ソードアート・オンライン 紫紺の剣士   作:仮面大佐

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今回の話は、イーディスが右目の封印を突破します。
キリトとアリスは、原作とほぼ同じ展開なので、オミットします。


第37話 右目の封印

カルムside

 

カルム「ケント…………?」

イーディス「どうしたのよ?」

カルム「いや………なんでもない。」

 

 イーディスに尋ねられ、そう答える。

 そういえば、ケントとユージオはどうしているんだろう。

 考えてみると、2人と会おうと思っても会えないのは、これが初めてだ。

 大丈夫かな…………?

 あの2人の事だから、今も上に向かって登っているのだろうが、捕まってないといいが。

 それにしても、ケントとユージオは、剣技の才能が凄い。

 キリトと話してはいるが、あの2人なら、いずれ俺たちを追い越す。

 強い剣士になるだろう。

 ゲームのテクニックに過ぎなかった《剣技》は、このアンダーワールドで、初めて本物になれた気がする。

 アンダーワールドを取り巻く問題をどうにか解決して、2人を皆に紹介したい。

 それが、待ち遠しい。

 すると、イーディスの訝しげな声が聞こえてきた。

 

イーディス「ちょっと?気持ち悪いよ。」

カルム「ひでぇ…………。」

イーディス「いや、この状況であんな緩んだ笑みをする?」

カルム「ごもっとも…………。」

 

 イーディスの言う事も一理ある。

 だけど、そんなに緩んでたかな?

 それはともかく、まずは、このテラスからどうにか脱出をする事にしよう。

 だが……………。

 

カルム「壁登り自体は、月が昇れば再開できるよ。楔さえ作れればどうにかなるし。この上にはミニオンは確認出来ないしね。ただ、少しお腹が空いてなぁ…………。」

イーディス「何よ?一度や二度食事が取れなかったからって、死なないでしょ。」

カルム「こっちは、まだ育ち盛りの範疇なんでね。整合騎士様と違って、食べなきゃ天命が減っちゃうんだよ。」

イーディス「あのね………。整合騎士だって、お腹は空くし、食べないと天命は減るわ!」

 

 俺の皮肉めいた言葉に、強く言い返すイーディス。

 すると、イーディスの腹部周辺から、お腹が空いたような音が出る。

 俺は思わず笑ってしまい、イーディスが顔を赤くしながら、闇斬剣の柄を握る。

 それを見て。

 

カルム「ごめん!悪かった!そりゃそうだな、整合騎士といっても、生きてるしね。生きてりゃ腹も減るよな。」

 

 やべぇ、照れ隠しで殺されるかと思った。

 そういえば、カーディナルの大図書室からくすねた饅頭が残ってたはず………。

 

カルム「おお、天の恵みだ。ほら、いいものがあるぞ!」

イーディス「……………アンタ、なんでポケットから饅頭が出てくるのよ?」

カルム「ポケットから饅頭は、出てきても問題よ。」

 

 イーディスが何か呟いているのを他所に、熱素で温めようとする。

 

カルム「システム・コール。ジェネレート・サーマル・エレメント。バー………。」

イーディス「ちょっと待ちなさい!」

カルム「むぐっ!?」

 

 饅頭二つに熱素を近づけて、バーストさせようとすると、イーディスが口を抑える。

 

イーディス「アンタ、そんな事をしたら、一瞬で黒焦げよ!ちょっと貸しなさい!」

カルム「ああっ!」

 

 俺がそんな情けない声を出す中、イーディスは、術式を口ずさむ。

 

イーディス「ジェネレート・サーマル・エレメント………アクウィアス・エレメント………エアリアル・エレメント。」

 

 熱素、水素、風素の三つを生成して、風素で風のドームを作り、熱素と水素で出来た水蒸気が閉じ込められ、蒸されていく。

 すると、ホカホカの饅頭ができた。

 

カルム「おお……!早くくれ!………って、あ、ああああ!?」

 

 俺がそう言うと、イーディスは2つの饅頭をいっぺんに食べようとするので、情けない悲鳴を上げると、イーディスは、揶揄うような顔で「冗談よ。」と呟き、俺に片方を渡す。

 本当に美味いな、この饅頭は。

 俺はイーディスを見て、何気なく呟く。

 

