紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ! 作:RightWorld
あたしはお風呂で目を覚ました。お風呂じゃなくてドックか。
……デジャヴである。
先程の海戦でボロボロにされ、即撤退、即入渠&意識喪失、修理完了&目覚めという流れだろう。このままではこれが毎夜のルーチンになってしまう。なんとか打開しないとだ。
ここで目覚めたって事は、紅葉が寝る前にスマホ版艦これへログインしてくれたからだろう。言われなくてもやってくれるあたり、紅葉も分かってきたな。次のゲーム再開までに、またこの世界を調べることにしよう。
と言っても調べるのはあたしじゃないけど。
そんなふうにモノローグを進めている間に、湯船から出て手拭いで軽く身体を拭き、脱衣場へ行くと、きれいに畳まれた新品の服の入った籠の前に立つ。
服の上には二つ折りにしたメッセージカードが置かれていた。端には吊るし猫が描かれている。あたしはそのカードを開いた。
『
……
「おいGども」
壁に向かって呼びかけた。
壁や家具の隙間から次々に小さな頭がにゅにゅっと飛び出した。
『ひ、ひどいです、このかんむす』
『こいつ、よーせーさんを、2おくねんまえからそんざいする、すーぱーせいぶつと、いっしょにしてますぜ』
『ふははは、そうか、もっとあがめろ!』
『あれ?』
『も、もしかして、わたしたちほめられてた?』
後頭部の下の方に小さな腕を伸ばして(それで腕を伸ばせる限界)、えへへへっと照れる妖精さん達。
褒めてねーよ!
ゴキが褒め言葉になるなんて思いもしなかったよ。
さーっと雨後のキノコのように生えた小さな顔を見回し、目的の妖精さんを見つけた。
「おい、そこの卵黄頭とチョコバナナ」
『はう、わたしたち!?』
『チョコバナナじゃないです! とんかちです!』
『これだって、あんぜんだいいちのへるめっとです!』
「訂正しろ」とか、「横暴だ」とか、「ストライキだ」とか書かれたプラカードを持って騒ぐグレムリン共。
字に落とすと漢字書けるんだな。
「交渉したけりゃ、あたしの昨日のパンツ持ってきな。まだ穴開いてなかったでしょ」
シューンとしょぼくれると、妖精さん達はプラカードを引っ込めた。
「なんで引き下がるの!? そんなにパンツ返したくないの!?」
『そちらのようきゅうをのみます。このチョコバナナになんなりとごめいれいを』
『チョコバナナじゃないよ、とんかちだよ!』
妖精さん達のなかでもチョコバナナ呼ばわりされてしまった彼女は、あたしの使い古しの下着と引き換えに差し出されてしまった。
『まあまあきたかみさん。せんたくしないで、まいにちしんぴんのふくをきれるなんて、おうさまだってやりませんよ?』
「騙されないよ。下着返せ」
チョコバナナ妖精が押し付けられた。
返す気はないらしい。
『それで、きょうはどういう?』
チョコバナナは上を見上げて聞いてきた。体と同じ大きさの頭を、ひん曲がった細い首が支えている。見ていて折れそうで怖い。妖精さんの首を心配して、あたしはしゃがむ。
「またこの電脳世界を調べてほしいんだ。1-1海域でエリートが出てくるのっておかしいでしょ? ゲームのプログラムか、データベースの海域データがおかしいんじゃないかな」
『わかりました。げんいんをしらべればいいんですね?』
「うん。データがおかしな事になってるなら書き換えてもいいよ」
『じょうほうのうわぬりは、わたしたちはできません。いえ、できるにはできます。じょうほううわぬりのめいれいを、はっしゃするのはかのうです。だけど、めんてなんすアプリケーションをとおしてうわぬりしないと、ふせいなところから、じょうほうがかってにぬりかえられたとおもわれて、うんえいがわのみはりに、ひっかかります』
「メンテナンスアプリケーション? データの変更にはそういうのを使わないとなんだ。それを使わずに勝手にデータ改ざんをすると、運営の監視に引っかかると。そんな監視してるんだ。……分かった。原因調査だけでいいよ」
『りょうかいです! ではいってきます』
そう言うと彼女は床にすっと吸い込まれて消えた。
うーむ、妖怪チョコバナナ……
『ちょっと、ようかいじゃありません! ようせいさんです! ぷんすか』
一瞬床から顔だけ出して文句を言うと、再び消えた。
心の中よむんじゃねーよ!
あたしは吹雪と曙を呼んで、あれこれ意見交換していた。
が、そのうちに飽きてきて、トランプなんぞをし始めた。そして何を思ったか、トランプで塔を作り始めた。
「北上さん、凄いです!」
「へー、やるわね」
これは前世での特技なのだ。まあ特技と言う程自慢できるもんじゃないけど。
騒がれるのは最初のうちだけで、大きなの作ろうとすると時間がかかるから、そのうち作り始めと完成後にしか人が集まらなくなる。
三段目を順調に作っていたところで、塔を突き崩して黒髪の妖精さんがチョコバナナ片手に、にゅっと現れた。
バラバラバラバラー
『しらべてきました』
「あーっ!」
「「きゃああ!」」
「なんてことするのさー! なんでここに出るかな」
まったくチョコバナナめ。
『それは、さいたんきょりで、ごほうこくするためです。それにこれチョコバナナじゃなくて、とんかちです』
「ほー? 心の中読まなくていいよ。それで、何か分かったんでしょうね?」
『ようせいさんはかんぺきです』
……デジャヴである。
「じゃ、報告とやらを聞こうか」
チョコバナナが、まだ頭に1枚乗ってたトランプをはらりと落として、報告を始めた。
『はーい。でーたーべーすをみてきました。かいいきへんせいますたーの、1-1かいいきの、てきへんせいぱたーん2は、“ろ”きゅうがぜんぶ、えりーとでした』
吹雪と曙の顔が恐怖で強張った。
「よく覚えてないんだけど、1-1海域の敵編成って3パターンあるんだっけ? たしか駆逐クラスはイ、ロ、ハの級が出たと思うけど、パターン3が一番難易度高い編成で、パターン2はその中間。駆逐はロ級が使われるんだっけ」
『ボスますは、“は”きゅうと、“ろ”きゅうがりょうほうでるけど、“ろ”きゅうのほうは、えりーとになってます』
「まあフラッグシップじゃないだけいいけど。今なにかイベントでもやってるのかな?」
『いいえ。あと、かいいきへんせいますたーがかきかわってるのは、ゆめのしまはくちのだけです』
「えっ、それってデータ改ざんされてんじゃないの!? 運営の監視に引っ掛かってないの?」
『まっとうなほうほうで、じょうほうはうわぬりされてたから、みはりにみつかってない、みたいでーす』
「正規の手順踏んでデータ更新されてたって? なにそれ。それじゃ運営側が変えたってこと? このサーバーにいる提督だけ不利じゃん。ずるい」
『ここには、みすてられたかんたいしかいないから、もんだいありませんよー』
「やめちゃった提督の艦隊か。戦闘しないもんね。でも紅葉提督は、そのサーバーで絶賛現役中だよ。その正規の手順っていうのはどうやるのか分かる? それと同じ手順でデーター直そうよ」
『じかんかかるとおもうけど、しらべるよ』
「じゃ、お願い。……えーと、ヘルメットのグレムリンは?」
『ヘルメットさんは、せんぷくちょうさししてます。もどるのよるになりそうでーす』
「あっそう。それじゃ報告は提督と聞くことになるね。よーし、夜まで邪魔は入らないぞ」
ということで、あたしはトランプの塔作りを再開した。