set2ー2
晴れた午後の運動場に響き渡る掛け声。間が開けば、小鳥の囀りが聞こえてきそうだ………男子の叫び声がなければ。
「「ひぃーきぃぃーがァやァぁあ!!」」
…………煩い。声に滲みた怨念が私の脳内に響きそうで……
「八方向から正しく振れるように………それと、もっと声を張り上げろ!そんな事じゃ奴は殺れん」
「「はいっ!!烏間先生!!」」
…………だからなんであんたは男子の味方してんのよ。これにはひなのも………
「うーーぅぅうーーー、ひきがやくーん、ねこよんでー…」
…………目が死んでる。虚ろだ。お願いだからハイライト仕事して。やめて、その目向けんな。
しかし、これは重症だな。ひなのにはいい医者を紹介しよう。……そんなの知らんけど。
「ほれ。お前は休んでな。あの日陰にベンチを用意してるから、この冷えピタ貼って、猫に癒されてこい」
「は、はいぃ……」
頬が朱に染まってる。ひなの?!熱なんだよね、そうだよね?!比企谷君はひなのの頭にそっと猫を乗せるとひなのを介抱しながらベンチに寝そべらせて。………私は顔を背けた。
「…………知らないっ」
烏間先生が殺せんせーと会話していて、話声が聞こえてきた。
「酷いですよ烏間先生…私の体育は生徒に評判が良かったのに」
「うそ、つけよ!ころせんせぇよぉ!!」
「ひっぇ」
菅谷!怨念漏れてる!!漏れてるからぁ!殺せんせーもびっくりしたように仰け反った。涙も既に止まっている。そんなに怖かったんだ……
「身体能力が違いすぎんだ!!この前も……」
菅谷ってそういうタイプだったっけ?それにしても男子はなんで比企谷君に怒ってるんだろ
「あー、反復横跳びん時ね。分身とか、比企谷じゃねぇんだしなぁ!」
「異次元だよねー、比企谷君じゃあるまいし。」
「体育は、普通の、先生に教わりてぇわ」
あ、殺せんせーガッカリしてる。しくしく泣いてる先生の背中はなんだか可愛く見えた。
「先生……安心しな。俺だって人間だと思われてねぇんだ。泣きそうだぜ」
「ひ、比企谷君!ここに同士が……」
比企谷君も泣いてる。私もあっち行きたいなー。
「……矢田っち〜?あっち行ってもいいんだよ?」
中村さんがからかいにやってきた。
「いい…少しでも比企谷君に近づかなくちゃ」
私もいつか、比企谷君の次元に立てたらいいな。
「え?そうなの…」
中村さんが若干引いてる。だけど、そんな事は知らない。やる。やってやるぞぉ!!
私が燃え上がってると、烏間先生に当てれば授業を終わると言った。怨念で動く男子と烏間先生に向かうが烏間先生の怨念はもっと強かった。うぅうーと呻きあってる。
…………何の勝負をしてんの?この人達。
「俺の奴への恨みはお前らとは比較にならんぞ!奴をやるなら俺をやってからいけ!!」
烏間先生がおかしくなってから混乱する生徒が増えた。それを見かねたのか比企谷君が、烏間先生をおしのける。
「烏間先生っ、今度はもっとお菓子を持ってきますから、落ち着いてください。あ、それともマッ缶足りませんでした?」
「い、いや、そうだな。後3ダース程頼む。」
「へいへい。………さて、烏間先生の変わりに俺が相手してやる。誰か来いよ」
「は、はいっ!」
思わず手を上げてしまった。男子達が相次いであげる中皆私の方へ視線を向けた。
「「「ひぃきぃがァやぁ!!」」」
「そんなにあれが気に食わんのかよ。さっ、来いよ矢田。あとは………茅野かな。」
「わたしっ?!」
「へぇ、気づいてねぇのか?お前の殺気はだだ漏れだ。気づいてる奴も何人かいるはずだぜ?」
「勘違いじゃないかな?」
「ふーん。お前がそう思ってんだとしたらそうだろうよ。で、くるの?こないの?」
