摩訶不思議ハイスクール・ライフ エヴァンゲリオン 杜宮学園物語   作:朝陽晴空

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第七話 シンジの誕生日と、ある日の綾波レイ

<杜宮学園 1-A>

 

 ゴールデンウイークも終わり、梅雨の時期に入るとアスカの心が騒めく日がやって来た。

 今日は6月6日、シンジの16歳の誕生日だった。

 去年は第三新東京市で迎えたシンジの誕生日。

 使徒との戦闘で荒れ果て半ばゴーストタウンとなった街では満足に物が買えず、かと言ってミサトに話してわざわざ品物を取り寄せてもらうの勇気も無かったアスカは、シンジに【無形資産】カタカナ2文字で言うと【キス】をプレゼントした。

 今年は去年を超えるプレゼントを、と企むアスカだったが、キスを超えた肉体関係となるのはまだ早いと考えているわけで。

 悩んでいるうちに誕生日当日となって慌てていた。

 シンジ本人にアスカが誕生日プレゼントの相談をするわけにもいかず、難しい顔をして悩んでいるアスカにシンジ達が話しかけるわけにもいかず。

 そうしている間にチャイムが鳴り、担任のミサトが教室へと難しい表情をして入って来た。

 いつも陽気なミサトが珍しい事もあるものだと、シンジ達は思った。

 

「今日、新しいクラスの仲間が増えました……。渚カヲル君です……」

「えーっ!?」

 

 教室の前の扉から銀白色の髪をした少年が入って来た。

 シンジとアスカは席から立ち上がってしまうほど驚いた。

 レイも立ち上がりはしなかったが、目を丸くして表情は驚いているようだった。

 ミサトが黒板に書いたチョークの文字も少し震えているようだった。

 

「やあシンジ君。君の誕生日にこうして会えるなんて、神様からの最高のプレゼントとは思わないかい?」

 

 ミサトの隣に立っていたカヲルはシンジの席に近寄ると、戸惑うシンジの手を掴んだ。

 自分の手を掴むカヲルの感触は、本物の血の通った人間である事を実感させた。

 命を奪ってしまった相手が生き返って自分の手を握っている。

 その奇跡に涙を流して喜びたいシンジだが、ここはクラスメイト達が居る教室。

 シンジはグッと感情を押えた。

 

「このホモ男、シンジに何をしているのよ!」

 

 アスカは席から離れてカヲルが握っているシンジの手を引き離した。

 このまま放って置けば、カヲルはシンジにハグをするかもしれない。

 

「碇の知り合いのようだが……」

「来たわ、来たわ! 転校生が!」

 

 キョンは自分の席の前に居るハルヒが喜んでいるのを見て、ハルヒ自身が超能力者じゃないのかと思った。

 ハルヒの望む事が何度も重なれば偶然とは考えられなくなる。

 

 

 

<杜宮学園 屋上>

 

 シンジの手を握った事で、カヲルはクラスメイトから多少距離を置かれていたので、休み時間に簡単にカヲルを屋上に呼び出す事が出来た。

 

「ちょっとアンタ、アタシとシンジの湖畔デートを邪魔した挙句に、レイの零号機を勝手に動かしてネルフ本部をぶっ壊しておいて、使徒として殲滅されたはずでしょ?」

 

 アスカは激怒した表情で、カヲルに人差し指を突き付けて詰問した。

 

「君はデートを邪魔されたのと、ネルフ本部を壊された事と、どっちに怒っているんだい?」

「どっちもよ! シンジはね、アンタを初号機で殲滅しちゃったもんだから、ショックで立ち直るのに時間が掛かったのよ! 励ますアタシも大変だったんだから!」

「もういいよ、こうしてカヲル君が戻って来てくれたんだから」

 

 シンジはアスカとカヲルの間に仲裁して言い争いを止めた。

 

「ちっとも良くない! 使徒が復活したって事は、アタシ達がエヴァで殲滅した意味が無くなるのよ」

「いいえ、エヴァを出撃させる必要は無いわ」

 

 そう言って階段から屋上に姿を現したのはミサトだった。

 

「渚カヲル君はもう使徒じゃなくて、普通の人間になっているの」

 

