紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ! 作:RightWorld
「特型駆逐艦『曙』よ。って、こっち見んな! このクソ提督!」
「特型駆逐艦『曙』よ。って、こっちも見んな! このクソ提督!」
何かというと、毎度の建造結果だった。オール30の最低レシピで建造されたのは、またしても『曙』。
これはもう曙の、あたしをかまって、の想いの強さによるものじゃないだろうか。
「なにこの鎮守府、もうあたしがいるの?」
「そのうえ隣の建造ドックから出てきたのもあたし? って、なんで元々いるあたしは泣いてるの!?」
「大丈夫、あたし? ははあ、やっぱりここの提督はクソ提督なのね。いじめられたんでしょ! 出てこい、このやろう!」
キーキー言う3人の曙を前に、紅葉は真っ青になっていた。
「ほら、提督。謝っときな」
あたし(北上です)に諭された提督は、引きつった頬を揉んで真顔になる。
「う、うん……。えっと、艦隊編成画面にして。あ、あのぉ~、曙……ちゃん」
艦隊編成画面、本国艦隊3番艦にいる曙は、少し俯き、目にたっぷり涙を湛えて、口を横一文字に閉じていた。
「なんか、立ち絵も違っちゃってるんだけど!」
「……気に入らないなら、外せば?」
「はぐう!」
既定のセリフではあるが、グサグサと胸に突き刺さる罵声。
紅葉は何とかそれに耐え、胸をわし掴みしてゴクリとつばを飲み込み、意を決して声を掛ける。
「あ、曙ちゃん。声掛けるの遅くなって、ごめんね。わたしはあなたを外したりしないよ。仲間だもん。うちの鎮守府の大切な戦力だもん。ちょっとだけ怖いけど、これからはもっともっと曙ちゃんともお話ししたいの。だから曙ちゃんからも遠慮しないで話し掛けてね」
「ど、どんだけ言えばわかるの!? あたしはクソ提督のことが大っ嫌いなの!」
「おー、ケッコン後のセリフになっちゃってるぞー」
「曙ちゃん、嬉しいんだねぇ~」
あたしと吹雪が後ろから煽ると、曙は顔を真っ赤にして「だーかーらー、何なの!?」ってあたし達の方向いて怒ってたけど、口元の緩み具合が語っている。声が提督に届いたことが嬉しいんだ。
「いい? あたしなんかに構ってないで、吹雪と北上さんを早くレベルアップさせなさいよね! どうせあたしなんか沈んじゃったって、すぐ次のあたしを建造するから平気でしょ!」
「へ、平気でなんていられないよ、仲間が沈むのなんて見たくないよ! ぜったい沈めないから。曙ちゃんは最初に建造に成功した艦娘なんだから。その最初の曙ちゃんを最後まで守るよ。ぜったい手放さないからね!」
曙の潤んだ瞳が一段と大きく開く。
「あく……ぅ、くそ提督の、ばか。ほんと、冗談じゃないわ……」
しおしおと小さくなっていく曙。
「すごい。ケッコンしてないのに、ケッコン後のセリフが次々と」
「うふふふ、もう心はケッコンしちゃってるんだねぇ~」
「外野、うるさいわよ!」
まあこれで、3人とも提督と話すことができることが分かった。なんでこんなことできるのか分からないけど、敵も含めておかしいんだから、深く考えるのはやめよう。提督と艦娘3人でコミュニケーションばっちり取って、提督に初の1面突破を進呈しようじゃないの。
さて新参の曙2人は、このやり取りを見て驚いていた。
「えっ、クソ提督と喋れるの?」
「えっ、やばいじゃん。って聞いてんじゃないよ、このクソ提督!」
「わあああ、もしかして新しい曙ちゃんも自由にしゃべってるう?」
「提督とおしゃべりなんて、あ、あり得ないから!」
「どうせあたしなんかがいっぱいいても、使い道ないんでしょ!? 早く艤装合成しちゃってよ!」
「う、うん。……でもこれ、痛くない?」
「平気よ、仕様だし」
「だからって覗くな、クソ提督!」
「覗けるなら見てみたいけどな」
「信じらんない! ありえないから!」
「曙ちゃんだから、みんな曙ちゃんに集合でいいよね」
「ほ、他の2人も改装してあげなさいよ、クソ提督! あ、やっちゃった」
ぽよよよーん、ぱっ。
合成された曙はツンとしながらも、少し頬の血色を良くして規定のセリフを口にした。
「こ、こんだけ!? って、あたし材料にしといて、このセリフはなんか心が痛いわ」
曙の雷装がプラス2された。
「3人の中では、曙ちゃんが一番雷撃力強いよ」
「ふん、今日こそ蹴散らしてやるわ」
曙は目をキラリと光らせ、不敵に口角を上げる。
士気の上がる駆逐艦達に提督も嬉しそうだった。
「やる気満々ね! よーしそれじゃあ出撃するよ!」
「おっと待った。今日から旗艦はあたしだよ」
出撃前に編成を改めてもらわなきゃだ。
直近の目標はあたしこと北上のレベルを上げて改にすること。重雷装化したスーパー北上さんになることだ。今あたしは猛烈に改になりたい。それが最初の敵だけでなく、この鎮守府正面海域を攻略するに最良の手なんだ。
「あそっか。北上さんを集中強化するんだっけ」
「忘れないでよね、提督」
提督は再び編成画面に移る。吹雪に代わってあたしが旗艦の位置についた。2番艦吹雪、3番艦曙と並ぶ。
「はぁぁ、やっぱり軽巡が旗艦だと安心するよねぇ」
「大きい人が前にいると心強いわ」
「紙装甲だから、あたしも早く重巡や戦艦の後ろに並びたいよ」
「何言ってるんですか。水雷戦隊はいつだって戦艦の先輩達の前衛ですよ。そしてその先頭に立つのは北上さんのような生粋の水雷屋軽巡です。北上さんの前に立つ艦娘なんてありません」
吹雪に水雷戦隊とは何たるかを諭されてしまった。
仕方ないか。それが日本海軍の戦い方だもん。航空戦力が出てこない鎮守府正面海域は、あたし達水雷屋にとっては本来庭でなきゃいけないんだ。
「はいはい。じゃ、あんた達はあたしを盾にしてでも、必殺の魚雷を撃ち込みなさいよね。直近の目標はあたしを改にすることだけど、みんなのレベルアップだって必要なんだから、MVP取る気でやんなよね。ただし、海戦には負けてもいいけど、必ず生きて帰るんだよ」
「「はい!」」
「提督もそういう采配でね」
「分かったわ。それじゃ出撃してください!」
「水雷戦隊、出るよ!」