あの事件から2日が経とうとしていた。
この日、私は学校の敷地内にある花壇の縁石に腰掛けて、12月の寒い風が吹く中、ある人物たちが来るのを待っていた。
10分近く待ち続けていると、甲高い笑い声と共に複数の足音が近づいてきた。
校舎の北西端と焼却炉の間から現れたのは、遠藤と取り巻きの2人だった。
遠藤たち唇を歪め嗜虐的な笑みを浮かべた。
私はカバンを置いて遠藤たちに向かって言った。
詩乃「呼び出しておいて待たせないで。」
取り巻き「朝田さぁ。最近マジちょっと調子乗ってない?」
取り巻き「本当、ちょっと酷くなーい?」
遠藤「別にいいよ。友達なんだから。なあ、そんかしさぁ、あたしらが困ってたら助けてくれるよな?取り敢えず2万でいいや。貸して?」
遠藤たちはいつものように悪い笑みを浮かべ、お金を要求してきた。
対する私は一旦拳を強く握り、度の入っていないNXTポリマーレンズのメガネを外し、睨みつけてこう言い放った。
詩乃「前にも言ったけどあなたにお金を貸す気はない。」
遠藤「今日はマジで兄貴からアレ借りて来てんだからな。」
怒った遠藤は、大量のマスコットが付いた通学用のカバンからモデルガンを取り出した。
右手に持つと私に銃口を向けてきた。
その瞬間、いつものように心臓の鼓動が早くなり、呼吸が苦しくなってしまった。
遠藤「これ、絶対人に向けんなって言われたけどさ。朝田は平気だよな。慣れてるもんな。ほら泣けよ。朝田。土下座して謝れよ。」
やっぱりダメなのかと諦めそうになっていた時だ。
不意に「お前なら大丈夫だ。俺が付いている」と英介/チェイスの声が聞こえた気がした。
――そうだ、今の私には英介/チェイスがいるんだ。
銃の扱いがわからずトリガーを引けずにいる遠藤から、モデルガンを奪い取った。
詩乃「1911ガバメントか。お兄さん、いい趣味ね。私の好みじゃないけど。大抵の銃はセーフティーを解除しないと撃てないの。」
唖然としている遠藤たちに説明しながら、手慣れた手付きで安全装置の解除とハンマーを起こす。
6メートルほど離れた焼却炉の傍らに、引っくり返されているポリバケツの上にある空き缶があるのを見つける。
それに銃口を向けて構え、トリガーを引いた。
すると、発射された弾は空き缶に命中し、ポリバケツから落ちた。
私が遠藤たちの方を見た途端、彼女たちは怯んだように口元を強ばらせて半歩後退った。
遠藤「や、やめ……!」
詩乃「確かに、人には向けないほうがいいわ。これ。」
そう言いながらモデルガンのセーフティーをかけて遠藤に渡した。
遠藤は、呆然としていた。
遠藤たちが視界からいなくなった途端、両足から力が抜けて、この場に倒れそうになるが、何とか堪えた。
詩乃「やっぱりまだキツイわね……。」
でも、私にとって大きな一歩になっただろう。
そう言い聞かせ、眼鏡を掛けなおしてこの場から去っていく。
下校しようと校門に向かっていると、学校の敷地を囲む塀の内側に何人かの女子生徒が集まって、チラチラと校門を見て何か話している光景が見えた。
その中に同じクラスでそこそこ仲の良い2人の女子生徒がいるのに気が付き、彼女たちに歩み寄った。
すると、2人も私に気が付いて声をかけてきた。
女の子「朝田さん、今帰り?」
詩乃「うん。何かあったの?」
女の子「校門のところに、この辺の学校の制服じゃない男の子がいるの。バイク停めて、ヘルメットを2つ持っているからウチの生徒を待っているんじゃないかって。悪趣味だけど、相手がどんな人なのか興味あるじゃない?」
詩乃「その男の子ってどんな人なの?」
女の子「それがね、黒髪で、大人びた感じの男の人だよ。」
女の子「何か、漫画やドラマで出てきそうなクールなイケメンって感じ!」
何処か興奮するかのように話す2人。
黒髪でクールなイケメンというと、彼しか思い浮かばない。
すぐに時計を確認してみるとすでに約束の時間は過ぎていた。
