」
カルム「え?本当だ。」
俺は、服の袖で拭おうとするが、イーディスから叱責が飛ぶ。
イーディス「ちょっと待ちなさい!アンタ、手巾の1枚くらいは持ってないの?」
カルム「持ってない。」
イーディス「即答する?はぁ………これを使いなさい。」
そう言って、ハンカチを渡してくる。
ありがたく使わせてもらおうかな。
カルム「ありがとう。」
イーディス「ちゃんと洗って返しなさいよ。」
その言葉に苦笑しながら、俺はハンカチで血を拭う。
さて、どうしたものかな…………。
しばらく休憩するか。
今回はここまでです。
次回は、ユージオとケントの話です。
明日は、少し投稿が遅れるかもしれません。
カルムは心身喪失状態にすべきか
-
する
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しない