カルム「いやぁ………。道具も無しに、素因だけで饅頭を蒸せるとは。流石は、あのメアリのお姉さん、ってところ…………。」

 

 すると、イーディスの手が、俺の襟首を強く掴む。

 その顔は、驚愕の色が浮かんでいた。

 

イーディス「アンタ、今、何て言った!?」

 

 その言葉を聞いて、俺はやらかしてしまった事に気付く。

 目の前の整合騎士が、ケントの幼馴染で、メアリの姉のイーディス・リデルだと言う事は、ほぼ間違いない。

 だが、最高司祭に記憶を奪われ、天界から召喚された事を信じている以上、どうにも出来ないのだ。

 だからこそ、カーディナルから貰った短剣を使う事にしたのだ。

 だが、イーディスの表情を見る限り、言い間違いでは押し通せない。

 なら、イーディスと戦い、気絶させるか、全てを話すか。

 俺は、覚悟を決めた。

 

カルム「君には妹がいる、そう言った。」

イーディス「…………!?」

カルム「話すよ。イーディスが受け入れられるかは分からないけど、俺が事実だって信じる事の全てを。」

イーディス「…………!…………話しなさい。もし、その言葉が私を謀る物だったら、即座に斬るわよ。」

カルム「構わない。俺を斬る判断が、真にイーディスの判断ならな。」

 

 さて、どこから話そうか。

 アドミニストレータの嘘から話すか。

 

カルム「なぜそんな事を言うのか。その理由は、君の中には、君以外の人間に与えられた、しかしそうとは意識できない命令が存在するからだ。」

イーディス「…………整合騎士の責務の事を言ってるの?」

カルム「そうだ。」

 

 イーディスの目に、敵意が宿る。

 だが、微かな感情の揺らぎが見える。

 そこに向けて語るように、俺は言葉を紡ぐ。

 

カルム「整合騎士は、神の代行者たる公理教会最高司祭アドミニストレータによって、天界から召喚された存在だと、君達は認識しているはずだ。イーディス。君は、自分が天界とやらで誰から生まれ、どこで育ったかのかを覚えていないはずだ。」

イーディス「それは…………整合騎士は、地上に遣わされた時点で、ステイシア神によって、天界の記憶を封じられるからって、最高司祭様は言ってたけど………。」

カルム「確かに、君は記憶を封じられている。だがそれをしたのは、ステイシア神ではなく、アドミニストレータ当人だ。そして、封じられているのは、君がこの世界で人間として生まれ育った事だ。」

 

 俺は、そう言って、一旦言葉を切り、再び紡ぎ出す。

 

カルム「君の本当の名前は、イーディス・リデルだ。北部辺境、ルーリッドという小さな村で、アリス、ユージオ、ケントの3人と生まれ育った。8年前、君はアリスとユージオとケントの3人で、果ての山脈を貫く洞窟に探検をしに行き、そこで、ダークテリトリーとの境界線から、ほんの少しだけ外に出てしまった。つまり、君とアリスが犯した禁忌は、《ダークテリトリーへの侵入》。」

 

 そう語り終えると、イーディスは、頭を抑えながら、呟く。

 

イーディス「イーディス・リデル………。それが、私の、名前………?ルーリッド………果ての山脈………思い出せない………。しかも、アリスと一緒に禁忌を犯した………?」

カルム「無理に思い出そうとするな、エルドリエみたいになるぞ!」

イーディス「待って!私は………知りたい、全てを。」

 

 俺が心配する中、そう言ったイーディスは、声を震わせながらも、毅然と言う。

 その言葉に俺は頷き、イーディスに関する事を話していく。

 

カルム「分かった。君のお父さんはルーリッド村長の補佐で、名前はルイス・リデル。お母さんの名前は知らないけど、さっき言った通り、妹が1人いる。名前はメアリ・リデル。今もルーリッドの教会で、修道女見習いとして、頑張っているはずだ。」

 

 俺がそう語り終えると、イーディスが呟く。

 

