紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ! 作:RightWorld
北上さんが来てから1週間が経った。
その日の夜、また夢の中に妖精さんが出てきた。
もうわたし、やめる。
『なんで!?』
『かいこういちばんで、それ!?』
『はやまるな、まだてはある』
『あんさん、どうようで、からだじゅうが、けいれんしてまっせ』
『がくがくがく』
『どうしてやめようと?』
だって全然勝てないんだもん。
『くにをまもらなくていいの?』
深海棲艦から日本を?
『そう』
ゲームの世界じゃない。わたしでなくても、他の鎮守府の提督が活躍してるから大丈夫よ。
『もみじていとくのところは、とくべつなばしょにあるの』
『もみじていとくじゃないと、たたかえないの』
『もみじていとくにしか、たすけられないの』
それ、どうしてなの?
『あのしんかいせいかんも、とくべつなばしょにいるからさ』
なあに、その特別な場所って。
『ほかのちんじゅふじゃ、たたかえないところなのだ』
よく分かんないな。だいいち敵が強くなってるんでしょ? 実際、無茶苦茶強くて、うちの艦娘、まだ1回も勝ったことないよ?
『おかしいでしょ?』
『おかしいでしょ? あんなつよいの』
おかしいの?
『さいしょのすてーじで、かてないげーむって、おかしいだろ』
『さきすすめねーげーむ、へんておもわねーのか』
思わない。今までも1面突破できたゲーム1つもないんだがら。
『すみません。わたし、まえからおもってたんですけど、すごいきちょうなひとと、いっしょにいると、おもいます』
『おれも、さいしょから、そうおもってた』
『てーとくのようなひとは、ぜんだいみもんです』
『ひょうほん、とったほうが、よくねーか?』
『ていねいに、かわをはぎとって、はくぶつかんに、かざりましょう』
ちょっと、言わせておけばどこまでも人をおちょくって! 最後の方ちょっと怖いこと言ってたけど。
……でも、ほとんど事実だものね。
どうせわたしは天然記念物よ。だからここでも勝てないのよ。
……もう他の人に頼んでよ。
『そうはいかないよ』
『これで、もみじてーとくのかぞくも、たすけられるんだから』
『それにじかんも、あまりのこってないよ』
ねえ、それって何なの? わたしの家族に何か起こるの?
『$@%%’#&!$+・*)』
『%&*&~¥~#・@<$$)』
『あれ、うまくつたえらんねーや』
『にんげんはかとうなので、りかいできないのじゃ』
むがっ! 馬鹿にしてるわね!? わたしが勉強できないと思って見下してるんでしょ!
『もみじてーとくにかぎらず、どのてーとくにも、つうじないとおもうよ~』
え~? もしかして妖精さんの方が人類より高等だって言いたいの?
『そりゃあ、もちろん』
『みてのとおりじゃ』
冗談みたいな二頭身ゆるキャラにしか見えないけど。
『それはつまり、からだのはんぶんいじょうが、あたまということなのじゃ。どうじゃ、あたまよさそうじゃろう?』
それって、ちょっとぶつかっただけで首が折れて死んじゃうと思うな。
『おっほん。まーとにかく、もみじてーとくには、そのときがこないと、わからないよー』
どうせわたしは馬鹿ですよ。その上、天然記念物ダメゲーマーだし。
もう1ヶ月以上艦これやったけど1回も勝てないじゃん。艦娘も増えないし。無理だよ。
『つよいかんむす、きたでしょ?』
『じゅうじゅんいじょうのが、きたでしょ?』
重巡じゃなくて、軽巡だったよ。
『あれ?』
『おかしいな。けいやくまちがえた?』
『でも、きたのなら、かみさまはやくそくまもってくれたってことです』
『めでたい、めでたい』
『ばんざーい』
『それで、なにがきたって?』
軽巡洋艦『北上』さんよ。
『きたかみなら、いいいんじゃない? つよいでしょ?』
『ちゃんと、もみじていとくのかんたいは、つよくなってるよ』
でもあの娘、こないだ出撃したけど、あっという間に大破しちゃったよ。まだ1回しか使ってないけど。
『まだ1かいなら、きめつけちゃ、かわいそーよ』
その前に怪しいわ。他の艦娘と違ってAIスピーカーみたいだし。
『てきがとくべつなんだから、こっちもとくべつなかんむすが、ひつようです』
『もみじていとくのために、あらわれたんだよ』
わたしのため?
『このくにをまもるため』
『てーとくとかぞくををまもるため』
『かみさまが、おくってくれたんだ』
『かみさま、やくそくどおり』
そうなんだ。でも敵はそれ以上に無茶苦茶強いんだけど。
『わいらも、うらでいろいろ、こーさくしててつだってるから、ていとくもがんばって』
『うらでこーさくするから、うらこうさく』
『おもてでこーさくしたら、どうどうこーさく』
ふーん。妖精さん達も手伝ってくれてるんだ。
『だって、にほんをまもらないとだもん』
『ていとくのかぞくも、まもらねーとだし』
そしてたくさんいる妖精さんの中から一人が目の前に出てきて両手を胸の前に合わせた。
黒い縦長の楕円形の瞳に涙が溜まっていった。
『てーとく、たすけて』
……っは!!
机に突っ伏していた紅葉は、がばっとはね起きた。
「うわっ、よだれで池が!」
しゅぱしゅぱとティッシュをすくい取って、机の上にできた池を拭く。
「こんな池になるほどよだれこぼしたの久しぶりだわ」
久しぶりって、やったことあるのか。驚きだ。
しゅぱっともう1枚とって、口の周りを拭く。
時計を見た。
21時55分。
紅葉は腕を組んで首を少し傾け、眉をしかめて少し考える。
ノートパソコンの電源を入れると、デスクトップに作ってある艦これのショートカットをダブルクリックした。