私と明日奈は、放課後、2人から渡された紙片を手に、目的地に着いた。
明日奈「ここにいるの、ユウキ………。」
深澄「居ると良いんだけど。」
私たちは中に入り、面会受付カウンターへと向かっていく。
窓口横に備えられた用紙に明日奈が記載していくと、途中で止まった。
無理もない。
私たちは、ALOをプレイしている際の、ユウキという名前しか知らない。
冬馬と和人からも、会えるかは分からないと言われたが、諦める訳には行かない。
明日奈と顔を合わせて、受付へ。
看護師「面会ですね?」
明日奈「ええと………面会したいんですが、相手の名前が分からないんです。」
看護師「はい?」
看護師が訝しげな表情を浮かべる中、私も一緒に説明する。
深澄「多分、15歳前後の女の子で、もしかしたら名前は《ユウキ》かもしれないんですが……。」
看護師「ここには沢山の入院患者がいらっしゃいますから、それだけでは分かりませんよ。」
明日奈「ええと………ここで試験中の《メディキュボイド》を使っている方だと思うんですが……。」
看護師「患者さんのプライバシーに関しては………。」
すると、カウンターの奥にいた年配の看護師が顔を上げると、じっと私たちを見て、私たちの相手をしていた看護師に耳打ちする。
すると、瞬きして、私たちに向き直って、微妙に異なる口調で言う。
看護師「失礼ですが、あなた方のお名前は?」
明日奈「あ、ええと、結城、明日奈と言います。」
深澄「兎沢深澄です。」
名前を言って、学生証を提示すると、内線で電話をかけて、こちらに向き直る。
看護師「第二内科の倉橋先生がお会いになります。正面のエレベーターで4階に上がって、右手に進み、お待ち下さい。」
差し出されたトレイから、学生証とを受け取り、4階受付前で待っていると、白衣を着た先生がやって来る。
恐らく、この人が倉橋先生だろう。
倉橋「やあ、ごめんなさい、申し訳ない。すみません、お待たせして。」
明日奈「と、とんでもないです。こちらこそ急にお邪魔してしまって。」
深澄「あの、私たちなら幾らでも待てますけれど。」
倉橋「いえいえ、今日の午後は非番ですから、丁度良かった。ええと、結城明日奈さんに、兎沢深澄さん、ですね?」
明日奈「はい。結城です。」
深澄「私は、兎沢です。」
倉橋先生は、ユウキ………紺野木綿季の主治医だそうだ。
先生曰く、ここ最近、ユウキは私と明日奈の話をよくするそうだ。
倉橋「よくここが分かりましたね。………ユウキ君から、もしかしたら、アスナさんやミトさんが来るかもしれないと聞いていたのですが。」
明日奈「ユウキが………?」
倉橋「病院の事を伝えたのかと聞いたけど、本人は言ってないと言う。………じゃあ、ここの事は分からないと言ったのですが。」
深澄「そうなんですね………。」
倉橋「まさか、本当に訪れるとは思いもしませんでしたよ。」
そんな事を話している。
先生曰く、ユウキは私たちの話をした後、決まって暗い表情になるらしい。
倉橋「自分の事じゃ、決して弱音を吐かない彼女なんですが………あなた達に会いたい………けど、これ以上会ってしまうと、会えなくなるのが怖い、と………。」
「「……………。」」
そんな話をしていると、目的地に着いたようで、『第一特殊計測機器室』という部屋に到着した。
先生に続いて病室に入ると。
倉橋「あれ?すいません、少しお待ち下さい。」
そう言って、倉橋先生は部屋の奥へと向かう。
私たちは、しばらく待っていると、入ってきた病室の扉が開いた。
???「倉橋先生、ごめんなさい。遅く………えっ………?」
そこには、ショートカットの髪にカチューシャをかけた少女がこちらを凝視していた。
明日奈「………ユウキ………?」
深澄「ユウキなの………?」
木綿季「…………アスナ………ミト………?」
彼女こそ、ユウキこと紺野木綿季だと、私達は直感した。
ユウキも、私達を認識したようで、驚いていた。
木綿季「………っ!」
明日奈「待って!!」
ユウキは、逃げようとしたけど、明日奈の言葉に動きを止める。
明日奈「…………その、ユウキよね?」
木綿季「…………うん。」
こちらに振り返らず、ユウキは答える。
木綿季「本当に来たんだ、2人とも………。まさかとは思ったけど………でも、2人には知られたくなかったなぁ………。」
明日奈「………ユウキ?」
深澄「どうして、姿を消したの?」
