深澄side
ユウキから、学校に行きたいという願いを聞いた私と明日奈は、冬馬と和人に依頼した。
その翌日、昼休みの電算機室に来ていた。
明日奈の肩には、プローブが乗っていて、和人、冬馬、鋭二の3人が話し合っていた。
ちなみに、悠那も来ていた。
だけど、鋭二と悠那は、この春にはこの帰還者学校を卒業して、東都工業大学に行くらしい。
鋭二は、悠那のお父さんの研究室に入る事になっている。
鋭二「だから、これじゃジャイロが敏感すぎるぞ。視線追随性を優先しようと思ったら、ここら辺のパラメータにもう少し遊びがないとダメだろうな。」
和人「でもそれじゃあ、急な挙動があった時にラグるんじゃないか?」
冬馬「そこら辺は、最適化プログラムの学習効果に期待するしかないだろうな。」
だが、3人の会話は、呪文じみていて、いまいちよく分からない。
隣の悠那も、苦笑していた。
流石に明日奈が辛そうなのと、時間が迫っている事もあり、急かす。
明日奈「…………ねぇ、まだ!?昼休み終わっちゃうよ!」
深澄「3人とも、時間が掛かりそう?」
悠那「流石に急いだら?」
和人「よし、取り敢えず、初期設定はこれでよしとしよう。」
鋭二「じゃあ、木綿季さん、聞こえますか?」
鋭二君がドームに呼びかけると、スピーカーから、ユウキの声がする。
ユウキ『はーい、よく聞こえてるよー。』
和人「よし、じゃあ、これからレンズ周りを初期設定するんで、視界がクリアになった所で、声を出して下さい。」
ユウキ『はい、了解。』
明日奈の肩に乗ってるのは、通称《視聴覚双方向通信プローブ》という物で、和人と冬馬、鋭二の3人で試行錯誤しているテーマだ。
ただ、鋭二はこの春には離脱する。
仕組みは、アミュスフィアとネットワークを通して、現実世界の遠隔地と視覚、聴覚のやり取りをしようという機械だ。
プローブ内部に搭載されているレンズとマイクに収集されたデータは、明日奈の携帯を介してネットに送信され、メディキュボイドを経由して、専用の仮想空間にダイブしているユウキに届く仕組みだ。
昨日、その手の愚痴を聞いていて、そういう事が思い至った私たちは、すぐさま2人に頼み込んで、2人は承認してくれた。
レンズがフォーカスを調整するモーター音が明日奈の肩から響き、ユウキの声がする。
ユウキ『そこ。』
和人「よし、これで終わりだ。明日奈、一応スタビライザーは組み込んであるけど、急激な動きは避けてくれ。」
明日奈「了解!」
冬馬「深澄。悪いけど、明日奈とユウキのサポートを頼む。」
深澄「分かったわ。」
突貫でプローブの調整をやって、疲れ気味な3人に手を振って、私たちは、学校探索へと出る。
職員室まで向かう間も、ユウキは何かを見つけるたびに歓声を上げていたが、職員室に到着すると、急に静かになる。
明日奈「どうしたの?」
ユウキ『えーと………ボク、昔から苦手だったんだよね、職員室………。』
深澄「大丈夫よ。ここの学校の先生は、先生っぽくない人ばっかりだから。」
笑いを交えて、私たちは職員室に入り、5時間目の国語の先生に話しかける。
私と明日奈で事情を説明していると、その教師は、湯呑みを持ちながら聞いていて、話し終わると、頷いて言う。
先生「うん、構わんよ。ええと、君、名前は何と言ったかね?」
ユウキ『あ、はい………。紺野木綿季です。』
先生「コンノさん、良かったら、これからも授業を受けに来たまえ。今日から芥川の『トロッコ』をやるんでね、アレは最後まで行かんとつまらんから。」
ユウキ『は………はい、ありがとうございます!』
私たちは、その先生に礼をして、職員室から退出する。
3人同時に息を吐いて、笑う。
教室に着くと、明日奈は仲良くしている女子グループの元へと向かった。
流石にあの中に混じる勇気はないため、私は自分の席からそれを遠巻きに見ていた。
明日奈とユウキはあっという間に注目を集め、クラスメイトから質問攻めにあっていた。
深澄(しばらくは、あのままね。)
私がそんなことを考えていると、丁度よくチャイムが鳴り、先生が入室したことで明日奈たちも解放され、全員が着席した所で日直が号令をかけ、授業が始まった。
先生「えー、それでは、今日から教科書98ページ、芥川龍之介の『トロッコ』をやります。これは、芥川が30歳の時の作品で……。」
先生の概説が続く間、明日奈はタブレット端末をユウキに見せていた。
先生「………では、最初から読んでもらいましょう。紺野木綿季さん、お願い出来るかな?」
「「は!?」」
ユウキ『は、はいっ!』
私と明日奈は思わず素っ頓狂な声を上げてしまい、クラスが少しざわつく。
先生「無理かね?」
ユウキ『よ、読めます!』
その声と共に、ユウキが音読を始めて、クラス全員が聞いていた。
心に映ったのは、帰還者学校の制服を着たユウキが隣にいる光景だ。
その後、授業が終わり、クラスメイトからの再度の質問攻めをなんとか脱出し、私たちは校庭のベンチへと来ていた。
ユウキ『アスナ、ミト………。今日は本当にありがとう!凄く楽しかったよ、ボク!』
明日奈「先生も、毎日来てもいいって言ってたからね。」
深澄「まだ見せたいものが沢山あるのよ。それより、もっと他に見たい物とかない?」
