紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ! 作:RightWorld
紅葉が朝食を食べてると、ピココン! と、スマホのメール着信が鳴った。
『これ、やばいくね?』
今日のメールはクラスの男子からだった。なので先日と違って、まあこの題名はあり得る。
だいたい男子というのは得体のしれない、失礼な生き物だ。メールでなければ、カエルとかウ○チとかを「見てこれ」とか言って、鼻先に突き出しかねないのだ。
例の学校の情報教科の関係で、やむなくメールアドレスを教えてしまったんだけど、今でも失敗したと思っている。こんな無遠慮に語ってきていい仲じゃないんだけど。それにメッセージチャットを使わずにメールにしたのはなんでだろう。
ふとその題名の文言が気になった。
『やばいくね?』
まあガサツな男子なら言いかねないけど、「やばくね?」が正しいだろ。日本語やり直しなよ。
……それかまさか。
わたしはスマホではなく、パソコンでメールを見直した。メールがHTMLメールだったことでほぼ確信し、メールのソースを見てみた。特にメールヘッダ部分。
差出人のアドレスは確かにクラスの男子のだけど、ここは偽れるのだ。
物理的な紙のメールがいろんな郵便局や集配所を経由してくるのと同様に、電子メールはわたしに届くまでにいくつもの中継用のサーバーを経由してくる。メールヘッダーにはその履歴が刻まれているのよ。
そして案の定、差出人は少なくともウチの男子生徒のメールアドレスにあるドメインとは全然違う、外国のメールサーバーに投函されていた。中継したどこにも男子生徒のメールアドレスのドメインがない。
違和感あるメール題名は、日本語がお達者でない人が書いたものだったのかもしれない。
「このメールも、送った男子君ともども学校の情報教科のネタ行きね」
メールを詐欺師フォルダに移動した。
「紅葉ー、学校遅れるよ?」
お母さんに注意され、家を出る時間が差し迫っていることに気付く。
「わわわ、ごちそう様!」
食器を片付けていると、お母さんがスマホ見ながらがっかりした声を出した。
「今日もお料理サイトが見れないわ。困ったわねえ。今夜の夕食なしでいい?」
「いいわけないじゃん。たまにはネットじゃなくてアナログ回帰して料理雑誌でも見なよ」
◇◇◇
「でね、朝のメールって実は学校のいろんな人にも送信されてたのよ。しかもHTMLメールだったでしょ。メール開くと、超エロエロの画像とか動画が再生されちゃうらしくて、学校へ行ったら、メールが見れた人たちどうしで、凄い話が盛り上がっててさ。男子ってやあねえ。まあ一部の女子も混じってたけどさあ。悪意あるサイトだったら、あれ開いた人ヤバいんじゃないかなあ。スマホだとだいたい開いちゃうしね」
「開いただけでもウイルス感染するサイトってあるらしいね。でもそういうところって、警告出たり、繋いでいいか聞いてきたりするんじゃないの?」
「定期的にセキュリティ更新してればね。それだってまだブラックリストに載ってないサイトだったり、対策されてない脆弱性を突かれたらわかんないわ」
「紅葉提督は見れなかったんだよね。なんで?」
「うふふ、そこはね、わたしのパソコンはメーラー、メール専用のソフトを使ってて、テキスト表示しかしないように設定してあるからよ。HTMLメールはソースコードしか出てこないから大丈夫なんだ」
「紅葉提督って学校でもユニークそうだね。それでその男子生徒は、なんでそんなメールを紅葉提督や皆に送ったの?」
「当然本人が送ったんじゃないわ。メール発信元サーバーがその男子のメールアドレスのドメインじゃなかったし。でも送付先はそいつのアドレス帳にある人だったのよ」
「うわっ、もしかしてその子のアドレス帳が流出してたってこと?」
「きっとそうに違いないわ。そんなだからさ、送った先には担任の先生もいてさあ、まあ臨時のホームルームが紛糾しちゃって大変だったわよ」
