摩訶不思議ハイスクール・ライフ エヴァンゲリオン 杜宮学園物語   作:朝陽晴空

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第八話 不幸を呼ぶアプリと七夕の少女達の願い

<杜宮市 ????の部屋>

 

 壁一面にディスプレイが並ぶ部屋で、眼鏡を掛けた15歳の少年がパソコンのキーボードを打っていた。

 その少年は相田ケンスケではない、別の少年のようだった。

 

「今日の儲けは10万ほどか、無難な所だね」

 

 そうつぶやいた少年は株式のデイトレーダーのようだった。

 涼しい顔をしてパソコンのキーボードを叩き続ける少年の携帯電話が鳴る。

 少年が通話をすると、電話をかけて来たのは離れて暮らす少年の姉の様だった。

 

「ユウ君、今日も学校を休んだって先生から家に連絡があったよ!」

「うるせえな、姉ちゃんには関係ないだろ!」

「どうせまたパソコンいじりに夢中になってるんでしょう、しっかり食事と睡眠は摂ってるの? お姉ちゃんはね、」

 

 姉の説教が始まりそうになると、少年は舌打ちして通話を打ち切った。

 

「学校なんて行ってられるかよ、今はこの携帯アプリの開発で忙しいんだからさ!」

 

 少年が狂喜の表情を浮かべてキーボードを叩くと、壁一面のディスプレイには杖を持って雲に乗り、天使の輪っかを頭に浮かべた老人の姿が映し出された。

 

『あなたの悩みを全角140字以内で入力してください』

 

 画面下部のウィンドウにはそう表示されていた。

 

 

 

<杜宮学園 昇降口>

 

 放課後、1-Aの教室からSOS団の部室である旧校舎に向かおうとしたアスカ達は、レイの携帯電話がおかしな着信音を鳴らすのを聞いて足を止めた。

 

「何よレイ、今の和風の太鼓や笛、弦楽器が混じった着信音は?」

「神様からのお告げが来たんだわ」

 

 レイはそう言うと、携帯電話のアプリを起動した。

 

「キョウのアナタの運勢はキョウ。イエデ晩御飯を食べないようにイエデしましょウ、ケケケ」

「何だか、不気味な感じだね」

 

 シンジがそうつぶやくと、レイは不思議そうな顔で首を横に振った。

 

「おかしいわ、いつもはこんな感じではないもの」

「アプリケーションにバグが生じている」

 

 ユキがそう言って手をかざすと、悪魔のような顔をしていた老人は元の穏やかな顔に戻った。

 

「綾波さんも『神様アプリ』ダウンロードしたんだ?」

「ヒカリも知ってたの?」

 

 口を挟んで来たヒカリに、レイは頷いた。

 

「良く当たるのよ、このアプリ。女の子の間では評判よ」

「アタシは決められた運命なんて信じられない、運命は自分で切り拓くものよ!」

 

 アスカはヒカリに対して堂々とそう宣言をした。

 

「その通り、世界の運命はあたしが決める、あたしこそが神よ!」

「おい、サラッととんでもない事を言うな」

 

 ハルヒにキョンが思わずつっこんだ。

 冗談だとハルヒは言っているのかもしれないが、シンジ達には冗談では無いのだ。

 

「でもどうしてそんなに占いが的中するんだろう?」

「多分、このアプリにはハッキング機能が付いているんだろぜ。質問したやつの携帯電話のデータや、シイッター、ヲインとかのSNSを参照して質問に対する合理的な答えを出すんだよ」

 

 シンジの質問に対して、ケンスケはそう答えた。

 

「そっか、そんな気持ち悪いアプリなら消した方が良いわね」

 

 ヒカリはガッカリした様子で携帯電話を操作した。

 

「こらケンスケ、女子の夢を壊すなや!」

「そりゃないよトウジ、お前の恋人を危険なマルウェアから守ってやったのにさ」

 

 ケンスケの話を聞いたレイも、これ以上不吉な予言が着信する前に、『神様のいうとおり』と言うアプリを削除した。

 レイはカヲルとどう付き合っていけばいいのか、相談していたのだ。

 

「こら、そこの1年坊主」

 

 髪を脱色した背の高く体格の良い3年生に声を掛けられ、怯えたシンジはアスカの背中に隠れてしまった。

 

「何よ、アタシ達に文句でもあるワケ?」

 

 アスカも内心怖かったが、シンジを守るためにと虚勢を張ってにらみ返した。

 

「そんな所で固まって駄弁っていると、通れねえだろうが」

「ご、ごめんなさい!」

 

 その3年生の男子生徒に言われた通り、昇降口の入口に固まっている自分達が通行の邪魔をしていると気が付いたシンジ達は道を開けた。

 

「何よアイツ、半端じゃない迫力ね」

「高幡シオ、杜宮学園で1番の不良って話よ」

 

 アスカの疑問に、明日香はそう答えた。

 

「シンジも、アタシの後ろに隠れちゃって、情けないわね」

「ごめん、僕はああいう人達は苦手なんだ」

 