こっそり塀から覗くと、校門の近くに1台のバイクを停め、2つのヘルメットを用意して待っている英介の姿があった。
英介は私に気が付くとこっちに歩み寄ってきた。
英介「詩乃。遅かったから心配したぞ。」
詩乃「ご、ゴメン。ちょっと色々立て込んでて……。」
英介「まあ、何もなかったからいいが……。」
でも、こうやって迎えに来てくれて凄く嬉しかった。
隼人と話していると、先ほどの2人が声をかけてきた。
女の子「え?そのクールなイケメンさんって、朝田さんの知り合いだったのっ!?」
女の子「もしかして彼氏っ!?」
詩乃「え……えっと……。」
英介「彼氏だが、どうかしたのか?」
恥ずかしくて中々言えずにいると、英介が堂々とそう宣言した。
頬が熱くなって赤く染まっていくのが伝わってくる。
本当のことだけど、凄く恥ずかしい。
周りにいた女子生徒の中には羨ましがっていたり、「彼女持ちだったんだ…」と残念そうにしている人もいた。
女の子「そ、そうだったんだ~。だったら2人の邪魔しちゃいけないよね〜。」
女の子「うん。じゃあね、朝田さん。今度詳しい話教えてね。」
後ろから2人にそう言っているのが聞こえる。
英介「まさか、こんなに注目されるものだったとはな……。」
詩乃「校門の前に他校の生徒がバイク停めて、2つヘルメットを持って誰かを待っていたら目立つのは当たり前でしょ。」
英介「そういうものなのか……。」
改めて英介は恋愛事には不器用だなと思ってしまう。
でも、私は隼人のこういうところも好きだ。
英介「ヘルメットだが、妹が一緒に乗る時に使っているので勘弁してくれ。」
そう言って渡してきたのは1つのフルフェイス型のヘルメットだった。
私は「構わないわ」言いながら、ヘルメットを被る。
英介もヘルメットを被り、バイクに乗った途端、何かに気が付いて振り返って声を掛けてきた。
英介「ところで、スカートは大丈夫か?」
詩乃「体育用のスパッツはいているから心配ないわ。」
英介「そういう問題なのか?だとしても、他の男に見られるのはあまりいい気になれないが……。」
詩乃「英介もそういうのは気にするんだね。」
英介「当たり前だ。」
少しは取り乱すのかなと思ったけど、意外と冷静だった。
これは、かなり手強い。
英介「危ないからしっかり掴まっていろよ。」
詩乃「ええ。」
バイクのリアシートに乗り、英介の身体にギュッと手を回す。
そして私たちが乗るバイクは走り出した。
私たちがやって来たのは、銀座にあるいかにも高級そうな喫茶店だった。
こういうところには入ったことがないため、狼狽えてしまう。
英介が「俺も初めてだから大丈夫だ。」とポーカーフェイスを崩さずにそう言ってきて落ち着くことが出来た。
ウエイター「いらっしゃいませ、お二人様でしょうか?」
英介「いや、待ち合わせで……。」
英介は白いシャツに黒蝶ネクタイのウェイターさんにそう言い、高級感あふれる喫茶店内を見渡すと、その中にいた太い黒縁眼鏡をかけてスーツを着た男性がこちらに気が付き、無邪気な笑みを見せながら手を大きく振る。
???「おーいチェイス君、こっちこっち!」
手を振っているメガネをかけた男性の隣には、少し不機嫌そうにしてその男性を見ているキリトがいた。
私たちはそこへ行き、向かい側に空いている席へと座った。
ちなみに、英介曰く、キリトの本名は、桐ヶ谷和人というらしい。
和人「遅いぞ、チェイス。」
英介「悪い。」
和人「まあ、いいけど。」
英介とキリトが話をしている間にウェイターさんが私と隼人にメニューとおしぼりを持ってくる。
メニューを見てみるとのものもほとんどが4ケタの値段で驚いてしまう。
???「さ、2人もお金のことを心配しないで何でも好きに頼んでよ。」
和人「チェイス、シノン。この人が全額奢ってくれるっていうから、遠慮なんていらないぞ。どうせ代金は国民の血税だからな。」
