戦姫劍遊紀   作:クロビナ

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第二話 鍔ぜり合いの縁

激しい剣戟が続いていた。

幾度となく蒼の剣と黒い刀が交差し、時には衝突を繰り返してどのくらい経ったのだろう。

お互いに少なくない傷が目に見えるが決定打は与えられていない。

時間と共に気力が削られていくのを億劫に感じているのか翔の顔には苛立ちが見える。

気持ちを切り替え、蒼の剣が眼前で振るわれるのを紙一重で避けて彼女の剣の持ち手を掴んで動きを止める。

そして冥牙の頭の部分を奴の顔面に叩き付けるが、もう片方の手で掴まれて防がれてお互いが相手の武器を掴み肉薄した状態で強い眼差しを向けながら翼が叫んだ。

 

「その力はいったいなんだ!ノイズを容易く断ち切り我が剣と互角に打ち合うことができるなど!」

 

「容易くじゃねーよ!気力体力どっちも底を尽きかけてるよ!でもそんな俺を押し切れないなんてお前さん意外と大したことないなぁ!」

 

「貴様!」

 

彼の挑発に気を取られるのを確認した後、彼女の手を振りほどいて大きく後ろに下がり息を整える翔。

(悔しいが気力体力が尽きかけているのは本当だ。そろそろ決めにいかないと削り切れられる・・・!)

距離を取った俺とは逆にすぐさまその距離を詰めようとする翼。

(上等だ。きっついの撃ち込んでやる!)

決意と共に集中して彼女の振るう一撃が自分に当たる限界まで目視する。

それを紙一重で回避するのと同時に力を入れて気を体外に強く解き放った。

 

「っ!ああっ!」

 

「吹っ飛べ!」

 

自身の気によって彼女の体勢が崩れた瞬間に渾身の突きを喰らわせることに成功した翔。

翼は大きく吹き飛ばされ後方の工場の壁に衝突し、それだけでは勢いが止まらず壁を突き破り彼の視界から消えていった。

 

「ど、どんなもんだ。人の話を聞こうとしないからこうなるんだよ」

 

『そんな疲労困憊で言われても全然なー。それにイライラしてたのはお前さんもだろう。お互い様じゃないの?』

 

「それはそうだけどさ、何か気に入らなかったんだよ、特に目がさ。」

 

『目?』

 

「力強い目をしてるのは結構な事さ。ノイズを斬って回っていた俺に警戒して敵意を向けるのも理解できる。だけど響の姿を見ていた時の奴は感情が抑えきれていないように感じたんだよ。なんでか理由はわからないけど、八つ当たりみたいなもんされて黙ってられるか。」

 

彼がそう愚痴りながら冥牙を元の状態に戻して辺りを見回すと黒服達が距離を取りながらこちらに銃を構えて隊形をとっているがこちらを警戒してか動いていないのが確認できた。

翼も吹き飛ばしたきりで立ち上がってこない。

 

(奴の体内の経絡に結構な気をぶつけたから暫くは立ち上がってこれないはず。・・・逃げるなら今だな。)

 

決断してすぐに彼は自分と翼の戦いを呆けて見ていた響に声をかけた。

 

「響、今の内にずらかるぞ」

 

「えっ!わ、私はさっきまで自分に起きてた事をちょっと知りたいかなーなんて、あはは・・・」

 

「こんな状況だってのに度胸あるなお前・・・あまり妙な事には首を突っ込まないのが長生きの秘訣だぞ。ヤバいなと思ったら逃げる事だけは忘れるなよ?悪いけど俺は捕まるわけにはいかないんでな!」

 

「あっ!ま、待ってください、まだ話が・・・!」

 

一足で工場の屋根まで飛んで屋根伝いで走る中、彼は背中に響の慌てた様な声と黒服達の騒ぐ雰囲気を感じながらその場を離れた。

 

 

 

それから工場滞を離れて避難用のシェルターまで来た翔はこれからの方針について冥牙と相談していた。

 

「ここまで来れば大丈夫だろ。さて、これからどうするべきか・・・」

 

『素直にお誘い受けて情報収集っていう手もあったなぁ。ま、終わっちまった後に言ってもなんだけど』

 

「そしたらお前の事とかアレを探してる事を言わなきゃなんないし、何より持ち物検査とかされてみろ。目録の事バレたら絶対にめんどくさいことになるぞ。」

 

『あー、そうだな・・・俺やアレを探してる事は兎も角、目録がバレるのはマズイな。うんマズイ。』

 

