紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ! 作:RightWorld
ひと月前
わたしが艦これを始めたのは1ヶ月前。やる前には一応お勉強したよ。
艦これは艦娘という、
個々の艦娘は、このゲーム世界で取替えのきかない唯一の存在であり、失ったらもう二度と会うことはできない。艦これには轟沈という設定があって、戦闘でやられたフネが沈没するのと同様、暗い海の底に沈んでいってしまう。
勿論同じ名をつけた艦娘はまた現れたりはするけど、それはもう別の人格なんだ。それまで共に過ごした時間を共有した娘ではないんだ。
他にも史実の艦船の事も少し勉強してから、わたしはゲームを始めた。
わたしの鎮守府を置く泊地は、選択のしようもなく1つだけ出てきたのを選んで、わたしは吹雪ちゃんを最初の艦娘として迎えた。
そしてその数十分後、吹雪ちゃんをあわや失いかけた。
最初の出撃で一方的にやられちゃった吹雪ちゃん。服はボロボロになって涙を浮かべていた。わたしは撤退を決めた。
だけど、押し間違えた気はしないのだけど、吹雪ちゃんは次の海域へ進撃してしまった。
とにかく、押し間違えであろうとなかろうと、わたしのところに来たがために、この吹雪ちゃんは満身創痍の状態で次の戦場へ送られてしまったんだ。
ダメージを受けている吹雪ちゃんは、次の海域に現れた敵にタコ殴りにされた。沈まなかったのは本当に奇跡だ。
初出撃で1隻しかいない艦娘が轟沈。艦娘ゼロの鎮守府って存在できるんだろうか?
わたしはあわやそれを試すところだった。1面をクリアできないダメゲーマーなわたしは、似たようなことを何度もやっており、それをやっても何ら不思議はない。何度も同じようなことを起こしてきたのだから。
でも艦これの艦娘一人の重さは他のゲームとは違う。
この娘を失ったらと思うと……
これからもこんな事が起こるのかと思うと……
わたしは初日で艦これをやめると決めた。
その日の夜。夢に妖精さんが現れた。
『まっていたよ。ていとくがきてくれることを』
え、なに!? 艦これの妖精さん!?
『さあ、にっぽんをまもってね』
深海棲艦から?
『そう』
む、無理だと思うな~
『どうして?』
わたしさっき、さっそく吹雪ちゃんを沈めちゃうところだったんだよ。わたしはこれまでも、ゲームで1面も突破できたことがないの。たぶん艦これでも、最初の海域のボスをやっつけるなんて、できないと思うよ。
『そんなことないよ』
『さいしょのてきは、よわくつくってあるんだから』
それ今まで、どのゲームでもさんざん同じ事聞いてきたけど、実感したことないなあ。わたしが勝てるくらい、徹底的に弱く作ってくれないと。
『だいしょうぶです』
『なかまをふやして、5かいも、しゅつげきすれば、だいたいぼすもたおして、さいしょのかいいきを、せいあつできるよ』
ほんとう?
『いそがしいとおもうけど、はやめに、おねがいねー』
次の日、わたしは吹雪ちゃんを入渠させた後、建造というのをやった。
夢に出てきた妖精さんは、仲間を増やして出撃しろと言っていた。たぶん仲間を増やすって、建造の事だろう。
しかし……
「こっち見んな! このクソ提督!」
「ひいいいいい!!」
完成した艦娘『曙』ちゃんは、いきなりわたしをクソ提督と呼んだ。
そ、その通りですう!
2週間後、夢の中にまた妖精さんが出てきた。
『どこまでいきました? なんせいしょとうおき?』
どこそれ?
『あれ? さいしょのかいいき、せいあつしたのではなくて?』
できてないよ。
『あれあれ? かんこれ、やらなかったのですか?』
毎日やってるよ。
『なかま、ふやしたのかよ』
増やしたよ。建造したよ。でもあの子、怖いんだもん。
『だれ?』
曙ちゃん。
『あちゃー』
『この2しゅうかんで、なんかいか、けんぞーできたろ?』
5回できたわ。
『そのなかまで、かんたいつくったらどうなの?』
だって、全部曙ちゃんなんだもん。
『……』
『……』
『これは、まれにみる、とくいたいしつです』
『まれにもみられないでしょう』
『あちき、はじめてみました、こんなていとく』
『はくぶつかんに、かざりましょう』
酷い言われようだわ。
でもその通り。やっぱり無理だわ。わたしには1面クリアなんてできないのよ。
『どうします? あれからひにちたってるので、もうてきはふつうじゃないですよ』
『1しゅうかんのうちに、やっつけられれば、かたづいたのに』
『まさか、ていとくが、こんなてんねんきねんぶつだったとは』
『あ、あわてるな。ま、まだてはある』
『あんさん、どうようで、てが、ふるえてまっせ』
『ぶるぶるぶる』
どういう事? 最初の海域のボスが強くなっちゃうの?
『そうなのだふがふが!』
『だれか、こいつのくちをふさげ』
『もうやってます』
『でも、もうておくれです』
強くなっちゃったの? それじゃますますわたしじゃ無理よ。他の提督に変わってもらってよ。
『あきらめないで、ていとく』
『これは、もみじていとくじゃないと、だめなんです』
どうして?
『もみじていとくは、とくべつなところに、いるからです』
『それに、もみじていとくのかぞくも、たすかるのです』
え、どういう事?
『とにかく、もうすこししたら、とってもつよいかんむすが、くるはずです』
強い艦娘? 戦艦とか?
『たぶん、そうなのだ』
『せんかんは、むりじゃねーか?』
『じゅうじゅんいじょうです。さいこーいいんかいによって、けっていしました。なのでふかのうではありません』
重巡以上かあ。最低でも重巡ってことだ。
『だから、あきらめないで、もうすこし、がんばってね』
わたしは妖精さんに言われた通り、艦これを続けた。
毎夜、吹雪ちゃんに出撃してもらって、毎夜、大破してドックに入れて、ごめんねごめんねと謝って、枕を濡らしながら眠りについて。
そしてさらに1週間後、溜まってた資材をつぎ込んで建造したら、北上さんが現れたんだ。