「そうか、では予定通りに頼むよ。」
やれやれといった表情で受話器を置く。特異災害対策機動部二課、特機部二とも揶揄されることもある者達の連絡を受けて渋い表情をする男・・・現在の日本の防衛大臣、広木威椎はため息をついた。
「彼らの要求ももっともだが此方の要望にも譲歩してもらいところではある。人員や予算は無尽蔵というわけではないのだ。」
「あー・・・。心中お察しします。とでも言えば良いですかね?」
「互いの立場や事情を鑑みて歩み寄ることのなんと難しいことか。だからこそ腹を割って話す必要がある。これは彼らだけでなく、君にも言えることなんだがな、神薙君。」
「・・・ごめんなさい。」
防衛大臣の任に就いている者に与えられた部屋で言葉を交わすのは部屋の主である広木大臣とこの場に似つかわしくない装いの少年、神薙翔。
「責めているわけではない。ただ君の所持している物は然るべき機関・・・それこそ国家と呼べるような所に譲渡すべきという意見は厳に言わせてもらうよ。昔からそう何度も言っても君が聞き入れる事は今までなかったが。」
「昔から何度も言っていますが、"これ"を誰であろうと、どんな国にも渡すつもりはありませんよ。」
「個人が持って良い物ではないことは明白だ。それを持っていて危険な目にあったことなんて数えきれないだろうに。」
「本当ですよ。何処行っても俺から分捕ろうとしてくる奴らばっかりで嫌になってくる。俺は使うために持っているんじゃなくて捨てるために持っているだけだってのに・・・」
「そう言ってはいるが、あれから進捗はどうなんだね?」
「・・・1本も減らず、寧ろ増えていくばかりで今は30と少しと言ったところです。」
「・・・おいおい、少しも減らせていないどころか増えているのか?」
言わんこっちゃないと苦い顔をする大臣。彼がそう思うのも無理はないだろう。かつて目の前の少年は防衛大臣の任に就いて日が浅い彼の元に訪れこう啖呵を切ったのだ。
【"これ"は誰にも渡さない。どんなやつに、国に寄越せと言われようとも絶対に!】
子供の理屈だと断じてあらゆる手段を用いて取り上げることは当然できただろう。それでもそうしなかったのは翔の子供としては不相応の迫力に押されたのか。あるいは広木自身もその力に無意識に慄いていたのか。どちらにせよ、あの時自分は正しい選択をしたのかどうか今でも思い直すことがある。
「安全に全てを捨てることができれば文句はない。だが君の持つそれらの物はどれも簡単には捨てれないし壊せるようなものではないだろう。となれば厳重に管理するしか道はない。これも何度言ったかな?」
「管理したところで絶対に私利私欲の為に使う輩が出るでしょう。国なんてデカい所に渡したら猶更だ。」
「そんなことに使わせはしない。日本が持つ有用な外交手段の一つしては使うがね。」
「それが駄目だって言ってるんです!人が力に傅いて、力で他者を押さえつけ屈服させる・・・国家間の話だとしてもそれが正しい治世と呼べるはずがない。何度も言ったはずです!」
「相変わらず甘い。私のような者の立場から言わせてもらえば知らない場所でそれがテロリストや凶悪な犯罪者、敵性国家に渡ることの方が怖い。」
故に広木は翔の旅に進展があった場合に直接報告を入れさせている。そうすることで最悪の事態は防ぐことはできるからだ。
「・・・今一度聞こう。君はそれが奪われ、悪意ある者の手に渡ることで出る犠牲に責任がとれるのか。」
「それは・・・」
言葉を続けようとして口を開く翔だがその先がどうしても出てこない。
そんな翔を一瞥し広木は本題に入ることにした。
「ところで今日は何故ここに?報告の日ではないだろう。」
「・・・自分が米国の方で行方を追っていた物が日本に持ち込まれています。ノイズの発生、制御を可能にするソロモンの杖。先日、杖を持っている少女と交戦しました。その少女はソロモンの杖だけでなくネフシュタンの鎧という物も身に着けていましたが・・・ご存じでしたか?」