そんな空気になっていると、倉橋先生が戻ってくる。
そして、話し始める。
倉橋「さて………どこから話すべきか………?」
深澄「あの………。」
倉橋「うん?」
深澄「その、メディキュボイドって何ですか?」
その単語に、木綿季と倉橋先生は驚いた表情を浮かべる。
倉橋「………知っていたんですね。分かりました。話しましょう。」
倉橋先生曰く、ナーヴギアを何倍も強化したもので、ターミナル・ケア………終末期医療に役立つと………。
それを聞いて、まさかと思った。
明日奈「一つ、良いですか?」
倉橋「何でしょうか?」
明日奈「つまり、ユウキは、何かの病気で入院していて、このメディキュボイドで治療を受けていたんですか?」
倉橋「………正確に言えば、メディキュボイドでの治験をお願いしているのです。」
明日奈「………それで、その…………。」
明日奈の言葉に倉石先生は答えていった。
明日奈は言葉を繋ごうとしたが、どう尋ねればいいのか分からないようで言葉を詰まらせていた。
木綿季「………ボクの病気の事?」
深澄「………ま、まあ、そうなるわね……。」
木綿季「………良いよね、先生?」
倉橋「………木綿季君が良いのなら、僕は反対しないよ。」
木綿季「…………アスナ、ミト………僕はね、後天性免疫不全症候群………エイズに感染していたんだ。」
「「え…………!?」」
その言葉に私も明日奈も言葉を失い、驚くしかなかった。
そこからは倉橋先生が説明してくれた。
出生時の帝王切開時に輸血された血液が汚染されておりHIVに感染したこと、ウィルスが薬剤耐性型であったこと、小学校4年の時にエイズが発症したこと………。
それを私も明日奈も黙って聞いていた。
倉橋「………木綿季君は、いつも笑顔を絶やさず、必死に闘病生活を続けていました。その時でした………。アメリカで薬剤耐性型のエイズにも効果がある特効薬が完成したとのニュースがあったんです。」
木綿季を優しい目で見つめながら、倉橋先生は言葉を続けた。
倉橋「ただ、その薬はまだマウスでの実験を終えただけで、人での臨床実験は未定の状態だったんです。そんな時、日本に臨床実験の話が回ってきたんです………。丁度、その時でした………。メディキュボイドの試作1号機が完成したのは………。」
明日奈「それじゃあ…………。」
倉橋「ええ。僕も木綿季君にその話はしました………。その特効薬は副作用がどんなものなのか、効果が未知数であることも伝えました……。それでも、彼女もご両親もその特効薬に賭けてみることにしたんです。それと同時に、無菌室に設置されているメディキュボイドに入ることも決めてくれたんです。………もし特効薬が効かなかった場合でも、日和見感染を避けることができますからね。」
そういう事なのね…………。
私がそう思っていると、倉橋先生は更に話を続ける。
倉橋「そして、特効薬とメディキュボイドの運用を開始してから約2年………。あれはSAOがクリアされる数日前………月1で行われている定期検診の結果が出た時でした………。木綿季君の体からHIVウイルスが完全に消滅したんです。」
明日奈「………それって!?」
倉橋「…………ええ。特効薬が効果を発揮したことを意味していました………。その前から、少しずつ数値が良くなっていたのですが……ここまで一気に効果が発揮されるとは僕も思っていませんでした………。そこで、リハビリを兼ねて、この無菌室からの外出を許可したんです。そして、特効薬が人に対して効果を発揮する事は証明されて、アメリカの研究機関に伝わりました。去年の9月には、木綿季君が3月に退院する事が決まりました。」
深澄「…………なら、なんで、ユウキは姿を消したの?………いや、病気が治ったのなら……!」
私は、心の中で生まれた疑問をそのまま口に出していた。
すると、悲しげな表情を浮かべる倉橋先生が答えた。
倉橋「だからこそなんですよ。」
深澄「え………?」
倉橋「それは………。」
木綿季「先生、そこから先は、僕が話すよ。」
倉橋「…………分かった。」
木綿季「…………どの道、2人には話さないといけなかったから……。でも、ここじゃ話しにくいから………ALOで………。」
その意図を読み取って、私たちは倉橋先生からアミュスフィアを借りて、ALOにログインして、あの始めて会ったあの小島へと向かう。
ユウキを探していると。
