深澄side
あの護衛艦が離れた時の胸騒ぎは、現実となった。
なんと、謎の一団が、このオーシャン・タートルを襲ってきたのだ。
私たちは、何とかサブコントロールルームへと避難できた。
その際に、メインコントロールルームは謎の一団に奪われてしまった。
比嘉「よし、これでOKッス。」
安田「サブコントロールルームが使えるようになったぞ。」
そんな中、私と明日奈は、菊岡さんに詰め寄って、胸ぐらを掴む。
明日奈「このままキリト君とカルム君の意識が戻らなかったら、私たちは、あなたを絶対に許さない。」
深澄「そこら辺は、分かってるんでしょうね?菊岡さん。」
私と明日奈の言葉に、菊岡さんは両手を顔の横に上げる。
菊岡「分かっているよ。僕の責任に於いて、キリト君とカルム君は必ず回復させる。」
その言葉に、私と明日奈は、胸ぐらを離して、よろける。
すると、神代博士が支えてくれた。
凛子「大丈夫よ。絶対に大丈夫。彼らは必ず帰ってくるわ、あなた達の所に。」
明日奈「…………はい、そうですよね。」
深澄「すみません、取り乱して。」
菊岡「さてと………。現状を整理しようか。」
謎の部隊からの襲撃を受け、戦場と化したオーシャン・タートル…………サブコントロール・ルームのシステムを起動させることに成功し、ひとまずは安堵の息を吐いた菊岡さんが場を取り纏め始めた。
菊岡「中西一尉、防護壁の閉鎖は完了したか?」
中西「はい。第一・第二耐圧隔壁の完全封鎖、及び非戦闘員の船首ブロックへの退避完了を確認致しました。」
菊岡「そうか………。隔壁はどれくらい持ちそうだ?」
中西「爆発物を使われれば、破られる可能性はありますが………。おそらくそれはないでしょう。」
菊岡「そうだな…………。第一隔壁の近くにあるのはライトキューブクラスター………奴らの狙いが『A.L.I.C.E.』の奪取だとすれば、ターゲットを破壊するような工作は避けるだろうからな…………。人的被害はどうなっている?」
中西「民間プロジェクトチームのメンバーに負傷者3名、我々自衛隊の戦闘員は重症2名、軽傷2名………。いずれも生命の危険はないとのことです。」
菊岡「船体の被害状況はどうだ?」
中西「船底ドック及びドックからメインコントロール・ルーム間の隔壁は遠隔操作ができません。更に深刻なのは、正電源ラインを切断された影響で………電力自体は副ラインから各所へ安定供給されていますが、制御系を再起動しないとスクリューを回せません。」
菊岡「なるほどな………。これでは、オーシャン・タートルはヒレを失くしたウミガメと言っても同然の状態になってしまったわけか………おまけに腹に鮫が喰いついたままとは………。」
中西「ロアシャフトの一番から一二番までの区画も………完全に占拠されてしまいました。」
安田「……………。」
中西の報告を聞きながら状況を分析する菊岡さんの他所で、安田博士は、何かを考えていた。
菊岡「ふぅ………。メインコントロールと第一STL室、そして、原子炉までが軒並み制圧されたわけか…………。不幸中の幸いが破壊ではないといったところか………。そうでなければ、もうここも爆弾か何かを使って突破し、占拠もしくは破壊工作をもっと仕掛けてこないと不自然だからな。だが、そうなると、連中の正体が何者なのかという話になるわけだが………。比嘉君、何か意見はあるかな?」
そう聞かれた比嘉さんは、コンソールを操作し、大画面のモニターに襲撃時の録画映像を一時停止の状態で映し出した。
比嘉「この映像を見て下さい………。奴らの装備の色、形………これはどっかの正規軍の物ではないッスね。」
安田「体格の平均値から推測して、おそらくですがアジア人ではないでしょう。」
菊岡「つまり…………連中は少なくとも我が国の特殊部隊ではないわけだ…………。そいつは喜ばしいね。そして、もう一つ確かなことがある。」
比嘉さんと安田博士の考察に、菊岡さんは苦笑したが、すぐに表情を引き締める。
菊岡「この連中はプロジェクト・アリシゼーションの存在を知っている、ということだ。」
比嘉「まぁ、そうなるッスね………。さっきの襲撃の手際の良さと、この映像を見てる限り、迷わずメインコントロールまで駆け上がってきましたからね………。」
