紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ!   作:RightWorld

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第3部
第12夜の後


 

 裸のまま艤装を背負って出撃しようとしていた北上に、妖精さんが『風呂上がりの牛乳』を見せると、それに誘引されて脱衣所まで連れ戻すことができた。

 

「牛乳、牛乳!」

「そんなに必死にならなくても……」

 

 吹雪が若干引き気味である。

 

『おふろあがりなら、このぎゅうにゅうをみせれば、たいていゆーことをききます』

 

「それって高速修復材の影響よね? 艦娘の性質じゃないよね?」

 

 曙がかなり引き気味である。

 

 妖精さんが短い手を頭の前に伸ばして牛乳瓶を差し出すと、北上はひったくるようにしてそれを奪い取った。瓶の口はビニールでラップしてあり、それをむしり取ると、次は蓋である。分厚いガラスの牛乳瓶は紙の蓋で栓がしてあって、開けようと蓋を引っ掻くが簡単には取れない。

 

「ぎゅーにゅーっ!」

 

 耐えきれなくなった北上は、紙の蓋を指で瓶の中に押し込んでしまった。

 

「「あーっ!」」

 

 じゃぼんと瓶の中に指と蓋が突っ込み、牛乳が周りに飛び散った。かまわず北上は牛乳をぐびぐびぐびと飲む。そしてぷはぁっと息をついた。幸せそうに微笑んで、「やっぱお風呂出たら牛乳よねえ~」と鼻の下に白いひげを作って、いつもの緩い声を発した。

 どうやら落ち着きを取り戻したみたいである。

 

「もう一回お風呂入った方がよくない? 牛乳が体中についてるわよ?」

「ん? わわっ! なんであたし裸なの!?」

「覚えてないんだ」

 

 曙に指摘されて、今更ながらに恥ずかしいところを隠しながらお風呂場に飛び込む北上。

 牛乳を洗い流している間に、高速修復材を使った後の顛末を曙から聞かされて、白い背中がみるみる赤くなっていく。

 そして真っ赤になった顔を、個別浴槽(入渠ドック)の上に敷かれているバケツがやってくるレールに掴まって見下ろしていた妖精さん達に向けて怒鳴りつけた。

 

「おいグレムリン共! 変なの高速修復材に入れないでよ! 乙女の尊厳を守るのはどうなったのさ!」

 

『てへ』

『ぺろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 体に着いた牛乳を洗い流してきた北上は、脱衣籠に用意された服を着た。相も変わらず新品である。

 出撃時に着ていたのは、被弾で燃えたりもしてたから仕方あるまい。戦艦の装甲を超える下着がどうなったかは気になる。

 足元で上を向いてこっちを見ている二頭身(妖精さん)と目が合う。

 

『もちろん、しげんとしてりようしましたよ?』

 

「あんたらの言う『しげんとしてりようしました』は『食べました』と同義でしょーが!」

 

『あたまつかんで、ゆすらないでください! くびが、くびがおれます!』

 

 全身の半分を占める頭と、もう半分の身体を繋ぐのは、針金のように細い首。

 

『き、きたかみさん、ぎゅうにゅう、もう1ほんのみませんか!? さっき、はんぶんしか、のめなかったでしょう!?』

 

 北上は、ピタッと妖精さんの頭をゆするのをやめた。

 先程は瓶に指を突っ込んで中身が飛び散ったせいで、牛乳は半分しか残らなかったのだ。

 

「飲みたい」

 

『はい、どーぞー』

 

 妖精さんが、中が見えるガラスの保冷庫から新たな牛乳瓶を1本取り出して渡す。

 受け取った北上だが、やっぱり紙の蓋を開けられない。これは高速修復材の影響とは関係ないみたいだ。

 

『ほかにもふるーつぎゅうにゅうとか、こーひーぎゅうにゅうもありますよ』

 

「あっ、私コーヒー牛乳!」

「あたしはフルーツ牛乳」

 

 吹雪と曙もぞれぞれもらうと、二人は迷うことなく、保冷庫に紐で結んであった細長いものを取る。柄の先端が円形の輪っかになっており、その中心に先の尖った針があって、それを紙の蓋にぷすっと刺す。蓋の上に張り付く形になってる輪っかのところを支点に針をテコのように持ち上げると、ポンと簡単に開いた。