 いざと言う時はカッコ良さを見せるのに、とアスカはため息を吐き出した。

 2度と関わり合いになりたくないと思っていたシンジ達は、明日香も来たところで改めてSOS団の部室へ向かおうとした時、明日香の携帯電話が鳴った。

 

「伊吹さんの従弟のリョウタ君が、交通事故に遭ったらしいわ。マヤさんの話によると、『神様アプリ』で今朝、交通事故に遭うと『お告げ』をされたらしいの」

 

 明日香がそう告げると、アスカ達の空気が変わった。

 

 

 

<杜宮学園 コンピュータ研究会部室>

 

 杜宮学園にあるコンピュータ研究会の部室はSOS団の奇襲を受けていた。

 まずSOS団の団長のハルヒが、コンピ研の部長に跳び膝蹴りを食らわせた。

 

「さあ、『神様アプリ』の開発者をとっとと出しなさい! この学園の生徒だって情報はもうつかんでいるのよ!?」

「だから、何も知らないって」

 

 ハルヒにチョークスリーパーを決められながら、部長はそう答えた。

 

「アンタ達、隠し立てするとあの部長さんみたいになるわよ!」

 

 アスカはそう言って部員たちに向かってパンチやキックを威嚇として振り回す。

 

「アスカ、スカートなんだからそんなに足を振り回さない方が……」

 

 シンジはアスカのスカートの中身が見えてしまわないか心配しているようだった。

 

「大丈夫よ、スパッツを履いているから。だって、もし怪異に倒されでもしたら、スカートを他の適格者に覗かれる事になるじゃない」

 

 アスカは今までシオリが気絶して倒れているのを見て、その事に気が付いていた。

 この学園の生徒が神様アプリの開発者だと言うのは、ただの噂に過ぎなかった。

 しかし、火のない所に煙は立たぬと言うことわざもある通り、他に手掛かりも無いので一番手掛かりのありそうなコンピュータ研究会の部室へとSOS団が殴り込み……いや、調査にやって来たのだった。

 

「口の堅いやつね、これだけ締め上げても白状しないなんて」

「だから本当に知らないんだよ……」

 

 コンピ研の部長は青色吐息でそう答えた。

 これ以上首を締め上げるとコンピ研の部長は死んでしまう。

 どうしたものかと考えているハルヒ達の所に、銀色の長い髪をなびかせた3年生の女子生徒がやって来た。

 

「何の騒ぎですか、校内での暴力行為は許されない事ですよ」

「あんた誰よ?」

 

 ハルヒはコンピ研の部長の頭を脇に抱えながらそう尋ねた。

 

「北都ミツキさん、この学校の生徒会長よ。あなた達も入学式で祝辞を聞いたでしょう?」

 

 そう言ってミツキの後ろから姿を現したのは明日香だった。

 ミツキの腕には生徒会長の腕章が巻いてある、彼女が生徒会長だと言うのは間違いない。

 ハルヒがコンピ研で大暴れしているのを見て、明日香はミツキを生徒会室から連れて来たらしい。

 

「生徒会長が何だって言うのよ! あたしはSOS団の団長よ!」

 

 ハルヒも怯む事無く団長と書かれた腕章を見せつけてミツキに対抗した。

 

「おい涼宮、生徒会を敵に回すのはマズイぞ。SOS団が取り潰しになるかもしれん」

「涼宮さん、ここには手掛かりは無さそうですから、他の場所を調査なさってはいかがですか? もちろん、暴力的な取り調べはいけませんよ」

 

 キョンとミツキに言われたハルヒは、コンピ研の部長の頭を解放すると不服そうに部室を出て行った。

 SOS団のメンバーであるシンジ達も慌てて後を追いかける。

 きっとハルヒ達は杜宮学園に残っている全ての生徒達に聞いて回るだろう。

 ミツキは明日香だけを呼び止めた。

 

「柊さん、神様アプリの開発者の件ですが、この学園の生徒である事は間違いないでしょう。しかし、涼宮さん達では手掛かりは掴めないと思います」

「会長は心当たりがあると?」

 

 ミツキの言葉に明日香は厳しい表情で尋ねた。

 

「1年生の中に、この学校に入学してからほとんど学校に登校していない生徒がいます。この部にもそんな生徒がいましたね?」

「ああ、確か入部するなり、このコンピ研はレベルが低すぎると言って顔を出さなくなった1年生が居たな」

 

 ミツキの質問にコンピ研の部長はそう答えた。

 

「不登校の生徒に登校を呼び掛ける手紙を出すのも、生徒会の仕事なのです。柊さん、あなたがその手紙を持って行っては頂けませんか?」

「しかし個人情報を明かしてしまうのはルール違反ではないでしょうか」

 

 ミツキの申し出に、明日香は毅然とした態度で答えた。

 

「既に学園の生徒が交通事故に遭うと言う被害が出ている事を私は重く見ています。それともネルフに所属するあなたは上位組織ゼーレのメンバーである私の頼みが聞けないと言うのですか?」

「分かりました、命令には従います」

 