冥牙が声を震わせて翔の考えに同意する。

彼も冥牙も自分の素性について明かす事については構わない。

問題は彼の目的と手荷物を明かしたらその場で即時拘束・没収が大いにあり得るということ。

 

(目録の事は知られたくない。知られていないってことがこれを守る有効な方法の一つだしな)

 

「というか置いてきちまったけどやっぱり響が心配だ。自分から話を聞きに行く姿勢だったから手荒なことはされないと信じたいけど・・・」

 

『ノイズを倒せるってだけで有益なんだから大丈夫だろ。ああいう組織ってこの場合だと勧誘とかして迎え入れるように動くだろ。変なことはされないって!』

 

「だといいんだけどな・・・」

 

(響、間違っても私もこれから戦います!・・・なんて言わないでくれよ。お前とやり合うなんて俺は御免だからな。)

 

もしかしたらの場合を考えて複雑な顔をする翔に冥牙が声をかけた。

 

『難しい顔してるとこ悪いけど、シェルターまで戻ってきてこれからはどうするの?』

 

「今のところアレの手がかりがノイズの出現ってことだけだからな。ノイズが出たらその現場に向かうしかないかな、当たりを引くまではさ。」

 

『でもそうするとさっきの青い子にかち合うんじゃないの?』

 

「そうなんだよ、本当面倒くさそうだぞアイツ。さてどうすっかな・・・」

 

先程の事を思い出し心底嫌そうな顔をする翔。

彼が顔を渋面を作りながらシェルターに避難してきた人々の列に加わり思案していると、つい最近見知った顔を二つ見つけた。

 

「あ、お好み焼き屋のおばちゃん。それに・・・確か未来って言ったけか。」

 

「『あ』じゃないよ。あんた、どれだけ心配したと思ってるんだい!ノイズを引き付けるなんて自殺行為もいいとこだよ!」

 

「心配してくれてありがとおばちゃん。でも死ぬつもりはさらさらないよ。やらなきゃいけないことはあるし、何よりおばちゃんに恩を返せていないしね。」

 

「だったら金輪際あんな真似はやめな。ノイズを前にしちゃ命がいくつあっても足りやしないよ。」

 

「気を付けるよ。ところで未来の方はどうした?暗い顔しているけど?」

 

店主と話している傍らで不安そうな顔をしている未来に話を振ると彼女は彼を見て申し訳なさそうに口を開いた。

 

「えっと、確かあなたは前におばちゃんのお店で会った人・・・ですよね?」

 

「ああ、翔。神薙翔だ。それで、どうしたんだ。なんか気にかけてる感じがしたけど。」

 

「実はさっきからシェルターの中を探しているんですけど響が・・・友達が見つからなくて。」

 

「あー・・・そういうことか」

 

(これどうすっかな。お友達は不思議な力が目覚めてノイズと戦えるようになって、対ノイズの組織に同行して行きましたなんて荒唐無稽だし。でも友達は無事だって伝えてやりたいしな。)

 

伝えるべきか否か。迷う彼に未来は胸の内を零すように少しずつ言葉を吐き出した。

 

「響は今日ツヴァイウィングのCDを買いに行くって言っていて!だからシェルターにいないんだったら家に帰る前にノイズに襲われたのかもしれないって、そう考えたら私・・・!」

 

「心配なのは分かるがまずは落ち着け。別のシェルターにいるっていう可能性だってまだあるんだ。今は自分の身の安全を・・・」

 

彼が言いかけたその時だった。シェルター内に大きく警報が鳴りだし、避難してきた人々から小さくない悲鳴が上がった。

 

「外でまたノイズが現れたっていうのかい。ここ最近なんかおかしくないかい!」

 

「・・・おばちゃん。彼女を頼む。誰かが傍にいた方が少しは落ち着くと思うから。」

 

「頼むってあんた・・まさか外に出るつもりじゃないだろうね!」

 

「ごめんなさい、そのまさかです。命の危険があるのはわかってる。だけどどうしてもやらなきゃいけないことが俺にはあるからさ!」

 

そう言い切って人の波をかき分けてシェルターの出口まで走っていく翔。

後ろから呼び止める店主の声と静止するよう止めに入った警備員の声を背に彼は再び異形の存在が闊歩する街の中に飛び出して行った。

 

 

 

「さて響君、一通り説明が終わったので君に聞いておきたいことがあるんだが」

 

「は、はい!なんでしょうか。」

 

