紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ!   作:RightWorld

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第10夜その1

 

≪提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮を執ります≫

 

「お疲れ様です、司令官!」

「は~い、吹雪ちゃ~ん」

 

 紅葉はマウスで秘書艦の吹雪の頭をなでなでする。

 

「えへへへ」

 

 吹雪は嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

「北上さんは?」

「トランプで塔を作ってます」

「なにそれ?」

「呼んできますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ……提督」

「こんばんは北上さん。なんか声が疲れてるわ」

「いやあ、ずっと神経集中して張り詰めてたからさあ。入渠してきていい?」

「はあ? 何言ってんの、これから今日のゲーム始めるってのに、のんびり入渠してたら寝る時間になっちゃうじゃん。それに北上さん、昼はずっとトランプで遊んでたって聞いたわよ? スマホ版に切り替えて終わらせたのは、遊びに使う時間作るためじゃないからね!」

「べ、別に遊んでばっかいたわけじゃないよ。ちゃんと調査もやってんだから(妖精さんが)」

 

『ただいまもどりました!』

 

 バラバラバラバラー

 

 金髪に卵の黄身のようなヘルメットが乗っかった妖精さんが、トランプの塔の真下から、塔を崩しながら浮上した。

 

「わあああ! ヘルメット妖精さんがー! せっかくここまで作ったのに、なにすんのさあ! なんであんたら、作品の真下から現れるかな!」

 

『ふじょうちてんは、ここしかないときめてました。かたちあるものは、こわれるしゅんかんが、いちばんうつくしいのです』

 

「いいわよ妖精さん。北上さんが何作ってたか知らないけど、じゃんじゃん壊しちゃいなさい」

 

『ていとくの、おゆるしがでたぞー』

『わーい』

『わーい』

 

「やめてー! ええい、その前に卵黄ヘルメット、やることやってきたんだろうね!?」

 

『ようせいさんはかんぺきです』

 

 デジャヴである。

 

「それじゃ、調べてきたこと報告してもらおうか」

 

『はーい。ていとくのちんじゅふがある、ゆめのしまはくちは、おしごとをぶんたんしてるさばが、1ぴきずつしかいませんでした。これではたくさんのちゅうもんに、こたえられません。そのさばも、ほかのより、よわっちいです』

 

「お仕事を分担している鯖? 鯖が働いてるの?」

 

 紅葉が首を傾げるので、あたしはフォローする。

 

「サーバーのことだってば」

「あ、そっか」

「サーバーが1台ずつしかないってことだと思うけど、それって普通と違うの?」

 

『ほかのはくちは、ぶんたんごとに5ひきとか、6ひきとかいましたよー』

 

 紅葉は、分かったと手のひらを打った。

 

「たくさんのリクエストを処理するためにサーバーが複数台あるって事ね。負荷分散の為だわ。弱っちいって、低スペックマシンってこと?」

 

 紅葉が妖精さんに質問をした。

 

「にんげんかいでは、そうともいうかも、しれません」

 

「成程。お仕事の分散って、ユーザの操作を直接処理するゲームアプリケーションサーバーとか、各種のデーターを格納するデータベースサーバーとかのことね。1台ってのは確かに普通じゃないわね」

 

 紅葉は納得しているようだけど、あたしは付いていけてない。

 

「提督、それはなんで?」

「沢山の人がログインしてゲームをやると、サーバーの処理が追いつかなくなって重くなる、つまり遅くなるから、複数台用意しておくのよ。スーパーのレジが1台の場合と複数台あるのとでは、会計に並んでるお客をさばける数が、複数台の方が多いのと同じよ。あと壊れた時すぐ交代できるってのもあるわ」

「あ、成程ね。提督、詳しいね」

「わたし、学校の科目で情報処理だけは得意なの。あと学校の教材システムのメンテナンスの時も、先生を手伝ってるのよ」

「そうなの? 意外だなあ」

 

 その割にはノートパソコン振って、あたしが落ちてこないか試したり、アナログチックなことするよね。

 

「でもさあ、夢の島泊地って、やめちゃった提督が集まってるとこなんでしょ? ログインしてこないから1台でいいんじゃないの?」

「そっか。そりゃそうだ。納得」

「ヘルメット、他には?」

 

『きょうわかったのは、ここまでだよー』

 

「そう。よく調べたね、お疲れ様。次も頼むね」

 

『わー、きたかみさんに、ほめられたー』

『わたしも、ほめてください』

 

「仕事したらね。あ、そうそう提督。チョコバナナがデーターの改ざんを見つけたよ。この海域に出る駆逐ロ級は、みんなエリートなんだって」

「それって強いの?」

「強いねぇ。ステータス初期値が、吹雪はおろか、あたしより高いからねえ。火力、雷装、耐久、装甲と全部」

「えっ、どうしよう。軽巡より上なの? 駆逐艦なのに」

「初心者がやる一番最初の海域には出ちゃいけないやつだよ。とにかく、妖精さんに監視に引っかからない方法で、データー修正する方法を調べてもらってる。あとは正攻法で攻めるとすると、やっぱりレベルを上げてくしかないかなあ」

