カルムside
鳥の囀りが聞こえてきて、目を開けると、そこは、昨日寝た部屋だった。
カルム(それもそうか。アンダーワールドに来て、ログアウトする手段が見つかっていないんだしな。)
もしかしたら、起きたらログアウトしてるかもと心のどこかで思ったが、杞憂だったな。
ただ、現実世界に凄く近いアンダーワールドで、錯覚してしまったようだな。
布団から起き上がって、のんびりとしていると、ドアがノックされた。
セルカ「2人とも、起きてる?」
カルム「セルカか?起きてるぞ。」
メアリ「カルム………。起きてて良かったわ。おはよう。」
そう言って、メアリとセルカの2人が入ってきた。
起こしに来たそうだな。
カルム「ありがとうな。もうお祈りの時間になったのか?」
セルカ「いいえ。お祈りまでは時間はあるわ。まだ二人で寝てたら、起こすのに時間がかかったらと考えて早めに来たの。」
メアリ「カルムは朝早いの大丈夫だったのね?」
カルム「早く起きるのが習慣かもね………。まぁ、キリトはまだ寝てるけど。」
苦笑しながら、キリトの方を見る。
セルカ「それじゃあ、キリトを起こしてくれないかしら。」
メアリ「あと15分くらいでお祈りが始まるから、遅れないようにね。」
カルム「分かった。」
そう言って、2人は退出した。
恐らく、他の子供達を起こしに行ったんだろうな。
さて、この寝坊助を起こすか。
カルム「キリト。起きろ。」
キリト「ううん………。もうちょっと。」
カルム「それ、起きない奴の言い訳だろ?とっとと起きろ。」
キリト「………ううう。スグ、後5分………。」
カルム「ハァ………。起きろ!」
キリト「うわっ!」
リアルで、直葉に対して言ってるであろうセリフを言って、俺は呆れて布団をひっぺがす。
流石にキリトも起きたようだ。
キリト「カルム?」
カルム「やっと起きたか。早くしないと、シスター・アザリヤやメアリ達に怒られるぜ。」
それから俺たちは支度を整え、礼拝堂へと向かった。
お祈りを済ませ、朝食を頂いた俺たちは今日もユージオとケントの天職を手伝うために、彼らと合流し、ギガスシダーに向かった。
キリト「(さてと………。昨日話し合った通り、央都に行く為には、ユージオとケントの協力が必要だな。)」
カルム「(だけど、問題は天職だ。あの樹を伐り倒すには、骨が折れるぜ。)」
キリトと交互にギガスシダーに500回打ち込んで、休憩しつつ、ユージオとケントが交互に打ち込むのを見ながら、そう話し合う。
何せ、2000回も打ち込んで、やっと50削れるくらいだ。
このままでは、ユージオとケントが天職から解放できずに、一生を終えてしまう。
それだけは、避けたい。
すると、打ち終えたケントとユージオが近づいてくる。
ユージオ「どうしたの、2人とも。そんな気難しい顔をして?」
カルム「何でもないよ。」
ケント「なら良いんだがな。午前の分は終わったから、昼食にしよう。」
ケントの提案に同意して、俺たちも2人とも同じくギガスシダーに寄りかかって、あの硬いパンを出す。
ユージオとケントと合流して、今日は4人分を仕入れた。
「「「「いただきます。」」」」
そう言って、パンを食べ始める。
本当に、牛乳が欲しい。
そんな風に思っている俺たちを、ユージオとケントが見つめる。
ユージオ「2人にもアリスとイーディスのパイを食べさせてやりたかったな。」
キリト「アリスとイーディスのパイ?そんなに美味しかったのか?」
ケント「ああ!皮がサクサクして具がいっぱい詰まってて、搾りたてのミルクと一緒に世の中にこれ以上美味しいものはないって思えたな………。」
カルム「アリスとイーディスの天職はパン屋だったのか?」
ユージオ「フフッ、違うよ。2人は教会で神聖術の勉強をしていたんだ。」
俺とキリトの質問に答えるユージオとケントは、どこか嬉しそうだった。
ユージオ「2人は、村始まって以来の天才と言われてて、10歳の頃からもう色んな術が使えたんだ。」
キリト「へぇ~………。」