 ミサトはレイの目をじっと見つめてそう言った。

 

「ただ、彼には戸籍が無い状態だったから、ネルフが新しい戸籍を作っただけ」

「私と同じね」

 

 レイはカヲルを見てそう呟いた。

 

「ミサトさんとリツコさんが昨日の夜中に慌てて家を出て行ったのはそのせいだったんですね」

「そう、杜宮記念公園に裸の男の子が倒れているって通報があってね。気になって調べたら渚君だったのよ」

 

 シンジの言葉にミサトはそう答えた。

 

「というわけで、またよろしく頼むよ。約束していた僕のピアノとシンジ君のチェロのセッション、楽しみにしているよ」

「僕もだよ、カヲル君」

 

 そう言ってカヲルとシンジは固い握手を交わした。

 さすがにアスカも割って入って邪魔をする事が出来ず、自分もシンジとの特別な絆が欲しいと思うようになった。

 

 

 

<杜宮市 杜宮商店街>

 

 放課後、シンジ達はハルヒ達とも合流し、杜宮商店街へと向かった。

 カヲルが杜宮商店街の近くにあるアパートで1人暮らしを始める事になったからだった。

 

「せっかくシンジ君と同じ屋根の下で暮らせると思ったのに、残念だよ。ピアノも置けそうにないしね」

「ゴメンね、居抜き物件がここしかなかったのよ」

 

 ミサトはカヲルに向かってそう言って謝った。

 居抜き物件とは家具がそのまま揃っていて、すぐにでも住める部屋。

 見も蓋も無い言い方をすれば、カヲルが住む事になる部屋の前の住民は夜逃げしたのだった。

 

「こっちが渚君が住む事になるアパートよ」

「あれ、明日香先輩?」

「なるほど、相沢さんは1時間前にこの場所に居たわけね」

 

 シンジ達が目的のアパートへ着くと、アパートの前で明日香とコウ、そしてシンジ達と同級生であるソラの3人がアパートの住民に話を聞いていた。

 

「ハルヒちゃん?」

 

 ハルヒに声を掛けられた明日香が気が付いたように答えた。

 明日香は放課後は大事な用事があると言ってSOS団のメンバーとは別行動をとっていたのだ。

 

「大事な用事って、時坂センパイとのデートですか?」

「違うわよ、あなたじゃあるまいし」

 

 アスカの皮肉に、明日香も皮肉で言い返すようになって来た。

 

「空手部のチアキ先輩が退部届を出して、どっかへ行ってしまったらしいんです」

「それって、行方不明って事じゃないの、大丈夫!?」

 

 ソラの話を聞いたハルヒは驚きの声を上げた。

 

「駅前広場に居たお巡りさんの話では、1時間半ほど前に相沢は電車に乗らずに階段を降りて行ったそうなんで、市内から出ていないらしいから、この辺りで目撃証言を探していたんだ」

「それなら、あたし達も手分けして探しましょ!」

 

 コウの話を聞いたハルヒはそういきり立つが、いさめたのはキョンだった。

 

「まあ待て、俺達は空手部の相沢先輩の顔を知らないんだ。探しようがないだろう?」

「杜宮学園空手部のブログに、相沢チアキの画像データがある」

 

 ユキがそう言うと、ハルヒはナイスとばかりに明るい笑顔で指を鳴らした。

 こうして、SOS団のメンバーもチアキの捜索に加わる事になったが、深刻に悩んだ表情になっていたのはアスカだった。

 このままでは何も出来ないままにシンジの誕生日が過ぎてしまう。

 空手部の先輩の事も心配だったが、アスカはシンジに去年の自分とカヲルとの再会を超える誕生日プレゼントを渡さないといけないと焦っていた。

 

「アスカ、何を見ているの?」

 

 そんなアスカの目に留まったのは、駄菓子屋の店頭に置かれたカプセルトイ(ガチャガチャ)だった。

 『カゲマル』と言うネコみたいなキャラクターのストラップが入ったカプセルの入った、1回100円で回せる器械で、『ひなたぼっこカゲマル』など数種類のバリエーションがあるようだった。

 

「アスカってば!」

「な、何よ!?」

 