 明日香は苦い表情になって、ミツキから手紙を受け取った。

 祖父である会長が休止して『北都コンツェルン』を継ぐ事になったミツキは、ゼーレのメンバーの地位も相続した。

 それからはミツキと明日香はネルフの先輩後輩の関係では無くなった。

 明日香はSOS団のメンバーの目を逃れるようにして、1人で手紙の宛先である『四宮ユウキ』の住む杜宮記念公園の側にあるタワーマンションへと向かうのだった。

 

 

 

<杜宮市 杜宮記念公園>

 

 明日香はユウキの住むタワーマンションを見上げてため息を吐き出した。

 ユウキはこのタワーマンションの高層階で1人暮らしをしているらしい。

 彼には父親と姉が居るようだが、ユウキは厳格な父親に反発して家を出て行ってしまったようだ。

 お金ならデイトレードで稼いでいると、ユウキはタワーマンションの高層階を買った。

 明日香はマンションのインターフォンでユウキの部屋番号を押して通話を始める。

 

「四宮ユウキさんのお宅ですか? 生徒会からの手紙をお持ちしました」

 

 そう明日香が用件を話すが、反応が無いまま通話は途切れてしまった。

 居留守を使っていると考えた明日香は、再びユウキの部屋番号を押して通話をした。

 

「神様アプリの開発者であるあなたに、話があるんだけど」

「オッケー、鍵は開けてあるから、入って来なよ」

 

 ユウキと思われる少年の声が聞こえると、入口の門のロックが外れて開いた。

 明日香は厳しい表情でユウキの部屋へと向かう。

 

「上級生が訪ねて来ているのに、出迎えもしないとは良い度胸ね」

「ただ1年先に生きているだけじゃないですか、柊明日香先輩」

 

 ユウキはパソコンのキーボードを叩く事を止めず、椅子に座ったまま振り返らずにそう答えた。

 

「私は名前を名乗っていないはずだけど、学校に顔を出していないあなたがどうしてわかるのかしら?」

「さあて、何でだろうね?」

「インターフォンのカメラで顔画像をスキャンしたあなたは、杜宮学園のパソコンをハッキングして生徒情報を参照して特定した」

「正解!」

 

 ユウキは指を鳴らすと、椅子を回転させて明日香の方を振り向いた。

 

「神様アプリを開発したのはあなたね? どうして人の不安を煽るようなものを作ったの?」

「おかしいな、無難な受け答えしかしないはずなんだけど」

 

 とぼけるような表情をしたユウキに、明日香は怒りをあらわにした表情で問い質す。

 

「あなたのアプリが交通事故に遭うとお告げをして、実際にその通りに事故に遭ったのよ」

「そんなの有り得ないでしょ、偶然っすよ」

「じゃあ質問を変えるわ。あなたがこのアプリを作っている時、妙な事が起こらなかった?」

 

 明日香がそう尋ねると、ユウキは深いため息を吐き出した。

 

「先輩には失望したよ、もっと面白い話が聞けると思ったのに」

 

 その時、ユウキの家の玄関のドアが開き、大学生と思われる女性が中に部屋の中に入って来た。

 

「ユウ君ってば、何度呼び鈴を鳴らしても返事が無いんだから! ……あら?」

 

 その女性はユウキの部屋に居る明日香に気が付くと、嬉しそうに声を上げる。

 

「ついにユウ君にも彼女が出来たのね! 私は四宮アオイと申します」

「ど、どうも……」

 

 面食らってしまった明日香はアオイに頭を下げた。

 

「あーっ、もう! 邪魔だから2人とも出て行ってよ!」

 

 ユウキに追い出された明日香とアオイは、入口に戻るまでの間、話をした。

 明日香は自分はユウキの恋人では無く『神様アプリ』について話を聞きに来た事をアオイに説明した。

 

「そっかぁ、ユウ君にも面倒を見てくれる彼女が出来たから安心だって、早とちりしちゃった……」

「すみません……」

 

 明日香は『神様アプリ』が不幸を呼んでいる話はアオイには伝えなかった。

 弟のユウキを溺愛しているアオイにショックを与えたくなかった。

 

「これね、ユウ君が作ったアプリは。ダウンロード数も凄い伸びているね。私もダウンロードしちゃおうかな」

 

 明日香と別れたアオイは、自分の携帯電話に『神様アプリ』をダウンロードした。

 すると直ぐにお告げを知らせる着信音が鳴った。

 

「えっ、何これ?」

 

 驚くアオイの近くで、空間が割ける音がした……。 

 

 

 

<杜宮市 シンジ達の家>

 

 シンジ達が家に帰ると、大きな不幸(?)が訪れた。

 学校の仕事が早く終わったミサトが、キッチンに立って料理をしているのだ。

 

「ミサトさん、まさかカレーじゃないですよね?」

 

 シンジが恐る恐る質問をすると、ミサトは首を横に振る。

 

「ノンノン、あたしが作っているのはシチューよ。コックパッドでレシピを調べたから間違い無く美味しいわよ」

 

 ミサトの返事を聞いて、それなら安心だとシンジが思えるはずも無く。

 

「市販の食材で良くこんな料理を作れるものね……」

 

 リツコはこめかみをヒクヒクとさせていた。

 