カルム「それじゃ、セルカとメアリも神聖術の勉強のために教会にいるのか?」
ケント「そうだ。セルカはアリスの妹で、メアリはイーディスの妹でな、2人がいなくなった後、シスターになるために教会に住み込みで勉強してるんだ。」
カルム「………なるほどな。」
そういう事か。
ユージオとケントは、2人なりにセルカとメアリの2人に罪悪感を感じていたんだな。
そんな風に考えていると、キリトが教会にいる子供達について尋ねていた。
2人曰く、彼らは孤児らしい。3年前に村に流行り病が蔓延したらしく、両親を喪った子供たちを教会が引き取ったらしい。
だが、話はそれだけでは終わらなかった。
ユージオ「でも、変なことはそれだけじゃなかったんだ。近頃、良くない話を耳にすることがあるんだ」
キリト「良くない話………?」
ケント「ああ。街道のずっと南にゴブリンの集団が出たらしくて、人を襲ったり誘拐したりするんだって噂が流れてるんだ。」
カルム「ゴブリンって………。」
アンダーワールドには、人工フラクトライトしか居ないと思っていたが、モンスターの類も存在するのか。
それに驚きつつ、話を聞く。
ユージオ「でも、僕はあくまでも噂は噂だと思ってる。だってそうだろ………。そんなことが起きてるのなら、秩序を守る整合騎士がとっくに退治してるはずなんだ………。」
ケント「しなきゃならない筈だ。闇の国の土を触れてしまったイーディスとアリスより、ずっとずっと悪い奴らなんだから………。」
キリト「………ユージオ、ケント………。」
カルム(………そう思いたい、まるで自分に言い聞かせてるみたいだな。)
ユージオとケントの言葉に俺とキリトは何も返すことができなかった。
2人にとって、アリスとイーディスの件は色々と思っていることがあるのだろう。
整合騎士に対しても、自分に対しても。
ユージオ「だけど、ここ2、3年で教会の裏に新しいお墓が増えたのも確かなんだ。」
キリト「神聖術に人を生き返らせるようなものはないのか?」
ケント「さぁな。少し違うが、高位の神聖術には天命の減少を止めるようなものがあるって、アリスとイーディスが言ってたな。」
カルム「天命の減少を止める?傷を塞いだり、失った肉体を蘇らせるとかそんな感じのものか?」
ユージオ「どうだろ?教会の古い本にはそういう術が存在するだってアリスとイーディスは驚いていたけど、詳細までは分からなかったみたいだよ。」
ケント「使えるのも公理教会の凄く偉い司祭様だけとも言ってたかな。」
キリト「公理教会………?」
ユージオ「央都にいる禁忌目録を作った偉い人たちだよ。」
なるほど、神聖術にもランクがあるのか。
高度の術になればなるほど、使用者が限られてくるのはVRMMOらしいと思ったのは、余談だ。
そんなことを思っていると、神聖術を使用するためのコストは何なのかと気になった。
昨日、見たステイシアの窓にはMPらしいパラメーターはなかったので、疑問に思った俺はケントに尋ねてみることにした。
カルム「なぁ、ケント。神聖術って、一体何を媒体に発動してるんだ?」
ケント「えっ………何を言ってるんだ、カルム。神聖術の源は空中に存在している神聖力だろう?」
カルム「し、神聖力………?」
またしても聞き慣れないワードが出てきたことにキリトと共にハテナマークを浮かべる。
分かっていない俺たちに、もしかしてそれも忘れているのかい?と言葉と共にユージオとケントが説明してくれた。
ユージオ「神聖力っていうのは、ソルス神やテラリア神が空気や大地に満たして下さるものだよ。神聖術を使うにはその神聖力を消費するんだ。」
ケント「だから、大きな術ほど消費する神聖力も莫大なものになっていくんだ。まぁ、空間の神聖力を全て消費するような術を使える人はザッカリアの街にもいないだろうがな。」
カルム「な、なるほどな………。そういえばそうだったな。忘れてたよ…………!」
キリト「なら、この樹を切り倒せるような神聖術は俺たちには使えないわけだ。」