イーディス「アンタ、こんな反逆を企てたのは、どういう理由?」

カルム「最高司祭アドミニストレータの過ちを正して、この世界を守る為だ。」

イーディス「そう………。だけどね、最高司祭様より私たち整合騎士に与えられた第一の使命は、ダークテリトリーからの侵略に対する防衛なのは、事実なのよ。仮に全ての整合騎士をアンタ達が倒し、最高司祭様をも刃にかけたら、その時は、誰が人界を守るの?」

カルム「逆に聞くけど、君は、整合騎士団が万全の態勢で迎え撃てば、ダークテリトリーを退けられると、本当に思っているのか?」

イーディス「……………。」

 

 俺の質問に対して、イーディスは、黙り込んでしまう。

 まるで、何かを思い出すかのように。

 

イーディス「…………確かに、騎士長と騎士長補佐も、胸の内には同様の懸念を秘めてたのよ。だけどね、人界には、私たち以外に戦力と呼べる物が存在しない。」

カルム「だが、それはアドミニストレータが望んで作り出した状況だ。最高司祭は、自分の完全なる支配が及ばない力が人界に生まれるのを恐れた。いざ戦となれば、真っ先に剣を取るべき上級貴族に怠惰で放恣な生活を許した結果、彼らの魂は澱んだ。」

 

 その言葉に、ライオス・アンティノス、ウンベール・ジーゼック、ベル・アバドン、ナツジ・キャンサーが浮かぶ。

 それを言うと、連中もある意味では被害者なのだ。

 

カルム「だが、全てが手遅れじゃない。ダークテリトリーの軍勢の侵攻が押し寄せてくるまでに、人界にも、大規模な軍隊を整えれば……。」

イーディス「出来るわけないじゃない!アンタは今言ったばかりでしょ!?この世界の貴族達が、いかに堕落したのかを!」

カルム「確かに、それはそうだ。だが、一部の高等爵家には、そうじゃない人もいるし、下級貴族や一般民にも、この世界を守ろうという意志を持つ人がいる。」

イーディス「一般民………?」

カルム「そうだ。彼らにこの塔に蓄積されている膨大な武具を全て分け与えて、整合騎士団が磨き上げてきた本物の剣技と神聖術を学ばせれば、一年で立派な軍隊も出来る。だけど、それは実現不可能だ。忠誠心を強制できない軍隊なんて、アドミニストレータにとっては、闇の軍勢と同等に恐ろしいだろう。つまり、結論は、一つ。最高司祭アドミニストレータの絶対支配を打ち破って、残された僅かな時間を最大限に活かして、来るべき闇の軍勢の侵攻に対抗できる防衛力を作るしかない。」

 

 この言葉に、俺は大いなる皮肉を感じる。

 菊岡は、恐らく自衛隊で、日本の防衛の為に、この世界を創った。

 俺は、ケント達が兵器に利用させないと感じているが、兵士として鍛えるように提案しているのも、俺だ。

 そう感じていると、イーディスがミニオンを見ながら語る。

 

イーディス「闇の国のミニオンがここにある事。それだけでも、最高司祭様が、私たちを欺いているのは事実ね。」

 

 そこから、しばらくの間、静寂になる。

 すると、イーディスがポツリと呟く。

 

イーディス「………会えるの?」

カルム「え?」

イーディス「もし、アンタに協力して、封印された私の記憶を取り戻せたら、私はもう一度メアリに、妹に会えるの?」

カルム「………会えるよ。飛竜を使えば、すぐに行ける。だけど、よく聞いて欲しい。メアリと再会するのは、君であって、君じゃない。記憶を取り戻した瞬間、君…………整合騎士イーディス・シンセシス・テンは、消滅する。」

 

 そう、記憶を取り戻した瞬間、整合騎士としてのイーディスは消えてしまうのだ。

 すると、イーディスが呟く。

 

イーディス「メアリ。メアリ………。思い出せない。顔も、声も。でも………この名前を呼ぶのは初めてじゃない。私の心が覚えてる……。何度も呼んだ………。本当なのね………!私に家族が………。父と、母と………そして、血を分けた妹が………この夜空のどこかに………!」

 

 そう言って、泣き出してしまう。

 これを見ると、整合騎士としてのイーディスがあまりにも不憫に思う。

 家族への渇望が、彼女を泣かせているのだ。

 それなのに、整合騎士としてのイーディスを消していいのか………?

