ソードアート・オンライン 紫紺の剣士   作:仮面大佐

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今回は、ユージオとケントが反旗を翻し、カルム達が合流するまでです。


第42話 決意の逆襲

ケントside

 

 リムーブ・コア・プロテクション。

 その術式は、聞いた事がなかった。

 だが、俺がそれを唱えた時に、悟った。

 この術式は、決して開けてはいけない扉の鍵を外す物だと。

 その術式を唱えて、アドミニストレータが何かを心の深い所に突き刺して、俺は意識を失った。

 しばらくして、誰かの呼びかけに、俺の意識が引っ張り出されるようにして、目を開けると、俺は、カルムとイーディスに剣を向けていたのだ。

 だが、そうと気付いても、頭の芯に突き刺さる冷たい棘は消えなかった。

 その棘からは、最高司祭様の為に目の前の敵を斬り倒せ、という命令が絶えず発せられてきて、思考を縛ろうとする。

 俺はやむなく、雷鳴剣黄雷の記憶解放術を使い、カルムとイーディスを鎖で縛った。

 棘の命令に抗いながら戦いを終わらせるには、これしかなかった。

 俺とユージオは、セントラル・カセドラル最上階へと戻り、鎧を脱ぐ。

 

ケント(こうして、俺の本来の意識が保っていられるのは、そう長くはない。自分が消えてしまう前に、罪を償わなければならない。)

 

 俺はそう決意して、胸元に手を触れて、目的の物がそこにある事を確認する。

 すると。

 

チュデルキン「ホヒ、ホヒヒ………。反逆者どもはちゃんと始末したんでしょうねぇ?三十二号に三十三号。」

 

 そこに居たのは、つぎはぎだらけの道化服を着た1人の男だ。

 名はチュデルキン。

 ベルクーリさんとリョウガさんを石に変えて、俺たちをここまで攫った人物だ。

 俺たちは、本来の人格に戻っている事を悟られないようにする為、無感情で答える。

 

ユージオ「反逆者達は、氷と鎖で閉じ込めておきました、元老長閣下。」

チュデルキン「それは結構ですけどねェ、きっちり止めは刺したんでしょうねェ、三十二号に三十三号?」

ケント「いえ、トドメは刺していません、元老長。反逆者を足止めせよとの、最高司祭様のご命令でしたから。」

 

 俺が実際にそんな風に命令されたのかは、分からない。

 だが、最初にこの部屋で目を覚ました時、チュデルキンは居なかった。

 その為、チュデルキンも命令の有無を確認できない上に、逆らえない。

 無論、アドミニストレータがこの会話を聞いていたら、終わりだが、囁き声程度なら、聞こえない可能性が高い。

 

チュデルキン「いけません、いけませんねェ、三十二号に三十三号。アタシを呼ぶ時は、元老長閣下と言いなさい。閣下ですよ閣下、次につけ忘れたら、罰としてお馬さんになってもらいますよゥ?アタシを背中に乗っけて、四つん這いでハイドウハイドウですよゥ、ホヒヒヒッ!それでは、アタシも、猊下の御命令を遂行してきますかねェ?」

 

 チュデルキンはそう言って、九十九階にいるカルム達の下へと向かう。

 恐らく、騎士長ベルクーリとリョウガに対してしていたように、カルムとイーディスとキリトとアリスを石にする前に辱めるつもりなのだろう。

 だが、それに関しては心配ない。

 ユージオから聞いた話では、氷はアリスの武装完全支配術の前では効かなかったらしい。

 だとすれば、もう脱出しているはずだ。

 なら、俺とユージオは、為すべき事を為すんだ。

 俺とユージオは頷き合い、ベッドへと近づいていく。

 

「「……………最高司祭様。」」

 

 アドミニストレータに呼びかける。

 数秒後、反応があった。

 

アドミニストレータ「…………お帰りなさい、ユージオ、ケント。ちゃんとお使いを済ませてくれたのね。」

「「…………はい。」」

 

 俺たちは、カルムとキリトと出会う前、何年も感情を殺した時を思い出して答える。

 

アドミニストレータ「偉いわね。じゃあ、2人にご褒美をあげなくちゃ。ベッドに入っていらっしゃい。」

 

 そう言われて、俺たちはベッドの中へと入っていく。

 どうにか、慌てたり声を上げたりせずにアドミニストレータの下へ行けた。

 

アドミニストレータ「さあ、こっちにいらっしゃい、ユージオ、ケント。約束通り、あなた達の欲しい物をあげましょう。あなた達だけの愛を。」

「「……………はい。」」

 

 ごく微かな声で答えて、俺たちはアドミニストレータに近寄る。

 あとは、胸に隠してる短剣をアドミニストレータに刺せば、それで良い。

 改めて最高司祭に対する反逆を決意すると、眉間から頭にかけて、鋭い痛みが走る。

 しかし、気づかれては全て終わる。

 出来る限り力を抜いて………。

 

アドミニストレータ「…………でも、その前に、もう一度、ちゃんと顔を見せてちょうだい、ユージオ、ケント。」

 

 アドミニストレータは、そう言う。

 害意が悟られたか?