ユージオ「アハハハ!それができたら、もっと楽ができるのにね!」
ケント「まったくだ。」
何とか忘れたフリをして、誤魔化せた。
キリトが話を変えたおかげで、疑われずに済んだ。
カルム(神聖術の勉強、ちゃんとしよう。)
そう心に誓った。
一方、キリトは、ユージオとケントに尋ねていた。
キリト「この竜骨の斧でコツコツやるしか……そうだ。なぁ、ユージオ、ケント。この村には、この斧よりも強い斧はないのか?」
それを聞いたユージオとケントは首を横に振っていた。
ユージオ「あるわけないよ。これ以上といったら、それこそ整合騎士が持っているような……っ!」
カルム「もしかして………何か心当たりがあるのか?」
ケント「…………斧の代わりにはならないとは思うが………二人に見てもらいものがあるんだ。」
そう言って、ユージオとケントは、山小屋の方へと走っていき、しばらくすると、かなり重い足取りで帰ってきた。
どうやら、背負ってる物がかなり重いらしい。
カルム「2人とも、大丈夫か?」
ケント「ああ………。やはり、重いな。」
ユージオ「そうだね………。」
キリト「2人とも、これは?」
息も絶え絶えの様子のユージオとケントに尋ねるもどうやらそれどころではないようだ。
ユージオに中身を見てもいいか確認を取ってから、俺たちはその包みを開け始めた。
あまりの重さに、俺が二つの包みを持っている間にキリトが包装の紐をほどいていく。中にあったのは。
キリト「………剣?」
ユージオ「うん。おとぎ話だと、青薔薇の剣と雷鳴剣黄雷って呼ばれてる。」
カルム「おとぎ話?」
中から出てきたのは、片方は、薄い水色を基調とした剣で、柄の部分には薔薇の装飾が施された片手剣だ。
もう片方は、銀色の刀身に、持ち手の部分は銀色と黒の剣で、柄の部分には雷の装飾が施されている片刃の片手剣だ。
なんでも、『果ての山脈』に冒険に出かけたベルクーリという剣士が白竜の巣で見つけたのが、この青薔薇の剣と雷鳴剣黄雷だと言われているらしい。
そして、6年前にアリスとイーディスと共にその果ての山脈に行った際にこの剣をユージオとケントは見つけたらしい。
おとぎ話は実話だったということだ。
ユージオ「まあ、白竜は骨になっていたんだけどね・・・そして、その後にアリスはダークテリトリーに入ってしまって・・・」
そう語るユージオの表情が昨日と同じように曇った。
ユージオ「アリスとイーディスが連れていかれる時、僕はただ見ているだけで何もできなかった………。」
ケント「助けようとしたんだ………。でも、手も足も動かなかった。」
「「……………。」」
2人の悔恨の言葉に、俺たちは何も言えなくなっていた。
そんな空気を察して、ユージオとケントは、青薔薇の剣と雷鳴剣黄雷の話に戻した。
ユージオ「ゴメン、また変な話をしちゃって………。その剣、見つけた時は持ち上げることもできなかったんだけど、どうしても気になって一昨年の夏に北の洞窟まで取りに行ったんだ。」
ケント「少しずつ運んだが、重くて3か月もかかった。」
キリト「3か月!?そりゃまた………。」
カルム「………なぁ、ユージオ、ケント。そこまでしてどうしてこの剣を運んできたんだ?」
俺はどうして、そこまでしてこの剣を持ってきたのかを聞いてみる。
ユージオ「いつか、この剣を振るえるようになれたらって………。」
ケント「そんな感じだ。」
やっぱり、ユージオとケントは未だに諦めていないのだ。
アリスとイーディスは、きっと生きている。
でも、今の自分達では探しに行けない。
だからこそ、縋るための希望が欲しくなったのだろう。
なら、俺たちがするべき事は。
カルム「なぁ、2人とも。この剣、使ってみても良いか?」
キリトとアイコンタクトして、尋ねる。
了承を得て、キリトは青薔薇の剣を、俺は雷鳴剣黄雷を使う事に。
だが…………。
キリト「お、重い………!」
カルム「確かに………!」
ユージオ「本当に大丈夫かい!?」
ケント「無理するな。」
それにしても、結構重いな。
ちなみに、雷鳴剣黄雷の鞘は、そこら辺に置いた。
