カルムside
俺は、右目の封印を突破したイーディスを背負い、カセドラルの外壁を登っていた。
イーディスはあの後、気絶してしまったので、俺の出来る限りの神聖術で止血して、俺のシャツの裾を千切って、即席の包帯をイーディスに巻いた。
そんな事をしている内に月が昇ってきたので、登る作業を再開する。
正直言って、闇斬剣と鎧は置いていきたかったが、イーディスの決意を無駄にはしない為に、腹を括った。
2時間が経って、漸く95階の暁星の望楼へと辿り着いた。
カルム「おりゃああああ!」
その掛け声と共に大理石の角に右足を引っ掛けてよじ登ると、水平な床面へと突っ伏す。
マジで疲れた…………。
俺は、誰が文句を言おうと、絶対に寝っ転がると決意して、のんびりしていると、背中の上の整合騎士が、呻き声を出す。
イーディス「う………ううん………。ここは……暁星の望楼………?私………どう………。」
イーディスはそう呟いて、起きあがろうとするが、すぐに鎖が張り詰めて、イーディスは起き上がるのをやめる。
イーディス「カルム………アンタ、まさか、私を背負って………ここまで…………?」
カルム「そうだよ。………ったく、大変だったんだぞ。少しは感謝して………何してんの?」
俺は、そう独りごちるが、イーディスは俺に向けて手を向けていた。
すると、イーディスが何かに気づいた様に叫ぶ。
イーディス「いやだ、アンタ、汗びっしょりじゃない!………ハッ!私の服に染みが……!早く離れなさいよ!」
カルム「んだと………!?うわっ!」
「「イッテ!!」」
人が運んだのに文句を言うイーディスに対してキレかけた時に、後頭部をどつかれ、俺は額を床の大理石に頭をぶつける。
すると、もう1人叫んだ人がいるようで、チラリと見ると、キリトがアリスを連れていた。
俺とキリトは、急かされつつ鎖を解いて、背中に乗っていた整合騎士を下ろす。
キリト「ひでえよ………。あんまりだ……。」
カルム「同感…………。」
アリス「イーディス殿も、最高司祭殿に反逆するのですね。」
イーディス「うん。ルーリッドの村に居る、本当の妹に会いたいしね。」
俺とキリトが、額を摩りながら、嘆いている中、アリスとイーディスが話していた。
まさか、キリトの奴も、アリスの右目の封印を突破する事を助けるとはな。
すると、アリスとイーディスがこちらを見てくる。
アリス「お前の仲間は。」
キリト「えっ?ユージオとケントの事か?」
イーディス「そのユージオとケントは、どこに居るのかしら。あの後、雲上庭園から大階段を登ったとすれば、この暁星の望楼まで到達する以前に、最強の相手と遭遇したはずよ。」
カルム「最強の相手?」
アリス「小父様………騎士長ベルクーリ閣下と騎士長補佐、リョウガ殿です。」
そうだ。
その2人が残っていたな。
確かに、あの2人は、ひょっとしたら、俺たちよりも強いかもしれない。
だが、上位整合騎士には、技術だけでなく、周囲の状況を利用してでも戦わなければ、勝てない。
なら、急いだ方が良さそうだな。
すると、キリトは、術式を唱える。
キリト「システム・コール!ジェネレート・アンブラ・エレメント。アドヒア・ポゼッション。オブジェクトID、WLSS703。ディスチャージ。」
アリス「何をしているのですか?」
カルム「なるほど。闇素を使って、青薔薇の剣の位置を探るんだな。」
イーディス「なるほどね。」
しばらくすると、闇素は、ふわふわと浮遊して、床に触れて消える。
キリト「………下だな。」
アリス「そのようですね。」
カルム「急ごう。」
イーディス「待ちなさい。」
俺たちは、下へ向かおうとすると、イーディスが声をかける。
アリスも、聞きたい事があるそうだ。
カルム「ん?」
アリス「私の右目はキリトが、イーディス殿の右目はカルムが?」
キリト「ああ………。何とか止血は出来たけど、俺の神聖術じゃ、それが限界だった。」
カルム「右目、治せそうか?」
イーディス「そうね………。失われた右目を復元するには、空間神聖力が足りないわね。」
アリス「痛みはまだ残っていますし、右側の視界も制限されますが、どちらも戦えないほどの問題ではありません。暫くは、このままでも構いません。」
カルム「だが…………。」
イーディス「大丈夫よ。それに、もう少しだけ感じたいの。公理教会と戦う事を決意した証である、この痛みを。」
キリト「…………分かった。なら、戦闘の時には俺たちが支えるよ。」
そう決まり、イーディスとアリスを先頭に、下へと向かっていく。
下へと向かっている中、俺はキリトと話をしていた。
カルム「キリト。」
キリト「ん?」
カルム「アリスも、真実を受け入れたのか?」
キリト「ああ………。」
カルム「そうか。…………でも、整合騎士としての2人が、あまりに不憫に思えてさ。」
キリト「そうだよな…………。でも、ユージオとケントの為だ。」
カルム「うん…………。」
そう、記憶を取り戻したら、整合騎士としての2人は消滅してしまうのだ。