安田「奴らの目的は菊岡さんが推測した通り、『A.L.I.C.E.』の奪取でしょう。」
すると、安田博士が何かを決意するかの様な表情を浮かべる。
安田「菊岡さん。少し話があります。」
菊岡「何だ?」
安田博士は、菊岡さんを連れて、部屋の角の方に行く。
すると、菊岡さんが何かに驚いた様なリアクションをして、戻ってきた。
しばらくすると、技術スタッフが全員、集まった様な気がする。
安田「さて、技術スタッフは、これで全員ですかね?」
菊岡「一応、そうだが………。」
安田「これから、皆さんに、とある話をしたいと思います。」
深澄「話………?」
安田「ええ。この中に、あの襲撃者達を導いた裏切り者が居ます。」
その言葉に、全員に動揺が走る。
それもそうだ。
まさか、この中に裏切り者が居ると言われたら、動揺するでしょうね。
安田「この際、単刀直入に言いましょう。裏切り者は、あなたですね、柳井さん。」
安田博士は、1人の男性に対して、指を指した。
その人は、動揺していた。
柳井「い、嫌だなぁ………。僕が裏切り者?どうしてそうなるんだい?」
安田「実は、ある日、暇になって、感情フィールドを見ていると、一つ気になる事があったんですよ。」
比嘉「感情フィールド………?」
安田「ええ。それは、右視覚領域に擬似痛覚を注入という外部命令があったんです。これでは、せっかく人工フラクトライトが制限を突破しかけても、そのプロセスが痛みで消されてしまう。」
柳井「それを、僕がやったという証拠は、あるんですか!?」
安田「ええ。そのコードは、コード871。あなたの白衣にも、同じ871が書いてありましたよ。」
柳井「な………!?」
安田博士の言葉に、動揺している柳井という人。
だが、それでも、食い下がる。
柳井「そ、そんなの、僕に罪を着させようとする誰かの仕業だ!」
安田「それに、あなたは、あの須郷伸之の部下ですね。」
柳井「…………ッ!?」
明日奈「須郷…………!?」
深澄「伸之…………!?」
菊岡「なっ…………!?」
比嘉「ええっ!?」
その名前には、覚えがある。
それは、明日奈を始めとする一部のSAOプレイヤーを閉じ込めて、魂を書き換えようとした、忌まわしき人物の名前だ。
安田「須郷は、己の研究をアメリカに売ろうとした。だから、アメリカとのコネがある。大方、その襲撃者に助けてもらう算段だったのでしょう?」
柳井「ち、違う!!」
安田「それに、決定的な証拠もあるんです。」
柳井「な、何………!?」
安田博士は、スマホを取り出して、何かのアプリを起動して、皆に見せる。
すると。
柳井『計画は順調です。あとは、オーシャン・タートルの近くを並走している護衛艦が離れるので、襲撃部隊は、オーシャン・タートルに襲撃して、私を拾って下さい。グロージェン・ディフェンス。』
グロージェン・ディフェンスという名前に聞き覚えは無いけど、その声が柳井という人の物だという事が分かった。
しかも、護衛艦は、襲撃直前にオーシャン・タートルから離れている。
それを聞いて、柳井は、呆然とする。
菊岡「彼を拘束しろ。」
中西「ハッ!」
柳井「や、やめろ!離せ!!」
あっという間に、柳井は拘束された。
拘束されてる柳井の近くに、安田博士が近づいてくる。
菊岡「どうしたんだい、安田博士?」
安田「もう一つ、柳井に聞きたい事がありましてね。」
柳井「何だよ………?」
安田「アンタ、人界側のシステム・コンソールに何か細工をしたり、人工フラクトライトと接触したな?」
柳井「…………ッ!?」
菊岡「どういう事だい?」
安田「実は、あの襲撃の最中に、システム・コンソールに仕掛けられた何かのプログラムが作動したことを確認したんです。」
深澄「え…………?」
私と明日奈が驚いていると、柳井は、狂った笑い声を出しながら語る。
柳井「そうだよ!あのコンソールに、罠を仕掛けたのは、この僕さ!………と言っても、僕は彼女にそう提案しただけなんだけど。」
安田「何でこんなことをする?」
柳井「いやねぇ、僕の大事なアドミーちゃんを、アイツらは殺した!」
深澄「アドミーちゃん………?」
柳井「公理教会最高司祭、アドミニストレータ猊下だよ!まさか、あっちから通信してきたのは、驚いたけどね。」