鞘は、黒を基調としていて、金色の装飾がついていた。
キリト「なぁ、この2本の剣の素材って何だろうな?」
カルム「ううん………。青薔薇の剣は、氷に近くて、雷鳴剣黄雷は、何だろうな?」
ユージオ「でも、こんな硬度、氷が持ってるのかな?」
ケント「ただ、銀とも竜の牙とも違うのは確かだな。」
何だろうな。
すると、ユージオとケントが声を上げる。
ユージオ「もしかしたらだけど、この剣は神器なのかもしれない。
「「…………神器?」」
ケント「ああ。神様の力を借りて形にしたか、あるいは神様が自ら作り出したもの………。そういうものを神器っていうんだ。」
キリト「…………なるほど。」
カルム(なら、エクスキャリバーみたいな伝説級武器って事か。)
そんな風に考えつつ、キリトが青薔薇の剣で、俺は雷鳴剣黄雷で試し切りをする。
カルム「ケント。今のギガスシダーの天命はどれくらいだ?」
ケント「えっと………23万2315だが……。」
ユージオ「ふ、2人とも………。まさかとは思うけど、その剣でギガスシダーを打とう、なんて考えてないよね?」
キリト「フフフ。そのまさかさ、ユージオ、ケント。」
カルム「禁忌目録にギガスシダーを剣で叩いちゃダメ………なんて項目があるのなら止めるけど?」
ユージオ「………はぁ。前にもこんなことがあったような気がするよ。」
ケント「奇遇だな。俺もだ。」
諦め顔のユージオとケントから了承をもらって、俺たちは剣を振った。
だが、重すぎた故、切り口には当たらず、幹の方に当たり、衝撃波で吹き飛ばされる。
カルム「いって………!」
キリト「ダメか………。」
ユージオ「言わんこっちゃない。」
ケント「大丈夫か………!?」
心配して近寄るケントの目が、驚愕の表情を浮かべる。
それに釣られたユージオも見ると。
ユージオ「嘘だろ………!?」
ケント「剣が、めり込んでいる………!?」
そう、青薔薇の剣と雷鳴剣黄雷は、ギガスシダーの幹に刺さったままだ。
天命を見てみる事に。
ユージオ「23万2314………!?」
キリト「ええっ!?たったの1!?」
カルム「いや、1も減ってる。」
ケント「カルムの言う通りだ。今のは切り込んだ場所が悪かった。もし、切り目の中心に命中していたら、更に削れていたはずだ。」
そんな風にケントが補足してくれた。
という事は………!
ユージオ「確かに………この剣を使えば、ずっと早く樹を削れるかもしれない。」
ケント「………問題はこの剣を使いこなせるかどうかってことか。キリトとカルムで振るのがやっとだからな。」
カルム「ならさ、ユージオとケントはどうだ?斧の経験とか活かせそうにないか?」
ユージオ「言っただろう?僕もうまく振れないって………。」
キリト「俺たちが剣を振るコツを教えてやるから試してみろよ。」
ケント「………う~ん………そこまで言うのなら、やってみるよ。」
そう言って、ユージオは青薔薇の剣を、ケントは雷鳴剣黄雷を持つ。
やっぱり、2人もきついそうで、両手でやっと持っている感じだ。
ユージオ「お、重い………!」
キリト「斧を使う時よりももっと体の重さを使って、腕の力だけじゃなく、全身で釣り合いを取るんだ。」
カルム「重心は少し低く、呼吸を整えて………あとは斧と一緒だ。切り込む先を最後まで見続けて切り込め!」
ケント「…………ああ!」
キリトと俺のアドバイスを受けたユージオとケントが、剣を振るう。
「「ハァァァァ!!」」
だが、幹に当たり、ユージオとケントは反動で吹っ飛ぶ。
2本の剣も、地面に突き刺さる。
キリト「大丈夫か!?」
ユージオ「何とか………!」
ケント「やはり、無理だ。」
カルム「いい案だと思ったけどな。」
その後、ユージオとケントが、斧を振るっている中、俺とキリトは、どうにかして持てないかと調べた所、オブジェクトコントロール権限が、2本の剣よりも低い事が分かり、どうにかしようと頭を悩ます。
今回はここまでです。
次回、ゴブリンとの戦闘の直前まで行きます。