 大きな声でシンジに何度も呼び掛けられて、アスカは我に返った。

 

「早く僕達も相沢先輩を探しに行こうよ」

「そ、そうね、じゃあアタシは『七星モール』の方へ探しに行くから、シンジは他の所へ行きなさい!」

「えっ?」

 

 てっきり一緒に探すものだと思っていたシンジは、アスカが別行動をとると言った事に驚いた。

 それだけアスカはシンジにベッタリとくっ付いて行動する事が多かった。

 

「手分けした方が効率が良いじゃない」

「それは、そうだけど……」

 

 シンジは知らない人に声を掛けるのが苦手だった。

 だからアスカが側に居てくれれば助かると思っていた。

 肩を落としたシンジは、アスカとは別の方向に向かって歩き出すのだった。

 

 

 

<杜宮市 杜宮記念公園>

 

 シンジ達と手分けをしてチアキを探していたコウは、レンガ小路で30分前にチアキを目撃したと言う似顔絵描きの証言を得た。

 チアキの行動履歴について十分な情報を得たと思ったコウは、明日香に連絡して合流した。

 

「時坂君、今まで集めた相沢さんの目撃証言から、どこに相沢さんが向かったか分かるって言うのかしら?」

「ああ、多分相沢はこの順番で杜宮市内を回ったんだと思う」

 

 ★推理クイズ★

 

 コウの知力を試すクイズです。

 正解するとコウの智のステータスが上がるので挑戦してみてください。

 

 相沢チアキはどの順番で市内を回った?

 

 1.「レンガ小路」→「駅前広場」→「商店街」

 2.「駅前広場」→「商店街」→「レンガ小路」

 3.「商店街」→「レンガ小路」→「駅前広場」

 

「それで相沢が辿ったルートから推理される行き先は……杜宮記念公園だ」

「さすがね、時坂君」

 

 明日香は感心した様子で呟いた。

 コウの推理を聞かずとも、明日香には分かっていたようだった。

 2人はSOS団のメンバーには連絡を入れずに杜宮記念公園に向かう事にした。

 

「しかし、よりにもよってこの場所とはな……」

「早く相沢さんを保護しましょう」

 

 杜宮記念公園では近いうちに大きな異界化が起こると予測されている。

 死んだはずのカヲルをハルヒが復活させたため、今までに無い大きな代償を払う事になったのだ。

 足手まといになるシンジ達は連れて行けないと明日香は判断した。

 

「ショートカットのパーカーを着た女の子なら、ついさっきここを通ったよ」

 

 クレープ屋の女性店員の目撃証言の通りに先に進むと、落ち込んだ表情でベンチに座っているチアキの姿を見つけた。

 

「居たわ、相沢さんよ」

「おい、相沢!」

 

 コウが声を掛けると、チアキは顔を上げた。

 

「時坂と……柊さんだっけ? 私に何の用?」

「あら、私の事を知っているの?」

 

 コウとチアキは同じ中学時代からの知り合いだった。

 

「柊さんは、有名人だからね」

 

 チアキはポツリとそう呟いた。

 

「なあ相沢、郁島と何かあったのか? あんなに熱心に指導していたじゃないか。それに急に空手部を辞めるだなんて、ソラが悩んでいたぞ」

「あんたには分かんないよ! 武術の修行を途中で投げ出したあんたなんかに!」

 

 コウに対して、チアキはそう言い返した。

 九重神社の道場に通う事を中学の途中で止めて、バイトに励むようになったコウは直ぐに言い返すことが出来なかった。

 すると、チアキの背後にある空間が割けて、赤黒い光を放つ門が姿を現した。

 

「相沢!」

「た、助けてっ!」

 

 チアキはそう叫んで、コウに向かって手を伸ばすが、門の中に吸い込まれて消えてしまった。

 

「チアキ先輩!?」

 

 そこに駆け付けたのはソラだった。

 門に吸い込まれるチアキを見て驚きの声を上げた。

 

「ソラ、どうしてここに!?」

「チアキ先輩が話していたんです、何かに悩んでモヤモヤしている時はこの公園に来るって。だから、私もきっとここにチアキ先輩がいると思って。それで、チアキ先輩が吸い込まれたあの門って何ですか!?」