和人の言葉にフッと軽く笑う英介。
英介「そう言うことなら安心して頼めるな。」
???「チェイス君まで……。カルム君は少しは遠慮してくれたのに……。」
英介とキリトの言葉にメガネをかけた男性は苦笑いを浮かべる。
英介「ところで、当のカルムは一体、どこに行ったんだ?」
和人「ああ、カルムならミトを迎えに行っているんだよ。散々心配かけたから、迎えに来いってさ。」
英介「なるほどな。」
ミトというのは、カルムから聞いていて、恐らく、カルムの彼女だろう。
そう考えながら、私はメニューを見てオーダーする。私が頼んだものだけでも2200円で、英介とキリトのも合わせると合計金額はかなりのものとなった。
ウェイターさんが注文したものを確認すると、この場から去っていく。
すると、メガネをかけた男性は私に名前を名乗って、1枚の名刺を渡してきた。
私もその人に自分の名前を名乗る。
メガネをかけた男性は、総務省通信基盤局の菊岡誠二郎さんという人らしい。
菊岡さんの話から、現時点で判明している事件の内容を聞かされた。
あの事件の直後、新川君、ステルベンこと新川昌一/ザザが逮捕された。
新川昌一の供述から、SAOでジョニー・ブラックというプレイヤーネームを名乗っていた金本敦という男も共犯者の1人だということが判明した。
金本敦はまだ逮捕されてなく、サクシニルコリンのカートリッジを1本持って逃亡中だという。
しかし、菊岡さんの話によると彼も捕まるのも時間の問題らしい。
死銃が誕生したのは、リアルマネートレードで透明化できる能力を持つマント、メタマテリアル光歪曲迷彩を購入してからだった。
そのマントと双眼鏡を使い、晶一はリアル情報を盗むのに熱中した。
同じ頃、新川君はキャラクター育成の行き詰ったという。
AGI型万能論だという偽情報を流したゼクシードを深く恨み、更に自分より遅く始めた友達……チェイス/英介がどんどん強くなっていくことに焦っていた。
その話を聞いた晶一は、新川君の友達がSAOで因縁があったチェイスだと知り、ゼクシードの本名と住所を教えてどのように粛清するか話しを持ち掛けた。
連日ゼクシードをどう粛清してやろうか話し合う内に、今回の《死銃事件》の計画が出来上がり、同時に新川君もチェイス/英介に対して憎悪を抱くようになってしまった。
最終的に、彼らのお父さんが経営する病院から緊急時に電子錠を解錠するマスターコードと高圧注射器、劇薬のサクシニルコリンを盗み出す算段をつけた。
英介「なるほどな。大病院なら、サクシニルコリンもあるし、緊急時のマスターコードもあるからな。それを悪用したのか。」
菊岡「そういう事だね。」
彼らは念入りに下調べをし標的をセキュリティの低い場所で一人暮らしをしている人物に絞った。
昌一が現実世界の実行犯とゲーム内のサポート役を交代で行い、新川君が死銃でもあるスティーブン……《ステルベン》で、ゼクシードと薄塩たらこの2人を銃撃した。
だが、GGOのプレイヤーたちは死銃に怯えるどころかデマ扱いをしていたため、今回の大会でも私を含めて3人を殺すこととなった。
今回のターゲットは、標的はゼクシード達と同じ条件を満たす《ペイルライダー》、《ギャレット》、そして私だった。
更に金本敦を仲間に引き入れ、金本に《ペイルライダー》と《ギャレット》の実行役をやらせ、新川君が私の担当を引き受けたという。
昌一の供述に基づく話によると、今回に限って新川君が固執したらしい。
更に、菊岡さんが新川昌一のことを話してくれた。
彼は幼い頃から病気がちで、中学校を卒業するまで入退院を繰り返し、高校入学も一年遅れたらしい。
そのため、総合病院のオーナー院長を務めるお父さんは弟の新川君を後継者にしようとした。
新川君には家庭教師を付けるなどしたが、兄の昌一の方はほとんど顧みなかった。
兄は期待されないことで、弟は期待されることでまた追い詰められたのかもしれないと、聴取に応じた父親が話していたらしい。