「何よ、この不気味な紫色は!?」

「シンちゃんの乗っている初号機カラーよ。ほら、箱根のアイス屋で紫イモのアイスを食べて美味しいってアスカもシンちゃんとのデートの時に言ってたじゃない」

 

 アスカの問い掛けにミサトは満足した笑顔で答える。

 ミサトはこの色と匂いが危険だと感じていないらしい。

 

「さて、お味噌で味を調えて、ジャムを入れて……うーん、日本に四季が戻っていなかったら、セミの抜け殻が手に入ったのに、残念ね」

「神様アプリの言う通り、家出をしておけば良かったわ」

 

 レイはミサトに聞こえない声の大きさでポツリとつぶやいた。

 

「リツコ、どんな料理でも美味しくする魔法の調味料は無いの?」

「試作品だけど、あるわよ。『味のモト』!」

 

 リツコが白衣のポケットから取り出すと、アスカはため息を吐き出した。

 

「そのまんまのネーミングね」

「さあ、出来たわよ。ミサトシチュー、召し上がれ」

 

 ミサトが笑顔でシチューを配膳すると、もう逃げられないと悟ったシンジが手を挙げる。

 

「じゃあ、僕が食べます!」

「シンジに先を越されるわけにはいかないわ、ここはアタシが!」

「あなた達は、私が守る」

「ここは大人である私が責任を取ります!」

 

 シンジに続いて、アスカやレイ、リツコが手を挙げる。

 

「それなら僕が食べようか」

「どうぞどうぞ」

 

 最後にカヲルが手を挙げると、シンジ達は先陣をカヲルに譲った。

 『味のモト』を振りかけてカヲルがシチューを食べると、カヲルは目を回して飲み込んだ。

 どうやらリツコの技術力はミサトに勝てなかったらしい。

 セミの抜け殻が入っていない事がせめてもの救いだと言い聞かせて、シンジ達はシチューの具材とは思えない大福や塩辛、たくあんを頬張った。

 

「コックパッドにこのレシピを載せたヤツ、ただじゃおかない!」

 

 アスカの瞳は怒りに燃えていた。

 ミサトに悪気が無かったものの、災難な夕食会が終わったアスカは、部屋に戻って自分の携帯電話に『神様アプリ』をダウンロードした。

 占いに全く興味が無いと格好を付けていたアスカも、やはり気になるものは気になるのだ。

 

「シンジってば、自分で抱え込むような所があるから、アタシが引き出してあげないといけないのよ」

 

 アスカもシンジ以外の男性と付き合った事が無いので恋愛上手とは言えない。

 『神様アプリ』のアドバイスに頼りたくなるのも無理はなかった。

 時間も忘れて、アスカは『神様アプリ』にのめり込んで行った。

 すると、『神様アプリ』の画面が突然不気味なものに変化した。

 

『アナタは、タイセツなヒトとハナレバナレになっちゃうヨ! イッショにガッコウをソツギョウ出来ナイなんて、カワイソウだネ!』

 

 突然『神様アプリ』からそんな声が飛び出すと、アスカは携帯電話を思わず投げ飛ばした。

 

「何よ! いきなりそんな事を言い出して!」

 

 アスカが大声で喚き散らして部屋で暴れていると、心配したシンジがアスカの部屋へとやって来た。

 

「どうしたんだよアスカ、落ち着きなよ!」

 

 シンジが背中からアスカを抱き締めて落ち着かせた。

 

「あのアプリが、アタシとシンジが離れ離れになるとか言い出したのよ! 一緒に高校を卒業できないって!」

 

 アスカは目に涙を浮かべながら、シンジに向かって抱き付きながら訴えた。

 

「気にする事ないよ、学校が無くても、僕とアスカは離れる理由なんてないんだからさ」

 

 シンジが穏やかな笑顔でアスカを慰めようとするが、アスカは顔をシンジの胸にこすり付けて首を横に振った。

 

「違うわよ、あのアプリはアタシかシンジが怪異との戦いで死ぬと予言してるのよ!」

 

 シンジはアスカの言葉を聞いて、思わず誕生日プレゼントととして貰ったアスカからの『A』の文字が入ったハート形のストラップを握り締めた。

 

「バカっ! そのストラップはそう言う意味で作ったんじゃないんだから!」

 

 命懸けの使徒との戦いが終わって平和な日常生活が送れると思っていたアスカにとって、異界化や怪異の出現はショックだった。

 チルドレンの次は適格者として戦う覚悟はアスカも持っている。

 しかし張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったアスカの涙は止まる事が無かった。

 シンジはそのアスカの細い肩を抱き締めて、キスで涙を拭った。

 

 

 

<杜宮市 杜宮総合病院>

 

 交通事故に遭ったリョウタは命に別条は無いものの、救急車で運ばれて入院する事になった。

 そのリョウタの病室には見舞いに来たクラスメイトのコウ達と、従姉のマヤが来ていた。

 

「SPiKAのライブ、楽しみにしていたのに残念だったな」

「もうっ、事故に遭ったって聞いた時、本当に心配したんだから!」

 

 リョウタがそうつぶやくと、マヤは顔を膨れさせてそうぼやいた。

 