そんな事を考えていると、大きな扉の前に到着して、アリスとイーディスの2人が扉を開くと、大浴場であるのは分かるが、お湯が全て凍っていたのだ。
俺たちが唖然となっていると、何かを踏んづけた。
それは、氷の薔薇と、黄金の鎖だった。
その二つは、見覚えがある。
これは………。
キリト「ユージオにケント………?」
アリス「これを引き起こしたのは、ユージオとケントなのですか?」
カルム「ああ。氷の方は、ユージオの青薔薇の剣、鎖は、ケントの雷鳴剣黄雷の武装完全支配術だろうな。」
イーディス「それにしても、凄まじいわね。あっ………!」
すると、イーディスとアリスが何かに気づいたのか、駆け出していく。
俺とキリトは、ケントとユージオでない事を確認した。
つまり、アレは、ベルクーリとリョウガなのだろう。
だが、その2人は、石となっていた。
アリス「小父様………!」
イーディス「騎士長に、リョウガまで……!?」
キリト「これは………。」
カルム「ケントとユージオの技じゃない。」
呆然と呟く俺たちに、イーディスとアリスは頷いた。
イーディス「私もそう思うわ。以前、騎士長とリョウガに聞いたのよ。元老長は、あらゆる人間を石に変えてしまう権限があるって。その中には、整合騎士も含まれてて、術式の名前は、ディープ・フリーズって言ったはずよ。」
カルム「ディープ・フリーズ………。」
キリト「じゃあ、この2人にその術を掛けたのは、仲間の筈の元老長か?でもどうしてそんな事を…………?」
アリス「………小父様とリョウガ殿は、元老院から下りてくる指示に、密かな疑念をお持ちのようでした………。しかし、公理教会による統治なくして人界の平和は有り得ないと信じ、これまで永劫の日々を戦ってこられたのです。元老長に如何なる権限があろうとも、このような………このような仕打ちを受ける謂れはありません、断じて!!」
そう言って、アリスはベルクーリに縋り付く。
元老長って奴は、碌でもなさそうだな。
俺とキリトとイーディスは、泣くアリスを呆然と見ていた。
すると、石にヒビが入る音がした。
俺は驚いて、2人を見ると、ベルクーリとリョウガにヒビが入っていた。
ディープ・フリーズという名称から察するに、そのコマンドは、アンダーワールド人の活動を肉体のみならず、精神まで完全停止するものだと思う。
だが、この2人は、意志の力で打ち破ろうとしていた。
イーディス「騎士長………リョウガ………。」
アリス「やめて、もうやめて!体が壊れてしまうわ!小父様!!リョウガ殿!!」
アリスが涙混じりの声で叫ぶ。
だが、2人は神への反逆をやめず、遂に2人は目を開く。
ベルクーリ「………よう、アリスにイーディスの嬢ちゃん。そんなに泣くんじゃねぇ………美人が台無しだぜ。」
アリス「小父様…………!!」
イーディス「大丈夫なの…………!?」
リョウガ「俺たちが、こんな術式一つで、くたばってたまるか。それより…………。」
ベルクーリとリョウガは、言葉を止め、アリスとイーディスの顔を見て、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
リョウガ「そうか……………。アリスにイーディス、遂に………壁を、越えたのだな。この俺たちが………300年かけて、破れなかった、右眼の封印を…………。」
イーディス「リョウガ…………。」
ベルクーリ「イーディスの嬢ちゃんに、アリスの嬢ちゃんも、そんな顔………すんじゃねぇ。俺は…………嬉しいんだ、ぜ…………。これで、もう…………俺が2人に、教えることは………何もねぇ…………。」
アリス「そんな事…………そんな事ありません!!小父様とリョウガ殿には、教わりたい事が…………!」
リョウガ「2人なら、出来る。公理教会の過ちを正し、この歪んでしまった世界を、あるべき形へ………導く事が………。」
2人の声が、力を失いつつあった。
つまり、意志力が限界に達しようとしていたのだ。
すると、ベルクーリとリョウガの目が、俺たちをまっすぐ見つめる。
ベルクーリ「おい、小僧ども………。アリスとイーディスの嬢ちゃんを………頼んだぞ………。」
キリト「分かった。」
リョウガ「…………お前達の相棒は………元老長、チュデルキンが…………連れて行った。恐らく…………最高司祭殿の、居室だ………。急げ、あの2人の坊やが、記憶の迷路に………惑わされる前に…………。」
その言葉を最後に、2人の整合騎士は、物言わぬ石像へと戻った。
アリスは、ベルクーリを抱きしめ、イーディスはリョウガの前に膝をついていた。
その間に、俺たちは考えていた。
つまり、2人は相打ち覚悟で戦ったが、チュデルキンなる人物に攫われたようだ。
2人が居たであろう所が、鋸で切断したかのように綺麗に穴が開いていた。
更に近くには、青薔薇の剣と雷鳴剣黄雷が埋められていた。
俺とキリトは、黒い剣と刃王剣十聖刃に力を込めて、氷にヒビを入れる。
キリトは青薔薇の剣を、俺は雷鳴剣黄雷を回収する。
