紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ! 作:RightWorld
≪提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮を執ります≫
紅葉は懲りずに今夜もログインしてきた。
あたしは秘書艦なので、気まずかろうが真っ先に提督と顔を合わせなきゃなんない。
「あたしは軽巡、北上。まぁよろしく」
「……」
紅葉は口を横一文字の波線にして固まっていたが、1分ほどして黙って操作を始める。
機嫌悪そうだな。
そう思って見ていると……
あれ?
あたし本国艦隊から外された。どこへ配置? って、待機部屋だった。
暫くして、曙が部屋にやってきた。
「あれえ? 曙も予備役に降格かい?」
「違うわ。あたしは今、建造ドックから来たの」
「うえ、新造艦? まさかこないだの建造の? また曙だったの?」
「また? もしかしてここには他にもあたしがいるの?」
「あんたがこの鎮守府7番目の建造艦にして、6人目の曙だよ」
「はあ? ってことは作られたのはほとんどあたし?」
「そゆこと」
「あと1人は?」
あたしは自分を指さした。
「あらそう。……じゃあもうあたし、改装素材行き決定じゃん」
「今んとこみんな曙に吸収されてるよ。まー同じ艦と合成だからいいんじゃない?」
「あっそ。それじゃ今日中に合成ね」
どこから引き出したか椅子が出てきて、曙はドッカと座り、腕を組んで目を閉じた。
無言でシーンとしてるのも気まずいので、ふと思ったことを聞いてみた。
「今ここには曙が2人いることになるけど、合成するとあんたの個体……っていうよりは意識はどうなるの?」
「どうって……なくなるんじゃない?」
「あたしとこうやって会話した記憶もなくなるの?」
「なくなるんじゃない? そもそもこの記憶を書き残しとくところがないわ」
「書き残すって、コンピューターのキャッシュメモリとか、データベース?」
「えぇ? 知らないわ、そんな仕組みのこと」
「今あたし達がこうして話してるところってどこなんだろう。今もこうして積み上がっていく記憶はどこに格納されてるんだろう」
曙は押し黙った。
「曙?」
あたしが顔を上げると、眉間にシワを寄せた曙が口をへの字にしていた。
「うざっ」
曙に言われてしまった!
あたしはゆらーりと立ち上がると、
「それ、あたしのセリフじゃな~い? 片側20射線の魚雷ぶち込んであげましょうかねえ……」
「ひいい! ごめんなさい!」
両手で頭をかばって後ずさる曙。まあ、まだ改になってないから20射線は撃てないんだけどさあ。
と、そこに妖精さんがやってきて、近代化改修の指示が下ったと伝えてきた。
「あ、はい。じゃ工廠行きます」
立ち上がった曙はあたしに振り向いた。
「あたしはもう改修材料になって消えちゃうけど、僅かな間楽しめたわ。それじゃあね北上さん」
部屋を出る直前、もう一度振り返ると、ツンデレの影を見せない、いい笑顔でこう言った。
「単なるデータであるはずのあたし達が、いっときでも個性を持ってこんなことしてる
あたしの返事や感想を聞くこともなく、待つこともなく、曙は部屋を出ていった。
『他にはない? ここだけ? この鎮守府は特別なの? あたしみたいにネットと関係なさそうなのもいるし』
曙がいなくなると静寂が続いた。
◇◇◇
30分くらいしただろうか。
≪作戦が完了したようですね≫
吹雪の録音された声が遠くから聞こえてきた。今秘書艦は吹雪か。んでもって出撃してたらしい。どうやらあたし抜きで行ってたようだ。たぶん吹雪と、雷撃が+5された曙だけで。どうせ出てくる相手はイ級1、2隻とかだろうし、さっさとやっつけてレベル上げて帰ったきたろう。
そう思って待機部屋の扉を開けて外を見る。すると、最初の出撃の日を思い起こすような光景が向こうの方からやってきた。たくさんの妖精さんに担がれて連れてこられるボロボロの二人。艤装からモクモクと黒煙を噴き上げ、服も体もひどい有様の二人が。
え、またやられたの!? 二人共大破!?