「でも、リョウタが元気で良かったよ。リョウタが明るくないと、僕達まで暗くなっちゃうからね」

 

 ジュンがそう言うと、病室の中は和やかな雰囲気となった。

 マヤはリョウタの携帯電話をネルフに持ち帰って分析し、『神様アプリ』について調べるのだと話した。

 リョウタの事を彼の幼馴染であるチヅルに任せ、コウ達が病院を出ると、明日香の携帯電話が鳴った。

 

「どうしてずっと電話に出ないんだよ!」

「ごめんなさい、今までずっと病院にいたものだから」

 

 ユウキの怒鳴るような声に対して、明日香はそう答えた。

 

「あなたがどうして私の電話を知っているのかしら、教えてはいないはずだけど」

「ハッキングしたに決まっているだろ! それよりも、姉さんが昨日の夜から行方不明なんだ!」

 

 そのユウキの言葉を聞いて、明日香は表情をさらに厳しいものに変える。

 

「あなたのお姉さんが? いったいどういう事!?」

 

 明日香に対して、ユウキは今朝になって父親の連絡を受けて姉のアオイが家に帰っていない事を知り、明日香に電話をかけたが通じなくて焦っていたのだと説明した。

 ユウキの話を聞いた明日香は、昨日のアオイとの帰り際の話からある考えに至った。

 

「もしかして、あなたのお姉さんは『神様アプリ』をダウンロードしたかもしれないわ」

「それじゃあ、姉さんが消えたのは僕のアプリのせいだって言うのかよ!」

「落ち着いて、これからあなたの家に行くから」

 

 今のユウキは冷静ではないと判断した明日香は、ユウキを落ち着かせるためにもユウキの側に行く事にした。

 

「柊、俺も一緒に行くぜ。リョウタが巻き込まれているんだ、放っては置けないぜ」

 

 コウと明日香はユウキの家に向かい、マヤはアクロスタワーの地下にあるネルフに行くのだった。

 

 

 

<杜宮市 ユウキの部屋>

 

 コウ達がユウキの家へと向かうと、昨日とは違いユウキは息を切らせて玄関までコウ達を出迎えた。

 

「センパイどうしよう、姉さんは無事かな?」

「四宮君、あなたのお姉さんを助けたいのならば、『神様アプリ』について詳しく教えなさい」

 

 せわしなく部屋の中を動き回るユウキに、明日香は真剣な表情で尋ねた。

 ユウキは椅子に座ると、パソコンのキーボードを打ち始めた。

 

「『神様アプリ』の本体は、杜宮学園のサーバーに置いてあるんだ」

「まさかとは思ったけど、とんでもない事をするわね」

 

 自分の通う学園のサーバーに『神様アプリ』の本体を置いて学生達にダウンロードさせるとは大胆な手だと明日香は感心してつぶやいた。

 そうなると、杜宮学園で異界化が起こる可能性が高い。

 放課後になって時間が経っているとは言え、学園に生徒が残っている可能性もある。

 

「姉さんは学園に居るんだな!?」

「ええ、だからお姉さんの事は私達に任せなさい」

「僕も学園に行くよ! 僕のアプリのせいで姉さんが危険な目に遭ったとしたら…」

 

 ユウキに家で待つように説得する明日香を押し留めたのはコウだった。

 

「四宮を連れて行ってやれよ、柊。この部屋で帰りを待っているのは、落ち着かないだろうぜ」

「仕方ないわね。四宮君、危なくなったら後ろに下がるのよ」

「あんた達が言ってるのは何の事だか良く分からないけど、早く学園に行こうよ!」

 

 3人は夕暮れの公園を横切って、急いで杜宮学園へと向かうのだった。

 

 

 

<杜宮学園 旧校舎(SOS団部室)>

 

 その頃、旧校舎で一番広いSOS団のリビングルームでは、自分の席でパソコンを操作していたハルヒが叫び声を上げた。

 2日間、校内で聞き込みをしても成果が上がらなかったハルヒは、SNSで情報を集めようと考えたのだ。

 

「ちょっとキョン、何でSOS団のホームページがバグっているのよ? あたしがデザインしたSOS団のエムブレムが台無しじゃない!」

 

 ハルヒはSOS団の活動を杜宮学園の外にもPRしようと、キョンに命じてホームページを作成させていた。

 トップページにはハルヒのデザインしたSOS団のマークの画像が載せられている。

 そのトップページがグチャグチャになってしまっているのだ。

 

「おい長門、ハルヒが少し来る前までパソコンを操作していたな。お前の仕業か?」

「涼宮ハルヒがデザインしたSOS団のマーク、あれは異界化迷宮へのゲートをホームページにアクセスした一般人でも開いてしまうほど強力なものだった。だから画像データを書き換えた」

 

 キョンの質問に、ユキはそう答えた。

 ユキの話によれば、SOS団のホームページにアクセスした人間はゼロだったので、人的被害は無かったとの事だ。

 

「涼宮のヤツは、相変わらず恐ろしい事をするな……」

 