あれから二課の本部に連れてこられた響はここで二課という組織の事、翼がノイズと戦っていた理由。

そして彼女がなぜ変身してノイズと戦えたのかを説明された。

響があの姿に変わった理由。それは彼女の体の中にある聖遺物ガングニールの破片が原因だった。

2年前のツヴァイウィングのライブの際、奏という翼の相棒ともいえる彼女が響を守った時にガングニールの破片が体の奥深くに食い込んだ。

その偶然の結果、響はシンフォギアというノイズに立ち向かうことのできる力を身に纏うことができた。

そう二課で研究者を務めている櫻井了子から簡単に説明を受けて自身の事について一応の疑問が解けた響だったが神妙な顔で自分に質問してきた男性、二課の指令である風鳴弦十郎に質問があると言われて思わず身構えた。

 

「君の傍にいた少年。彼について教えてもらいたいんだが・・・」

 

「えっと、私も詳しく知っているわけではないんです。あの人は翔といって昨日お昼を食べたときに偶然知り合ったんです。笛の演奏や腹話術で旅費を稼いで旅をしているとは言ってましたけど、それ以外の事については・・・すいません、わかりません。」

 

「そうか・・・翼と渡り合うほどの剣術に加えてあの姿、シンフォギアと同じくノイズに対抗できる術を持っている彼にもこちらの話を聞いてほしかった。あの力の出自について説明してほしかったんだがな・・・」

 

悔しそうに歯噛みする彼に了子は少し不機嫌な様子で口を出した。

 

「私の手がけたシンフォギアシステム以外でノイズと対抗できるなんて正直信じられないというのが本音ね。研究者としては彼の使っていたあの笛に興味があるけれど。十中八九、あの笛も聖遺物でしょうね。本人は腹話術と言っていたそうだけど恐らくあれは意志があって人語を解す聖遺物。もし確保できれば彼ともども良い研究対象になりそうなものなんだけど」

 

「了子くん」

 

「はい、ごめんなさいね。でも注意は向けるべきと私は思うわよ。だって多少強引だったけど翼ちゃんの提案を蹴ってあの場を立ち去ったんだから。何かこちらに勘繰られたくないことがあるって言ってるようなものじゃない」

 

「そうだな。その辺りの彼が抱える事情も知った上で協力し合えないものか・・・」

 

そう思案する彼に強く異を唱えたのは先程まで沈黙を貫いていた翼だった。

 

「その必要はありません。一度こちらの勧告を蹴ったのですから次に邂逅したら勧告無しで戦闘に入ります。個人でシンフォギア相当の力を保持しているなんて危険が過ぎる。協力者というよりノイズ同等の脅威と考えるのが妥当です」

 

「ノイズと同じって・・・翼さん、それは言いすぎです!初めて会った時の印象から彼が悪い人のようには思えないんです。何より彼は私を助けに来てくれました!」

 

そう力説する響に不快感を隠さず翼は呆れ、そして忌々し気に口を開いた。

 

「あなたがどう思ってるなんて関係ない。聖遺物という大きな力を個人が所持していることの意味。それをまるで理解していないあなたに何も言う資格はない。・・・何より私はあなたを認めていない」

 

「み、認めていないって・・・」

 

「言葉通りの意味よ」

 

翼の出す雰囲気に怖気づく響。

なんとか場を和ませようと弦十郎が口を開きかけた時、施設内に警報が鳴った。

 

「ノイズの出現を確認!」

 

「本件を二課が預かることを一課に通達!」

 

「出現位置特定、座標位置でます。・・・っリディアンより距離200!」

 

「近い・・・!」

 

「迎え撃ちます」

 

そう言って駆け出す翼。翼を見て驚くも直ぐに何かを決意したかのような響が後に続こうとしたが、そんな彼女を弦十郎が呼び止めた。

 

「待つんだ!君はまだ・・・」

 

「私の力が誰かの助けになるんですよね!シンフォギアの力でないとノイズと戦うことはできないんですよね!」

 

(今の自分が置かれている状況に不安を感じていないと言えば嘘になる)

 

(自分に何ができるかはっきりとは分からない)

 

(だけど立ち向かうことができる術を私が持っているのなら!)