 

 コウの質問に答えたソラの言葉に、明日香が驚きの声を上げる。

 

「郁島さん、あなたにも門が見えるの!? 適格者でなければ、あの門は見えないはずなのに……」

「はい、うっすらとですけど……」

 

 明日香の問い掛けに、ソラはそう答えた。

 

「郁島さん、相沢さんは私と時坂君で助けるから、あなたは帰りなさい」

 

 明日香がそう言うと、ソラは首を横に振って拒否する。

 

「チアキ先輩は私のせいで事件に巻き込まれたんです! 私の手で助けたい!」

「怪異には、ソウルデヴァイスが無いとダメージを与える事すら出来ないのよ。文字通りあなたには手も足も出ないのよ」

 

 明日香が強い口調で断言すると、ソラは悔しそうに下を向いた。

 

「さあ行きましょう、時坂君」

「悪いな、ソラ」

 

 明日香とコウは門の中に姿を消した。

 直ぐにその場を立ち去る事の出来ないソラの前に、レムが幽霊のようにふわりと姿を現した。

 

「力が、欲しいかい……?」

「はい、先輩たちを助ける事の出来る力が欲しいです!」

「それなら、受け取りなよ」

 

 ソラが力強くそう答えると、レムはソラに向かって手を伸ばした。

 差し出されたレムの手をソラが掴むと、ソラの身体に力が注ぎ込まれるのを感じた。

 

「ソウルデヴァイス、轟け、ヴァリアントアーム!」

 

 ソラが叫ぶと、両手に手甲のような武器が現れた。

 

「それが君のソウルデヴァイスなんだね。見せてもらうよ、君達の輝きを」

 

 そう言うと、レムは幽霊のように姿を消した。

 

「私も助けに行きます! 待ってて下さい、チアキ先輩!」

 

 ソラはそう言って異界化迷宮に通じる門の中へと飛び込むのだった。

 

 

 

<異界化迷宮 月下の庭園>

 

 コウと明日香が飛び込んだ先は、美しい藤の花棚とフェンスに囲まれた、迷宮とは思えない場所だった。

 天井も無く、美しい満月と星空が頭上に瞬いている。

 

「コウ先輩、明日香先輩! 私も一緒に戦います!」

 

 コウと明日香が驚いて後ろの方を振り返ると、門の中からソラが飛び出して来た。

 

「郁島さんも、ソウルデヴァイスを!?」

 

 明日香はソラの両手にある武器を見て、驚きの声を上げた。

 

「はい、これで私も戦えます! だから連れて行ってください!」

「俺からも頼む、コイツは自分の手で、大切なものを守りたいんだ」

「ふう、仕方が無いわね。時坂君だけ同行を許したら、不公平だものね」

 

 ソラとコウに懇願されて、明日香は観念した様子でソラがついて来る事を許可した。

 美しい迷宮にも醜い怪異が徘徊している。

 明日香達は迷宮を流れる水路でびしょ濡れになりながらも、怪異を倒しながら迷宮の奥へと進んで行った。

 S級の怪異の数も多くなっていたが、ソラが参入した事で、明日香達は迷宮の最深部と思われる場所にたどり着いた。

 

「きっとこの部屋に、この異界化迷宮のヌシが居るはずだわ。油断しないようにね」

「ああ、だが今までの怪異の様子を見ると、そんなに大した事は……」

 

 明日香の言葉にコウがそう答えようとすると、コウ達の目の前でとんでもない事が起こった。

 星空全体が、真っ二つに割れている。

 今までは空間にヒビが入る程度だったのに、見た事の無いレベルだった。

 そして現れた怪異も、身長が80m近くの岩人形のような巨人だった。

 

「まさか、これ程の大きさだなんて!」

 

 明らかに普通の人間の大きさの自分達がまともに戦える相手ではない。

 これは怪異の域を超えた存在だ。

 明日香はネルフにエヴァンゲリオンの出撃を要請するしかないと思った。

 

「大丈夫です、僕が『神人』を倒して御覧に入れましょう」

 

 いつの間にか明日香達の後ろに、杜宮学園の1年生の制服を着た渚カヲルと同じような端正な顔立ちをした茶髪の少年が笑顔を浮かべながらクールに言い放った。

 