 キョンは冷や汗を流しながらそうつぶやいた。

 アスカとシンジとレイは今日は異様に静かだ、青い顔をして黙り込んでいるようにキョンには思えた。

 ミクルとイツキはいつもと変わらない様子のようだが……。

 

「異界化サーチによれば、この部室にゲートが現れる可能性が高いわね……」

 

 携帯電話をかざしながら部室に現れたのは、明日香だった。

 明日香の携帯電話には異界化迷宮の門を探すアプリが入っている。

 その明日香の後ろにコウやユウキ、空手部に居たソラもメンバーに加わっていた。

 

「明日香先輩、用事は終わったんですか?」

「ええ……と言うよりも、ここに用事があるんだけど……」

 

 笑顔満面のハルヒに言われて、明日香は困惑した表情で答えた。

 部室で異界化が起こってしまったらハルヒ達が巻き込まれてしまう。

 だからと言って、部室に居るSOS団のメンバーを追い出す手立てが明日香には思い付かなかった。

 

「そうだハルヒ、明日は七夕じゃないの!」

「何よアスカ、大声を出して」

 

 ハルヒはそう言ってアスカをにらみつけた。

 

「願い事を書いた短冊を吊るす笹を確保しないと間に合わなくなるわよ!」

 

 アスカはそう言ってハルヒの腕をグイっと引っ張って部室を出て行こうとする。

 

「こら、団長はあたしよ! あんたが勝手に決めるな!」

 

 部室を出て行く直前に、アスカは明日香に向かってウインクした。

 ハルヒに異界化の存在をバレてしまう訳にはいかないのだ。

 シンジとキョンとレイとミクルもハルヒの背中を後押しして部室を出た。

 

「この部室の空間は私が閉鎖する」

「神人の相手は僕にお任せください」

「ありがとう」

 

 ユキとイツキに対して、明日香はお礼を言った。

 

「四宮さんは長門さんとこの場に残って」

「じゃあ俺達は怪異を片付けるぞ」

「はい、コウ先輩」

 

 明日香とコウとソラは門を発生させて、異界化迷宮へと姿を消した。

 

「おい、あの3人は何処に消えちゃったんだよ!?」

「異界化迷宮。あなたのお姉さんを連れ去った怪異を倒しに行った」

 

 ユウキの質問にユキは無表情でそう答えた。

 

「くそぉぉっ、僕のせいで姉さんが危険な目に遭ったって言うのに、僕は何も出来ないのかよ!」

 

 悔しそうにユウキがそう叫ぶと、幽霊のように上半分が紅色、下半分が水色と言う不思議な瞳を持った少女、レムがぼんやりと姿を現した。

 

「君も力が、欲しいかい……?」

 

 自分が閉鎖したはずの空間に姿を現すとは、レムはただ者では無いとユキは思った。

 レムが差し出した手をユウキが手に取ると、ユウキに力が流れ込み、両手に柄の長いメイスのような武器が現れる。

 

「ソウルデヴァイス、叩き潰せ、カルバリーメイス!」

 

 ユウキはメイスを振り回してそう叫んだ。

 

「長い柄の鎚鉾状の武器に、別ユニットの霊子殻による遠隔攻撃も可能……」

 

 ユキがユウキの武装を解説している間に、レムは姿を消してしまっていた。

 

「見える、僕にも門が見えるぞ! 待ってて姉さん、僕が助けに行くから!」

 

 そう言って門に飛び込むユウキの背中を、ユキは黙って見送った。

 

 

 

<異界化迷宮 第弐電子結界>

 

 後から入って来たユウキをメンバーに加えた明日香達4人の適格者のパーティは、《第弐電子結界》とネルフに命名された、コンピュータの内部のような異世界迷宮を攻略した。

 迷宮には電磁波ビームを発する鉄柱などがトラップとして配備されていた。

 

「それ、弾幕、弾幕!」

 

 ユウキの霊子殻はガン〇ムに出て来るファン〇ルのように自在に浮遊し、遠隔攻撃でトラップを破壊するのに有用だった。

 迷宮の最奥で、ユウキの姉のアオイが戦略自衛隊のロボット、トライデントを思わせるような無機質系のエルダー怪異に囚われていた。

 

「助け……て……ユウ君」

 

 異界に連れ込まれてから時間が経っていたアオイは檻の中でかなり衰弱していた。

 硬い鉄のような身体を持つエルダー怪異だったが、ユウキのメイスによる打撃攻撃で打ち砕く事が出来た。

 

「お前、コンピュータばかり弄っているから運動音痴かと思ったけど、かなりやるもんだな」

「僕は運動が出来ないんじゃなくて、しなかっただけなんだよ」

 

 この迷宮の戦闘で大活躍をしたユウキに感心したようにコウがつぶやくと、ユウキはそう答えた。

 

「それよりも、あんたはどうして戦おうとしないんだよ?」

「すみません、僕が戦うのは神人専門です。普通の怪異は皆様にお任せします」

 

 ユウキの質問にイツキは笑顔を絶やさずにそう答えた。

 異界化迷宮の主であるエルダー怪異が倒されると、異界化迷宮は幻の様に消え去って行く。

 