「吹雪、曙!?」
咄嗟に部屋を飛び出した。
吹雪の下でムカデがいるみたいに大量の妖精さんの足がうごめいて、寝たままの姿勢で廊下を移動している様子は、一瞬気味悪かったが、死にそうな蒼白の顔を見て、それどころじゃなくなった。
「吹雪、大丈夫!? 曙、しっかり! 妖精さん、二人は、二人は!?」
『やろてめーどけ』
『じゃまよ、みちあけれ』
『にゅーきょさせるです。どっくのおゆにしずめれば、なおるのです』
『このままなげこめー』
大浴場のような入居施設に突入し、艤装を緊急パージ、脱衣場はそのまま素通りし、浴室へのドアが全開で待っているところを多足歩行の虫状態で通過。
『そーれ』の合図で二人は空中に投げ出され、どっぱーんと大水柱を上げて、バスクリン色のお湯に叩き込まれた。
「ちょっと、大丈夫なのあれ!?」
『こまけーこたあ、いいんだ』
『いちいち、うるせーやっちゃな』
「沈んだっきり浮いてこないよ!?」
『あなたもそうして、なおしたのよ』
『へーきへーき』
うわあ、妖精さんこええー
『ずたぼろのふく、はぎとっておくれ』
『あたらしいの、よういするから』
『はぎとったふるいふくは、こちらへ。あとでゆうしょくにするでち』
えー? あたしまだ男の人格残ってんだけど。そんなことしていいの?
ちょっとまった、直前に変なこと言ってなかったでち!?
『いーから、はやくやれ』
『ふぶきちゃんは、おしりにほくろがあるわ』
何、それは確認しないと。
『やるきになってますぜ』
『やっぱやめさせたほうが、よくないですか?』
「うざいわ、あんたら! というか心の中まで読むな! あたしはもう女! 自分のだって見てんだから!」
『いーから、はやくふくはぎとれ。ふくとからだがくっつくぞ』
後ろから数人の妖精さんにドロップ・キックされ、あたしはドッポーンと頭から大浴槽に叩き込まれた。
「ぶはっ! あたしまだ服脱いでないんだけど!」
『ひつよーねーよ』
『はやく、ぼろふくとってあげて。なおるときに、ひふのいちぶにされちゃいます』
「え!? どんな仕組みなのソレ!?」
『ひみつです』
『あとおふたりは、かおいがい、おゆからださないでね。くーきにさらすと、とけるかも』
「大丈夫なのそれ!? やっばいもの入ってるんじゃない? あたしここ入ってて大丈夫!?」
『りょうやくはくちににがしです』
『いーから、はやくはぎとれ』
『しょうしょうやばいのいれないと、はやくなおるわけねーべ』
『きたかみさんにはなんともないから、あんしんしてね』
「ほんとなんなのさぁ」
お湯の中で手だけ動かしてなんとか二人の服を脱がせた。顔がお湯の中に浸かったりしていたが、呼吸とか問題ないって。どうなってんだ妖精さん達の扱うものは。
結局バスクリン色のお湯は透明度ゼロで、脱がしててもなんも見えなかった。吹雪のほくろとやらも未確認だ。でもいろいろ触っちゃったけど。わざとじゃないよ、やむを得ずだよ、ホント。どっちにしろまだお子ちゃまの吹雪と曙だからなあ。うーん、吹雪の方が成長してるみたいだなあ。おっと、これ以上は内緒だ。
最後に曙の薄いピンクのパンツを取って、妖精さん指定の脱衣籠に入れる。温泉とかの脱衣所によくある、藤で編んであるアレだ。
『ありがとう、きたかみさん』
『これでおとめのはだは、まもられました』
『ゆうはんもこれでふがふが!』
最後に喋ってた妖精さんを別の妖精さんが後ろから羽交い締めしてた。
「ちょっと待ちなあんたたち! それ食べる気!?」
脱衣籠の一番上に置かれた曙の薄いピンクの布が、そのまま行かせていいのか凄い迷わせる。
『し、しげんです。たいせつな。よーせーさんは、なにもむだにしないです』
「話する時は人の目を見て言いな」
『さ、さいりようされて、かんむすのやくにたつものに、なるです』(泳ぐ目泳ぐ目)
『わー』
『わー』
「逃げた!!」
ちりじりになった妖精さんはあっという間にどこかに消えた。
「どこいった、グレムリンども!」
さっきの賑わいはどこへやら。あの籠も、中身も。どうなったかは一切不明である。
ふと、あたしの視界が真っ暗になった。
カリカリいうメモリ内容をハードディスクに保存する音。紅葉、今日はここまでか。基本、艦これはノートパソコンでやるんだな。
スリープモードになると、あたしもスリープになった。
机の上のノートパソコンはヒューンとファンの回転が止まると液晶画面は暗くなり、電源ランプは点滅となった。俯いている紅葉は顔を上げることなくノートパソコンを閉じた。
俯く顔は垂れ下がる髪で見えない。
しかし、そこから雫が、ぽとりぽとりと落ちる。
第一部完