紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ! 作:RightWorld
「ふひゃひゃひゃ、そう、感じるの。お仕置きよ、お仕置き!」
「提督やめて、くすぐったいんだって! あうう!」
あたしは紅葉にマウスクリックの刑に処せられている。
いたずらな目をしてカチカチカチカチとあたしの体中にマウスクリックの嵐を浴びせている。
それはあたしには棒で突っつかれたような感覚になって届く。
呼ぶのに1回クリックされるならともかく、連続クリックを全身にやられているのである。
これはひどい! 提督が画面切り替えない限り、秘書官の位置にいるあたしは逃げられないのだ。拘束されて動けない状態で、棒で突きまくられているのだ。母港画面ひどい!
「いやああ、提督、ひどい! 艦娘虐待だよ!」
「どう、思い知った?」
ようやくマウス攻撃が終わった。ヘーハーと息を切らす。画面は北上の立ち絵のままだけど、声だけは電話口にいるように生々しい息遣いが届く。
「不思議。本当にそこにいるみたい……」
紅葉はツンと突っついた。
「ひゃあ」
「……」
「はあはあ」
「つん」
「いやあ!」
「……ね、今どこ感じたの?」
「どこって、提督が知ってんでしょ!」
「もしかして、立ち絵のまんまの位置で感じるの?」
つんつんとまた同じところを突っつかれる。
「うああ、胸ばっかり!」
「ふえええ、艦これにエロゲー要素入っちゃってる?」
紅葉の頬がまた紅葉してきた。
「なに息荒げてるの!? 提督のエッチ!」
「ぐへへへ、そ、それじゃ、ここも」
「あんん!」
お股突っついたー! この変態ー!!
「北上さんの声、えっろーい(ハート)」
「変態提督だ、助けてえ! 艦娘から通報する手段ないの!? お巡りさん、ここです! 変質者はここです!」
今まで大破絵見てやらしい目してごめんなさい! もうしません、だから助けて! 犯されるってこんななのかな! あああーっ!
紅葉は汗ばんだ頬を真っ赤にして取り付かれたようにつんつんしていたが、唐突に手を止め、フーッと息をした。
「いけないいけない、北上さんは本当にいるかもしれないのに、一線を超えてしまいそうだったわ」
「え?」
「妖精さんがいるなら、この不思議な北上さんもいてもおかしくないもの。わたしはそう思っうの」
紅葉はマウスから手を離した。
「ネット切っても動く北上さん。それでもスマホとちゃんと連動する北上さん。そして低スペックなパソコンでも高度な受け答えをするAIみたいな北上さん。それに夢に出てくる妖精さんもあなたのことを言ってたわ」
「あたしのことを?」
紅葉の夢に出てくる妖精さんがあたしの事を?
それは起きてる時の艦これでの体験が、夢で呼び起こされてるんじゃないのかな。ただその場合、何度も出てきているらしい妖精さんの話が、いつも一貫しているということはあり得るんだろうか?
いやでも、あたしという転生者なんて説明不可能な存在が実在しているんだ。紅葉の夢の話だってあっておかしくないのかもしれない。
「本来来るはずの艦娘と違いそうなことも言ってたけど……」
「なんですとーっ!?」
「あ、でも北上さんでもいいみたいなことも言ってた」
「むー。なんか釈然としないけど、提督のところに現れるかもしれない事は把握してたんだね。
そうか。あたしも自分がなぜここにいるのかは説明つかないんだよね。艦これゲームの中にいるけど、あたしがゲーム会社が作ったデータとか会話機能だとは、自分ではとても思えないし」
「それじゃあ、北上さんも自分の事、あまり分かってないの?」
「そうなんだよね~」
すると紅葉はなぜか嬉しそうに笑った。そしてなにかカチカチと操作する。
あれ? 後ろにいた吹雪と曙が消えた。
あ、もしかして。
「北上さん、聞こえる?」
「うん、聞こえるよ。もしかして、ネット切った?」
紅葉は、にまっと笑った。
「切った。これで間違いなく北上さんは誰からの操作もされてない」
「あたしってどこにいるんだろう」
「妖精さんと同じようなものかもよ。妖精さんはわたしの夢を通さないと話せない。北上さんは艦これを介さないと話せない」
「アズレンとか戦艦少女くらいなら出てこれるかな」
「他のゲームの北上さんは好みじゃないわ」
「あたしも」
ふふふっと2人して笑った。
「それでね、北上さん。夢に出てくる妖精さんは、北上さんが現れたのは国を守るためだけじゃなくて、わたしのためでもあるって言ってた。心当たりはある?」
「ええ?」