「姉さん!」

「ありがとう、ユウ君。お友達もたくさん出来たみたいだし、これなら学校に行けるね……」

 

 ユウキに抱きかかえられたアオイはそう言って目を閉じた。

 

「大丈夫、命に別状は無いみたいよ。次にあなたのお姉さんが目を覚ますのは、自分の部屋のベッドの上。一般人の異界に関する記憶は消去するのがネルフの決まりになっているの」

「お姉さんから見れば、私達はユウキ君のお友達って事になるんですね!」

「面倒くさい事になったな」

 

 明日香とソラの話を聞いたユウキはウンザリとした感じでつぶやいた。

 

「姉さんのアプリにはどんな『お告げ』が来ていたんだ?」

 

 ユウキ達はアオイが杜宮学園まで来た理由が気になり、アオイの携帯電話を調べた。

 

『キミのオトウトは不登校。このままジャ、タイガクになっちゃうヨ!』

「きっとあなたのお姉さんは、お告げを聞いてあなたが退学にならないように学園に来て先生方に頼みに来たんじゃないかしら」

「それなら明日から学校に登校しなくちゃいけないね!」

 

 明日香とソラがそう言うと、ユウキは不服そうに口を尖らせた。

 きっとユウキの不登校もこれで終わるだろうとコウは思った。

 

「それにしても、さっきは惣流のヤツが気を利かせて涼宮達を部室から遠ざけてくれて助かったな」

「ええ、彼女自身のためにもいい結果になったわ」

 

 コウの言葉に明日香も同意して頷いた。

 アスカが異界での戦いを恐れている話は、シンジから明日香に伝わっていた。

 シンジはアスカか自分が異界での戦いで死んでしまうのかもしれないと考えていて、心配になったシンジは明日香に相談していたのだ。

 自分だけで異界化を鎮めるつもりが、気が付いたらたくさんの人間を巻き込んでしまっている事に明日香は危機感を覚えていた。

 

 

 

<杜宮市 アクロスタワー>

 

 『神様アプリ』は再び異界化を起こすトリガーとならないように、リツコとマヤの手によって杜宮学園のサーバーとダウンロードした携帯電話から完全に削除された。

 リツコの話によると、強制アップデートプログラムに見せかけて強制アンインストールパッチを配布したらしい。

 杜宮学園の生徒達からは悲しみの声が上がったが、流行に敏感な生徒達、直ぐに次の新しい話題に夢中になっているようだ。

 次の日、SOS団のメンバーは短冊に願い事を書いて、笹に吊るす事になった。

 昨日、明日香達が異界化迷宮を攻略している間、ハルヒ達は杜宮市北東の県境にある神山の笹山さんを訪ねて立派な笹を譲ってもらったのだった。

 

「願い事は1つだけよ、願い事を100個に増やせだなんて、願い事は無効だからね!」

 

 ハルヒはそう言って号令を下した。

 アスカは迷わず赤い短冊を選んだ。

 書いた願い事は『シンジと一緒に卒業!』だった。

 よほど『神様アプリ』のお告げの件が応えているらしい。

 シンジは紫色の短冊、レイは水色の短冊、カヲルは銀色の短冊。

 キョンは茶色の短冊、ユキは白色の短冊、ミクルは桃色の短冊。

 明日香は緑色の短冊に願い事を書こうとして、止めてしまった。

 

「涼宮、お前は何て願い事を書いたんだ?」

「ふふん、あたしはあんたみたいな金持ちになりたいなんて平凡なものじゃないわよ」

 

 キョンに尋ねられたハルヒは自分の着けている黄色いリボンと同じ色の短冊に書いた願い事を見せた。

 

「ジョン・スミスに会いたいだと?」

 

 そう言ってキョンは不思議そうな顔をして首を傾げた。

 アスカ達も、もちろんジョン・スミスと言う名前に心当たりは無い。

 

「あたしはね、どうしてもジョン・スミスに会いたいのよ……」

 

 そうつぶやくハルヒの顔は滅多に見せない憂鬱な表情をしていた。

 短冊を吊るした笹をどこに置くかと言う話になった時、ハルヒは天に近い方が神様が願いを聞いてくれると主張し、アクロスタワーのてっぺんに笹の葉を括り付けると言い始めた。

 セカンドインパクト前には東京都タワーによじ登ってお騒がせした男がいたらしいが、女子高生のハルヒがそんな事をすればスカートの中を覗かれてしまう程度のシャレでは済まなくなる。

 アクロスタワーは全長400mを超える電波塔だ、スカイラウンジからでも杜宮市全体を一望できる。

 ハルヒは少し不満そうだったが、ミサトがこっそりネルフのコネを使ってスカイラウンジにSOS団の笹の葉を置く事で妥協した。

 

「あのう、キョン君にどうしてもお願いがあるんです」

 

 アクロスタワーからの帰り道、キョンは真剣な表情のミクルに声を掛けられた。

 

「えっ、何で俺なんですか?」

 

 自分の周りには宇宙人や超能力者、上級生の知り合いも居る。

 平凡な高校1年生の男子生徒である自分が未来人の手助けなど出来るはずが無いとキョンは疑問に思った。

 