 

「えっ、なにそれ! そんないいものがあるの!?」

「これ知らないの? 北上さん」

「ほら曙ちゃん、北上さんの中身は令和の学生さんだから、こういう紙で蓋した瓶じゃないのよ」

「うわー、感動だー。このばかみたいに単純な仕組み、アナログ~」

 

 デジタルデータの艦娘は、アナログな蓋開け器に感動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて落ち着いたところで、北上達は待機部屋に移動した。

 

 今日は畳の間に座った。

 ちゃぶ台の上には、中央に草加せんべいの盛られたお盆。茶筒には狭山茶のロゴ。曙が急須にお茶っ葉を入れてお湯を注ぎ、少し蒸らしてから湯呑につぐ。番茶のいい香りが畳の間に漂う。

 ……昭和レトロである。

 

「あれ、本棚がある」

 

 北上は茶だんすの横に、小さな本棚というか、本箱といったほうがよいようなのがあるのに気付いた。

 

「艦これのアンソロジーとか、二次小説なんかがあったわよ」

「曙ちゃん、もう読んだの? 1-1海域攻略のヒントとかあるかなあ」

 

 吹雪が1冊ずつ指をかけて、何の本か眺めていく。

 

「1-1海域で盛り上がってる話なんてあると思う?」

 

 吹雪の指が止まった。そしてちゃぶ台に戻る。

 

「曙ちゃん、お茶のお替りください」

 

 ペンギンの絵が描かれた湯呑にお茶が注がれた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「今日開発されたのって、なんだっけ?」

 

 あたし(北上です)はおせんべいに手を伸ばしつつ質問する。

 

「たしか、九一式徹甲弾、零式艦戦62型、中型艦用増設バルジ、12cm30連装噴進砲ですよ」

 

 吹雪は答えると、湯呑にふーふーと息を吹きかけた。

 

「……なんかさあ、出ちゃおかしいものばかりな気がするんだけど」

「そうなの?」

「九一式徹甲弾はオール30の資材量じゃ作れないはず。バルジと噴進砲もだけど水雷系秘書艦では作れないはず」

「決まりがあるってことですか?」

「うん。装備開発にも仕様があるんだよ。秘書艦の艦種と重点資材の組み合わせで、開発できる装備一覧(テーブル)が決まって、そこから資材量と鎮守府レベルで、さらに開発可能な装備が絞られるんだ。そして絞られた装備からどれが出るかは運次第ってな具合だね。。

 秘書艦は軽巡(あたし)だから、開発可能装備は水雷系テーブルが適用される。そうすると砲戦系テーブルにしかないバルジと、空母系テーブルにしかない噴進砲が作れるはずないんだ。

 九一式徹甲弾はさっき言った通り、開発に必要な最低資材量をクリアしてない」

「いいじゃない。貰えるものは貰っとけば。たまにはあたし達の方にも理不尽に有利な事が起こっても罰当たらないわ」

 

 曙は肩をすくめて言う。

 

「それはそうなんだけどさ。それにさっきの装備って、どれも貰っても使えないものばっかりなんだよね」

 

 すると床からにゅっと顔が現れた。妖怪チョコバナナ妖精だ。きょろきょろと左右を見回すと、質問してきた。

 

『あのー、きょうはとらんぷたわー、つくらないんですか?』

 

「あんた達が壊すから作らないよ」

 

『じゃあ、きょうのほうこくはなしということで』

 

 がしっとその小さな襟首を捕まえた。

 

「待ちな! そんなわがまま通ると思ってるの!?」

 

『やるきがでません』

 

「まあまあ北上さん、そう言わずにちょっとだけ作ってあげればいいじゃないですか」

「吹雪、あまいなあ。じゃあ後で作るから、報告しな」

 

『やりました! それではきょうのちょうさほうこくです』

 

 妖精さんの言葉そのままだと読み解くのが大変なので、聞いた報告をあたしの理解の範囲で要約するとこんな感じだ。

 

 