「それに関しては二課の方から報告は受けている。」
「二課?」
「特異災害対策機動部二課の事だ。君も二課に所属している装者や指令である風鳴君に会っていると話は聞いている。」
「装者って・・・ああ、あの青い奴の事か。」
「青い奴というのは翼君のことかね。ならそうだと言っておこう。桜井了子氏の提唱する桜井理論に基づき聖遺物の欠片から作られた武装・・・通称シンフォギア。一機でも一個軍隊をも上回るほどの力を持っていて、それを身に纏うことのできる者を装者という。」
「なるほど。何度かやり合いましたけど確かにあの力はおっかないですね。使っている奴の性格も。あいつ、人の話を録に聞かずに斬りかかって来るんですから。」
「そのおっかない力とやらを持っているのは君も同じだろう。人の事が言えた口か・・・」
呆れて溜息をつく広木とお前も大概だと言われて気まずくなり視線が泳ぐ翔。そんな翔がちらりと広木を見ると何か言いたげな表情をしているのが確認できた。これ以上小言を貰いたくなかった彼は慌てて口を開いた。
「と、ところでネフシュタンの鎧ってなんなんですか?」
「かつては日本政府が所有していた聖遺物の一つだ。聖遺物中でも経年劣化や破損が見られない為、完全聖遺物と呼ばれることもある。」
「ん、かつて?」
「2年前の話だ。鎧を起動させる為に計画されたツヴァイウイングのライブ・・・集まった観客と装者2名による起動実験。結果、起動こそしたものの発生したエネルギーを制御できずに暴走。同時に発生したノイズ発生事故に紛れて杖は紛失し、装者1名もその時亡くなっている。・・・という経緯だ。」
「そのライブで起きた事件は俺も知っています。そもそもその事件をキナ臭く感じたから危険を冒してあなたに会いに来たのが始まりでしたから。だけど、政府主導の計画で起きた事件だったなんて・・・これ、もしかしなくてもかなりの厄ネタですよね。」
多くの犠牲を出したツヴァイウイングのライブ事件。それが政府が計画した実験によって引き起こされたと国民が知ったらどうなるか、火を見るより明らかだろう。それを知ってか広木は眉間に皺を寄せ渋面を作っている。
「当時、私は実験の危険性と非人道的性から一旦は却下したが、二課の強い要望もあって許可してしまった。」
「大臣・・・」
「彼らは異端技術を扱う故に各方面からの誤解を受けやすい。だからこそ二課やシンフォギアを秘匿された武力ではなく、公の力として扱えるようにして軋轢を取り払う・・・その為には判りやすい結果を出す必要があると考えてのことだったんだがね。」
「公の力として、ですか。俺の持つ"魔剣目録"もそうですか?」
そう言って翔は懐から一本の巻物を取り出し机の上に置く。その巻物は埃や土汚れでとても綺麗とは言えない。そして、何より目を引くのは汚れの中に血の跡が見られることだ。机の上に置かれたそれを久しぶりに見て広木は口を開いた。
「聖遺物に勝るとも劣らない、かつて人が異形の存在に立ち向かう為に鍛造されたという超常の武具・・・神誨魔械。そしてその神誨魔械を数多く封印し収納している魔剣目録・・・ああ、そうとも。これらの武具も然るべき場所で管理・保管をするべきだ。これは個人が持つにはあまりにも大きすぎる力だ。」
「もう少し・・・もう少しだけ待ってください。必ず俺がこれを。今、世界に現存している神誨魔械を全て処分して見せますから。」
「そう言ってもう2年。しかも中身が減るどころか報告の度に増えている始末だ。私も気が気ではない。これが諸外国やテロリストの手に渡ってしまったらどうなってしまうのかとな。・・・シンフォギアは今は世界で日本唯一の異端技術として確立している。だが軍事力としても有効なシンフォギアの技術を世界に開示せよという圧力が日に日に強くなっているのだ。内からも外からもな。」
そう言って苦い顔をする広木。そして視線は魔剣目録から外さず続けた。