「負けてばっかでも、レベルって上がるの?」

「上がることは上がるよ。海域ごとにもらえる経験値が設定されてるからね。けど1-1海域なんて一番低いし、負けるとそこからさらに割引されちゃうんだよねぇ。最近のみたいなD判定だと3割引だね。S勝利なら逆に割増、MVP取れればさらに加算されるし、旗艦は1.5倍ってのもある。いつも吹雪が旗艦だから、今経験値が一番高いのも吹雪だね。普通ならこんな苦労しないはずなんだけどなぁ」

「レベル上がって改になれば強いんだよね?」

「そうだね。火力とか防御力とかの基礎値が高くなるし、使えるスロットが増えるから、持てる武器の数も増えるしね」

「よーし。みんなを改にしよう!」

「今のペースだと、途方もない時間がかかりそうだねえ」

 

 そこで吹雪が口を挟んだ。

 

「改にするなら北上さんを優先させてください!」

「吹雪……」

「北上さんが改になれば、雷撃力がわたしなんかより格段に高くなります。わたしや曙ちゃんが改になって増えたスロットに魚雷発射管積むより、ずっと強いです」

「ひょっ? 北上さんそんなに凄いの?」

「まあ確かに、あたしと大井っちはそういう艦だからね。改にもしやすいし。吹雪と曙が改になるにはレベル20まで上げないとだけど、あたしはレベル10でいいから。

 あたしが改になると、重雷装巡洋艦ていう魚雷戦に尖った艦になるんだ。雷装初期値が確か80で、吹雪達を目一杯底上げするより高い。それに威力の強力な61センチ4連装酸素魚雷発射管を持ってくるってのもあるしね」

「なんか凄い強そう! それが吹雪ちゃん達の半分のレベルですむの? 北上さんお買い得!」

「でもさあ、あたし今のとこ、魚雷戦まともにやったことないんだよね。紙装甲だから。最初の砲撃戦で大破しちゃって、魚雷戦にまともに参加できてないんだよね。それなら吹雪達を改にして、主砲増し増しした方がよくない?」

「うー……」

 

 吹雪は悔しそうな、納得いかなそうな顔をして黙りこくった。

 しかし沈黙の静寂は、提督があっさり破った。

 

「みんな出撃すれば、みんなでレベルアップできるんでしょ? 旗艦はかわりばんこにするわ。わたしはみんなレベル上がってほしいし、そうやってても北上さんは先に改になれるんじゃないのかな? 吹雪ちゃん、それでいい?」

 

 提督が決めれば、どんな決定だろうと吹雪に文句はない。そう思ってしまうのは艦娘の宿命なのかもしれないけど、一切の曇りなく吹雪は力強く頷いた。

 

「分かりました。わたし頑張ります!」

「チョコバナナさんもありがとう。次もよろしくね」

 

『わあ、ていとくにほめられたー。あ、これとんかちですから』

『すげー』

『すごー』

『あちきもがんばるー』

 

 妖精さん達は大盛り上がり。

 

「それじゃ提督。いつものように任務設定して、装備開発からやろう」

「わかったわ」

 

 そしてその日も、謎のくじ運でペンギンを回避し続ける紅葉提督。ただし今の艦娘では装備できないか、搭載しても意味のない品を次々と当てまくる。

 

 機銃、高射装置。

 

 こうなると、もう運がいいのか悪いのか分からなくなる。そして今日のノルマ最後の1回。

 

 きらりーん、ぱっ。

 

「なんか宇宙戦艦みたいの出た!」

「えっ、宇宙戦艦?」

「えーと、甲標的 甲型?」

「甲標的!?」

 

 あたしは吹雪、曙と目を丸くして見詰め合った。

 

「甲標的。特殊潜航艇だ。え! なんでオール10指定でそんなの出るの?」

「しらないわよ。潜航艇って潜水艦みたいなの? 強い?」

 

 曙はキョトンとしてるが、吹雪は口に手を当て、あっと声を上げた。

 あたしは久々に心が踊った。みるみる顔が綻んでくる。

 

「……こ、これなら、改になったあたしが積める。それに開幕先制雷撃で一方的に攻撃できるよ。使えるよこれ!」

「本当? わたし役に立った?」

「最高だよ提督! 吹雪、曙。悪いけど、レベルアップは、あたしを優先させてもらうわ!」

 

 いつも気怠げな北上が熱血女漢になってる。目標が見つかり、これから怒涛の北上レベルアップ作戦が始まるのだ。

 しかしその影で、曙は涙を滲ませていた。

 

「……提督が、あたしに話し掛けてくれない…」

「あ……」

 

 

 

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