それでも、兄弟仲は悪くなかったらしい。
晶一はMMORPGにのめり込み2022年、《ソードアート・オンライン》に捕われた。
ソードアート・オンライン……SAOから生還した後、新川君だけにこう語った。
自分はあの世界で多くのプレイヤーを殺し、真の殺戮者として恐れられたことを。
新川君にとって、兄は英雄に見えていたそうだ。
菊岡さんの話が一通り終わると、英介はあることを尋ねた。
英介「なあ菊岡、恭二はこれからどうなる?」
菊岡「彼は未成年だから、医療少年院に収容される可能性が高いと思うよ。実際、人が4人も死んでいるからね。」
英介「それで、面会できるのはいつになる?」
菊岡「送検後もしばらくは拘置されるから、鑑別所に移されてからになるかな。」
英介「恭二は俺がもっと早くにアイツの気持ちに気づいて相談に乗っていれば、こんなことにはならなかったはずだ。アイツがこうなったのには俺にも責任がある。恭二が俺のことを憎んでいようが関係ない、俺はアイツのことは今でも友達だと思っている。」
詩乃「だったら、私も彼に会いに行きます。会って、私が今まで何を考えてきたか、今何を考えているか話したい。」
私たちの言葉に、菊岡さんは微笑を浮かべて語った。
菊岡「うん、2人は強い人だ。 ええ、是非そうしてください。面会できるようになったらメールでご連絡しますよ。」
菊岡さんは、左腕に付けてる時計を見ながら言った。
菊岡「ああ、申し訳ないがそろそろ行かなくては……。その前にキリト君、チェイス君。ザザこと新川昌一から君たち2人に……いやカルム君を含めた3人に伝言を預かっている。もちろん、それを聞く義務はない。どうする?」
2人が頷いて答えると菊岡さんはメモを取り出し、それに眼を落した。
菊岡「それでは、えぇ……『これが終わりじゃない。終わらせる力はお前たちにはない。すぐにお前たちもそれに気づかされる。イッツ・ショウ・タイム。』以上だ。」
喫茶店から出て菊岡さんと別れた後、私は英介とキリトがバイクを停めたところへと向かう。
和人「何か、すっきりしない終わり方だったな。」
英介「ああ。未だに逮捕されていないジョニー・ブラック。そして、謎が多いPoH。だが、気になるのはアイツもだ。本当に総務省の役人なのか?」
和人「実は前にカルムと一緒に菊岡を尾行したんだけど、アイツは霞ヶ関じゃなくて市ヶ谷に向かっていたんだよ。途中で見失ってしまったけどな。」
英介「市ヶ谷にあるのは総務省じゃなくて防衛省だろ?まさか、アイツは防衛省……自衛隊の人間だっていうのか?」
和人「俺だって知りたいよ。」
英介とキリトは菊岡さんが何者なのか話し合っていたが、結局正体はわからなかったため、この話を終えることにした。
すると、英介は私の方を見てこう言った。
英介「詩乃、この後は時間あるか?お前に会って欲しい人がいるんだ。」
詩乃「別にいいけど……。」
英介のバイクに乗り、連れて来られたのは台東区御徒町の裏通りにある黒い木造の小さな店だった。
ドアの上に揚げられた2つのサイコロを組み合わせたデザインの金属製の飾り看板には《Dicey Café》とあった。
どうやら喫茶店のようだ。
その入り口には2人のバイクとは別に、1台のバイクが停まってある。
英介「カルムのバイクが置いてあるという事は、もう揃ってるみたいだな。」
和人「とっとと入ろうぜ。」
2人に連れられて、中に入る。
マスター「いらっしゃい。」
中に入ると店のカウンターには巨漢でスキンヘッドの頭をした黒人のマスターが迎えてくれた。
客席には他校の制服を着た4人の少年と4人の少女がいた。
その中にはカルムと侑斗さんの姿もあった。
???「おそーい!待っている間にアップルパイ2切れも食べちゃったじゃない。太ったらキリトとチェイスのせいだからね。」
