戦姫劍遊紀   作:クロビナ

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読んでくださった方々、本当にありがとうございます!
筆者が大変遅筆で申し訳ありませんが、最終話の13話までお付き合いして頂ければ幸いです!
今回は登場人物同士の会話に力を入れてみました。


第六話 まだ帰れない

《先日、遺体で発見された広木元防衛大臣について政府はー》

 

《政治的空白を避けるため防衛大臣には副大臣の石田爾宗氏がー》

 

《警察の捜査では今回の事件を組織的犯行であるとの見方をー》

 

備え付けられたテレビが映すニュースのせいだろうか。

思うように箸が進まない。

 

(広木さん・・・)

 

後悔、無力感。そう言ったものを味わうのは久方ぶりだ。

この結果は決して自分だけが原因というわけではないだろう。

だが、それでもーこの自分が惨めに思える気分は慣れない。

 

(このタイミング・・・聖遺物の移送に関係しているのか?これで誰が得をする?護衛のSPを含めて皆殺しなんてそう簡単にはできない。後任の石田防衛大臣は親米派・・・。米国が仕掛けた?何のために?まさかソロモンの杖を渡した奴との取引の一環か?)

 

考えが纏まらない。頭の中で疑問と推測がぐちゃぐちゃにかき混ざっている。

 

「・・・はぁ。」

 

「珍しく気落ちした顔してるじゃないか。嫌な事でもあったのかい?」

 

「まぁ、ちょっと・・・」

 

「アンタがそんなしかめっ面するなんて相当だね。」

 

「あー、なんというか・・・。その、色々と。」

 

「・・・そうかい。」

 

もう、やり遂げたことを報告することも。今まで自分に融通を効かせて自由に動かしてもらったことへの感謝をする機会は永遠に失われた。

 

「昔っからこうだ・・・。なんでこうも上手くいかないかな。」

 

溜息をつきながら少し冷めてしまったお好み焼きを箸で突く。

初めて店でこのような沈んだ表情をしてしまっているせいだろうか。普段なら他の客がいない時なら話しかけてくる店主のおばちゃんが今日に限っては話しかけてこない。

 

(気を遣わせちゃってるよな、これ。)

 

その事実が余計に心に影を落とす。

今も昔も何も変わらない。

周りの人を傷つけて、それでも気を遣われてー

今も昔も何も為すことができない、口先だけの子供のままだ。

 

「・・・はぁ。」

 

そう何度目かの溜息をついた時だった。店の扉が開いて客が入ってきた。

目だけそちらを見ると、今の自分と大差はないであろう沈んだ表情をした小日向の姿があった。

 

「いらっしゃい!」

 

「こんにちは・・・」

 

「おや、いつもは人の3倍は食べるあの子は一緒じゃないの?」

 

「今日は・・・私一人です。」

 

寂しそうにそう言う小日向に店主は何か感じたのだろうか。それ以上は深く聞かずにただ「そうかい」といって小日向を席に促した。

 

「久しぶりってほどでもないか。奇遇だな小日向。」

 

「あっ・・・神薙さん・・・そう、ですね、奇遇ですね。・・・この店にはよく来られるんですか?」

 

「この街に来てからは結構な頻度で通わせてもらってるよ。安くて腹一杯食えるしな。」

 

笑って言ったつもりだったが場の雰囲気は明るくなるどころか会話が途切れてしまった。

きっと彼女も誰かと話をしたいという気分ではないのだろう。そしてその原因に自分は心当たりがある。

 

「じゃ、今日はおばちゃんがあの子の分まで食べるとしようかねぇ。」

 

「おばちゃん、食べ過ぎは体に毒だぞ?」

 

「食べなくていいから焼いてください。」

 

「あ、あはは・・・」

 

「お、おう・・・」

 

小日向の雰囲気に押されておばちゃんと共に気圧される。

 

「お腹すいてるんです。今日はおばちゃんのお好み焼きが食べたくて朝から何も食べてないから・・・」

 

「・・・お腹すいたまま考え込むとね、嫌な答えばかり浮かんでくるもんだよ。」

 

「まぁ嫌な答えばかり考えると食欲なくなるんだけどな、今の俺みたいに。」

 