安田「クソ………!リスト呼び出しコマンドを消し忘れてたのか………!」
比嘉「ギクっ………!」
どうやら、比嘉さんのミスで、こんな事になったみたいね。
柳井「まさか、ある意味で僕の仕掛けた罠で、あのキリトって奴が心神喪失状態になってるとはねぇ!ザマァみろだよ!僕の大事なアドミーちゃんを殺した報いだ!」
明日奈「…………ッ!」
明日奈が激昂して、柳井を殴ろうとするけど、一足先に私が柳井を殴る。
明日奈「深澄………。」
深澄「…………これ以上、私の親友の大切な人を愚弄するなら、更に殴るけど?」
柳井「………ッ!そういえば、アンタもだったな、深澄さん。なら、ここで死んでもらおうかな………!」
柳井は、私に襲い掛かろうとするが、即座に取り押さえられ、気絶させられる。
サブコントロールルームに、なんとも言えない空気が漂っていた。
すると、菊岡さんと安田博士が謝ってきた。
菊岡「すまない。彼の人選をしたのは、この僕だ。」
安田「こっちも、ミスのせいでこんな事態を招いてしまって、すまない。」
深澄「…………私は良いですけど、カルムとキリトに殴られる事を覚悟した方が良いんじゃないですか?」
明日奈「そうですね。」
私と明日奈の冷ややかな声に、菊岡さんと安田博士は震える。
すると、比嘉さんが口を開く。
比嘉「………さっき、柳井さんが言ってた事ッスけど、事実みたいッス。」
明日奈「…………ッ!?」
比嘉「キリト君のフラクトライトは現在、あまりよろしくないっスね。」
深澄「どういう事………?」
比嘉「あの襲撃者達が、電源ラインを切断した結果、サージ電流がSTLに流れ込み、柳井さんが仕掛けた罠と合わさった事によって、キリト君のフラクトライトはダメージを負い、セルフ・イメージを喪失してしまったっス。」
明日奈「つまり…………?」
比嘉「現在のキリト君は、自分が誰なのかも、何をするべきなのかも分からず、自分からは何を言う事も、する事もない………。そんな状態ではないかと………。」
その言葉に、明日奈は呆然とする。
私は、気になる事があり、比嘉さんに質問をする。
深澄「なら、カルムは一体どういう状況なんですか?」
比嘉「…………それが、どうにも分からないっスよ。」
深澄「分からない………?」
比嘉「本来、キリト君と同様にダメージを負うはずが、カルム君だけ、何故か軽減されているんスよ。」
安田「どういう事だ?」
比嘉「どうやら、カルム君が持つ剣のオブジェクトデータが、彼を守ったみたいで………。」
全くもって分からない。
だけど、比嘉さんが叫んだ。
比嘉「ええ、と………ですね。僅からながらに希望もあります!」
凛子「…………と言うと?」
比嘉「キリト君とカルム君は、まだアンダーワールドへのログインを継続しています。つまり、セルフイメージが損傷したとはいえ、キリト君のフラクトライトそのものはまだ活動し、様々な刺激を受け取っているわけです。ならば、現実世界では無理でも、アンダーワールドでキリト君の魂を癒す事が出来るかもしれないっス。」
安田「なるほどな。どうにかして接触して、キリトに赦しを与える必要があると言うことか。」
その言葉に、私と明日奈は頷いて、宣言する。
深澄「私、行きます。カルムの元へ。」
明日奈「私、行きます…………キリト君のところへ…………!」
深澄「多分、カルムは自分を責めてるんだと思う。自分だけが助かって、キリトを助けられなかった事に。」
明日奈「キリト君が………彼が誰かの赦しを求めているというのなら、私、言ってあげたいんです………。頑張ったねって………悲しいこと、辛いこともいっぱいあっただろうけど………君はできる限りのことをしたんだよって………。」
その言葉に、菊岡さんはアンダーワールドの現状について解説し始める。
菊岡「アンダーワールドは今………平穏とは言い難い状況だ。予定されていた最終負荷実験のラストステージに、内部時間で半年後に迫っているからだ。」
凛子「何が起こるのよ?」
安田「人界とダークテリトリーを隔ててきた東の大門の耐久値がゼロになって、怪物の軍勢が人界に雪崩れ込む。人間たちが十分な防衛策を整えていれば、侵略を押し返せる筈だ。」