「あれは『使徒』ではないの!?」

 

 明日香は巨人を指差して少年にそう尋ねた。

 巨人は使徒のように顔に赤いコアのような球体を3つ持っている、明日香が使徒だと思うのも無理はない。

 

「使徒と似ていますが、あれはエルダー怪異を超えた『神人』です。僕は古泉イツキ。神人を倒す力を授けられた『超能力者』です」

 

 イツキはコウにそう答えると、身体を火の玉へと変化させた。

 発せされるあまりの熱さに、コウ達は後退りして、迷宮の水路の中に身体を沈めて冷やした。

 巨人のような神人に踏み潰されてやられる事を覚悟した明日香達は、赤い火の玉になって神人に体当たりをして攻撃を仕掛けるイツキを見上げて、呆然としていた。

 イツキの体当たりを受けた神人は、その体当たりを受けた部分がボロボロと身体が崩れ落ちて消滅して行く。

 

「なあ柊、俺達は悪夢を見ているのか……?」

「そう思いたい気持ちも分かるけど、これは現実よ」

「凄い、本当に適格者の能力を超えた存在ですね……」

 

 3人の見ている前で火の玉になったイツキは神人の巨体全てを崩壊させ、エヴァと同じ位の大きさを持つ巨人は姿を消した。

 火の玉から、普通の人間の姿に戻ったイツキは明日香達の前へと降り立った。

 神人との戦いを終えたイツキはごく普通の杜宮学園の1年生にしか見えない。

 ヌシを失った異界化迷宮は姿を消し、明日香達は元の杜宮記念公園へと戻った。

 

「それでは神人は倒したようなので、これで失礼します」

「待ちなさい、あなたは何者なの?」

 

 立ち去ろうとするイツキを、明日香は厳しい表情で呼び止めた。

 

「僕はネルフでもゼーレでもない、とある組織に属する人間です」

 

 イツキは振り返ってそう答えると、今度こそ姿を消してしまった。

 

「アイツは杜宮学園の制服を着ていた、また会う機会があるかもしれない」

「そうね」

 

 コウの言葉に、明日香はそう答えた。

 

「チアキ先輩!」

 

 ベンチに横たわって気を失っているチアキにソラが必死に呼び掛けると、チアキは薄っすらと目を開いた。

 

「ソラ……あんたが助けてくれたんだね。あんな酷い事を言ったのに……」

 

 チアキは空手部の先輩として、後輩であるソラを指導して行くうちに、ソラの才能が自分よりも遥かに上回っている事に気が付いてしまった。

 

「あたしはソラの強さに嫉妬して、あんたなんか居なくなれば良いなんて思っちゃったよ……」

「相沢、嫉妬する事は別に恥ずかしい事じゃない。それに、さっき俺達も自分達の次元を超える強いヤツに出会ってしまって、呆然としていたところさ」

 

 コウの言葉に、ソラも頷いた。

 

「あんた達でも呆れるほどの強さって、世の中、上には上がいるもんだね」

 

 そう言って力無く笑うチアキに、ソラは声を掛ける。

 

「先輩、強さと言うのは力ばかりではないと思うんです。先輩は私には敵わない強さを持っています」

「あたしがあんたより強いって?」

「はい、私は九州から上京して来て、上手くやって行けるかどうか不安でした。そんな私を支えてくれる心の強さを持っていたのが、チアキ先輩です」

 

 ソラに真っ直ぐな瞳で見つめられて、チアキは照れくさそうに顔を反らした。

 

「ソラのヤツ、相沢と仲違いしただけで、技に迷いが生まれてガタガタになっていたんだぜ?」

「そうなのか?」

 

 コウの話を聞いて、チアキはソラに尋ねた。

 

「はい、だからこれからも空手部で私を鍛えてください、チアキ先輩!」

「まあ強さにも色々あるって訳だ」

 

 コウの言葉を聞いて、チアキは目を閉じてしばらく考え込んだ。

 そして目を開くと、チアキの心から迷いが消えたようだった。

 

「よし分かった、明日部長に会って退部届を取り消して来る!」

「これで事件は解決ね」

 