すると、アリスとイーディスがこちらを見てくる。
アリス「…………剣を2本持つ酔狂者は、格好をつけたいだけの上級貴族と相場が決まっていますが…………。」
イーディス「なんか、アンタ達、妙に様になってるじゃない。」
キリト「ん?そうかな………。」
カルム「そうだね…………。」
俺としては、異種の二刀流で、SAOに旧ALOを戦い抜いた訳だが、少し落ち着かない。
鞘も回収して、右側に装備する。
この剣は、ルナが手を血だらけにしてでも運んできたんだ。
今度は、俺がケントに届ける番だ。
アリス「どうやら、ユージオとケントは既に、最高司祭様に囚われてしまったようですね………。」
イーディス「急いだ方が良さそうだわ。あの人の行いは、人の考えが及ばないからね。」
カルム「話した事があるのか?」
アリス「一度だけ。」
イーディス「もう6年前になるわね。整合騎士見習いとして過去の記憶を全て失った状態で目覚めた私とアリスは、最高司祭様と対面したのよ。」
アリス「ですが、あの目………あらゆる光を跳ね返す、鏡の様な銀色の瞳………。そう、今なら分かります。あの時、私たちは最高司祭様を深く恐れた。決して逆らってはならないと思わせたのは、圧倒的なまでの恐怖………だったのでしょうね、きっと。」
キリト「アリス…………イーディス………。」
キリトが、心配そうに2人を見つめると、2人は深呼吸をした。
イーディス「大丈夫よ。私達、決めたの。ルーリッドので暮らす妹の為に………まだ見ぬ家族、そして多くの民の為に、正しいと信じる事を行うって。」
アリス「さあ、急ぎましょう。事によると、最高司祭様と相対する前に、元老長と一戦交える必要があるかもしれませんから。」
カルム「おい、騎士長さんとリョウガは、あのままにしてていいのか?」
2人はそう決意した表情で上へと向かおうとするが、俺はそう尋ねる。
すると、イーディスが代表で答える。
イーディス「元老長を吊し上げて術を解除させるか………或いは斬り捨てればそれで終わるでしょ?」
その言葉を聞いて、俺は改めて、イーディスを敵に回したくないと思った。
今度は、暁星の望楼へと戻っていく。
俺とキリトが、神器2本分を持っているせいで息を荒げているのに対して、アリスとイーディスは平然としている。
2人は、次層へと続く階段を見ていた。
俺たちは、気になる事があるので、聞いてみることにした。
キリト「なあ………。さっきから、元老長チュデルキンって名前が出てるけど、そもそも元老って連中はどういう奴らなんだ?」
アリス「実の所………私たち整合騎士にすら、元老達の全容については知らされていないのです。」
イーディス「九十六階から上には、元老院という区画があるんだけど、騎士はそう簡単には立ち入れないのよ。」
カルム「そもそも、元老の仕事は何なんだ?」
アリス「禁忌目録です。人界に暮らす全ての民が、禁忌目録を遵守している事の確認と監視。それが元老の仕事です。」
イーディス「そして、禁忌に触れる者が現れた場合には、整合騎士を派遣して、事態の収拾に当たらせるのよ。」
つまり、元老は、アドミニストレータの仕事を代行している様なものか。
だが、用心深いアドミニストレータが、よくそんな権限を与えたな。
そして、戦術を立てる事にした。
アリス「元老達は、武器を使った近接戦闘力こそ、一般民と大差ないはずですが、神聖術の行使権限は、我々整合騎士を上回ります。」
イーディス「例え、空間神聖力が薄くても、薔薇園で収穫される触媒結晶を使って、ほぼ無限に遠隔攻撃をしてくるからね。」
キリト「そういう、相手には………不意打ちからの接近戦と、相場が決まってるな。」
カルム「確かに。だが、何人居るのかも重要になってくるな。」
その後、不意打ちに失敗した場合には、俺とアリスの武装完全支配術を使って、元老達の神聖術を防ぎ、キリトとイーディスが突入する算段となった。
何せ、俺の武装完全支配術は、やろうと思えば、聖剣を召喚して、様々な場面に対応できるからな。
アリス「あと、存分に暴れて構いませんが、元老長チュデルキンだけは生かしておいて下さい。」
イーディス「確か、色鮮やかな青と赤の道化服を着た男よ。」
カルム「威厳がないな。」
アリス「だからと言って、侮ってはなりませんよ。教会内でも、最高司祭様に次いで神聖術に秀でていますから。」
キリト「ああ、分かってるよ。そういう一見小者っぽい奴が、実は一番厄介だったりするのがクエストのお約束だからな。」
イーディス「クエ………何?」
俺は、変な事を口走ったキリトを、強めに突いて、黙らせて、階段へと向かっていく。
遂に、最高司祭アドミニストレータとの最終決戦が近づいているのだ。
負けてられない。
ケントとユージオを助ける為にも。
今回はここまでです。
次回には、アンケートを終了したいと思います。
いよいよ、最終決戦が近づいてきましたね。
次回は、再びチュデルキンが出ます。
カルムは心身喪失状態にすべきか
-
する
-
しない