「キョン君じゃないとダメなんです、お願いします!」

 

 目にたっぷりと涙を浮かべたミクルに拝み倒されたキョンは、ミクルの願いを聞く事にした。

 

「それで朝比奈さん、俺はどうしたら良いんですか?」

「そこのベンチに腰掛けて座って、目を閉じて下さい」

 

 そんな事で良いのか、とキョンは首を傾げながらミクルに言われた通りにベンチに座って目を閉じた。

 キョンの耳元でミクルが聞き取れないほどの早口言葉を囁いた。

 

 

 

<杜宮市 東中学校>

 

 キョンが目を開けると、学校の校庭のベンチに座っている事に気が付いた。

 

「朝比奈さん?」

 

 夕方だったはずなのに辺りはすっかり夜となり、周りを見回してもミクルの気配が無い。

 とりあえず校門から学校の外に出ようとしたキョンは、校門に『杜宮市立東中学校』と看板が掛かっている事に気が付いた。

 確かここはハルヒが通っていた中学校のはずだ。

 

「あっ、不審者発見!」

 

 背後から甲高い少女の声が聞こえたので、驚いて振り返ると、紛れも無い、黄色いリボンはそのままの中学生のハルヒが立っていた。

 

「待て、俺は怪しい物じゃない!」

「杜宮学園の制服を着た高校生が、夜の中学校に何の目的で侵入したの?」

 

 ハルヒに正論を突かれてしまったキョンは何も言い返す事は出来なかった。

 

「あたしの頼みを聞いてくれれば、不法侵入の件は黙って置いてあげるわ」

「分かった、協力しよう」

 

 ここでキョンは走って逃げ出す事も出来たが、ハルヒの企みに協力しなければミクルがとても困る事になると感じ取っていた。

 

「じゃあこのライン引きで、あたしの指示する通りに図形を描いて」

「ああ、分かったよ」

 

 キョンが質問もせずにあっさりと引き受けたので、ハルヒは不思議そうな顔をしてキョンを見つめている。

 中学生のハルヒが居る時点で、キョンはミクルによって過去の世界に飛ばされたのだと完全に理解した。

 

「校庭落書き事件の実行犯が、まさか俺だとはな……」

 

 キョンはブツブツと文句を言いながらも、従順にハルヒの指示に従った。

 1時間ほど掛けて、ハルヒの望む図形は完成した。

 

「ほらよ、これでどうだ?」

「あ、ありがとう……」

 

 汗だくになったキョンがそう言うと、ハルヒは顔を赤らめながらキョンにタオルを差し出して素直にお礼を言った。

 

「あのさ、あんたの名前は?」

「ジョン・スミス」

 

 ハルヒに名前を尋ねられたキョンは、反射的にそう答えてしまってから慌てて口を押えた。

 

「あはは、面白い名前ね」

 

 ハルヒはキョンをバカにするのではなく、楽しそうな笑顔で笑った。

 こいつもこんな笑い方が出来るんだなと、キョンは感心してしまった。

 

「呼んだのは、君かい?」

 

 幽霊のようにスッと現れた宙に浮く長い髪の少女の姿を見て、キョンは面食らってしまった。

 ハルヒが満面の笑みを浮かべて、少女に近づき、差し出された少女の手を握る。

 キョンがそんなハルヒを見てぼーっとしていると、優しく肩を叩かれた。

 

「朝比奈さん……?」

「正解、私は大人になった朝比奈ミクルです」

 

 振り返って尋ねるキョンに対して、スーツ姿の大人の女性となったミクルはウインクをして答えた。

 

「さあ、涼宮さんに気付かれる前に帰りましょう。目を閉じて……」

 

 ミクルの言う通りにキョンは目を閉じて、再び目を開けると、時刻は夕方、目の前には杜宮学園の制服を着たミクルが立っていた。

 

「やったぁ、大成功です!」

「ちょっと朝比奈さん、落ち着いて下さい。こんな所をハルヒにでも見られたら……」

 

 感激して抱き付いて来たミクルに、キョンは慌ててそう言った。

 

「あんた達、何をイチャついているの……?」

 

 何とタイミングの悪い事か、ちょうどハルヒに目撃されてしまった。

 自分も『神様アプリ』をインストールしておけば防げたかもしれないとキョンが後悔してももう遅かった。

 

「誤解だハルヒ、朝比奈さんとは何でもないんだ」

「あんた、初めてあたしの事を名前で呼んだわね?」

 

 ハルヒはそう言うと、鼻をフンと鳴らして立ち去って行った。

 なぜだか助かったとキョンは胸を撫で下ろしてため息をつくのだった。




 果たして不幸な予言は当たってしまうのか。
 アスカの願いは叶うのか。
 物語の終盤で真実が明らかになります。
 今回は第1話の伏線を回収しました。

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この作品で足りない部分は外伝で補完して行きます。足りないと思う部分を教えて下さい。

  • 新世紀エヴァンゲリオン(LAS)
  • 涼宮ハルヒの憂鬱(日常)
  • 東京ザナドゥ(バトル)
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