そう聞くと、ユウキは、とある住所を言う。
電車を何本か乗り継いで、目的地に着く。
そこには、誰も住んでいない家があった。
それを見て、私は察した。
明日奈「ここが………ユウキの、お家なんだね。」
ユウキ『うん。もう一度、見られるとは思わなかったよ………。』
深澄「家の中に入る?」
ユウキ『ううん、これで充分だよ。』
その後、ユウキが語ったのは、親戚が揉めている事だ。
取り壊してコンビニにしたり、更地にして売ったり、このまま賃貸にしたりすると、揉めているそうだ。
それはあんまりだと思っていた。
そんな事を思っていると、話は続いていた。
ユウキ『本当に、ありがとう、アスナ、ミト。この家をもう一度見せてくれて。例え、家が無くなっても、思い出はここにある。ママやパパ、姉ちゃんと過ごした、楽しかった頃の記憶は、ずっとここにあるんだから………。』
深澄「ユウキ………。」
ユウキは語っていく。
それは、薬を飲むのが辛くて泣いた時、お母さんがイエス様の話をしてくれたそうだ。
本当に、良いお母さんよね………。
すると、明日奈が口を開く。
明日奈「私もね………、私も………、もうずっと母さんの声が聞こえないの。向かい合って話しても、心が聞こえない。私の言葉も伝わらない。ユウキ、前に言ったよね。ぶつからなければ伝わらない事もある、って。どうしたら、ユウキみたいに出来るかな………?どうしたら、ユウキみたいに強くなれるの………?」
深澄「明日奈………。」
少し配慮が欠けている言葉かもしれない。
でも、これが、明日奈の心からの声だ。
すると、ユウキが少し戸惑ったような声で答えた。
ユウキ『ボク………強くなんかないよ、全然。』
明日奈「そんな事ない。私みたいに、人の顔色を窺って、怯えたり、尻込みしたり、ユウキは全然しないじゃない。凄く………凄く自然に見えるよ。」
そんな明日奈の言葉に、ユウキは答えていく。
お父さんとお母さんを悲しませないように、元気なふりをしていなきゃと思っていたらしい。
演技でも、笑顔でいられる時間が増えるならそれでも良いと思ったらしい。
ユウキの言葉は続く。
ユウキ『だからね、最初からドカーン!ってぶつかってさ、相手に嫌われちゃってもいいんだって思ったんだ………。その人の心の近くまで行けたことに変わりはないもんね………。」
明日奈「…………そうだね………ユウキがそう言ってくれたから、私たち………ここ何日かでこんなに仲良くなれたもんね。」
ユウキ「ううん、それはボクじゃないよ。ボクが逃げても、アスナとミトが一生懸命追いかけてくれたからだよ。だからアスナも、お母さんと、あの時みたいに話してみたらどうかな。気持ちって、伝えようとすればちゃんと伝わる物だって思ってるよ。大丈夫、アスナはボクなんかよりずっと強いもん。ほんとだよ。ぶつからなきゃ、伝わらない………アスナとミトがどーんってぶつかってきてくれたから、ボクは、この人達には、全てを任せられるって思ったからさ。」
ユウキの言葉に、私も上を向く。
その後、明日奈と共に、世田谷の自宅に帰る事に。
深澄「明日奈………。頑張ってね。」
明日奈「うん。」
家に入ろうとする明日奈にそう言って、私も帰路に着く。
一応、予め連絡していた。
家に着くと、お母さんとお父さんが私に話があると言ってきた。
深澄「それで、話って………?」
お母さん「実はね、妹が増えるのよ。」
深澄「…………え?」
お父さん「母さん、そんな抽象的だと、深澄が混乱するぞ。」
お母さん「そうだったわね。」
深澄「どういう事………?」
お母さん曰く、とある病院に入院している家族がいない女の子を、ウチで預かるらしい。
エイズの特効薬を勧めた人が親戚に居たらしく、その人が、お母さん達に引き取れないかと相談してきたそうだ。
特効薬、エイズ、女の子、身寄りがないという単語に、一つ引っかかった。
深澄「その女の子って、名前は………?」
お父さん「ああ。確か、紺野木綿季さんって言ってたな。」
深澄「ええ!?」
お母さん「どうしたの!?」
深澄「さっきまで、その人と会ってたの……。」
「「ええ!?」」
その言葉に、お母さんとお父さんが驚く。
私が帰ってくるのが遅かった理由を説明すると、2人は納得していた。
お父さん「なるほどな………。」
お母さん「冬馬君に感謝しないとね。」
深澄「そうね………。」
まさか、こんな事になるとは思いもよらず、少し呆然とする。
その後、ウチで引き取る事に決定した。
明日、それを言うのが楽しみになる。
翌日、やけに嬉しそうな明日奈と会う。
深澄「おはよう、明日奈。」
明日奈「おはよう。」
深澄「どうだったの?」
明日奈「うん!伝わったよ。ちゃんと。」
深澄「良かったぁ………。」
明日奈「深澄も嬉しそうに見えるけど?」
深澄「うん。実はね………。」
昨日、両親から言われた事を明日奈に伝えると、凄く驚いていた。
そんな風に、私たちは学校に向かっていく。
今回はここまでです。
アンケートを見ても、やはり、神山飛羽真を出すが、多かったですね。
マザーズロザリオも、次の話で終わります。
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