 ソラとチアキの様子を見て、明日香はホッと息を漏らす。

 SOS団のメンバーは今でもチアキを捜索しているはずだ、時間は遅くなったが、もう探す必要は無いと明日香は連絡をするのだった。

 

 

 

<杜宮市 シンジの部屋>

 

 シンジ達が明日香からチアキ捜索の終了の連絡を受けたのは夕方になってからだった。

 アスカとレイと杜宮商店街で合流したシンジは、夕食の食材を買って家へと帰った。

 

「シンジ君、誕生日おめでとう♪」

「ありがとうございます、ミサトさん」

 

 家ではミサトがケーキを買って待っていた。

 こういう事には細かいリツコが、ホールケーキを1ミリも違わず5等分する。

 どうして誕生日の日も自分が夕食を作らないといけないのか少し疑問に思いながらも、シンジはミサトの心遣いに感謝した。

 

「シンジ君、私からのプレゼントはこれ。いつも家事をしてもらって、感謝しているわ」

 

 リツコからシンジへのプレゼントは現実的な彼女らしい『現金』だった。

 

「碇君、私は今日、プレゼントを買う時間が無かったから、これ」

 

 レイがシンジに渡したのは、ポエムが書かれた紙だった。

 

「ありがとう、リツコさん、綾波」

「ところで、アスカのプレゼントはどうしたの? 去年と同じでもシンちゃんは大喜びだと思うけど♪」

 

 ミサトがそう言うと、シンジは顔を真っ赤にした。

 

「鋭意製作中よ!」

 

 アスカはそう言うと、ダイニングキッチンを飛び出して自分の部屋へと閉じこもってしまった。

 

「手作りのプレゼントだなんて、期待できるじゃない」

 

 ミサトはシンジに向かってウインクをした。

 そして家事を終えたシンジは自分の部屋のベッドで興奮しながらアスカを待っていた。

 

「またカヲル君と会うことが出来たなんて、涼宮さんには感謝しないと」

 

 シンジはそう呟いて、時計を見た。

 そろそろ、6月6日が終わろうとしている。

 

「やっぱりアスカは間に合わなかったか。でも最高の誕生日だったな……」

「まだ最高の誕生日だって締めくくるのは早いわよ!」

 

 そう言って6月6日が終わる5秒前にシンジの部屋に息を切らせて現れたのは、アスカだった。

 

「これは?」

「アタシお手製の、携帯電話に着けるストラップよ。商店街でカプセルトイのガチャガチャを見て思い付いたの。アタシとシンジの絆を示す事の出来るものをね」

 

 アスカがシンジに渡したストラップは赤いハートの形をしていて、暗い部屋で『A』の文字が光っている。

 

「でもどうして『A』なの? 僕のイニシャルなら『S』だけど」

 

 シンジが不思議そうな顔で尋ねると、アスカは自分の持っている『S』の文字の入ったストラップをシンジに見せた。

 

「アタシが側に居ない時は、そのストラップをアタシだと思って大切にするのよ!」

「ありがとう、アスカ!」

 

 シンジは今度こそ最高の誕生日だと実感して眠りに就いた。

 

 

 

<杜宮市 杜宮商店街>

 

 次の日の日曜日の朝、レイは早起きして杜宮商店街のカヲルが下宿しているアパートへと向かった。

 このアパートにはソラも住んでいて、レイは杜宮記念公園へ朝練に向かうジャージ姿のソラとチアキとすれ違った。

 

「やあ、レイ君じゃないか。どうしたんだい?」

 

 レイがカヲルの部屋を訪れると、カヲルは穏やかな笑顔を浮かべてレイを迎え入れた。

 

「あなたに人としての生活を教えようと思って」

「そう言えば、リリンになってから、お腹が空いて仕方が無いんだ」

「……だと思ったわ」

 

 カヲルの言葉を聞いて、レイはそう呟いた。

 使徒だったカヲルは何も食べずに居ても平気だったからだとレイは思った。

 レイは家から持って来た食材を使って、キッチンで料理を作り始めた。

 

「へえ、レイ君も料理をするんだね」

「学校の家庭科の授業で習ったの。碇君に比べたらまだまだだけど」

 