比嘉「ただ、今回の実験では、キリト君とカルム君の手によって、統治組織である公理教会が壊滅寸前にまで追い込まれてしまいましたから………。どうなるかはなんとも………。」
安田博士と比嘉さんの説明が続く中、菊岡さんは語る。
菊岡「だとしてもだ………。我々の誰かが向こうにダイブしなくてはならない状況かもしれんな。侵攻が始まれば、その混乱に乗じて、人界のどこかにいるであろう四人の『A.L.I.C.E.』が殺されてしまうこともありうる。高位のアカウントでアンダーワールドにダイブし、『A.L.I.C.E.』たちを保護しつつ、果ての祭壇…………ワールドエンドオールターまで移動して、そこから4人のライトキューブをイジェクトできれば………。」
凛子「そういえば、あなた、桐ヶ谷君と小野君にそう頼んでたわね。」
菊岡「ああ。カルム君が無事なら、すぐにイジェクトしてくれると思ったが。」
深澄「彼の性格上、キリトを置いていくなんて事はしないと思います。」
安田「俺は、明日奈さんと深澄さんがダイブするのには賛成です。2人は、VRでの戦闘に慣れているはず。」
菊岡「なら、アカウントも可能な限りハイレベルな物を使ってもらった方が良いな…………。比嘉君、スーパーアカウントは使用できるか?」
比嘉「ええっ!?スーパーアカウントは、反動が凄いんすよ!」
安田「だが、レベル1の状態のアカウントで送る訳には行かない。」
安田博士がそう語った直後、比嘉さんは反論するのをやめて、スーパーアカウントを使う手続きを始める。
比嘉「分かりました!けど、今使えるのは、ステイシアのアカウントと、ルナリアのアカウントの2つっすよ!」
安田「ちょうど良い。それを使おう。」
菊岡「そういう事だから、2人には、ステイシアとルナリアのアカウントを使ってもらう。安岐君の元へ行きまたえ。」
その言葉に、私と明日奈は頷いて、すぐに移動を開始する。
STLルームに到着して、私と明日奈は、カルム達と同じ患者衣に着替えて、安岐さんに点滴を刺してもらっていた。
安岐「準備は良いかしら?2人とも。」
明日奈「はい!」
深澄「ええ!」
すると、比嘉さんと安田博士から通信が入る。
比嘉『明日奈さん、深澄さん、聞こえますか?二人に使ってもらうスーパーアカウントについて説明をするので、よく聞いて下さい。』
安田『まず、明日奈さんに使用してもらうアカウントは、スーパーアカウント01『創世神ステイシア』の方だ。このアカウントは管理者権限として、無制限地形操作のコマンドが使えるんだが、地形操作中はSTLとメインビュジュアルライザーの間で、大量のデータが行き来する影響で、フラクトライトに膨大な負荷が掛かる。
だから、無闇に地形を操作するのは控えて下さい。コマンド中に頭痛を覚えたりしたら、すぐにコマンドを中止して下さい……いいですね?』
比嘉『深澄さんが使うスーパーアカウント05『月光神ルナリア』ですけど、一時的に凡ゆる状態異常が無力化できる能力があるんスけど、フラクトライトに少なからずのダメージがあるっス。気を付けてください。』
その忠告を聞いて、私と明日奈は、アンダーワールドへのダイブを敢行する。
比嘉『一応、2人がいる座標の近くに送りますが、誤差がある可能性があるので、注意して下さいっス!』
安田『それじゃあ、頼むぞ!』
深澄「明日奈。」
明日奈「ええ。」
「「リンク・スタート!」」
その言葉を言うと同時に、私たちはアンダーワールドへとダイブしていく。
しばらくの浮遊感がして、目を開けると、そこは、薔薇園だった。
私とアスナが周囲を見渡していると、誰かがやって来たので、要件を伝える。
???「な、何者だ!」
アスナ「私たちはただ、キリト君とカルム君に会いに来たの。」
ミト「私たちに、会わせて。」
すると、その人は、白亜の塔へと向かっていった。
私たちがしばらく待っていると。
???「………あなた達、キリトとカルムを探していると聞きました。」
そこには、金髪に青い瞳の女騎士と、灰色の髪に赤い瞳の女騎士が居た。
今回はここまでです。
遂に、キリト、カルム、ユージオ、ケントのヒロインが邂逅。
ただ、修羅場にはなりません。
そして、ミトとカルムが再会します。
柳井も、ここでフェードアウトさせました。
襲撃者側は、原作とほぼ同じなので、オミットしました。