「自分達もノイズに立ち向かう為・・・というのは方便だ。どの国も力が欲しいのだよ。そんな中降って湧いたように現れた聖遺物と似通った超常の力を持つ神誨魔械と呼ばれる武具。それらを数多く持つ少年。狙われて当然だろう・・・各国の諜報機関ともやり合っていると聞くが?」
「やり合ってる・・・なんてとても言えません。逃げ一択です。ここ最近は俺の生死すら問わないって感じで仕掛けてきてきてるんですよ。でも日本に帰ってきてからはそんな事はなくて・・・まぁ、その代わりとは言いたくないですが、二課って奴らに目を付けられましたけど。」
「そしてその指令には因縁のある風鳴の名を持つ者か。君も苦労するな。」
「その名前を聞いて驚きもしましたが同時に納得もしました。あのおっさんの力、人間の枠を超えてますよ・・・」
勘弁してくれ。そう辟易としたいった感じで嘆く翔を見て苦笑する広木。重苦しい雰囲気がすこし払拭されたところで広木が口を開いた。
「それで、そのソロモンの杖だったかな。君が米国で追っていた物が日本に持ち込まれているという話だったか?」
「はい。どうもその杖を使っていた少女に盗まれたという感じではないんですよ。」
「盗まれるようなことはないということは、米国がその少女に譲渡したと?」
「その可能性の方が高いと考えます。冥牙の感知で米国では起動していなかったのは把握済みです。起動させる為に少女に渡したという線が濃厚です。ですが・・・」
「何か気になるのかね?」
「俺と年もあまり変わらない少女に米国が取引を持ち掛ける。違和感があると思いませんか?俺の持つ魔剣目録は苛烈に狙ってくるくせにですよ。起動させるのが目的だとしても相手が年端もいかない少女が相手なら強硬策の一つや二つを取るのが当たり前だと考えるのですが・・・」
「つまり少女とは別に米国と取引した者が存在していると君は言いたいのか?」
「はい、そう考えるのが妥当かと。そのような人物が日本にいるのか心当たりがあるかを聞きたくて今日ここに来たんです。」
「ふむ・・・」
目を閉じ思案する広木。それから1分程だろうか、考えが纏まったのだろう。広木は自分の考えを述べた。
「悪いが私にはわからないな。聖遺物関連の情報なら必ず私の耳に入る様になっているが政府内でそのような情報は聞いたことがないし、また独自で動いてる機関も確認されていない。」
「そうですか・・・」
杖に繋がる情報が得られず少し落胆の表情を見せる翔。それもそうだろう。防衛大臣の地位にいる広木が知りえないという事は、国と言った大きな存在ではなくとも米国との取引を行えるほどの力を持った個人、または集団が自分の敵であるという事だ。これから自分が戦うべき相手に考えを巡らせる翔に広木は気遣うかのように言った。
「政府の情報網に引っかからずに米国と交渉ができる者か、どうやらその人物は相当の曲者らしいな。ここ最近頻発するノイズによる被害も何か狙いがあると考えて間違いないだろうが・・・まさか。」
「何か心当たりがあるんですか?」
そう尋ねる翔だが広木は口を閉ざしてしまった。
「大臣?」
怪訝に思った翔が訊ねると広木は意を決したかのような表情をして口を開いた。
「・・・今から話すのは近々行う政府が極秘で計画している作戦の内容だ。もちろんこれは秘匿されるべき情報であって当然、君にも教えないものだ。だが、ノイズをコントロールするという危険極まりない物を持つ人物が日本にいる可能性。そしてその人物の狙いがアレだとしたら此方の情報が洩れているということになる。政府内部に敵とも呼べる存在がいるのなら外部から・・・君に任せた方が得策だと考えたから話すんだ。・・・不本意だよ。このような事を部外者に話さなくてはならないことを。なにより、君のような子供にな。」
そう前置きをしてから広木は言った。
「二課の本部に保管されている完全聖遺物サクリストD・・・通称デュランダル。ここ最近の二課本部周辺のノイズの出現はこれを強奪するの目的だと少し前に政府は結論付けた。それに対抗してより強固なセキュリティがある場所への移送が計画されている。」