 イーディスは、泣くのをやめ、こっちに向かって言ってくる。

 

イーディス「………整合騎士は、最高司祭様によって造られたと聞いた時から、そういう事もあるのかなって思ってた。私は、この体を、イーディス・リデルか、奪って、6年も不当に占拠しちゃった。盗んだ物は、ちゃんと返さないとね。アンタ達のためにも。」

カルム「……………。」

 

 それは、整合騎士としてのイーディスの、本当に思った事なのか?

 どうしたら良いんだ………?

 俺が悩む中、イーディスは語り続ける。

 

イーディス「ただ、一つだけお願いがあるの。」

カルム「なんだ?」

イーディス「この体に、本来のイーディスの人格を復元する前に、私をルーリッドの村に連れて行って、一目だけでも、メアリの姿を見せて欲しい。それが出来れば、十分だよ。」

カルム「…………分かった。約束だ。記憶を復元する前に、君をルーリッドに連れていく。」

イーディス「絶対よ?」

 

 イーディスはそう呟いて、凛とした表情を浮かべる。

 

イーディス「それじゃあ、人界と、そこに暮らす人々を守る為、私、イーディス・シンセシス・テンは、整合騎士の使命を捨て………あっ………!!」

 

 毅然たる宣言が、鋭い悲鳴に変わる。

 イーディスは、体を仰け反らせ、右手で右目を抑える。

 

カルム「イーディス!?」

イーディス「カルム…………!目が………!」

カルム「見せてくれ!」

 

 イーディスの右眼を抑えるのを見て、とある事を思い出した。

 それは、ケントとユージオが、禁忌目録を破った際に、右眼が吹き飛んだ事だ。

 つまり、同様の現象………!

 イーディスの右眼には、【SYSTEM ALERT : CODE871】という言葉が浮かんでいた。

 やはり、ラースの中に、裏切り者がいるのだ!

 すると、イーディスが言葉を放つ。

 

イーディス「右目が………焼ける………!それに、文字が見える………!?」

カルム「何も考えるな!頭を空っぽにしろ!君に起きている現象は………多分この世界の思惑から外れた、もしくは逸脱した行動を起こさせないための心理障壁みたいなものだ!そのままその思考を続ければ、目玉が吹っ飛ぶぞ!」

 

 俺の言葉に、イーディスは眉を寄せ、か細い声を出す。

 

イーディス「酷い………こんな………。記憶、だけじゃなく、意識すらも、誰かに操られるなんて………!これを………この赤い神聖文字を、私の眼に焼き付けたのは………最高司祭………様なの………!?」

カルム「いや、違う。この世界を創り、外側から観察している存在………創世記には登場しない神達の1人がした事だ。」

イーディス「神………?私たち整合騎士が、神の創った世界を守る為、無限の日々を戦い続けても………神は信じてくれないの?私から家族の、妹の記憶を奪って………その上この様な封印を施して、服従を強要するなんて………私は、人形じゃない!」

 

 イーディスは、黒雲の隙間に浮かぶ青白い月を凝視しながら叫ぶ。

 

イーディス「確かに私は、造られた存在かもしれない!でも、私にも意志はあるの!私はこの世界を………世界に暮らす人々を守りたい!それが私が果たすべき、唯一の使命よ!」

カルム「イーディス…………!」

イーディス「カルム………私をしっかり抑えてね………!」

カルム「…………ああ!」

 

 俺は、イーディスの頼みを受け入れて、イーディスを優しく抱きしめる。

 呼吸を整えたイーディスは、叫ぶ。

 

イーディス「最高司祭アドミニストレータ……そして名を持たない神!私は、私の成すべき事を成すために、アンタと、戦う!!」

 

 凛と響いた、独立宣言。

 その余韻が消えないうちに、イーディスの右眼が吹っ飛んだ。




今回はここまでです。
遂に仲間になったイーディス。
次回は、囚われたケントの話です。
大学が始まるので、少し投稿頻度が落ちます。

カルムは心身喪失状態にすべきか

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