「あ、トレーナーさ、……ん……」
彼に声をかけようとした時、思わず私は歩みを止めてしまった。
楽しそうに、彼はウマ娘と話している。
綺麗な人。
ガラス細工の様な繊細さをそのウマ娘から感じる。
気が付けば私は、彼が自身の腰に当てている腕のシャツの裾を背後から摘まみ、軽く引っ張っていた。
「ん? ああ、カフェ。どうしたんだ?」
「あら、貴女は……」
「あ、え、えっと……」
自分の無意識がしでかしたことに少し恥ずかしさを覚え、私は彼の背に隠れました。
トレーナーさんは少し驚いていましたが、それよりも顔が熱くてここから消えてしまいたい。
「え、えっと、とりあえず紹介するよ。さっき話していた担当しているウマ娘のマンハッタンカフェだ」
「あら、彼女があなた様の……」
「それでカフェ、彼女はメジロアルダン。実は彼女のトレーナーがしばらくの間、入院するみたいだからその期間中の面倒を頼まれたんだ」
どうやらそういう関係ではなかったようで安心した。
……私は今、何故安堵を?
「そ、その……よろしくお願いします……」
「ええ、よろしくお願いしますね」
◇
私のトレーナーさんがメジロアルダンさんの面倒を見ることとなったかは、理由を聞いたらすぐに答えてくれた。
どうやらメジロアルダンさんのトレーナーさんと私のトレーナーさんはご友人だったそうで、たまたま入院することとなった時も近くに居たからだそう。
「そうでしたか……てっきり――」
そこで私は口をつぐみました。
何を言おうとしていたのか、自分でも分からない。
「てっきり?」
「い、いえ、なんでもありません。それよりもコーヒーのおかわり、淹れましょうか?」
「そっか。じゃあお願いするよ」
何とか誤魔化すことはできた。
それでも、気分が晴れないのは何故だろうか?
「メジロアルダン先輩もおかわりします……?」
「はい、お願いします。ふふっ、聞いていた通りマンハッタンカフェさんの淹れるコーヒー、おいしいですね」
「あ、ありがとう……ございます……」
彼女はとても眩しい。
月の様に儚い雰囲気なのに、その輝きは私を溶かしてしまいそう。
そこでくらり、と私の視界が揺れた。
気付けばトレーナーさんが私を背中から支えてくれている。
「――え?」
「か、カフェ、大丈夫か?」
両腕をガッチリとした男の手で掴まれながら支えられている。
とても男らしい、ゴツゴツとした暖かな感触。
「あらあら、マンハッタンカフェさん大丈夫ですか?」
「そうだな、ちょっと心配だ」
「い、いえ、私は大丈夫です。と、トレーナーさんにだけは言われたくありません……!!」
アナタは自分の事よりも私を、他人を優先する。
私はそんなアナタをいつも心配していると言うのに、彼は――。
「私の気持ちも知りもしないくせに……」
「……? カフェ、何か言ったか?」
「――っ!? い、いえ、何でもない……です……」
口に出ていたらしい。
メジロアルダン先輩はと言うと、両手で口を隠して驚いている。
そしてその目はキラキラと輝いており、頬を赤く染めて驚いていると同時に興味津々の様子。
私は恥ずかしい気持ちになり、もう大丈夫だと言って支えてくれている手を離してもらった。
「イテッ!」
トレーナーさんがお友達にど突かれている。
この鈍感野郎、と言っているが彼には聞こえていない。
「メジロアルダン先輩、ご心配をおかけしま――」
「メジロアルダンでは長いでしょう? 良ければアルダン、と呼びやすいように呼んで下さい」
「……分かりました、アルダン先輩。私も……呼びやすいように呼んで構いません」
優しい。
こんな、醜い私が近くに居てはいけない、そんな気がしてしまう。
「取り敢えず今日はカフェのトレーニングは休もうか。それで――」
「私もアルダン先輩のトレーニングを見学しても……?」
