第1話 幼少期の思い出
カルムside
人界歴372年
天職をこなしていると汗を流す時期になってきたなと思いながら、俺は幼馴染が必死に竜骨の斧でその樹に切り込みを入れるのを見守っていた。
すると、1人の幼馴染が声をかける。
ケント「カルム。」
カルム「ん?ケント。どうした?」
ケント「いや、大分慣れてきたなと思ってな。」
カルム「まあな。」
すると、良い音が鳴った。
そして、クリーンヒットした音と共に、寝転がっていたもう一人の幼馴染がその記録を新たに一つ足していた。
ユージオ「はぁ、はぁ……これで、50!!」
最後の一撃は、切り込みを外し、樹の外皮に当たってしまった。
ユージオ「プハッ!………ハァ……ハァ……。」
キリト「今のでいい音がしたのは、50回中3回だったな。えっと、全部合わせて41回か。」
息を切らし、地面に倒れてこんでしまった亜麻色の髪と緑色の瞳の幼馴染……ユージオに、黒髪の彼……キリトが声を掛けた。
キリト「どうやら、シラル水を奢らないといけないのは、そっちの方みたいだぜ………ユージオ。」
ユージオ「ふん………そっちだって、まだ43回じゃないか。すぐに追いつくよ……キリト。」
ケント「いや、どっちもどっちじゃないか?」
カルム「そうだな。」
俺は呆れながら竜骨の斧を拾う。
これが、俺たち4人の天職だ。
目の前に聳え立つ大きな木………ギガスシダーを見上げる。
カルム「それにしても………毎日4人でこれだけ斧を振るっても、全然倒れないよな。」
キリト「ああ………やってられないよな。」
俺の言葉に、キリトが同意する。
それを、ユージオとケントの2人が諌める。
ユージオ「文句を言っても、しょうがないだろ?」
ケント「このギガスシダーを伐り倒す事が、俺たちの天職なんだ。」
キリト「そりゃ、分かっちゃいるけどさ……。本当に達成感がないよな。」
そう言って、キリトはギガシスダーに近づき、指で『ステイシアの窓』を開いた。
キリト「えっと、この天命………前はいくつだったかな?」
ユージオ「えっと……。」
カルム「前が23万5590だったな。」
ケント「だから、50くらいか?」
俺とケントがそう答えると、キリトが俯いて、頭を掻き出す。
キリト「たった50………。それっぽっちしか減ってないって、これじゃ一生掛かっても切り倒せねーよ!!」
ユージオ「アハハ……。なんたって、鉄の硬さを誇る大樹だよ。」
ケント「俺たちの前に6代の刻み手が300年をかけて頑張ってたんだ。あと18代………ざっと900年か?」
カルム「受け継がれるのは良いんだが、途轍もないな。軽く呪いみたいだな。」
ユージオとケントの2人の解説に、俺が苦笑しながら言うと、キリトがユージオに襲い掛かる。
形としては、キリトがユージオに馬乗りしている状態だ。
キリト「お〜ま〜え〜は〜!おりゃあ!!」
ユージオ「うわ!イテテ………。」
キリト「何でそう優等生なんだ?もうちょっとこの理不尽な役目をどうにかしようと悩め!」
ユージオ「な、なにすん………!?止めろよ!」
ケント「カルム。俺たちは作業をやろう。」
カルム「そうだな。ほっとけ。」
いつもの二人のじゃれ合いに呆れながら、俺は切り込みの続きをやろうと斧を構えた。
そして、作業の続きをしようとした時だった。
アリス「こらー!」
イーディス「アンタ達、またサボってるわね!」
キリト「やべ………。」
ユージオ「や、やあ………。アリス、イーディス………。」
ケント「やあ、イーディス。」
そこに居たのは、金髪の髪にリボンを付けている女の子と、灰色の髪をリボンで上にまとめ上げている女の子だ。
彼女達は、アリスとイーディスと言う。
キリト「よ、よお、アリス、イーディス。神聖術の練習は終わったのか?」
アリス「全然早くないわ。いつもの時間よ。」