「おっかないなあ。あ、フタフタマルマル。さっ、そろそろ本日の艦隊勤務もおしまいですよ~。ご苦労様でした~。寝よ寝よ」
「寝ません! 始めるわよ。まずは工廠! 軽巡大井さんができてるかもしれないでしょ」
「大井っち、欲しいねえ。鎮守府海域じゃドロップしないからねえ」
紅葉提督が工廠画面に遷移した。
あたし(北上です)も、吹雪と曙を連れて電脳世界の工廠にやってきた。
「おやあ、景色が変わってるよ」
「まるで工場みたいですねえ」
「本物の工廠らしくなったっていうのかしら。北上さん、あっちに建造ドックの看板があるわ」
曙が見つけた看板のところに移動すると、カプセルホテルの部屋みたいなのが4つ、横2列、縦2列で並んでいた。2つは「使用できません」と張り紙がしてある。課金すると使えるようになるんだろうか。扉は半透明で中は良く見えないが、人らしきものがもそもそ動いている。
「エイリアンじゃないだろうね?」
「なんなの、失礼なこと言うんじゃないわよ、このクソ軽巡」
「それもう、この中が誰だか確信を持って言ってるよね」
紅葉提督が完成したドックを開けると、電脳世界でもカプセル部屋の扉が開いた。
出てきたのは当然の人(艦?)だった。
「特型駆逐艦「曙」よ。って、なんでがっかりしてるの! このクソ提督!」
「特型駆逐艦「曙」よ。って、なんでがっかりしてるの! このクソ軽巡!」
「まあ、提督に軽巡の建造は無理だよねえ」
「あたし以外も無理なんじゃないの?」
新造の曙×2がカプセルから出るのを、曙と吹雪が手伝う。
「えーと、今日は北上さんに合体よー」
「どんどんやって」
紅葉提督が改装の操作をすると、卵黄ヘルメットを被った妖精さんがたくさんやってきて、あたしと曙×2を引っ張っていく。
案内されたところは、工廠内の「改装」と看板があるところだった。そこには人が一人入れるボックスが5つ並んでいた。
曙2人は、それぞれ一人用カラオケボックスのようなところに入れられた。
あたしが案内されたのは、今や見るのが難しくなった公衆電話ボックスであった。駅前にあったのを撤去して持ってきたかのようにくたびれている。
『まだかいそうちゅうみたいです。いまは、まにあわせでこれらしいので、がまんしてください』
「そういえば、部屋の模様替えしてるのは、別の妖精さんグループだっけ?」
『はい。なのでつかいかたは、とりせつをみないと。ええと、とりせつによるとですね、、、はだかになってはいれ!』
「ええ!?」
『とりせつにかいてあります。はだかになってはいれ!』
「今までそんなことしなかったじゃん! どこに書いてあるのさ!」
妖精さんが取説なるものを見せてくれるが、訳の分からない模様がのたくっていた。
「読めない」
『ここにかいてあります。さあ、ぬぎましょう』
「だ、だいたい電話ボックスに裸でって、変態みたいじゃん! 外からも見えちゃうし!」
『だいじょうぶです。そとからはみえません』
「本当に?」
ぼろいからか、摺りガラスのようになっていて、確かに中はよく見えない。入ってみると、壁一面に女の人の写真やイラストに電話番号が書かれた、名刺サイズの怪しい広告がいっぱい貼られてあった。
「な、なにこれ、気持ち悪うー」
『おお、これこそ、しょうわのでんわぼっくすです。さあ、そとからはみえませんから、はだかになれ』
あたしは、しぶしぶ服を脱いだ。幸い、棚には電話の代わりに、衣服を入れる籠があった。妖精さんに渡すと食べられるかもしれないから、そこだけは安心する。
裸で突っ立っていると、何のエフェクトもなく、妖精さんから『ごうせいにせいこうしました。ふくきてよいです』と言われた。
「これ、服脱ぐ必要ってあったの?」
服を着て外に出る。
『らいそうが+2されて28になりました』
と、嬉しそうに妖精さんが告げる。
「たしかノーマルのあたしの雷装MAXは79だっけ。まだ三分の一強かあ。遠いなあ」