2月14日、バレンタイン。
目の前には担当ウマ娘のマンハッタンカフェ。
中庭のベンチに大股で座らされ、股の間の空いた場所には彼女の膝。
両肩には彼女のが添えられ、逃げ道を閉ざされている状況。
「トレーナーさん……今回は悪ふざけはさせませんからね……」
そう言って、肩に下げていたバッグから彼女は小さな箱を取り出す。
それを目の前に持ってくると、ちゃんと認識していることを確認される。
「ちゃんと見えていますね……」
少し安堵の表情を浮かべると一旦彼女が離れた。
今のうちにベンチから離れようと席を立とうとすると「ちょっと待ってください」と言われてしまう。
そして彼女がこちらを向いたので咄嗟に開いていた股を閉じると、今度は彼女は膝の上に座った。
「ふふっ……これではアナタは逃げられませんね……」
どこか嬉しそうに彼女は微笑む。
「きょ、今日はいつも以上に大胆に動くね……」
「ええ、前回は意地悪をされたので……謂わばこれは仕返し……でしょうか……?」
顎に手を当て、少し考える仕草。
口角が少し上がり、耳も尻尾も興奮しているのかよく動いている。
「ま、まだ根に持ってたんだ……本当にごめんって……」
「根に持ってはいませんよ。ただ……アナタだけ平然としているのが少し狡いと思っていたんです」
そう言って目を少し細め彼女は微笑みかけてくる。
その表情に一瞬ドキッとするが、彼女は気付いているのだろうか。
「私はいつもアナタにドキドキさせられているんです。いくら心臓を鍛えていても……アナタは私の心臓の鼓動を激しくさせてしまっている……」
そっと両手を頰に添えられる。
そして胸元に引き寄せられ、耳に胸を当ててきた。
「私の心臓の鼓動、聴こえますか……? アナタと出会ってから……アナタを見ているといつもこうなってしまうのです……」
ドク、ドク、ドク、ドク……っと彼女の心音がハッキリと耳に響く。
仄かに珈琲の香りが鼻をくすぐる。
しっとりと彼女の手から手汗を感じる。
勇気を持ってこの様なことをしているのはハッキリと伝わった。
「これはついさっき気が付いたことです。アナタはあの子たちに好かれやすい……と前にも言いましたが、一つ訂正をさせて下さい……」
「き、気付いたこと……?」
「アナタはあの子たち以上に私を虜にしています……❤︎」
抱き寄せていた頭を離し、ジッと目を合わせてくる。
彼女はそっと頰を人差し指でなぞり、顎、喉、鎖骨と続ける。
「肌の色合い……感触……そして――」
急に珈琲の香りが強くなる。
彼女の顔が、首筋に寄せられていた。
スン、スン、と匂いを嗅がれる。
「匂いと……味……」
ペロッと舐められ、身体が少しビクッと跳ねてしまう。
「トレーナーさん……これ、見えますよね……?」
目の前にチョコレートが運ばれてくる。
小さな、丸々とした、ハート型のチョコレート。
砂糖のような甘い香りは強くなく、しかしカカオの香りでも無い。
これはおそらく……コーヒーの香り……。
「これには私の気持ちがこもっていると思いますか?」
「……分かりまs」
「目を逸らさないでください」
彼女の表情はいつも以上に真剣なものになっていた。
そして答えられずにいると、痺れを切らしたのか彼女は「もう、いいです」と言って、答え合わせを始める。
「これには私の気持ちを沢山込めました。ですが……どうやらアナタに伝わなかったようです……。という事は気持が足りていなかったのでしょう……」
少し寂しそうに彼女は言った。
が、次に「なので」と付け足し、持っていたチョコレートを自分の口に入れると咀嚼し始めた。
そしてすぐさまこちらの首に腕をまわし、唇に唇を押し付けてくる。
口の中にはチョコレートのほんのりとした甘さと珈琲の苦味が流れ込んでくる。
人間というものは不思議で、口の中に何か固形物入り込むと反射的に咀嚼し、飲み込んでしまう。
そして液状なら、溢れない様に飲もうとしてしまう。
突然の事で瞼を閉じることも出来ず、頰を赤く染めながら、瞼を閉じて想いを伝えようとしている彼女の顔が見える。
やっと流れてくるチョコレートを飲み干すと今度は彼女が舌を入れてきた。
流石にこれ以上はまずいと思い、彼女を押しの退けようとする。
が、人の力ではウマ娘に敵うはずもなかった。
やっと彼女が落ち着き、離れてくれた。
しかしお互いがお互いの顔を直視出来ない。
あれ以上の事は何も起こらなかったが、それでも意識してしまうには十分だったのだろう。
「まだ、口の中が少し苦い……」
ピクリと彼女の耳が動いた気がしたが、聞き取られていないことを祈ろう。
感想・評価・ブクマ、感謝感激の極み……(*´ー`*)
予定してた話よりも随分と暴走したな……おのれトレーナー……(トレーナーの方が被害者)
サイゲさん、衣装カフェはもう少し待ってくだいあともう少しで天井分溜まりますから(切実)