「いや、十中八九というか絶対それが狙いじゃないですか。ノイズを使って本部からそれを引っ張り出して移送中に強奪・・・見え透いた釣りですよ。まさか相手の策に乗るんですか?」
「当然護衛は付ける。信頼できる人員に加えて装者1名が護衛に付く予定だ。」
「装者が1名・・・あの青い奴は暫く戦闘は無理だと考えて、護衛に来るのは響か。」
「個人的に面識があるのかね?」
「少しだけ。ですが鎧の少女が仕掛けてくることを考えると響一人では荷が重すぎます。」
「だから君にこうして話をしている。その少女からサクリストDを守り、あわよくばその背後にいる存在を明らかにする為に協力してもらいたい。得意だろう、こういうコソコソ動くのは?」
「得意というわけでもないですけど・・・了解です。そもそも俺が向こうでカタを着けていたらこうはならなかった。断る理由がありません。」
「杖の件に関して君を責めることはできないさ。・・・引き受けてくれてありがとう。」
そして広木は書類を取り出すとそれを翔に手渡した。
「その中に今現在予定されている作戦の詳細が記されている。これから微修正が入るかもしれないが大まかには変わらないだろう。確認した後は直ちに破棄してくれ。」
「では早速・・・」
そう言った翔は直ぐに中身に目を通して必要な情報を記憶すると机の上に置いていた目録を懐に戻すと代わりに煌びやかな装飾が施された煙管を取り出し、火を着けて書類を燃やした。
「・・・君、まさか吸ってはいないだろうね?」
「も、もちろん。こいつは色々便利なんですよ。香を焚くと他者に幻惑を見せることができるんです。そしてこれは・・・」
そう言って再び懐に手を入れた翔が取り出したのは小さな鏡の破片が納められた護符のような物だった。
そして煙管から出る煙を燻らせ鏡に当てると鏡は映すはずの煙管を映すことはなく、それどころかこの部屋とはまるで違う景色を映し出した。
「鏡に映った場所に簡単に移動できるっていう代物です。」
「全く君は・・・目録以外にも色々な物を持っているな。」
「こういった物があるから何処に行っても、どんな奴らが相手でも逃げ回れるんですよ。」
「くれぐれも便利な物があるからと言って油断はしないようにな。・・・健闘を祈る。」
悪戯っぽく笑う翔に呆れる広木。だが直ぐに呆れた表情から笑顔に変わり、翔を送り出す言葉を述べた。
「では行ってきます。まぁ大船に乗ったつもりでいて、吉報が届くことを祈っていてください。」
「そうするとしよう。・・・今度会うときは途中経過ではなく成果報告を期待したいところだがな?」
「ぜ、善処します。」
「そこははっきり大丈夫だと言ってくれないか?」
苦笑いする翔。そして鏡から光が放たれると翔の姿は掻き消えて部屋には広木1人だけとなった。自分一人になった部屋を見渡して彼は先程までいた少年に思いを馳せた。
(君が早く託された事をやり遂げることを祈っているよ。これは政治家としての言葉ではなく一人の大人としての言葉だが・・・。立場上こういった言葉を掛けてやることができないのが辛いところだ。)
「・・・そういえば妹さんの姿が見えなかったが今は別行動なのか?今度は二人そろって無事を確認させてもらいところだ。当然、目録の無事もな。」
時計を見る広木。翔という予定外の来客があったが、気付くとそろそろ自分の秘書が来る時間となっていた。先程翔に話した聖遺物の移送計画。その最終決定案を持ってくる手筈になっている。
(まずはこの計画を成功させる。そしてこれを機に聖遺物に関わる組織、関係部署の枠組みを少しづつ取り払い、異端技術を秘から公の力としていく。そうすることで各方面で連携が緻密になり今までより特異災害に対抗していくことが可能になる。・・・結果、多少は二課へのやっかみは減り、彼があんな危険な物を持つ必要もなくなるだろう。・・・それでも彼が目録を手放すところは想像できないのが困ったところだ。」
広木は思い浮かべる。