転生の過程ではまったくそんなこと触れなかったぞ。いやそもそも艦娘になるって話し、してないし。紅葉の存在だってどこにも出てこなかった。少なくともあたしの把握している範囲ではまったく心当たりなんかない。転生させたあのクソガキみたいな神様が他に何か意図してるっていうなら別だけど。
「提督には悪いけど、あたしには特に……」
「そう。もう一つぶっちゃけると、妖精さんは国を守れば、わたしの家族も助かるって言ってたの」
「普通、国を守れは、そこに暮らす国民も守られるものじゃないの?」
「そういうんじゃなくて、ピンポイントにわたしの家族みたいな感じだったけど」
「提督の家族? 誰か危ない目に合うの?」
「誰なのか、何があるのかはわからないの。妖精さんは説明しようとしてたけど、何言ってるのか全然分からなかった。それが言葉なのかもわからなかった」
「なにそれ? でもなあ、妖精さんの事とか、あたしの事とか、不可思議な事象考えると、むげにはできないね」
「わたしが頑張って、勝てないにもかかわらず艦これを続けてるのはこれが訳よ」
「ぶっ飛んでるねえ。でもこんなの誰にも相談できないよね」
「うん。だから、艦これに繋げれば確実に話ができる北上さんは、それだけでもわたしのためになってるわ。妖精さんはこっちから呼べないから」
「ふーん。提督の役に立ててるみたいでよかったよ」
「ありがと、北上さん」
そうか。単に転生するだけじゃなくて、人の為にっていう意味のある転生なのか。自分の願望が叶えられてるかってのは疑問だけど、悪い気はしないな。
「そうすると、海域を攻略することで、国を守り、提督の家族も守れるんだね。じゃあがんばりますか」
紅葉はぱあっと明るい笑顔になった。
「ありがとう北上さん! あ、もうすぐ11時。今日はここまで!」
「あれま残念」
「あと5分だから、最後に吹雪ちゃんの時報聞いたら寝よう」
「はいはい」
紅葉は立ち上がると、ノートパソコンを置いてる机から離れていった。
そして向こうへ下がったところで……
服を脱ぎ始めた!
「て、提督!?」
「パジャマに着替えるね」
「か、カメラ、まだ見えてるよ!」
「ネット繋げてないし、それに北上さんを使って誰かが覗いてるっていう疑いはもうないと思ってるから」
「し、信用してくれてるのは嬉しいけど、恥ずかしいよ!」
「女どうし平気でしょ」
いやいや、中身が元男なんですけど!
そんな男に見られてるとも知らず、てきぱきと着替える紅葉さん。
この娘のお尻、パンツ食い込みやすいな。
着替え終わると机の傍に戻ってきた。
「提督、お願いだから、裸にはならないでね。こっちの身にもなってよ」
「ん。わかった。まあ女の子でも気にする人はいるもんね」
男なんだけど。
「それじゃあネット繋げるね」
「はーい」
Wifiを復活させると、通信障害ってことで、再ログインとなった。
母港画面で提督と再対面である。
「1回切れちゃったね」
「そっか、こうなるのね。それじゃあ旗艦交代するね」
編成画面で1番艦を吹雪に入れ替えた。
「私がやっつけちゃうんだから!」
「うふふ、元気いい吹雪ちゃん最高」
ぽっぽっぽっぽーん
しーん。
「あれ? あれれれ?」
紅葉が唖然としている、
「時報聞きたかったら、改にしてね。って私のセリフ外の声は届かないんでしたっけ」
吹雪はあたしに振り返って問うた。
「吹雪も提督と話したい?」
「はい!」
「曙も?」
「し、してあげてもいいわ」
「ここが不思議な世界なら、方法あるかもしれないよね。みんなで探そう」
仮想空間の艦娘3人は微笑みあった。が、
「きゃぅ!」
急に吹雪が赤い顔して悲鳴を上げた。
「ててて、提督、だめですぅ!」
自分で肩を抱いてしゃがみ込む吹雪に、まさかと外を見る。
案の定、CCDカメラに映る紅葉はまた顔を染めて卑猥な目をして、カチカチと秘書艦をクリックしていた。
「50回くらいクリックしたらセリフ変わったりしないかしら」
「50回も!? 私どうかなっちゃいます! あ、提督、大事なところばっかり!」
「こらあエロ提督! わあどうすりゃいいのさ!」
「あわわ、妖精さーん!」
曙が妖精さんに救援を求めた。すると、
「おいたはいけませんね」
「かんこれはそういうげーむじゃないっす」
水兵帽を後頭部付近に被り、耳の辺りに水色のリボンを結んだ妖精さんがやってきた。
あ、この妖精さん見たことある!
「も、もしかして、エラー娘!?」
「えい!」
その妖精さんは前方へ飛び込むように ジャンプすると、ぺちっと情けない音をして地面に倒れた。するとぱっと電気が消えたかのごとく真っ暗になり、そのままあたしの意識も途切れた。
「あれ?」
紅葉の見ていた画面は、青いバックに変わり、白い数字やアルファベットがずらずらと羅列された意味不明の画面になっていた。
(いわゆるブルースクリーン)