 

「だから、行きます!」

 

そう強く言い放って響は先に出た翼の後を追った。

 

「あの子、良い子ですね」

響の言葉に耳を傾けていたオペレーターの一人が言った。

しかしそれを聞いて目の前で響の言葉を聞いていた弦十郎は果たしてそうなのだろうかと前置きして続けた。

翼の様に幼いころから戦士として鍛錬を積んできたわけではない。

ついこないだまで日常に身を置いていた少女が、誰かの助けになるというだけで命を懸けた戦いに赴けるというのは、それは歪なことではないだろうかと。

 

「つまりあの子もまた私たちと同じ・・・こっち側ということね」

 

何とも言えない沈黙に指令室が包まれるとオペレーターが再び声を上げた。

 

「ノイズの反応が消えていっています!」

 

「翼達か!?」

 

「いえ、彼女たちはまだ現着していません!」

 

「ということは・・・!」

 

「彼、かしらね」

 

了子は小さく口元を綻ばせながらそう呟いた。

 

 

 

「ノイズってのは本当に気持ち悪いな!もうちょっとしっかりとした形をしてくれよ!」

 

自分に向かってくるノイズを愚痴を吐きながら切り伏せていく翔。

冥牙の感を頼りにノイズの出現場所に来てみたはいいが目的の物もそれを持った人物もなく無駄足となってしまった。

ノイズは時間が経てば自ら崩れ落ちるがここからシェルターは意外と近い。

無視するという選択は彼にはできなかった。

 

「たっく、こいつらと構ってる内にさっきの青い奴が来たらどうすんだ!」

 

『なら早く片付けてずらかろうぜぇ!・・・と言いたかったけどちょっち遅かったみたい』

 

「は?それどういう・・・」

 

最後の1体を切り伏せた彼が冥牙の言葉に首を傾げると同時に上からそれは降ってきた。

 

「覚悟!」

 

「言わんこっちゃねぇな、オイ!」

 

避ける間もないと判断して降り下ろされる蒼の剣に迎撃を選ぶ。

前回と同じく鍔迫り合いの形になりながらも翼から向けられる殺気は以前の比ではないことを感じ取った翔は口元を歪めてわざとらしく翼を挑発した。

 

「オイオイどうした。えらく力入ってるじゃねぇか!そんなに負けたことが悔しいか、それとも嫌なことでもあったのかよ!」

 

「黙れ!出現したノイズを全て倒したのは貴様だな!?」

 

「ああそうだよ!誰かさんが来るのが遅いから俺が倒してやったよ!」

 

「シンフォギアでもなくノイズを倒すことのできる力・・・!やはり危険すぎる。貴様は私が切り伏せて二課まで連行する!」

 

「一々言う事がおっかないんだよ、辻斬りかお前は!」

 

舌戦をしながらも互いに剣を振るう腕に乱れは無い。

二人が剣を激しく交えるのを遅れてきた響がその光景を目にして慌てて声を上げた。

 

「翼さん、落ち着いてください!翔さんも話を聞いてください!」

 

「あなたは黙ってなさい!」

 

「コイツのせいで話聞けるような状態じゃねぇのは見りゃわかるだろ!」

 

「えぇ・・・」

 

響の戦いを止めるよう懇願する声も今の二人には届かない。

互いに目の前の敵をどうするかに集中していて彼女は完全に蚊帳の外になってしまっていた。

 

(ど、どうしよう。私じゃあの二人の戦いは止められない。とてもあの二人の戦いに割って入るのなんて無理だよ。でも私がなんとかしないと・・・!)

 

勇気を出して二人の剣劇の間に響が入り込もうとした瞬間だった。

凄まじい轟音共に一人の男が翔と翼の間に入り、二人の獲物を掴んで止めていた。

 

「・・・マジ、素手かよ!?」

 

『え、ドン引きなんですけど!』

 

「指令、なぜ止めるんですか!」

 

若干恐れ慄いている翔と冥牙とは別に翼は憤りを隠せずといった具合だった。

 

「人の言葉に耳を傾けようとせず、すぐ手を出す馬鹿共を止めなきゃいかんからだ!」

 

そう吠えて構えを取る弦十郎。そして翔の方を向いて高々と叫んだ。

 

「一人の大人としてな!」

 

服装は大して珍しくもない赤のスーツ。

だが立つ姿は正しく猛々しい戦士としての風格を醸し出している。

只者ではないと判断した翔が身構えると同時に弦十郎の拳が眼前に迫っていた。

 

「まずは君から拳で語ろう!」

 

「は?」

 

『やべっ!』

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

あまりの速さに反応が遅れ、覇気を感じさせる声と同時に突き出された拳を顔面にもろに食らい翔は大きく吹き飛んだ。

 

 

 

 




遅筆で申し訳ありません。小説を書くのって本当に難しいですね・・・。
長い目で見て頂けたら幸いです。
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