 だが、今から行動をしても間に合わないだろう。

 ここは素直に従うしかない。

 アドミニストレータは、俺たちをじっと見ると、呟いた。

 

アドミニストレータ「………お誂え向きに記憶の穴があったから、そこにモジュールを挿入してみたけれど、横着は良くなかったかしらね………。シンセサイズし直すとしましょう。ご褒美はその後でね、ユージオ、ケント。」

 

 記憶の穴…………?

 どういう意味かと心の中で首を傾げていると、指先を向けられた途端、俺の体が痺れ、動けなくなったのだ。

 恐らく、ユージオも。

 次の瞬間、眉間から後頭部にかけてを、異質な感覚が貫いた。

 氷の棘が、少しずつ抜けていく。

 すると、朧気な光景が映る。

 それは、木々の下を、俺たちが駆け抜けている思い出。

 そこには、黒髪と紺色の髪の毛の2人の幼馴染が居た。

 だが、それは白色の光によって見えなくなり、俺とユージオは項垂れる。

 アドミニストレータは、俺とユージオから取り出した紫の三角柱を持っていた。

 

アドミニストレータ「このモジュールは、完成したばっかりの改良型なの。これでシンセサイズすれば、効率の悪い訓練なんかしなくても、その瞬間から心意の力を使えるようになるわ。今の所は、初歩的な技に限られるけど……。」

 

 アドミニストレータの言葉は、半分以上理解できなかった。

 だが、一つだけ理解できたのは、あの三角柱こと、敬神モジュールが、俺とユージオを整合騎士に仕立て上げ、カルム達に剣を向けさせたのだ。

 今なら、偽りの忠誠心に邪魔されずに、俺たちの目的を果たせる。

 だが、全身の痺れは、モジュールが抜け落ちた後も、一向に薄れない。

 俺とユージオの頭を己の足に横向きに乗せたアドミニストレータが囁く。

 

アドミニストレータ「また、あなた達の記憶を見せてちょうだい。今度こそ、一番大切にしている場所にコレを埋めてあげるから。そうすれば、もう二度と頭が痛くなったりしないわ。それだけじゃない………下らない悩みや苦しみ、飢えや渇きからも永遠に解き放たれるのよ。口だけ動かせるようにしたわ。さあ、さっき教えた術式をもう一度唱えて。」

「「……………。」」

アドミニストレータ「術式を忘れてしまったの?しょうがない子達ね。リムーブ・コア・プロテクションよ。」

 

 アドミニストレータが、俺たちの口だけを動かせるようにしたのだ。

 この術式の意味は、まるで分からないのだが、一つだけ確信がある。

 それは、この術式が、心を守る扉を開け放つような物だという事だ。

 もう一度唱えてしまったら、本当の意味で身も心も整合騎士となり、イーディスの記憶を取り戻すという最後の望みは果たされない。

 だが、だからといって、唱えずにいると、アドミニストレータは俺たちの叛意に気付く。

 今この瞬間に、どうにか右手を動かして、短剣を突き刺すのだ。

 どうにかして、動かさなければ………!

 

ケント(頼む、動いてくれ、俺の右手。俺が今までの人生での過ち。整合騎士に連れ去られるイーディスを助けられず、何年も助けに行こうとせず、旅の終着点に着いたのにも関わらず、その道を見失った、俺の弱さを償う為に。)

 

 そんな風に思っていると、俺とユージオの口から、低く声が溢れる。

 

ユージオ「…………う………う………ご………。」

ケント「うご…………!」

アドミニストレータ「…………?」

 

 アドミニストレータの微笑みが薄れる。

 もう後戻りは出来ない。

 心の隅々からかき集めた力を、右手に集中させる。

 痺れはなかなか取れない。

 頼む、動いてくれ!