特異技術の元に立場の異なる者たちが同じ志を持って集い、理不尽な災害に立ち向かう。
軍事力としての視点からは他国への大きな牽制となり国防への働きに期待ができる。
そうなることで訪れるであろう日本の明るい未来を。
だが、彼がその未来を見ることはない。
「・・・お前、なんだ?」
手に入れた移送計画の情報から移送ルート上を見張っていた翔。そもそもデュランダルが保管されている二課本部の場所がリディアン音楽院の地下にあることが彼にとっては驚きだった。
だが、そのような驚きはたった今目の前で繰り広げられた光景の前では些細な事だと感じられた。
予想通り襲撃に現れた鎧の少女。
それと交戦する護衛の任に就いていた響。
彼女たちの戦闘の最中に突如現れ、その上覚醒・起動までされている聖遺物・デュランダル。
それを鎧の少女に渡すまいと先んじて手に取った響に起きた異変。
そして周囲一帯に放たれた激しい破壊の渦の中、変身が解けて倒れ込んだ響を守る―――ナニか。
見た目は人間の女性に見えるが、翔にはそう見えていない。とてもじゃないがそう見えない。
聖遺物の力に取り込まれかけた響の身を案じて駆け付けた翔が思わずそう呟いたのは無理もないだろう。
問い掛ける翔に対して目の前の存在は口を開いた。
「あら、君は確か・・・神薙翔君だったかしら?響ちゃんから話は聞いてるわよー!何度も助けてもらったことがあるって!翼ちゃん・・・ああ、青色の剣を持った女の子ね?あなたがあの子に応急処置をしてくれたから大事にはならずに済んだわ。私からもお礼を言わせてちょうだい!」
「質問に答えろよ。俺はなんだって聞いてるんだ。」
既に冥牙は刀の状態に変化していて翔の手に握られて、いつでも目の前にいる存在に斬りかかれる状態になっている。そんな翔の剣呑な雰囲気に意を解さず女性は続けた。
「もう!警戒するのは分かるけどそこまで敵意を出さなくてもいいんじゃないの。私の名前は櫻井了子。特異災害対策機動部二課の技術主任で・・・」
「違うだろ。」
『んなわけないだろうに。』
「・・・・・・・・・・・」
翔と冥牙の否定の声が上がり、名乗りが阻まれた了子の表情が消える。
「俺は・・・俺達はこれまで世界各地回って人智を超えた物を見つけたり、存在に会ったことが多々ある。それに加えて俺を狙ってくるわるーいヤツらとか・・・まぁ色々だ。」
『そんな俺達の中でビンビン警鐘が鳴ってるのよ!コイツはヤバいってな!』
「・・・そんな事言ってると女の子にモテないわよ。アナタ?」
翔の脳裏を過るのは翼に初めて会った場面。あの時も素性が分からない者同士で一触即発どころか実際に剣を交えたが今回はまるで違う。
逃げるための時間を稼ぐでもなく、誤解を解くためでもなく。
目の前の"敵"を滅ぼすための戦いを始めようとした時だった。
「ん。んん・・・」
『「「!!!」」』
彼らの傍で倒れていた響から僅かに声が漏れる。それと同時に遠くからサイレンの音が鳴り響いた。もう少ししたらこの場に多くの人が集まり、そんな衆人環境の中で見た目は普通の女性相手に斬りかかるのはいかがなものか。もちろん目の前の存在を野放しにするリスクは無視できないが、少し考え翔は冥牙を笛に戻して代わりに懐から煙管と鏡を取り出した。
「あら、とんずらしちゃうの?お姉さん悲しいわ。」
「言ってろ。お前が何を考えて何を企んでるかは知らない。だけどな、もしお前がその身に秘めたどうしようもないドス黒いものを世界にぶちまけるっていうなら・・・」
『滅ぼさせてもらうぜ。どんな手段を使ってでもな?』
「・・・何を言っているのかサッパリだわ。」
「どうだかな。」
最後にそう言って翔の姿が消えて了子と響だけがその場に残る。
響はまだ起き上がっていないのでこの場で了子の表情を伺える者はいない。
その表情は正しく心の内を表すかのような歪んだ笑みだった。
こうして少年は奇しくも邂逅を果たした。
己が追っていた標的。いや、世界を滅ぼさんとする存在と。
感想、評価の程よろしくお願いします!