紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ!   作:RightWorld

23 / 35
第10夜の後

 

 あたしはお風呂で目を覚ました。お風呂じゃなくてドックね。

 帰投後即入渠、意識既になし、修理完了&目覚めという流れかな。

 

 ……デジャヴ……でもない? ほとんど変わんないよ。

 

 だけど、今回はヤバかった気がする。

 一人での出撃。砲撃戦での敵弾の命中。目の前が真っ白になったかと思ったら、お星さまが飛んで真っ黒へ。

 

 あの時、起きちゃいけない音が体の中からした気がする。

 命中の瞬間、ごしゃとかぐしゃとか。

 衝撃で首が後ろに持ってかれて、ぼきとかぶちとか。

 

 顔を撫でる。

 まあ普通だ。いつも通り。

 でもあの瞬間、あたしの頭、どうなってたの?

 

 ガラガラガラ

 

 お風呂場の入り口のスライドドアが開き、吹雪と曙が現れた。

 

「「北上さん!」」

 

 ドアのところで立ち止まってわたしの名を叫び、わたしがきょとんとして振り向くと、猛烈にダッシュしてきた。

 

「北上さーーーん!」

 

 どばっしゃーーん

 

 2人は服のままお湯の中に飛び込んできた。

 

「がぼ、おぼれる! しぬ! しぬ!」

「よかった、よかったよー」

 

 のしかかっている吹雪の肩をパンパンとタップする。

 曙があたしの顔と頭を撫でてきた。

 

「ああ、ちゃんと目も鼻もある。よかった」

 

 恐ろしいことを口走ってから、曙はあたしに抱き付いた。

 それって、帰投した時のあたし、目とか鼻、なかったってこと?

 

「北上さん、前の戦闘でレベル2になりましたよ」

 

 吹雪が目の端に涙を溜めて、嬉しそうに言った。

 

「おー、レベルアップ? よっしゃー」

 

 曙も体を離すと、あたしの顔をもう一度確かめるように撫でながら、その後のことを教えてくれた。

 

「提督は今日はもう終わりにしたわよ。スマホ版に切り替えて、建造をやって、もう寝たわ」

「了解。あたし達が活動できるよう、スマホ版にしてくれるのもルーチン化したね」

 

 お風呂(ドック)から出ると、脱衣籠に用意されてあった新品の服を着た。前の服(特に下着)はどうなったのか気になったけど今回は不問にして、待機部屋へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 待機部屋に入ると、ダイニングテーブルの椅子を引き出して、よっこいせと座る。

 

「このダイニングテーブル、前よりも大きくなった気がする……」

 

 前は4人掛けくらいだったと思う。今は椅子が6脚あって、テーブルもそれに合わせたサイズに伸びている。

 っていうか、最初の頃はこの部屋、何もない真っ白な空間だったと思ったけど。

 

 見回してみれば、ダイニングテーブルと椅子のセットの他に、いつの間にか一段高い畳の間ができている。そこにはちゃぶ台と茶棚が置かれていた。横には観葉植物までもがある。曙が茶棚から急須と湯呑を出して、お茶を注いでいた。

 

「あの畳の間とか茶棚ってどうしたの?」

 

 吹雪に聞いてみる。

 

「今日来たら、できてましたよ」

「誰が備え付けてんの?」

 

 提督室の模様替えならゲームでもできたけど、待機部屋(牧場)は聞いたことない。

 

「妖精さんでしょ?」

 

 やっぱそうなるか。

 曙がお盆に緑茶の入った湯呑と小皿を乗せてやってきて、あたし達の前に置いた。小皿に乗ってたのは羊羹だった。

 

「えっ、これもしかして間宮さんの!?」

 

 と思ったけど違った。よくスーパーのレジの横の棚に置かれてる、小さなパックに入ってるミニ羊羹だった。パックの裏側には、『間宮羊羹は近日実装予定です』と印刷されてあった。

 

「わあ、間宮さんの羊羹も出てくるのかあ。妖精さん、いつ実装されるの?」

 

