爆弾暗殺の1件から数日経過して殺せんせーから通達が届いた。
「ヌルフフフ……そう言えば皆さんにお知らせがありましたね。このクラスにお仲間が帰って来ます。昨日までは事情があったようですが今日から……………………おや?」
「「「「「「???」」」」」
何の変哲も無い殺せんせーの高速移動だけど今日は明らかに雰囲気が違う。というか困惑していた。
「どうしたの殺せんせー? その帰ってくる生徒って……?」
そう言えば業って確か初日はわざと遅刻してたような…………私自身も忘れてたけど。
「え……えぇ。どうやらその人物が教室付近にいないみたいでして……どうしましょう?」
「いねーのならそれで良いじゃねぇかタコ! とっとと面倒臭い事終わらせろや!」
「だよな〜」
「マジそれだわ〜」
正直に言えば寺坂や中村さんの悪態も今回は正論って言えば正論だ。だらだらホームルームが引き伸ばされるのも変だし。
「致し方ありませんが……彼の事は後回しにしましょう。きっと復帰日を間違えてるだけかもしれませんし」
見事に出鼻をくじかれた殺せんせーが諦めてホームルームを終わらせて授業へと突入した。そして昼食を食べようと渚の元へ近づこうとすると中村さんに腕を引かれた。
「茅野ってさ〜渚の何処に惚れてる訳? 私から見た渚ってナヨナヨしてる頼りない男子何だけどさ〜」
「っ〜〜! 勤勉な所、誠実な所……かな? あとどうしてかな……
「ふ〜ん……変わってるよね茅野って」
「う……うん。もう行くね?」
私は急いで渚の元へ向かうけど……危なかった。あのままだと私が渚を好きな
「やぁ渚君! 面白い事やってるって聞いたけど本当にしてたんだ!」
「………………っ! 業君!? そうか……停学明けの生徒ってそう言えば業君だったね!」
「渚……? 彼って誰なの?」
我ながら白々しい質問だ。最も渚に近いポジションで渚との対比の如く行動する…………渚の最高の親友。それが赤羽 業……私が渚を攻略するに辺り最大の障害になるのは明白。だって業は悪戯が大好きだ。ある事無い事が面白可笑しく吹聴される。それでいて洞察力も本物………………私の演技で業から本心を隠し通すのは前提条件だけど、
『じゃあ……消しちゃう? そうすれば大好きな渚を取られなくて済むんだよ?』
うるさい……私は
『キミの事がますますわからない……だけどキミも面白いよね?』
私の逡巡の間に業君が渚から紹介されて殺せんせーに握手のフリをした騙し討ちを決めた。その光景に皆は戦慄したし、殺せんせーも動揺をした…………だけど渚の読みどおり数をこなせば殺せんせーの警戒レベルは上昇する。停学明けから数日も経過すれば殺せんせーは業を当たり前のようにあしらえていた。
「渚……業君の機嫌が悪そうだけど彼ってあぁいう人なの?」
「業君は…………いや、多分だけど僕がペラペラ話さない方が良いかもしれないね。直接聞く方が良いと思うよ?」
「わかった……ありがとうね?」
「僕は何もしてないよカエデ……」
「そう言えばそうだっけ?」
確か業の眼の色が変わったのはタコを使った嫌がらせの翌日だった筈……あまり時間が無い。だから私はそれとなく渚の傍で業を探った。すると業が殺せんせーを呼び出して投身自殺を使った暗殺に挑んだ。もちろんあっさりと救出されてたけど。
「っ!? 嘘でしょ!? 業ってこんな暗殺をしてたの!?」
「にゅや!? 茅野さん!? まだ下校していなかったんですか!?」
「あ〜〜目撃者がいたのかぁ〜〜恥ずかしい。本気で恥ずかしいわ……」
「あ〜〜……渚に…………と言うよりは業君に聞きたい事があって……ね?」
動揺から声が漏れて私の存在がバレた。メチャクチャ恥ずかしい。そして私が業君に聞こうとしてた事があるのを思い出した渚は私へアイコンタクトをしてくれた。
「殺せんせー……業君に財布の中身をスられたのは残念だけどさ……諦めなよ?」
「え……えぇ。悔しいですが……ひっっっじょ〜〜〜に腹立たしいですが仕方ありません。大人しく諦めましょう……」
渚は殺せんせーを連れて私達を残した。もちろん渚の真意を見抜いた業が私に話しかけて来る。
「そう言えば渚君から聞いたよ〜〜寺坂の背後を取ったんだって〜〜? 俺ならその程度じゃ終わらせないけどぉ〜〜?」
業お得意の挑発……明らかに露骨な話題転換だけど私も業を探りたいからノッてみよう。
「そりゃあ私みたいな小柄な女子と業君みたいな体格の良い男子を一緒にしないでよ〜〜今の私なんてせいぜいあの場で頸動脈を斬るぐらいしかできないよぉ〜〜」
「確か茅野だっけ? ……………………あのさぁ〜〜?
空気が凍りついた。互いが互いに探りを入れてるのは明白でどちらが先に仕掛けるか……その状態だったけど仕方無い。どうせ遅かれ早かれバレる以上この手札を切ろう。
「朝までの業と今の業の心境の変化を話してくれるなら構わないよ?」
「へぇ〜〜その程度で教えてくれるんだ〜? 別に良いよ〜?」
「じゃあ私から。私は渚に一目惚れした。だから渚と親しい業君に近づく必要があった。どうせキスの件も識っているでしょ? もちろん渚に直接言わないでね? じゃないと……………………許さないから」
少しだけ……ほんの一瞬だけ私は業へ笑みの中の殺意を開放した。すると業は口元を緩ませて私へと語り掛ける。
「ハハハ! そんな眼をした奴がこんなに近くにいるとは思わなかった! 覚えておくよ茅野……
「ありがとう業君。じゃあ……こっちの質問に答えて貰わないとね?」
業の笑みに対して私も笑顔で返した。
「約束だから仕方無いけど……俺ってさぁ……教師が嫌いなんだよ。薄っぺらくて傲慢で、保身の為になら何でもやれるだろ? そういうのが嫌いなんだよ……」
そして業は教師を……大人を嫌悪する理由を語ってくれる。なるけど……数々の問題行動記録にも一致する訳だ。これでは大人へ不信感を抱くのも当然だ。
「でも殺せんせーは違った。だから殺せんせーを見る眼が変わった。そういう事?」
「まぁね。生徒相手に最善以上の結果を無条件に届けようとする偽善者もどきかと思ったら中身まで化物と来たもんだからね。素直に受け入れないとやっていけないと身に染みたよ……」
悔しさを滲ませたその表情は紛れもない業の本心だ。そしてソレを隠す術を業は持っていた。
「だけどさ……茅野も俺の遊び相手になってくれるんだろ? こりゃあ退屈しない生活になりそうだな……」
それだけ告げると業は私に背を向けて消えて行った。成程……業の心境の変化はここにあった訳ね。
「次のイベントは…………あぁ嫌な……本当に嫌なイベントだ」
新任外国語教師イリーナ・イェラビッチ……彼女がもうすぐやって来る。
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