2人に文句を言ってきたのは茶髪のショートヘアーをしたそばかすが特徴の少女だった。
和人「何でそうなるんだ。遅れたのはチェイスのせいだから、文句ならチェイス1人に言ってくれよ。」
英介「何だと?」
???「まあまあ。キリト君、チェイス君、早く紹介してよ。」
栗色の長い髪をした少女が話すと英介が私のことを紹介する。
英介「ああ。彼女は朝田詩乃。第3回バレット・オブ・バレッツのチャンピオンとなった【シノン】。そして俺の……彼女だ。」
最後の彼女という単語を聞いた直後、カルムと侑斗を除く先客として来ていた6人は驚いて声をあげる。
私は先ほどと同様に頬を赤く染めて俯いてしまう。
???「やっぱりねぇ!」
???「まさか、チェイスに彼女が出来るなんてな。」
先ほど英介とキリトに文句を言っていた少女と背が高めの黒髪をした少年が、英介の方をニヤニヤと見ながら、私の方に近づいてきた。
里香「あたしはSAOで鍛冶屋をしていたリズベットこと篠崎里香。よろしく。」
浩介「俺は歌星浩介。SAOではラットっていう名前でしていた。」
すると、栗色の長い髪をした少女に、茶髪を短めのツインテールにした小柄な少女、少し薄い紫の髪をポニーテールにした少女、中性的な顔立ちをした茶髪の少年が寄って来た。
明日奈「初めまして。わたしはSAOで《血盟騎士団》というギルドで副団長を務めていたアスナこと結城明日奈です。よろしくね。」
珪子「SAOではシリカというキャラネームで短剣使いのビーストテイマーでした。綾野珪子です。よろしくお願いします。」
深澄「SAOでアスナと同じく《血盟騎士団》というギルドで副団長を務めていたミトこと兎澤深澄です。よろしく。」
壮吾「SAOではヒロミを名乗っていた、鈴木壮吾です。よろしくお願いします。」
エギル「アンドリュー・ギルバード・ミルズ。SAOではエギルという名で、両手斧使いで商人でもあった。今後ともよろしく。」
更にカウンターにいたマスターまで名乗ってきた。
彼もVRMMOプレイヤーだったことに驚いてしまう。
つまり、ここにいる全員が英介とキリトとカルムの3人と同じく、全員がVRMMOプレイヤーってことになる。
自己紹介が終わり、英介に連れられて歌星君と篠崎さんと結城さんと侑斗がいるテーブルに空いているイスに、英介も近くにあったイスを持ってきて私の隣に座った。
キリトはカルムたちがいるテーブル席に座る。
そして英介とキリトが今回の『死銃事件』についての内容を手短に説明した。
途中、キリトとカルムの2人は自分たちの彼女に、英介は侑斗さんにちょっと怒られもした。
あれだけのことがあったから3人が怒られるのは仕方がないと思う。
里香「まあ……ともあれ、女の子のVRMMOプレイヤーとリアルで知り合えたのは嬉しいな。」
明日奈「本当だね。友達になってくださいね?朝田さん。」
篠崎さんと結城さんが笑みを見せてそう言ってきた。
しかし、私は2人のことを受け入れることができなかった。
あの事件以来、私には友達と言える存在がいなくなった。
私の過去を知ったら、私を避けるに違いないだろう。
彼女らとは友達になりたいと思いつつもそれは望めないことだ。
そんな中、英介が話しかけた。
英介「詩乃、日この店に来てもらったのには理由がある。怒ったりするかもしれないと思ったけど、俺たちは詩乃に伝えたいことがあるんだ。そのことで、まずはお前に謝らなければならない。」
英介は深く頭を下げてから、私を凝視した。
英介「実はここにいる全員に詩乃の昔の事件のことを話した。協力してもらうにはどうしても必要だった。」
詩乃「え……?」
里香「実はあたしとラットとシリカとヒロミの4人で昨日の学校を休んで、以前あなたが住んでいた町に行ってきたの。」
篠崎さんの言葉に驚きを隠せなかった。そこはあの事件があったところで、忘れたい、二度と帰りたくない場所だ。
――皆がそのことを知っている?