「………………殺す」
私でもわかる殺気。茅野ちゃんの表情は今まで見たことも無いものへと様変わりしていた。
このまま茅野ちゃんを戦わせたらダメだ。ふと、そう感じた。
「ううん。比企谷くん。私だけでいいよ。」
「へ?………っくくくくっ。あっはは、はははははっ。随分舐められたな。だが、言う相手が違う。それは茅野に言え」
そうか。茅野ちゃんは自ら訓練に参加したいんだ。比企谷くんを殺す、訓練に。
「っ…………はぁっ。いいよ。今回は見逃してあげる。」
茅野ちゃんの様子が、明らかにおかしい。
「終わったか?じゃ、こいよ。」
今は一旦、茅野ちゃんのことは置いて置こう。まずは暗殺だ。
初撃。一直線の単直な突き。一見愚直だけど動きが少ないためスピード面では優れた一撃。
「はっ、もうちょっと、工夫っ?!」
からの、足払い。は、フェイク。低い姿勢のモーションを入れ、相手がバックステップするのを見計らって、抱きつく。しっかりと力を入れて離れないように、抱きついた。
「は?な、何してんの??」
これだけなら誰にでも出来る。比企谷君もまさか抱きついてくるとは思ってなかったのか驚いてる。
「んっ、こうするのっ!」
左手で、持っていたナイフをそのまま……
バァン
破裂音が聞こえた。比企谷君が出した音なのかゼロ距離なので、地面に崩れ落ちるほどの衝撃を食らった。一瞬何が起きたのか分からなくて、目の前がチカチカ。
「っく……な、何が、起きたの?」
目が回る。暫くすると、落ち着いて正面に比企谷君の姿が見えた。
「…………あまり使いたくなかったんだがな。」
「比企谷君、何をしたのかな」
神崎さんが聞いた。多分クラス中の誰もが気になってる事だろう。
「…………クリップスタナー。俺がある人から教えて貰った、技だ。」
そう言った、比企谷君の表情は少し寂しそうで、その様子に何故か私も胸が締め付けられて、苦しい。
比企谷君の雰囲気から何か悟ったのかそのまま授業は終わりになった。
少しだけ、比企谷君が何を見ているのか、知りたくなった。風が吹き、抱きついた時に残った彼の香りがした。胸に残った熱さに私はぎゅっと目をつぶった。
ーーー
赤羽業くん。今日、停学を開けた生徒。その生徒が殺せんせーに挨拶し、手に仕込んだナイフにやられて触手が吹き飛んだ。
「へぇー、ほんとに早いし、ほんとに効くんだこのナイフ。細かく切って貼って見たんだけど。けどさぁ先生。こんな手に引っかかるとか。しかもそんなとこまで飛び退くなんてビビりすぎじゃね?」
初めてだ。殺せんせーにダメージを与えた生徒。殺せんせーに1番近いのは比企谷君だと思ってたけど、もしかしたら
「殺せないから殺せんせーって聞いてたけど、あっれぇせんせーひょっとしてちょろい人?」
殺せんせーの顔が赤い。怒ってる顔だ。そりゃ、怒るよ。
「よしよーし。いい子いい子。あいつに殺せんせーは殺れねぇよ」
茂みの方から比企谷君がひなのを連れてやってきた。頭撫でて貰ってる……ずるい
「えへへ……そうなの?」
ひなのも嬉しそうだ。ひなのなんかにデレデレしてる比企谷君も比企谷君だ。
「もし殺れるとしても、簡単には殺らさせねぇ。あれでも、俺達の教師であり、兄弟だからな」
「………まだ、それ続いてるんだ」
甘党は兄弟と言っていた。彼は本気でそう思ってるみたいで殺せんせーと烏間先生は既に兄弟らしい……
「で……いつまで撫でてるの?」
いつまでもひなのの頭を撫でているので、言ってやった。比企谷君は「それもそうだな」と呟いて手を離す。
「あっ………むぅ」
「ふんっ…」
ひなのが恨めしそうに私を睨むので、舌をだして背を向けた。いつまでも撫でられてるひなのが悪いもん。