「アンタねぇ、女の子が落ち込んでるってのに・・・」

 

「大丈夫です。神薙さんが女心を理解できないこととか、デリカシー無いことはわかってますから。」

 

「流石に辛辣過ぎない?泣くぞ、みっともなく。今すぐ泣くぞ?」

 

「みっともないですし食欲が無くなりそうなので止めてください。」

 

「本当に辛辣なんだけど・・・」

 

軽口の応酬で小日向の表情が少し明るくなる。少なくとも店に来た時よりは遥かにマシだろう。

 

「ところで神薙さんも落ち込んでたんですか?悩みなんてなさそうなのに・・・」

 

「一回話し合う必要があるな小日向。ん?」

 

小日向の中の俺へのイメージって本当にどうなってるんだろうか?・・・個人的には頼りがいのあるお兄さんポジションであってほしいところである。

 

「神薙さんが頼りになるお兄さんとかないですよ。」

 

「えっ、今口に出てたか?」

 

「いえ、表情に出てたので・・・というか本当にそう思ってたんですね。うわぁ・・・」

 

「そこまで引かなくても・・・あと俺、妹居るからまじでお兄ちゃんだぞ?」

 

「「ええっ!」

 

「二人揃って何だよその驚き方!?」

 

小日向だけでなくおばちゃんまで心底驚いた表情をしている。おばちゃんに限っては作業する手が止まってしまっている。

 

「あんた妹がいるってのに女の子への対応がこんなに下手糞なのかい?」

 

「信じられない・・・」

 

「おい、本当に泣くぞ!」

 

ただでさえ意気消沈しているところにこれである。空元気で場を明るくしようと務めたのにこの仕打ちは流石に堪える。

 

「まぁでも良い兄貴とは口が裂けても言えないだろうな・・・」

 

巻き込んで、守れなくて・・・そして逃げ出した男なんてとても良い兄とは言うことはできないだろう。

俺の表情が曇ったからだろうか、おばちゃんも響も俺の独白に答えることはなかった。

再び場の雰囲気が暗くしてしまったことを感じて、どうにかしようと俺は茶化すように口を開いた。

 

「俺の妹は俺と違って超が付くほど真面目でな?普段から怒られてたよ。ガサツやら女の子への口の利き方がなってないとか、接し方がありえないとか・・・それはもう沢山だ。」

 

「それは妹さんが正しいねぇ!」

 

「というかちゃんと教えてもらってたのに直さなかったんですか?うわぁ・・・」

 

「小日向ー。もしかしなくてもお前の中で俺への評価かなり低くなってない?」

 

「この数分で余裕でマイナスに振り切ってます。」

 

「そこまでか!?」

 

俺への評価と引き換えに再び活気が戻る。素直に手放しでは喜べないが恥を晒したかいがあるというものだ。

 

「そういやアンタ、旅をしてるって言ってたけどちゃんと家には帰ってるのかい?」

 

「ッ!」

 

悪意は当然ないのだろう。だがおばちゃんの放った言葉は想像以上に俺を抉った。

 

「・・・どうしたんだい?」

 

「神薙さん?」

 

俺の変化があまりにも分かり易かったのだろう。二人が心配して声をかけてくる。俺は何か言わなければと慌てて口を開いた。

 

「あー・・・暫くは帰ってないですね。まだやりたい事というかやるべき事があるので・・・」

 

そうだ。やり遂げなければならないことが俺にはある。それが終わるまではー

 

「まだ帰れませんね。なるべく早く帰りたいんですけど!」

 

心配はかけまいと無理に明るく振る舞う。二人も俺の言葉に何かを感じたのかそれ以上追及することはなかった。

 

「それじゃやることやって早く帰らなきゃね。今度はちゃんと妹さんの言葉に耳を貸すんだよ!」

 

「そうします。まさかここまで女子にボロクソ言われるなんて思ってもなかったですから!」

 

「自業自得だよ!」

 

「ひっでぇ!」

 

笑い合う俺とおばちゃんの横で静かにしている小日向。どうしたのかと聞く前に彼女が先に口を開いた。

 

「神薙さん。」

 

「ん。どうした?」

 