イーディス「アンタ達、仲良いわねぇ。」
そう言って、アリスとイーディスは岩から飛び降り、こちらへと歩いてきた。
アリス「喧嘩する元気があるなら、カルムとケントを見習って、もう少し切り込みをしたらどうなの?」
イーディス「そんなに元気が有り余ってるなら、ガリッタさんにお願いして、回数を増やして貰おうかしら?」
キリト「ヒィィ!」
ユージオ「それだけは!」
カルム「アリス、イーディス。冗談はそこまでにしておいてやれ。」
ケント「アイツらも、息抜きだろ。」
アリス「分かってるわ。」
イーディス「全く、カルムもケントも真面目ねぇ。もう少し、キリト達を見習ったら?」
カルム「アハハ………。」
多少は見習おうかな。
そう思っていると、アリスとイーディスの2人がバスケットの中から、パイを出してくる。
「「「「おおおっ!!」」」」
黄金のように輝く出来立てのアップルパイにパン、果物にシラル水………見るだけで食欲をそそる料理に思わず声が出てしまった。
すると、イーディスが天命を確認していた。
イーディス「うわ。急いで持ってきたのに、天命があと少しで尽きちゃうわね。」
アリス「今日は暑いから、悪くなっちゃう前に急いで食べてね?」
「「「「おう!」」」」
俺たちはアリスとイーディスの手料理を急いで食べる。
パイの甘味とさくっとした皮が疲れた体に染み渡る………そう思えるほど、美味だった。
カルム「いやぁ〜。なんとか間に合ったな。」
キリト「ああ。」
アリス「良かったわ。」
イーディス「そうね。天命が尽きた物を食べると、必ずお腹を壊しちゃう。」
アリス「味はどうだった?」
イーディス「そうね。どうだった?」
ユージオ「うん。今日のパイは美味しかったよ。」
ケント「大分腕を上げたな。」
アリス「そ、そうかしら………。」
イーディス「アタシとしては、もう一味かと思ったんだけど………。」
俺達の感想に顔を赤くして目を反らすアリスとイーディスに、俺たちは思わず笑ってしまった。
その時、キリトが何かに気付いた。
キリト「それにしても………せっかくの美味い弁当なんだから、もっとゆっくりと食べたいよな?なんで、暑いとすぐに悪くなっちゃうだろう?」
ユージオ「なんでって………。」
キリト「冬なら、生の塩漬け肉を外に放っといても、なにしても持つじゃないか?」
ケント「そりゃ………冬は寒いから、天命も減りにくいしな………。」
カルム「何を考えてるのか、聞こうか?」
キリト「そうだよ!なら、寒くすればこの時期だって弁当は長持ちするはずだ!」
そのアイデアを自信満々に述べたキリトに、思わず俺とユージオ、ケントは肩を竦めてしまった。
ユージオ「絶対禁忌の天候操作術で雪でも降らせる気かい?」
ケント「そんなことしたら、公理教会の整合騎士に捕まるぞ?」
キリト「…………う~ん…………。」
カルム「まあ、そんな事をしなくても良いんじゃないか?」
アリス「そうね。」
イーディス「まあ、お弁当箱をどうにかして冷たくすれば、そんな事をしなくても済むわ。」
その言葉に、俺たちは顔を見合わせる。
キリト「夏でも冷たい物………。」
カルム「シルベの葉っぱは?」
ケント「アレはちょっとヒヤッとするだけだろう。」
ユージオ「なら、深井戸の水を壺に入れるとかはどうかな…………?」
そんな風に考えるが、なかなか良い案が出てこない。
すると、とある妙案が思いついた。
キリト「氷だ………!」
「「え?」」
カルム「確かに、氷が沢山あれば、十分に弁当を冷やせるな。」
アリス「………アンタ達ね………今は夏なのよ?氷なんてあるわけないじゃない。」
イーディス「それに、央都の市場にだって、ありはしないじゃない。」
カルム「そうだな………。」
2人の指摘に、俺とキリトは考える。