 

「「…………う、ご、け…………!」」

アドミニストレータ「………お前たち………?」

 

 振り絞るように俺たちが叫ぶと、淡い光が右手を包み、麻痺が消えた。

 動けるようになった瞬間に、俺とユージオは短剣を取り出し、アドミニストレータに向かって突き刺す。

 だが、雷鳴に似た衝撃音が鳴り、短剣の切っ先は、アドミニストレータに届いていない。

 

ユージオ「ぐ………うっ!!」

ケント「届け…………!!」

アドミニストレータ「…………!?」

 

 届いていない理由は、アドミニストレータの眼前に、神聖術と思われる障壁があったのだ。

 この短剣は、カーディナルさんが与えた物だ。

 本来は、俺とユージオの短剣は、イーディスとアリスを眠らせる為に、カルムとキリトの短剣は、アドミニストレータを倒す為に与えられた物だ。

 だが、カルムとキリトは、その短剣を、ファナティオさんとレイカさんの2人を救う為に使ってしまった。

 本来は、使う事を躊躇ったが、俺たちは決めたのだ。

 刺し違えてでも、アドミニストレータを倒すと!

 そんな決意と共に短剣を振り下ろすが、障壁に阻まれていた。

 流石のアドミニストレータも、上体を仰け反らせていた。

 

ユージオ「う…………お、おお!」

ケント「届けぇぇぇッ!!」

 

 だが、障壁が突然爆発して、俺とユージオとアドミニストレータは後ろに吹き飛ばされる。

 何とか、受け身を取る事に成功して、アドミニストレータの方を見る。

 服とベッドの周囲の布は吹き飛んだが、アドミニストレータ自体は健在だった。

 

アドミニストレータ「…………正気に戻ってたなんて、まんまと騙されたわ。そんな小道具をどこに隠し持ってたのかと思ったら………図書室のちびっ子の仕業ね。でも、残念でした。今の私の肌には、あらゆる金属オブジェクトは傷をつけられないの。」

ユージオ「な…………!?」

ケント「嘘だろ…………!?」

 

 つまり、剣による攻撃は効かないという事になる。

 あの術式を解除するのは、無理だろう。

 アドミニストレータは、乱れた己の髪を整えて、囁きかける。

 

アドミニストレータ「可哀想な子たち。折角約束してあげたのに。私に全てを差し出せば、その分私もあなた達を愛してあげるって。あなた達がずっと求め続けていた永遠の愛、永遠の支配を、もう少しで手に入れる事が出来たのに。」

ユージオ「………永遠の、愛………。」

ケント「…………永遠の…………支配…………。」

 

 俺たちは、無意識のうちに、掠れ声で繰り返していた。

 アドミニストレータは、俺たちから抜き取ったばかりの敬神モジュールを持ちながら頷いた。

 

アドミニストレータ「そうよ、ユージオ、ケント。私に全てを委ねれば、あなた達を苦しめてきた渇きはたちまち癒される。あなた達が抱え続けてきた不安や恐れは消えて無くなる。……これが最後の機会よ、ユージオ、ケント。それぞれの剣で、2つのおもちゃを叩き壊しなさい。そうすれば、私は大いなる愛をもって、あなた達の罪を赦しましょう。」

「「………………。」」

 

 俺とユージオは、それぞれの剣とカーディナルさんから託された短剣を順に見やって、アドミニストレータを見る。

 

ユージオ「愛は、支配し、支配される事………。可哀想なのは、そんな風にしか言えない貴女の方だ。」

アドミニストレータ「……………。」

ケント「…………きっと、貴女も、俺たちと同じだったんだな。愛に飢え、探し求め………しかし与えられる事は無かった。」

 

 確かに、俺は愛されなかったのかもしれない。

 だが、例えそうであっても、俺はたくさんの人たちを愛した。

 そう考えた時、俺がこれまで会ってきた人たちが浮かんでくる。

 ガリッタ爺、シスター・アザリヤ、メアリ、セルカ、祖父、姉さん、ウォルデ農場の一家達、ユア先輩、アズリカ先生、ルナ、シオリ、ロニエ、ティーゼ、キリト、カルム、ユージオ、そしてイーディスとアリス。

 

ユージオ「愛は、支配する事じゃない。みかえりをもとめたり、取引で手に入る物でもない。」

ケント「花に水を注ぐように、ただひたすら与え続ける事………。それが愛だ。」

 

 それを聞いたアドミニストレータは、うっすらとした笑みを浮かべる。

 だが、強烈な気配が放たれる。

 

アドミニストレータ「…………残念ね。公理教会に反逆した大罪人の坊や達を赦し、魂を救ってあげようとしただけなのに、そんな風に言われるなんて。」

 

 どうやら、俺とユージオを殺すつもりだろうな。

 俺とユージオは頷き合い、それぞれの剣の柄に手を乗せる。

 すると、アドミニストレータはつぶやく。

 