小日向を見ると彼女は何かを決意したような、訴えかけるのような表情をしていた。

 

「神薙さんが家に帰れない理由は私には分かりません。やるべき事というのも何だか分かりません。だけど・・・」

 

言葉を区切り、俺の目を見て胸の内から絞り出すかのように言った。

 

「妹さんは神薙さんの帰りを待ってますよ。・・・絶対に。」

 

「小日向・・・」

 

「前に言ってくれましたよね?私は響の帰る場所だって。帰りを待っていてくれる人がいるのは嬉しいことだって。・・・妹さん、神薙さんの事を待ってますよ。きっと!」

 

「・・・ありがとな。」

 

小日向の言う通りだったらこれほど嬉しいことはない。だけど今帰ることは俺自身が許さないし許せない。

成し遂げなければ、いや成し遂げたとしてもー。合わせる顔が俺には無いのだ。

 

「落ち込んでる女の子に逆に励まされるとか、また妹さんに怒られそうな事が増えたねぇ!」

 

「ちょっと、おばちゃん、縁起でもないこと言うなよ!アイツ説教長いんだからさ!」

 

「さっきも言ったけど自業自得だよ。まぁでも前は落ち込んでたこの子を下手糞なりに励ましてたから、これでチャラってことになるんじゃないかい?」

 

「だ、そうだけど・・・これでチャラってことで良いか、小日向?」

 

「そこで私に聞いてくる辺り何とも言え・・・はぁ、まぁ良いですよ。」

 

仕方ないなぁと言わんばかりに苦笑する小日向。ようやく全員の表情が明るくなったところでおばちゃんが悪い顔をして俺の方を向いた。・・・何を言うつもりなんだろうか?

 

「この子が優しくて良かったねぇ。どうだい、前も聞いたと思うけど惚れたかい?」

 

「前も言ったけど小日向は怖いし重いし怖いのでタイプではないですね。」

 

「私だって神薙さんなんか願い下げですよ!そもそもなんで怖いを2回言ったたんですか!」

 

「大事なことだからだな!あと、願い下げとか酷いこと言うな!」

 

「最低です!神薙さんなんか妹さんに沢山叱られちゃえばいいんです!」

 

「言ったな!」

 

「言いましたよ!」

 

売り言葉に買い言葉。そんなさっきまでと打って変わって声を上げて騒ぐ俺達を見ておばちゃんは満面の笑みを浮かべて言った。

 

「うんうん。やっぱり若者はこれぐらい元気じゃないとね!」

 

「「おばちゃん!何とか言ってやって(下さい)くれ!」」

 

「はいはい、喧嘩するほどなんとやらだねぇ・・・」

 

「「よくない!」」

 

 

 

そんなことがあったのが数時間前。翔はあれからもう少し店で過ごし、そして店を出た直後だった。

冥牙が慌てて彼に伝えたのだ。鎧の少女の気配を感知したと。

それを聞いて一瞬で表情が険しくなり走り出す翔。

たとえ鎧の少女が広木大臣襲撃事件の犯人でなかったとしても首謀者との繋がりはあるはずだと。

仮にもし少女が広木大臣に手を掛けた本人だったとしたらー。

黒く暗い考えが翔の頭を支配しようとしていた時だった。冥牙が口を開いた。

 

『見つけたぞ!上を見ろ、翔!』

 

「あん!?」

 

翔が冥牙の声に従い上空に目を向けるとそこには空を飛び何処かへ向かう鎧の少女の姿があった。

 

「見つけた・・・!絶対に逃がさねぇからな!」

 

走る速度を上げて地上から少女を追う翔。だが暫くして彼の目に飛び込んできたのは衝撃的な場面だった。

恐らくだが先程店で別れた小日向が鎧の少女を追ってきた響の姿を見つけて駆け寄ろうとしたのだろう。

翔の目に映ったのは、そんな彼女が鎧の少女が響に対して放った攻撃に巻き込まれ吹き飛ばされた瞬間であった。

 

『やっべぇ!』

 

「間に合えッ・・・!」

 

一瞬で服が黒装束に変化して小日向への元へ跳躍する翔。何とか空中で彼女を受け止めて地上に着地して彼女の無事を確認する。

 