 テーブルからにゅっと二頭身の顔が出てきた。割烹着を着ていて、間宮さんをデフォルメしたような妖精さんだった。

 

「ここのへやをかいそうしているのは、わたしたちではありませんよ。べつのようせいさんですね」

「別の妖精さんの集団がいるの?」

「かんこれげーむのなかにいるわたしたちとはちがって、さばのほうにすんでるみたいですね」

「さば……サーバーの方に? なんか住み分けてるの?」

 

 デフォルメ間宮妖精さんがようかんにかぶりついた。

 

「あっ!」

 

 一口で半分を持ってかれてしまった。もしゃもしゃと咀嚼するデフォルメ間宮妖精さん。

 

「む、なかなかおいしいですね。これはまけられませんね。おみせだすまでに、うでをあげておかないとです」

 

 そういうとテーブルにすっと沈んでいった。

 

「ちょっと人の食べちゃって! かえせ!」

 

 テーブルの下を覗くがいない。

 

「いったいどうなってんの!」

「まあまあ、そうかっかしなさんな。もう1個あげるわ」

 

 曙がミニ羊羹をもう1個くれた。

 

「そんなにいっぱい、戸棚には入ってるの?」

 

 すると吹雪が嬉しそうに答えた。

 

「1個置いとくと、しばらくすると2個になるんですよ! 2個置いとくと4個に、4個置いとくと8個に……」

「指数関数的に増えるってこと!? 残しておいちゃだめだよ、ここが羊羹だらけになっちゃう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 お茶飲んで羊羹食べて一息ついたわたし達。

 

「今日はこれからどうします?」

 

 吹雪が聞いてきた。

 

「あたしとしては、早く海域データベースを修正して、1-1海域の敵を正常化してもらいたいよ。おい妖精さん」

 

 さっきからわらわらと湧いて出てきている妖精さん達に聞いてみる。

 

『はいな』

 

「1-1海域に出る敵がエリートになってるのを直してほしいんだけど。修正方法の調査はどうなった? 確か、メンテナンスアプリケーションってのを使ってやるんだよね?」

 

『たんとうをつれてくるので、とらんぷたわーをつくって、まっててください』

 

「トランプタワーがないと来れないのかよ」

 

『きたかみさんが、そんなとくぎをみせてしまったので、もうもどれないからだに、なってしまいました。つみなひとですね』

 

「うわぁ、面倒くさい」

「わ、わたしも練習してみようかなあ」

「おー、ぜひ頼むよ」

「吹雪は不器用だから……」

「あうっ、ひどいよ曙ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから3時間は経った。吹雪にトランプタワーの作り方を教えているが、吹雪は一番最初の2枚のカードを山形に組むところから、いきなり行き詰っている。

 

「特Ⅰ型駆逐艦は、特型として一番最初に作られたから、トップヘビーの問題とかいろいろ不具合を持っててですね……」

「レベル1とか2って、その状態の時から始まってんの? 横波食らってひっくり返ったりしないだろうね? てか、それとトランプタワーが作れないのとは関係ないから。ホント不器用だねえ」

「あうっ!」

「それにしても、妖精さん遅いな」

「さっきから、にゅっ、にゅって顔出してたわよ?」

 

 お茶のお替りを持ってきた曙が言う。

 

「なにい?」

 

 見渡すと、卵黄が床に落ちてた。と思ったらそれはヘルメットで、その下からすすっと目が出るだけ浮上した。目が合うと、慌てて急速潜航した。

 

「ちょっと隠れないでよ! いるなら早く声かけてよ!」

 

 ゆっくりと目が出るところまで再浮上した。

 

『まだとらんぷたわーが、できてません』

 

「できるの待ってたのか。待たなくていーよ! 吹雪が作るの待ってたら何か月後になるかわかんないよ!」

「あううっ!」

 

『きたかみさんが、つくってください。ほうこくが、なんかげつごになるか、わかりませんよ』

 

「あうううっ!」

 

 吹雪の顔の横に、赤い顔をしたコンディションマークが漂い始めた。

 

「ああ、うざい」

 