アドミニストレータ「やっぱり、殺して宝石にしちゃうのはつまらないかしらね?時間はかかるけれど、あの子達みたいに強制シンセサイズするべきかしら………?」

ユージオ「あの子…………?」

アドミニストレータ「そうよ。あなた達がご執心のサーティちゃんにテンちゃん。あの子達も術式の詠唱を嫌がったから、自動化元老機関が何日もかけてプロテクトを強制解除させたの。」

ケント「イーディスとアリスか………!」

アドミニストレータ「私は眠っていたから見ていないけれど、とっても辛かったでしょうね。どう?あなた達も、せめて同じ経験をしてみるっていうのは?」

「「……………!」」

 

 言っていることは相変わらずよく分からない。

 だが、これだけは分かった。

 あの2人は、整合騎士となる過程で、惨い仕打ちを受けたのだ。

 俺たちが屈して唱えてしまった術式を、拒み通したのだ。

 なら、逃げるわけには行かない!

 俺とユージオは、それぞれの剣を抜刀して、アドミニストレータに向かっていく。

 ソニックリープを発動させながら。

 耳の奥に、キリトとカルムの声が蘇る。

 

キリト『いいか、ユージオ、ケント、秘奥義は俺たちの体を動かしてくれる。でも、動かされるままになってたんじゃダメだ。』

カルム『秘奥義と一体化して、足の蹴りと腕の振りで技を加速させるんだ。それが出来れば、2人の剣は、風よりも速く敵に届くよ。』

 

 そう教わってから、何度練習しただろうか。

 そして何度失敗して、草むらに顔から突っ込んだのだろうか。

 そして何度、愉快そうに笑うキリトとキリトを諌めるカルムの声を聞いただろう。

 俺とユージオの剣は、若草の色に煌めきながら、風切り音さえ置き去りにして宙を翔ける。

 最高司祭が凍素を二つ生成するが、青薔薇の剣と雷鳴剣黄雷に触れて、弾ける。

 そのまま最高司祭の体に剣が当たるかと思ったら、障壁が阻む。

 このまま押し込めば、先ほどと同じ爆発が起きるはずだ。

 その圧力に何とか耐えて、その隙に短剣を突き刺す。

 

ユージオ「砕…………け…………ろ………ッ!!」

ケント「砕けろォォォッ!!」

アドミニストレータ「…………!」

 

 最高司祭の顔に、驚愕の色が浮かぶ。

 何故なら、青薔薇の剣と雷鳴剣黄雷が、障壁を少しずつすり抜けていたのだ。

 

「「ウオオオオ!!」」

 

 俺とユージオが更に気合を入れると、障壁が砕け散った。

 だが、最高司祭は後ろに避難していて、風素をバーストさせていた。

 俺とユージオは吹っ飛び、柱にぶつかる。

 その際に、少し血が出ていた。

 苦痛に苦しむ中、俺たちは剣を支えに立ち上がった。

 だが、最高司祭は、どういう訳か追撃してこず、呟いた。

 

アドミニストレータ「…………その2振りの剣………。ふぅん。そういう事………。」

 

 その言葉の意味を探っていると、甲高い声がする。

 

チュデルキン「ひっ!ヒィィィィ!!お助け下さい………!ハッ!お助け下さい、最高司祭猊下ァァァ!!」

 

 その声の主は、元老長チュデルキンだった。

 穴から這い上がると、剣を抜刀している俺たちを見て、声を上げる。

 

チュデルキン「ハッ!貴様ら!此奴らは裏切り者ですぞ、猊下!三十号と十号達を閉じ込めたと言っておきながら手加減を………!」

 

 だが、その言葉は続かなかった。

 何故なら、チュデルキンの左足に、二本の手が掴みかかっていたからだ。

 

チュデルキン「ホヒイエエエエーーーッ!!は、離せ!アアーッ!」

 

 チュデルキンは、何とかその2本の手を引き剥がしたが、転がって、最高司祭のベッドと床の間の暗がりに逃げ込む。

 あの手は、覚えがある。

 何度も、引っ張って貰い、道を違えても、俺たちの目を覚まさせた手だ。

 

キリト「よいしょっと!」

カルム「うるさい奴だな。」

 

 そんな声と共に現れたのは、カルムとキリトだった。

 その後ろには、イーディスとアリスも居た。

 




今回はここまでです。
いよいよ、人界編もクライマックスになってきました。
次回は、チュデルキンとの戦闘です。
この小説も、結構続いていますが、ここからの先の展開をどうしようかと悩んでいます。
カルムを心身喪失状態にしないのは決まっていますが、ここから先をどうするかで迷ってます。
今日って、エイジの誕生日なんですね。



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