「大丈夫か、ケガは!?」

 

「えっ・・・神薙さん・・・。なんで・・・?。」

 

突然に衝撃的な事が連続して起きたからだろう。酷く困惑する彼女にどう説明しようかと翔が迷っている時だった。

響が歌い出してシンフォギアを纏おうとしていた。それを見て彼は慌てて叫んだ。

 

「よせ!響!」

 

 

しかしその制止の声は間に合わず、響はシンフォギアを纏ってしまった。・・・小日向の目の前で。

 

 

響はそのまま二人の近くまで素早く移動すると上から落下してくる車を片腕で弾き飛ばした。

目の前で起きたことが信じられないといった風に驚愕の表情をする小日向。

 

「響・・・?」

 

言葉少なく呆然とした小日向の呟きに対して響はー。

 

「・・・ごめん!」

 

絞り出すかのように謝罪の言葉を言う他なかった。

そしてその場を離れた鎧の少女を追い、小日向の方を振り返ることなく走り出した。

 

『・・・翔。俺達も行くぞ。』

 

「ああ・・・」

 

翔も響の後を追い走り出そうとした時だった。

 

「待ってください!」

 

思わず彼の足が止まる。いや止めざる得なかった。聞こえてきた声はあまりに悲痛だった。

 

「なんで・・・響のあの姿はなんなんですか!神薙さんのその姿も!なんで・・・どうして!?」

 

「小日向・・・これはー・・・」

 

「もしかして知ってたんですか!?響に何があったか!知っていて黙っていたんですか!知っていて今まで私と話していたんですか!私がどれだけ悩んでいたか、どんな気持ちでいたか話しましたよね!それなのに・・・それなのにッ!」

 

「・・・すまない。」

 

「謝らないでください・・・!謝らないでくださいよ・・・!私は・・・私は!」

 

小日向の叫びを聞いてその場に立ち尽くす翔。そんな彼を動かしたのは相棒の声だった。

 

『急げよ、翔。あの鎧の嬢ちゃん相手じゃ響の嬢ちゃん一人だと厳しいのは分かってるだろう。』

 

「・・・そうだな。わかってる、わかってるさ。」

 

そして再び駆け出そうとする翔は最後に小日向の方へ向いて頭を下げて言った。

 

「小日向。響の身に起きた事を知りながらそれを黙っていた事。知りながらお前の抱えている悩みに口を挟んだこと、相談に乗ったこと・・・。全部謝る。許してくれなくていい。当然嫌ってくれていい。憎んでくれたって構わない。だけど、だけどな・・・」

 

 

 

「響の事は・・・響の事だけは嫌いにならないでやってくれ・・・傍に居てやってくれ。あいつの帰る場所であり続けてくれ!・・・頼む。」

 

 

 

「なんで・・・?どうしてそこまで・・・?・・・無理ですよ。私、無理ですよ!」

 

「それでも!それでも・・・頼む。あいつは必ずお前の所に帰ってくる。あいつだってお前の元に帰るのが・・・」

 

「もういい!・・・もういいです。早く・・・早く行ってください。」

 

翔が口に出した願いを遮って彼女は言葉を放った。その言葉には明確な拒絶の意志が込められていた。

 

「・・・すまない。」

 

「もういいですってばぁ!!!」

 

叫ぶ彼女から逃げるようにして走り出す翔。先を行く鎧の少女と響の姿を探しながらも彼の意識は別の事に向いていた。

 

(俺はまた間違えた。また巻き込んだ。また傷つけた。これで・・・これで何度目だ!)

 

「畜生・・・!」

 

『おい、翔。落ち着け!』

 

「畜生!!!」

 

やり場のない怒りが、自分への憤りが声になって吐き出される。

だが、どれだけ癇癪を起そうが悔もうが叫ぼうが、それで事態が好転するということは決してない。

 

翔は小日向の方を振り返ることなく走る速度を上げ続けた。

 

まるで後悔を振り払うかのように。もしくは逃げ出すかのように。




重い展開が続き、爽快感がなく申し訳ありません・・・!
次回は戦闘シーンに気合を入れたいと考えております。
よろしければ感想、評価。ご教授の程をお願い致します!
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