すると、キリトが声を出す。
キリト「なぁ………英雄ベルクーリの武勇譚、覚えてるか?」
ユージオ「え?」
アリス「どの話?」
ケント「ん?」
イーディス「どの話よ?」
カルム「ああ。もしかして、アレか?『ベルクーリと北の白い竜』の話か?」
『ベルクーリと北の白い竜』とは、英雄ベルクーリが、村の東側に流れるルール川で氷の塊を見つけ、その源………人界の終わりとされている『果ての山脈』にたどり着いた冒険譚。
ベルクーリはその洞窟で財宝の山と巨大な白竜を見つけ、宝の中から美しい剣を手に取った時、その途端、白竜が目を覚まし………ベルクーリは白竜に襲われることを覚悟するも、彼の勇気を免じた白竜がその場を見逃し、ベルクーリは生還した………というおとぎ話だ。
俺が一通り話し終えると、キリトが話し出す。
キリト「あの話だと、洞窟に入ってすぐにでっかい氷の氷柱が生えてるだろ?ソイツを折ってくれば……!」
ユージオ「キリト………。」
ケント「お前………。」
アリス「悪くない考えね。」
イーディス「確かに。」
カルム「名案だな。」
「「えっ…………。」」
キリトの話に、俺とアリスとイーディスが同意すると、ユージオとケントから驚いたような声が上がる。
ユージオ「あのね………。」
ケント「知ってるだろう?村の掟では………。」
アリス「村の掟では、大人の付き添いなく、子供だけで果ての山脈に遊びに行ってはならない、よ?」
イーディス「でも、氷を探しに行くのは遊びじゃないわ。お弁当の天命が長持ちするようになれば、村の皆が助かるでしょう?」
カルム「だから、仕事の内だと解釈すれば問題ないと思うな。」
イーディス「カルムって、そういう事を思いつくと、積極的になるわね。」
まあな。
俺とキリト、アリス、イーディスの4人は、そういう屁理屈を言う。
キリト「うんうん………そうだな!まったくその通り!」
ユージオ「…………でもさ、果ての山脈に行くのは村の掟だけじゃなくて、あれでも禁じられてるだろう?」
カルム「あれ、って?」
ケント「禁忌目録のことだろう、ユージオ。」
「「「「…………あっ。」」」」
そういえば、それを忘れてたな。
俺たちは、それを思い出す。
『禁忌目録』……公理教会が定めた法で、最も破ってはならないもの。
子供のころから、大人たちにそう教えられてきたのが、禁忌目録だ。
内容は教会への忠誠や殺人の禁止といったもので、これを破れば、整合騎士に捕まる……と大人たちから脅されてきた。
ユージオ「まさかとは思うけど………。」
ケント「禁忌目録を破るわけにはいかないだろう?」
「「……………。」」
ユージオとケントの言葉に、俺とキリトは反論に困ってしまう。
すると、アリスとイーディスが声を出す。
アリス「ユージオ、ケント………目録に書かれているのはこうよ?禁忌目録第1章3節11項………何人たりとも、人界の果てを囲む『北の山脈』を超えてはならない………。」
イーディス「超えるっていうのは、果ての山脈の向こう側………ダークテリトリーに入ることよ。」
カルム「………洞窟に入るなって、禁忌目録には定められていないしな。」
ケント「おい!」
ユージオ「カルム………!?」
ユージオとケントが狼狽える中、キリトが一気に畳み掛ける。
キリト「よし、決まり!次の安息日は、白竜!………じゃない、氷の洞窟探しだ!」
カルム「キリトの本音が聞こえたような気がするが、まあ、決まりだな。」
アリス「うん!」
イーディス「じゃあ、朝7時に北の門に集合ね!」
キリト「おう!寝坊すんなよ?」
アリス「そっちこそ!」
「「ハァ……。」」
俺たちがそう盛り上がっている中、ユージオとケントの2人がため息を吐いた。
今回はここまでです。
次回で、アンダーワールドの話は一旦区切りです。