「あー……そうだね、カフェは見学にしよう」
そんな私とトレーナーさんのやりとりを何処か羨ましそうにアルダン先輩は見ている。
「……アルダン先輩?」
「はい、どうかいたしましたでしょうか?」
「いえ、少し先輩がその……」
言葉が詰まる。
本当に言っていいのか分からないでいると、彼女は少し寂しそうに私の言おうとしていた言葉を口にした。
「ええ、少し……寂しいと感じております」
「本当にアイツが迷惑をかけてしまって申し訳ない!!」
トレーナーさんがすぐに謝る。
どうやら先輩のトレーナーさんと彼は仲が良いようですね。
口ぶりからして同年代だと思うのですが……いえ、私には関係の無い無い事。
だからこんな……モヤモヤした気分は気の所為……だろう。
「いえ、あの人からもキチンとした謝罪はいただきましたから。ふふっ、それに……これを機に色々と進められそうですから」
少し紅潮した頰に手を当てて、先輩は呟く。
先程までの繊細な印象は無く、彼女の気配は狩人の様だった。
私のトレーナーさんはと言うと、彼女の気迫に少し尻込みしている。
「……と、とりあえずトレーニング始めようか」
私も、最初の印象が消し飛ぶ程に彼女が少し……怖かった。
◇
今日はトレーニングはお休み。
タキオンさんとの共有している教室の、私のスペースで寛いでいると、来客があった。
「アルダン……先輩……」
「ふふっ、来ちゃいました。もしかしてご迷惑……でしたでしょうか?」
私はそんな事はないと彼女を歓迎するが、ふと、あの時の狩人にような雰囲気の彼女を思い出してしまう。
野生を孕んだ彼女の瞳……。
コーヒーを淹れながら、私は考えてしまう。
「どうぞ……」
「ありがとうございます」
メジロ家の令嬢。
とてもお淑やかな印象を彼女の所作から感じられるのに……。
「どうすれば……貴女の様に……」
「……簡単な事ですよ」
「っ!?」
考えていた事が口に出てしまっていたらしい。
私は慌てて誤魔化そうと言い吃ってしまう。
「私は……あの人と約束したのです。あの人にとってはそんな大した意味ではないと思われるのですが、約束は約束ですから……ね?」
あの時の瞳が私を覗く。
オランダの涙でできた青い小鳥が見える。
「やく……そく……」
「カフェさんは、貴女のトレーナーさんに好意を持っておられるのですよね?
ならば簡単です。
トレーナーさんとの一番始めの約束をもとに退路を着実に塞げば良いのです」
「一番……始めの……」
何故、忘れてしまっていたのだろうか。
彼女に指摘してもらうまで私は……現状に満足していた様だ。
けれど――。
「けれど……それはあまりにも強欲では……?」
「……それの何処に躊躇う理由があるのでしょうか?」
彼との一番初めの出会いを思い出す。
私を否定せず、受け入れ、信じてくれた彼。
始めは喜びだった。
それがいつしか好意に……。
時計の鳩が鳴く。
アルダン先輩は彼女のトレーナーさんをそろそろ迎えに行くようだ。
教室を出る彼女を私は呼び止める。
「あの、本日はありがとうございました……。
その――」
「また、遊びに来てもよろしいでしょうか?」
私はたまらずそれに「はい」と、答えた。
「また、コーヒーを淹れてお待ちしております、先輩」
◇
「……カフェ? どうかしたかい?」
「あの、これからもずっと……ずっと……私の側にいてくれますか?」
なんでアルダンを選んだかって?
引き当てたお姉ちゃん()だからさ)^p^(
と言う冗談は置いておいて、カフェもアルダンもバドステ回復時の演出の謎幾何学模様?の空間背景で同じなのよね。
因みにアルトレはしばらくの間右腕が不自由になって、カフェトレは対面の席が空くようになりました、まる。
私は頭ヨワヨワなので誰か霊能探偵マンハッタンカフェ書いて下しあ