 夢の島泊地サーバーの装備マスターは書き換えられている。もちろん正規の手順で。

 開発可能なテーブルを作る元ネタは、装備マスターという一つの表らしくて、そこに砲戦フラグ、水雷フラグ、空母フラグ、鋼材フラグ、弾薬フラグ、燃料フラグ、ボーキサイトフラグみたいなフラグを立てる項目があるらしい。

 このフラグは、秘書艦の艦種と優先資材から、開発可能装備テーブルを作るのに使うらしい。例えば秘書艦が水雷系で、開発資材のうち鋼材に一番多く注ぎ込んだとすると、装備マスターの水雷フラグと鋼材フラグが立ってる装備だけを抽出すれば、開発可能装備テーブルが出来上がる、という具合だ。

 

 それで装備マスターが現状どう書き換えられてるかというと、すべての装備で、砲戦フラグ、水雷フラグ、空母フラグ、鋼材フラグ、弾薬フラグ、燃料フラグ、ボーキサイトフラグが立っているというのだ。すべての装備で、だよ?

 

 そうすると書き換えられた状態ではどうなるかというと、どんな秘書艦=艦種であろうと、どの資材を優先していようと、関係なく全ての装備が開発可能装備テーブルに抽出されてくるということだ。

 最低資材量と必要鎮守府レベルも“1”になってるらしいので、そこの制限も実質無くなっているらしい。

 

 

「な、なんて美味しい状況! 提督がいかに無能で鎮守府のレベルが上がらなくても、全ての装備が最低の資材量で開発できるって事だよね!?」

「提督に失礼だよ……」

 

 ただし秘書艦の艦名まで指定されている装備だけは、この話の対象外とのことだ。

 あとは最後に、どの装備になるか、あるいはペンギンになるかを決めるサイコロ(乱数)を振るだけだ。

 

「あとは提督のくじ運ってことだけど。ちなみにペンギンになる確率って、運営側でいじれるの?」

 

『るーれっとをまわしたとき、どこにとまりやすくなるかをきめる、おふれをかいた「いた」がありましたねー。だいたいXかいに1かいは、ぺんぎんさんにあえるようにしましょうとか、このぶきは100かいに1かいだとかがかいてあります。でもそのおふれは、かわってなさそうでしたよ』

 

「要約するとたぶん、確率を決めるマスターテーブルがあって、ペンギンになる確率とか、特定の武器が出る確率を、そこで設定できるんだね。でも改ざんはされてないと」

 

 吹雪が「へえー」と感心する。、

 

「そんなのも設定できるんですか?」

「例えば5連装酸素魚雷発射管を出やすくしようとかの調整を、プログラムを書き換えなくてもできるから、こうした方が楽なんだよ」

 

 曙も興味つつな顔を向けてきた。

 

「あたし達が撃つ魚雷の命中率も、そういったところで設定してるの?」

「たぶんそうだろうねえ」

 

 確率を決めるマスターは書き換えられてないとなれば、何が出るかは本当に運次第ということになる。

 

 吹雪と曙も、自分達を制御している艦これアプリの仕組みに興味を持ったようだった。

 

「そうするとですよ。ペンギンを回避しつつ、かつ現在の艦娘では使えない装備だけ(・・)をゲットし続けている提督は、その確率マスターを凌駕しちゃってるってことですか?」

 

 吹雪がとてつもないことに気付く。

 

「も、もしかして、クソ提督って、神様なんじゃ……それも疫病神」

 

 曙がとてつもないことを言い出す。

 あたし達は紅葉提督の特異性を否が応でも再確認してしまい、お互いの顔を見詰め合った。

 

「こ、これがあらゆるゲームで1面突破できない者の実力……」

 

『ここのしせつをぞうかいちくしてるようせいさんたちによると、ていとくは、てんねんきねんぶつなんだそうですよー。すべてがおわったら、はくぶつかんにかざるんだそうです』

 

「は、博物館……」

「い、生きてるうちはクソ提督を保護してあげなさいよ!」

 

 




 作者は艦これの中の構造は全く知りませんので、作中の話は勝手に作ったものですので、そのような前提で読んでくださいね。
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