アスナ「………ユウキ!」
アスナの声に振り返ると、そこには、朝日によって霧が晴れた所に、ユウキが居た。
私たちは、ユウキに駆け寄った。
ユウキ「………何でかな、アスナとミトが現実世界のボクを見つけてくれるような予感がしたんだよ。何も教えてなかったから、そんな訳ないのにね。」
ユウキは、囁くように語り、微笑んだ。
ユウキ「でも、2人は来てくれた。ボクの予感が当たるの、結構珍しいんだ。嬉しかったよ………すごく。」
アスナ「…………ユウキ!」
アスナが我慢できなくなったのか、ユウキを抱きしめる。
ユウキが口を開く。
ユウキ「…………姉ちゃんに抱っこして貰った時と同じ匂いがする。お日様の匂いだ………。」
ミト「………姉ちゃん?」
ユウキ「うん。藍子って言ってね。姉ちゃんは、スリーピング・ナイツの初代リーダーだったんだよ。ボクなんかより、ずっと、ずーっと強かったんだ…………。」
そう告げるユウキの言葉を聞いて、私は悟ってしまった。
それは、ユウキのお姉さんの藍子さんは、もうこの世には居ない事を………。
ユウキ「スリーピング・ナイツのメンバーは、最初は9人居たんだ。でも、もう、姉ちゃんを入れて3人居なくなっちゃった………。だからね、シウネー達と話し合って、決めたんだ。次の1人の時には、ギルドを解散しよう、って。その前に、皆で最高の思い出を作ろう………姉ちゃん達に、胸を張ってお土産に出来るような、凄い冒険をしよう、って。」
そこから、ユウキは語った。
スリーピング・ナイツが解散するのは、長くてもあと3ヶ月、って告知されているメンバーが1人いる事を。
それに、ユウキが退院したら、家族が居なくて、施設に引き取られる。
そうなると、VRMMOは出来ない。
だからこそ、あの大きなモニュメントに名前を残したかった事を。
ユウキ「でも、なかなか上手くいかなくて……1人だけ、手伝ってくれる人を探そう、って相談したんだ。反対意見もあったよ。もしボク達の事を知られたら、その人に迷惑をかけちゃう、嫌な思いをさせちゃうから、って。………その通りになっちゃったね。ごめんね………ごめんね、アスナ、ミト。もし出来るなら……今からでも、ボク達の事は忘れて………。」
ミト「出来ないわよ、そんな事………!」
私は、短く答えて、アスナごとユウキを抱き締める。
ミト「だって、迷惑なんてこと、これっぽっちもない。嫌な思いなんてしてない。」
アスナ「ミトの言う通りだよ。私、ユウキ達と出会えて、ユウキ達の手伝いができて、凄く嬉しいよ。今でもまだ………スリーピング・ナイツに入れて欲しいって、そう思ってる。」
そうアスナが涙を零しながら語ると、ユウキの華奢な身体が震える。
ユウキ「アスナ………ミト………。すごく嬉しいよ。この世界に来て、2人と出会えて………。迷惑じゃないならさ、お願いがあるんだけど……。」
アスナ「何?」
ユウキ「短い間だけでも、またボクと一緒に居てくれる?」
その問いに対する私たちの答えは、既に決まっていた。
アスナ「もちろんだよ!」
ミト「ええ!」
ユウキ「ありがとうね……!2人とも……!」
ユウキはそう言って、泣き出す。
私とアスナは、思い切り抱き締める。
しばらくして、ユウキは落ち着いたのか、少し離れる。
ユウキ「………もう一個だけ、我儘なお願いしていい?」
アスナ「………なぁに?」
ユウキ「ボクね、学校に行ってみたいな。」
ミト「学校?」
ユウキ「うん。途中までしか通えなかったし、アスナ達の学校が気になるから………。ごめんね、無理言って。………行ってみたいけど、まだ病院から出る訳には行かないし………。」
ユウキのそのお願いに、とある記憶が結びつく。
すると、アスナも同じ考えに至ったのか、私たちは顔を見合わせる。
ミト「…………行けるかも。」
ユウキ「………え?」
アスナ「行けるかもしれないよ………学校。」
そうと決まったら、あの2人に相談ね。
今回はここまでです。
次回、ユウキが学校に行きます。
アンケートを出したいと思います。
アリシゼーションの前日譚にカルムに会わせるのは、どちらがいいか
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神崎零士
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神山飛羽真