マンハッタンカフェとトレーナー   作:まさみゃ〜(柾雅)

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催眠術

 最近、夏の所為か虫刺され痕が多い気がする。

 それに、マンハッタンカフェの距離が近くなった。

 

「そういえばトレーナーさん、最近同級生の間で『催眠術』というものが流行っているそうですよ……?」

「催眠術? まぁ、そのくらいの年齢なら一部の生徒で流行るよなぁ」

 

 デスクで資料整理中にデジャブを感じる会話。

 けれど、過去に一度もこのような会話をした記憶はないので気の所為っだろう。

 

「トレーナーさんは信じます? 催眠術」

「学生時代に友人に試されたけど、まったくかからなかったな……。多分信じて無い部類に入るんじゃ無いか?」

「では、試してみます……?」

 

 そう言って、彼女は微笑みかけてきた。

 面白そうだったので作業をいったん止めて、彼女の提案に乗る。

 彼女は懐から懐中時計を取り出すと、目の前で揺らし始めた。

 

「振り子を目だけで追ってください……そして息を大きく吸って……吐いて……」

 

 彼女の指示通り、目で振り子を追いながら呼吸をする。

 

「そうです、その調子です。吸って……吐いて……吸って……吐いて……」

 

 頭の中で彼女の声が反響する。

 まるで混ざり合うようで……少し…………意識が溶けて………………――――――――。

 パチンッ、という音が聞こえたと同時に、意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチンッ、とマンハッタンカフェは指を鳴らす。

 すると、彼女のトレーナーはプツリッと糸が切れたかのように項垂れた。

 

「ふふっ」

 

 今日も催眠術が上手くいったことに彼女は喜ぶ。

 そしてトレーナーの隣へ移動すると、彼を椅子に座らせたまま椅子を引いた。

 無防備な彼のシャツのボタンを一つ一つ丁寧に外し、日課となりつつあるキルマークを膝の上に座りながら付ける。

 

「可愛らしい人……私の前でこんな無防備をさらして……『お友だち』もそう思いますよね……?」

 

 鎖骨をしゃぶり、首筋を吸い、両手は恋人繋ぎ。

 耳元に顔を近づけて囁く。

 

「トレーナーさんは私の事が好き……大好きになる……

 私の事を優先する様になる……私だけのトレーナーさんになる……」

 

 交互に彼の耳に囁き、暗示をかける。

 その際大きく尻尾を揺らすが、彼は起きない。

 初日に色々と試してみた結果である。

 

「疲れも抜けて気分が良くなる……私だけを信じる様になる……」

 

 

 彼女がトレーナーに催眠術をかけてから数時間が経った。

 陽は傾き、辺りを黄昏に染めている。

 

 

「……このくらいにしましょうか」

 

 

 そう言ってマンハッタンカフェははだけたトレーナーのワイシャツを直し、彼を床に下ろして膝枕をする。

 

「これからあなたは目覚めます。しかし催眠術にかかる少し前までの記憶は忘れてください」

 

 そして彼の目の前で手を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンッと言う音で意識がハッと戻った。

 外は既に夕焼けで染まり、夜が近づいてくる事を知らせている。

 

「お疲れの様なので作業中に寝てしまいましたよ」

「そうだったの? なんかゴメンね……それに膝枕までさせちゃって……」

 

 体の所々が少しヒリヒリする。

 また虫に刺されたのかもしれない。

 

「いえ、こちらこそアナタの疲労に気付かなかったので……」

 

 後頭部に感じる柔らかな感触。

 見上げる視界にテーブルが写っていることから床に寝かされているようだ。

 

「本当はパイプ椅子で簡易的なベッドを作ってそこに寝かせた方が良かったのですが……準備ている間も姿勢の悪い状態はお身体によくないので膝枕をと……」

 

 彼女の顔が少し赤く見える。

 ただ、それは夕焼けの色なのかもしれない。

 

「そろそろ退くよ。ずっと膝枕させちゃったみたいだし――」

「ダメです」

 

 退こうとしたら身体が急に何かに縛られているかのように動かなくなる。

 そこに彼女の顔が近付いてきた。

 マンハッタンカフェの匂い(と表現しかでない何か)が強くなる。

 

「トレーナーさん……催眠術って……知っています?」

 

 穏やかの表情の彼女。

 しかし、その表情に恐怖している自分がいる。

 

「眠りを催す術……それが催眠術です……」

 

 顔が熱い。

 恐怖だと思っていたがこれは……興奮?

 彼女の匂いと言うのだろうか、それを感じてから心臓が何故か強く脈打ち始めている。

 

「催眠術で人を思い通りにできるのは暗示の他に睡眠学習もあるんですよ……?」

 

 抵抗したいが、身体に力が入らない。

 意識とは裏腹に、身体がリラックス状態に入っていて動けないようだ。

 

「本当はもう少し様子を見たかったのですが……もう、我慢できません。

 トレーナーさん……私に依存……して?」

 

 頬に手を添えられる。

 ゾクッと、背筋に何かが走った。

 

「ふふっ……どうやら貴方の身体はもう、私に依存しているようですね……」

 

 あとは、と続けて彼女は言う。

 

「心も……。

 大丈夫です、きっと貴方は受け入れてくれる……」

 

 耳元で暖かな風を感じた。

 

「それに損は……させませんから」




ブクマ・感想・評価、圧倒的感謝……!!

最近、推しの共有が多すぎて浄化によって死にそう。
おっかしいなぁ……最近は浄化耐性ついて来てたはずなんだけどなぁ……
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