怖くなってこの場を離れそうとしたが、英介が私の腕を掴んだ。
英介「詩乃、待ってくれ。お前はまだ会うべき人に会っていない、聞くべき言葉を聞いていないと思ったからだ。お前を傷つける、お前に嫌われるかもしれないが、どうしても俺はそのままにしておけなかった。」
詩乃「え……?会うべき人、聞くべき言葉……?」
呆然としていると結城さんと兎澤さんが立ち上がって、店の奥に見えるドアへ歩いて行った。
そこにあるドアが開けられると、30歳くらいの1人の女性と小学校に入学する前だと思われる1人の女の子が出て来た。
顔がよく似ているから、きっと親子なのだろう。
でも、この親子は誰なんだろう。
女性が深々と一礼すると、微かに震えを帯びた声で名乗る。
大澤「はじめまして。朝田……詩乃さん、ですね?私は大澤祥恵と申します。この子は瑞恵、今年で4歳です。この子が生まれてくる前は……市の郵便局で働いていました。」
大澤さんが働いていた郵便局に心当たりがある。
そこはあの事件があった郵便局だ。
もしかして、彼女はあのとき、犯人に銃口を向けられていた女の職員の人……。
大沢「ごめんなさい……。本当にごめんなさいね、詩乃さん。もっと早くあなたにお会いしなければならなかったのに……。謝罪もお礼すらも言わずに……。あの事件のとき、お腹にこの子が居たんです。だから詩乃さん、あなたは私だけではなく、だけではなくこの子の命も救ってくれたの……。本当に……本当に、ありがとう。ありがとう……。」
詩乃「命を……救った……?」
私はあのとき、犯人を撃ち殺した。
でも、それと同時に救った命もある。
隣にいた英介が話しかけてきた。
英介「詩乃、お前はずっと自分を責め続けてきた。自分を罰しようとしてきた。それが間違いだとは言わない。だが、お前には、同時に自分が救った人たちのことを考える権利がある。そう考えて、自分自身を許す権利がある。俺にも前に似たようなことがあった……。それは、俺は仲間がいたから乗り切ることができた。だから今度は俺が……。」
すると、瑞恵ちゃんが椅子から降りて、私の方に来た。
肩にかけたポシェットから1枚の四つ折りにした画用紙を取り出す。それを広げ差し、私に出してきた。
画用紙にはクレヨンで男の人1人と女の人1人、そして小さな女の子が1人描かれていた。 これは瑞恵ちゃんたち家族の絵に違いない。
その上には覚えたばかりなのだろう平仮名で、『しのおねえさんへ』と書かれていた。
瑞恵「しのおねえさん、ママとみずえを、たすけてくれて、ありがとう。」
瑞恵ちゃんの言葉を聞き、私は堪えきれずに涙を流し始める。
英介はそんな私を優しく抱きしめ、頭を撫でてくれた。
過去の全てを受け入れるには、まだまだ時間がかかるだろう。
それでも今の世界が好きだ。
何故なら、英介/チェイスがいるのだから。 彼が一緒なら、生きることが苦しくても、歩き続けることが出来る。
今の私には、その確信がある。
今回はここまでです。
マザーズロザリオでは、ユウキを生存させたいと思っていますが、どうするのかは、考え中です。
アリシゼーションのカルムに持たせる武器はどれがいいか?
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火炎剣烈火
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無銘剣虚無
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刃王剣十聖刃
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闇黒剣月闇