 しかたなくあたしはトランプの塔を作り始める。「これで勘弁して」と2段をあっという間に作った。吹雪が驚愕している。

 

『しかたありませんねえ。いまはこれでがまんします』

 

「うう、なんでそんなに簡単に北上さんは作れるんですか……」

 

 横転転覆して、指で床をぐりぐりする吹雪の横で、あたしの作ったトランプタワーを下から突き上げて、卵黄頭妖精さんが浮上した。

 

「さんざん待たされたけど、データベースの値の修正方法は分かったんだろうね?」

 

『ようせいさんはかんぺきです』

 

 デジャヴである。

 

『じょうほうのうわぬりには、めんてなんすあぷりけーしょんをつかいます』

 

「それは前にも聞いたよ」

 

『ごぜん2じにはじまって、じゅんばんにいろんなおしごとをしていきます。つぎあてのおしごとをするのは、だいたいごぜん4じくらいになります』

 

「つぎあて? 情報につぎあてをする……データーパッチとでも言うのかな」

 

『つぎあてをしたあとに、おもってたとおりに、ちゃんとつぎあてができてるか、みにきてました』

 

「データーがちゃんと修正できているか確認してるってこと?」

 

『はい。なので、こっちのおもうようなかたちのつぎあてをしても、ばれちゃいます』

 

「随分慎重ですね」

 

 腕を組んで片手を口に当てている吹雪が呟く。

 

「もし間違った修正して、艦これやった人に誤動作でも現れたら、クレームが殺到することになるからね。運営も慎重になるんでしょ」

「でもあたし達のいるところって、普通の提督が入ってこれないところなんでしょ? クレームなんて起きないじゃん」

「確かに、曙の言う通りだ。それにヘンなデーターになってるのは、夢の島泊地のサーバーだけなんだよね。なんで運営はここのだけデーターを修正してるんだろ」

「練習とか」

「手順の再確認とか、リハーサルとか」

 

 吹雪と曙がいろいろ考察する。

 

「なるほど。ユーザーに迷惑のかからないところで練習しるて可能性はあるね」

 

『きたかみさん。つぎあてしてるのは、うんえいさんじゃ、なさそうですよ』

 

「運営じゃないって? それ本当?」

 

『うんえいのひとは、さばとおなじでんせんのうえにあるまどぐちから、みたりうごかしたりするんです。でもいまつぎあてしてるひとは、かべのむこうのでんせんからみてるんです』

 

「? よくわかんないぞ? 鯖はサーバーとして、でんせんとか、まどぐちとか、かべってなに?」

 

『でんせんと、まどぐちと、かべです』

 

「さっぱりわからん。あとで提督にも聞いてみよう。それで運営じゃなくて誰がやってんの?」

 

『さて、だれでしょう』

 

「調べられる?」

 

『でんせんをつたって、あちこちいくのがとくいなようせいさんを、よびましょう』

 

 卵黄ヘルメット妖精さんが手を繋いで連れてきたのは、妖怪猫吊るし、いわゆるエラー娘だった。先日も紅葉提督のノートパソコンをブルースクリーン状態に叩き落とした妖精さんだ。

 

「通信エラーの時に出る妖精さんか。もしかして「でんせん」って「電線」のこと?」

 

『はい。でんせんです』

 

 音だけ聞いたら違いが分からないや。

 

「まーいいや。夢の島泊地サーバーにデータパッチを当ててる、運営じゃない人が誰か、しらべてもらえるかな」

 

『にゃー。ねこのでばんのようですね』

 

「卵黄ヘルメット妖精さんはチョコバナナ妖精さんと協力して、他にもデーターが変なところとか、裏技でデーター修正できないかとか、あたし達に有益な情報をさぐってくれる?」

 

『はい。おっきなとらんぷたわー、つくってまっててください』

 

「それ必須なの?」

 

『おおきければおおきいほど、たかければたかいほど、ゆうえきなはなしがてにはいりそうな、きがします』

 

「気がします、かよ。おーい、曙も練習しといて」

「あ、あたしもやるの!?」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。