紅葉色の水平線に勝利を刻むんじゃ!   作:RightWorld

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第2夜 その1

 

 唐突に目が覚めた。

 明るい部屋に突っ立っていた。

 

「あー……」

 

 記憶を呼び戻すのにしばしばかかる。そこに放送が流れた。

 

≪鎮守府に提督が着任しました。これより艦隊の指揮を取ります≫

 

 そうだ。あたしは艦これの世界に転生したんだった。

 

 ……もう一人称は訂正もされなくなったんだね。(がっくり)

 まあ転生で性転換はよくある事だし。

 

「北上さーん」

 

 あたしは軽巡洋艦『北上』に転生したようだった。

 目の前に昨夜(?)見た女が現れた。どうやらこの女がこの鎮守府の提督らしいのだ。だけど転生前の男だったあたしとさして変わらない歳の頃に見え、とても鎮守府を預かって日本を深海棲艦から守っているとは思えない。それを追認するかのように、これから艦隊の指揮を執るというのに、またもパジャマ姿なのである。女はあたしをまじまじと見て唸った。

 

「はぁ~、やっぱ軽巡だぁ~」

 

 うっとりした表情であたしを見る。

 

 いやん、見ないで。性転換しても免疫はついてないみたいだよ。

 

 その女はキリリとやる気をみなぎらせると、鼻息も荒く宣言した。

 

「これで今日こそは鎮守府正面海域の平和を取り戻すことができるわ! 北上さんには本国艦隊への配備を命じます!」

 

 本国艦隊? ずいぶんとイギリス海軍流な艦隊名をつけたもんだ。たぶんこの鎮守府の守りの要、第1艦隊なんだろう。

 

 すると横に自分(北上)より年下のやや小さな女の子が立った。

 

 やや! この顔見たことがある。

 

「……吹雪?」

「はい! 特型駆逐艦一番艦の吹雪です!」

 

 彼女は元気いっぱいに敬礼した。無駄にハキハキ、キラキラした優等生ぶりに思わず「うざぁ……」と思ってしまった。さすがは北上になっただけのことはあるなぁ。

 

≪艦隊、出撃せよ!≫

 

 そこへあの提督らしき女の声がしてオレと吹雪は海に放り出された。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 いきなり周囲は海。海の上を疾走している。

 

「ええ!?」

 

 先頭を走っているのは吹雪。その次があたし。後ろを振り向く。

 ……誰もいない。

 

「ほ、本国艦隊って、この2隻だけなの?」

 

 2隻で本国を守ってんの? 他の艦隊は遠征にでも出張って行ってしまってるのだろうか。

 前を行く吹雪が振り向くと前方を指差す。耳元のすぐそばで、早回したみたいな声がごちゃごちゃと聞こえた。ふと目をやると……

 

 おお、妖精さんだ! 二頭身の、つぶらな瞳が可愛い、あの妖精さんが幾人もいる!

 

≪てきかんたいとのそうぐうがよそうされます≫

≪かんたい、たんじゅうじん≫

 

「じ、実戦!? いきなり!? どうやって戦うの!?」

 

≪てきかん、みゆ≫

 

 ブウーンという嫌な音がしたと思うと、前方に気持ち悪い奇形のような魚が海面に現れた。

 

「いっけぇー!」

 

 吹雪が発砲する。

 外れた。魚が大きく口を開けると、そこから発砲炎があり、何かがあたしに向かって飛んできた。

 

 げっ!!

 

 ドガーン!

 

「いったー!!!!」

 

 それはあたしに命中した。言わずもがな、敵の砲弾だ。

 爆炎が風で吹き去ると、服がボロボロになっていた。艤装から火が出ている。あたしの周りにいた妖精さん達が大慌てで駆けずり回っていた。

 

≪ダメコンいそげー≫

≪しょうかいそげー≫

≪ちんぼつするぞー≫

 

 何が起こったか把握する前に吹雪から命令が来た。

 

「雷撃戦開始!」

 

 雷撃!?

 

 自分を見渡す。しかし手に着いていた魚雷発射管はさっきので破裂したようになっていて、とても使えそうになかった。前を行く吹雪だけが両足に着いている発射管から魚雷を放つ。

 しかし魚雷の航跡は虚しく()の後ろに逸れていく。幸いなことに()は見当はずれの方に魚雷を撃って遠ざかって行った。

 

≪ていとくよりしれい。やせんはふようです≫

≪かいせんはDはいぼくとはんていされました≫

 

 うわー、負けちゃったよ。

 

 そこに女提督の通信が、というか独り言が入ってきた。

 

≪あれ~、おかしいなあ。北上さんいきなり大破しちゃったよぉ~。初撃が命中しちゃうなんて、この娘運悪いのかなあ≫

 

 自分の身体を再び見る。酷い。服はボロボロ、手足は傷だらけで体中あちこちが痛い。艤装も全部穴だらけだ。涙も思わずこぼれる。だいたいセーラー服で実弾が飛び交う中に身を晒すってナニ考えてんだ、この世界は。あ、それが艦これですか。ユーザーの要望でしたか。

 艤装の火災は鎮火したようだが、しゅーしゅーと水蒸気のような煙が開いた穴から漏れ出ている。

 そんな中、妖精さんが数人、手拭いで汗を拭きながら肩に立った。

 

≪ふー、ちんかしました≫

≪ちんぼつはまぬがれました≫

 

「おお~、ありがとう。助かったよ」

 

 転生して初陣で轟沈では、何のために転生してきたのかわからん。

 吹雪が心配してやって来た。

 

「き、北上さん、大丈夫ですか?」

「いや。とても大丈夫とは言えないんだけど。君は平気だった?」

「はい。幸いこちらは狙われませんでした」

 

 そりゃそうだ。相手は一隻しかいなかったからね。

 そこへ無情な通信を通信員妖精さんが知らせてきた。

 

≪ていとくよりしれい。『しんげき』です≫

 

「!?」

 

 こ、これで戦えと!?

 

「大破進軍しろって!?」

 

≪ああー、命令間違えたー!≫

 

 女提督の素っ頓狂な声が響いてきた。

 命令間違えたんなら訂正してよ!

 

≪てきかんたいとのそうぐうがよそうされます≫

 

 吹雪と真っ青な顔を見合わせた。

 またしてもブウーンという嫌な音がして、前方に気持ち悪い奇形魚がまた、今度は二匹見えてきた。

 

 マジ?! やめて! あたしあとライフ幾つ残ってんの?! 北上って確か装甲は紙、耐久低かったよね! これもしかして一発でも当たったら轟沈なんじゃないの!?

 

≪かんたい、たんじゅうじん≫

 

 当たり前だ。2隻しかいないのに輪形陣組めるかー!

 

 ≪はんこうせんです≫

 

「北上さん、回避しまくって! 何とか逃げ延びて下さい! わたしが引きつけます!」

 

 吹雪が主砲を構えて突進していった。

 

「ま、待って、吹雪ー!」

 

 

 

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