 レイはご飯に卵焼き、焼き鮭に味噌汁と典型的な和食を作ろうと思っていた。

 しかし、完成した料理は、ご飯は芯が残るほど固く、卵焼きはフライパンに焦げ付いて剥がすのにひと苦労、焼き鮭は黒ずんで、味噌汁は豆腐の形もまちまちで塩辛く、レイが家で食べているシンジの料理とはほど遠い出来だった。

 

「渚君、美味しくないなら無理して食べなくても……」

「リリンの食べるものが、こんなに美味しいとは思わなかったよ」

 

 恥ずかしさに顔を赤らめるレイにカヲルは穏やかな笑顔で答えた。

 カヲルが使徒だった時、食べ物の味を感じる事は全くできなかった。

 これはカヲルの心からの感想だった。

 

「ありがとう。渚君、食後のコーヒーはどう?」

 

 レイはそう言って、コーヒー豆を挽く機械を使って本格的なコーヒーを入れたのだが、分量が分らず、一口飲んだだけで、強烈な苦さを感じられるものだった。

 

「レイ君、気にしないで。僕は十分感謝しているよ」

「……これでは終われないわ。渚君、きっと美味しいご飯をあなたに作ってあげる。それに、渚君も自炊できないと困るでしょう」

 

 レイの闘争心のようなものに、火が付いてしまったようだ。

 外は雨が降り出したと言うのに、レイとカヲルは相合傘で杜宮商店街に買い物に出かける事になった。

 杜宮商店街は八百屋や精肉店など数々の商店が軒を連ねていて、生活必需品は揃うようになっている。

 野菜や肉を買うレイを見て、カヲルは昼食もレイが作るのだと思った。

 

「レイ君、あれは何かな?」

「カプセルトイが入ったガチャガチャ。中に猫の様なキャラクターのストラップが入っているの」

 

 駄菓子屋の店頭に置かれたガチャガチャにカヲルは興味を持ったようだ。

 100円を入れて回すと、『こたつでカゲマル』と言うストラップが出たようだ。

 

「色んな種類があるみたいだね、もう一回やってみようか」

 

 カヲルが再び100円を入れて回すと、またしても『こたつでカゲマル』が出てしまった。

 

「幸運の女神に見放されたようだね、これはレイ君にあげるよ」

「でも……」

「料理を作ってくれたお礼さ、こんなものではお礼にはならないだろうけど」

 

 カヲルはそう言うと、レイに『こたつでカゲマル』のストラップを渡した。

 

「ところでこのストラップというものはどうやって使うのかな?」

 

 レイはカヲルに携帯電話に着けるアクセサリだと教えた。

 

「渚君とお揃いのストラップ……」

 

 レイは久しぶりに自分の胸がポカポカして来るのを感じた。

 

「あっ、見つけたわ、噂の転校生!」

 

 賑やかな声と共にやって来たのは、イツキと歩いていたハルヒだった。

 

「ねえ、あんたもSOS団のメンバーにならない? 転校生はレアだから、特別待遇で歓迎するわ!」

 

 話によると、1-Bに転入したイツキもハルヒに勧誘されてSOS団のメンバーとなったのだと言う。

 

「どうしたものかな、レイ君?」

「渚君が嫌じゃなければ、入って欲しい」

 

 レイが少し顔を赤らめてそう言うと、カヲルはSOS団のメンバーとなる事を了承した。

 

「よっしゃー! レアな転校生を2人もゲット!」

 

 ハルヒが上機嫌でそう叫ぶと、そのハルヒの上がったテンションを反映するかのように、雨がスッと止んで晴れあがった。

 

「虹をこんなに綺麗に感じたのは、初めて」

 

 そうつぶやいたレイはなぜこんなに風景が輝いて見えるようになったのか、その時は理由が分からなかった。




細かい事情は後ほどの話で説明して行きます。

★推理クイズ★

正解

2.「駅前広場」→「商店街」→「レンガ小路」

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この作品で足りない部分は外伝で補完して行きます。足りないと思う部分を教えて下さい。

  • 新世紀エヴァンゲリオン(LAS)
  • 涼宮ハルヒの憂鬱(日常)
  • 東京ザナドゥ(バトル)
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